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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第二章 解放の戦士
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第四十九話 とにかく車に乗ってくれ!

「くくく……腹を決めろというわけか。面白い。ひどく面白いぞ」


「あ、あの……王様、いったいどうされたんですかさっきから?」


「軍勢が停止していることと、何か関係があるのだろうか?」


「とりあえず博士、地上へ降ろしてくれ。話がある」


「あ、ああ」


俺はショベルカーのバケットから原っぱに降り立つと二人にありのまま今起こったことを話した。


「死ぬかと思った……あの軍勢を指揮している神が俺に話しかけて来た」


「だから頭でも打ったんですか?」


「俺は冷静だ。日付が変わるころ、この国の人間は皆殺しになる。

この国の人間だけで済めばいいが。神は俺にそのことを伝えてきた」


「……時間がありませんが、あのくらいの数でも無防備なら半日あればなんとかなるんじゃないですか?」


「いや。神はあれを無限に出せるらしい。仮に倒してもタイムリミットを過ぎれば復活し、人間を殺し続ける」


「じゃあどうすれば……私たちノイトラは平気なんですよね?」


「ああ。だから博士やマリー、ミリー達はここに残っていてもらっていい。

俺はもう決心した。日付が変わる前に、この街を出る。

トントンに連絡する……二人とも今まで付き合ってくれてありがとう。

ここからは自由時間だ。あと頼んだぞ!」


「えっ、私たち……」


「あとは自由時間だ!」


俺は叫んでからバイクにエンジンを入れ直し、トントンに連絡を入れた。


「こちらトーマ。イザベルはいるか?」


「ああもちろんだ。あの子がどうした?」


「飛行機でセシルを回収に向かう。それが済み次第、この世界の外へ行く!」


「急にどうしたんだトーマ。何かあったのか?」


「まずいことになった。とにかく親父とイザベルがいる。絶対に捕まえておいてくれトントン!」


「わかった、例のルートを使うんだね。今なら確かにそれを阻むものはない……飛行機は?」


「大丈夫だ確保してる。誰かが邪魔してきたら……悪いが失神してもらう」


「わかった。二人はサイドカーで運ぶんだね?」


「ああ。じゃあ切る」


俺はバイクのサイドカーを両脇に取り付けて発信。街の中を突っ切って学園に到着した。

その間五分。カウントダウンが見えているせいで嫌でも所要時間はわかった。


学園入り口にはすでに親父とイザベルが待機していた。トントンがうまく話しておいてくれたらしい。


「作戦変更をせざるを得ないような何かが起きたのか、トーマ?」


「ああ。とにかく飛行機のところへ案内する。悪かったなイザベル……今すぐセシルに会いに行く」


「わ、わ、わかった」


とイザベルがうなずき、了承ももらったところで二人をサイドカーに乗せて、補佐官に教えてもらった飛行機の格納庫へ向かった。

当然この非常時なので誰もいない。俺はまず先にイザベルを飛行機に乗せたところですぐに下へ降りた。


「親父、悪いが急ごしらえの席に乗ってもらうぞ」


「席って?」


「俺は飛行機や航空力学になんて全く詳しくないが……悪いけど、最悪な席に乗ってもらう」


「おいおい……ディーゼル=ベンツ連れてきてくれよ……」


「時間がない。一応やってみるけど」


俺はディーゼル=ベンツ博士のいる場所、つまり街の郊外をイメージした。

そこにはふたつの気配がある気がした。そしてトントンの時と同じ要領で通信を試みたところ、意外といけた。


「こちらトーマ。ベンツ、聞こえるか?」


「私マリーですけど……王様ですか。飛行機は乗れました?」


「驚かないんだな?」


「神からの指示は頭の中に聞こえてきてましたから。博士にご用ですか?」


「もうマリーでいい。仲介してくれ。ベンツ、飛行機……宙に浮かんで空を飛ぶ機械がある。

これに外付けで新たな席をつけたい。案を聞かせてくれ」


「……と言ってますが?」


マリーはしばらくしてから俺にベンツの言っていたことを伝えてきた。


「空気抵抗を考えると左右対称かつ流線形が望ましいとのことです」


「だよな。くそ、どうすればいい。とにかくベンツ来てくれ!」


「もう向かいました……」


ほどなくして博士は来てくれた。格納庫に収まらず前の通路に出しっぱなしにせざるを得ないような大きい工作機械を牽引した車に乗って。

ベンツには車、などという概念や知識はほとんどないと思うのだが、俺の思う車とほとんど変わらない形の車を使ってやってきた。


「ようベンツ久しぶりだな。半年ぶりくらいか?」


「ボス、久しぶりですね。本当なら昨日にはお会いする予定だったんだが」


「ああ。お前が来てくれたら心強い。

俺とイザベルをトーマが連れて行こうってことは……機械兵の第二波でも来たのか?」


「その通りです。さすがですねボス」


「お世辞はいい。トーマの役に立ってやってくれ」


「言われなくても。トーマ君、こちらの工作機械を持ってきたよ。もう安心だ!」


「どうする気だ博士?」


「見ものだな。俺が乗るんだぜ、ちゃんとしてくれないと困るが」


「大丈夫だボス。見ててくれ」


ベンツは俺が何度も使ってきた素材を俺のエンジンを使って出したかと思うとこれに工作機械でリベットを打ち付けた。

高密度プラスチックに似た板が飛行機の下に打ち付けられたかと思えば工作機械が更なる工作機械を作り出したではないか。


これを使って何をするかと思えばワイヤーを編み上げて非常に太くしなやかなケーブルを作った。


「おいおいおい……まじでかよベンツ。泣いていいか俺?」


親父が泣き言を言うのも無理ない。ベンツは作っている間ハイテンションで笑顔だが、俺やマリーは顔を引きつらせている。

これが何を意味するのかはすでにわかっているからだ。


「悪いけどボス。流体力学上はしょうがないんだ!」


「お前ほん……!」


親父は何か言いかけたがやめた。ベンツには有無を言わせない感じがあったからだ。


「わかったね。強靭なケーブルで飛行機にチェンバーを繋ぐ。

強靭だからチェンバー内のボスはどんな衝撃にも耐えられる……はずだ!」


「乗るしかないのか……」


「あとはトーマ、この飛行機を開けた場所に持っていくだけだね。

その作業は任せてくれ」


ベンツは乗ってきた車をすぐさま飛行機に係留し、この飛行機格納庫からすぐ行ったところにある街の郊外の空地に飛行機を移し、俺たちもそれに渋々ついていく。

そしてベンツは最後の仕上げを行った。ワイヤーを編んで作ったケーブルにチェンバーつまり人間が一人から二人くらい入れそうな頑丈な牢屋のような部屋を接続。

これは空気抵抗を減らすためなのか、新幹線のように流線形の、三角形とも丸型ともつかない形をしていた。

これにより、ついには親父も覚悟を決めねばならなくなった。


「くぅ……乗るしかないかこいつに。絶対怖いし危険だが」


「同情するぜ親父。待たせたなイザベル。ごめん、ようやくだ。

メンテナンスは終わった。セシルに会いに行くからな」


「まあ、セシルは俺の横に乗るんだが……」


「あっ、それ考えてなかったな。でもまあ……いいか!」


ベンツにそんな配慮みたいなものは求めてはいけなかった。俺は苦笑いしながらコックピットに乗った。


「そうだベンツ。バイクのエンジンはアンタに渡すから自由に使ってくれ」


「ふむ、そうか。もし必要だったら飛行機からエンジンを抜き取るといい。

恐らく同じ機能のはずだ。じゃあいってらっしゃい」


操作方法はわかっている。俺はノイトラの王の力があって、それで大抵のことは何とでもなる。

セシルのくれたメモもあるから大丈夫だ。俺は直感的な操作で再び飛行機を起動させ、浮上させることが出来た。


コックピットからも係留されてるチェンバーの中の親父が見える。気の毒だ。


さて、忘れている人も多いと思うので今一度説明しておくが南の帝国と北の合衆国という構造になっている。

で、南の合衆国は南から北へ大きめの川が流れている。つまりそれを目印にすればセシルがいる場所にもたどり着けるはずということだ。


で、ベンツの思惑通り、飛行機の気流に若干の影響は免れないだろうが、それでもワイヤーで席を吊るという作戦は悪くなかったようで、飛行自体は安定している。

だが問題は中の親父が無事かどうかだ。エンジンの騒音や爆風、熱、衝撃、揺れなど考慮すべき危険は山ほどある。


親父は百歩譲って無事じゃなくてもいいが、セシルが乗れないとなると大変だ。

消去法で我慢して俺が席を乗り換えるか、何か抜本的な解決が必要になる。

のだが、なんとか目的地までは親父も俺たちも無事にたどり着くことが出来た。


ただしある一定の速度を超えると親父の席が空気抵抗を受けすぎて後ろの方に振り回され、機体も安定しなくなるので速度はかなりセーブしなければならなかった。

結果、俺たちが目的地である街の近くの空き地に着陸できたのはフライト開始から約四時間後のこと。

前回は所要時間が二時間ほどだったことから速度は半分くらいになってしまったことがわかる。


フライト開始が残り十二時間と三分少し。驚異的なスピードで親父の席を準備してくれたベンツには感謝だが、着陸時点で残り九時間十一分。

この上、今からセシルたちと連絡をつけてこのスフィアという世界の端っこまでいって狭間の世界へ行かねばならない。

間に合うのか。そのような不安も抱いたが、飛行機から降りて安否確認してみると、親父のゲロが落ちているチェンバーが見えてすべて頭から吹っ飛んだ。


「親父、それ片付けといてくれよ……」


「あ、ああ。街へ行ったらなんか……袋とか頼む」


「……袋で思い出した。俺、バイクを向こうに置いて来ちゃったわ」


「どうすんだ一体。別になくてもいいかもだが……」


「いや、平気だ。見ろよこれ。飛行機のエンジンから抜き出してきた」


「これは……造換塔と同じ機能を?」


「理屈の上ではな。まあなくてもいいんだけど」


バイクのエンジンはベンツに託してきた。俺より有効に使ってくれるだろう。

この飛行機のエンジンも、理屈の上では同じ働きをしてくれるはずだ。まずは水を出してみた。


「おっ、水が出た」


「親父のゲロを洗ってやるよ」


俺はチェンバーの床を水洗いしたあと、親父にはビニール袋のようなものを五枚ほど作って渡しておいた。

それはそれとして、俺は付属のタラップを上がってイザベルを迎えに行き、ゆっくり地面に向かって降りた。

そして地上で立って手をつなぎ、すべての準備は完了した。


「よし行くか。ただし、セシルたちを回収するにしてもまだ時間がかかるな……間に合うか?」


「飛行機を使えるんなら、時間はそうかからない。

俺たちが前回苦戦したのは砂漠越えと資金集め、そして古代文字をあつかえる人間を探すことだったからな」


「つまり、この世界をとりまく壁……のようなものにさえたどり着ければいいんだな?」


「ああ。お前の仲間は外の世界を知るノイトラがいるんだろ。そいつに案内してもらえ」


「親父は?」


「俺はしんどいからこっちで休んでたいね。もう飛行機に乗るのはこりごりだ」


「そうは行くか! 案内できるのは親父だけだ。

それにセシルとイザベルと、あとエースを連れていくことが絶対不可欠なんだ!

そうだよ。これだけ俺はノイトラに命令し、王の力でその力を借りてきた……ずっと頼りにしてきた存在だ。

でもこの最後の最後で物を言うのはイザベルやセシル、親父も含めて……人間の力なんだ」


「わかったよ。泣き言を言って悪かった、お前の親父なのにな」


「そういう話をしてるわけではない」


「少し心当たりがある。セシルたちは機械兵に襲われたんだな?」


「いや。ノイトラの兵士だと聞いている」


「誰にだよ」


「神」


「……神は何と言ってた?」


「首都・フィラデルフィアを襲ったのは、俺に早く狭間の世界へ来てほしいからだと言っていた」


「なんだそりゃ。でもまあ、そういうことならセシルが死んでいる可能性は低いな」


「あ、そっか。セシルが世界を越えるのに必要なら、殺さないもんな!」


「そういうことだな。しかし時間がないぞ……足が必要だ。

セシルがいる場所に心当たりはあるが、制限時間があるんだろ?」


「あ、ああ」


「作るぞ車。お前、ベンツと通信できるか?」


「出来なかったけどトントンなら」


「わかった。頼んだ」


長距離通信は初めてだったが、これほどの長距離でも俺とトントンは問題なく通信することが出来た。


「こちらトーマ。現着した、どうぞ」


「そうか。こちらトントン。ベンツが必要か?」


「なんでわかった?」


「予想はつくよ。街についたはいいがセシルたちを探さねばならない、そんなとこだろう。

トーマはイザベルとバイクに乗りながら、大声でノイトラを呼ぶがいい。

それが一番効率のいい探し方だろう。すぐにベンツを呼ぶ」


「トントン、まじで怖いぐらい頼もしい参謀だな……」


人間の力がここでは頼りになるとは言ったが、ベンツやトントン、そしてアンリ達も頼もしいノイトラたちだ。

もちろん仮にセシルを殺しに来たノイトラの兵士がいたとしても、俺がここに来た以上、頼もしい仲間に早変わりすることになる。

ほどなくしてベンツが到着したようでトントンがベンツから聞いた手順を俺に説明してくれた。


「まず工作機械を作れと言いたいところだが、自分以外だと工作機械を作るのにも莫大な時間がいる、だそうだ」


「それはそうだよ……やっぱ連れていくべきだったか、ベンツ博士も」


いや、でも親父とベンツはお互いのゲロまみれになりながら逃げ場のない密室に四時間閉じ込められることになっていたわけである。

いくら何でも可哀そうだ。それに博士には、向こうで復興支援をやってもらわねばならないので、これがベストの判断だったハズだ。


「今から言うのは最も簡便な移動手段だ。安全性などは全部犠牲にして作る速さと簡単さのみを重視している」


「ふむふむ」


「まず飛行機のタイヤをコピーしろ。それから今から言う工具とバッテリーを作って、配線をつなぐんだ」


「はいはい……」


俺は言われたことは半分も理解してないが、親父と一緒に車を作っていった。

博士いわく美しくないので好きではないらしいが背に腹は代えられないというもの。

この車は言ってみれば小学生の子供が理科の実験で作るような簡素なものだった。


何しろエンジンはバッテリーとモーターなわけだが、豪快にもスイッチのオンとオフ以外の速度調節機能はついていない。

いわく、ブレーキの機構を搭載すると軽くあと五時間はかかるとのこと。

次にタイヤとハンドリングなどだが、むろんアナクロなハンドル以外に姿勢制御の機構は一切ない。

早い話、タイヤのついた板にちょっとしたモーターが乗っているだけの代物にすぎない。


実に硬派だ。俺は美しくないと言われようが、この簡便さを追求したデザインは嫌いじゃない。

所要時間は十五分ほど。驚くべき速度である。若干みんなで乗るには狭い気もするが、まあ問題はないだろう。


「完成したようだね。じゃあ健闘を祈る。またいつでも呼んでくれよ」


「わかった!」


「安全性にかなりの問題があるようだが……」


と親父は心配そうにただの板の下に配線がつながっただけのラジコン未満の車を見つめていた。

が、これ以上は何も言わずに黙ってその上に乗ったのだった。


「イザベル、俺と一緒にセシルを呼んでくれ。出来るだけ大きな声で……出来るな?」


「う、うん……」


イザベルにしてはよい返事が聞けたが、別になんでもいい。

元からあてになんかしてないからな。俺はイザベルとそれから便利なエンジンを車に乗せ、粗末なハンドルを握って発進。

まだ煙の登ってる街を、アンリやセシルなどの名前を叫びながら爆走した。

しばらくそうしながら、あてもなく走り回ったところで俺はしびれを切らしてこう言った。


「親父、あてがあるって言ってたけどどこにいるんだ奴らは?」


「ちょっと待て、街並みが変わりすぎて道がわからない!」


そういわれたら返す言葉もないほど街は荒れ果てていた。どこにゲットーがあるのか、往時の街なら一目瞭然である。

しかしゲットーの壁も崩落し、それがどこにあったのかもわからない。

合衆国首都フィラデルフィアが襲われたときは機械兵による攻撃だったためか、ゲットーに被害はなかった。


今回は明確に違う、同じノイトラにさえ被害を与える天使たち。神による洗脳が行き届いた兵士たちだ。

アンリなど俺に一太刀入れるまでは我に返ることがなかったくらいだからな。


「うおーいセシル―、アンリやーい」


「もっと大きな声で!」


「うるせーな親父! それより道思い出せ!」


「と、とにかく北だ!」


「わかったよ。おーい、この街のノイトラは全員俺のそばにこーい!」


などと叫びながら俺は適当に車を走らせる。というのも北ってどっちかわからないからだ。

当てずっぽうに進んでも親父は何も言ってこないのでこっちであっているのだな、と合点して走っていると、ゴン!


重たい音と共に車が止まったかと思うと見知った顔がずらっと並んでいた。

一面焼け野原になり、建物は消え失せ、細かい雪が風もなくはらはらと雲から真っすぐ落ちてくる寒々しい通りなのに。

それなのに、俺の心は温かくなった。いや、彼らの心もだ。俺が飛行機に乗る前にここに残してきた面々がそこに立っていた。


俺たちの車を止めたのはエース。いや、止めたというかエースにぶつかって止まったといった方がいいか。


「感じていました。王様がそばに来てくれるのを」


「え、そう?」


コロンビーヌとニヤニヤしながら見つめ合っているとセシルが絡んできた。


「そうらしいよ。そしたら叫んでる声が聞こえてね」


「よう、ひさしぶ――」


「うっわっ、ああ、ごめん。久しぶり」


ようやくセシルの声が聞こえたイザベルが脱兎のごとき突進力で無言のままセシルに突っ込んで抱き着いていた。

まあ、二人は適当に感動の再会でも何でもしててくれればいいので、俺はアンリのほうに注意を向けることにした。


「アンリも無事のようだな。話によればここには天使が来たらしいが」


「彼らも同じくトーマ様の部下。殺したのは心苦しく思っています」


「お前がか?」


「いや……俺たちの手は汚れてるからな」


「お、おう」


アルが話しかけてきたが、その目には大粒の涙が。イザベルがアルに無反応のでセシルに抱き着いていることがそんなに悲しいらしい。

いや、気持ちはわかるぞ。とにかく仲間の無事が確認できたので俺は車を降りてエースに言った。


「正直言って、ノイトラのお前たちに今指令することはない。

俺が迎えに来たのはエース、セシル、お前たちだ。今すぐ俺とくるんだ!」


「ええっ、会ったばかりでまだ何も……!」


「積もる話もあるんだがな、王様」


「お前積もる話って言葉好きだなぁアル……ドライなようだが、今そんな話をしている時間はない」


「修羅場をくぐった男の目をしてるな、王様」


「俺のことはいい。話はあとでいくらでもできる。

時間だ……時間だけが俺をこうも駆り立てる」


「顔色が悪いわよ。寝てないんじゃない?」


「エース……そういえば俺は聞いてみたかった。イザベルを見て何か思い出すことはないか?」


「それは……」


ビンゴだ。やはり何かを思い出すことがあるらしい。まるで人間のようなしぐさをしてエースはイザベルを振り返った。

イザベルを振り返っているエースは片手で胸のところの服の生地をぎゅっと引っ張っていた。

苦しそうだった。胸が張り裂けそうな様子だった。悲しいのか、嬉しいのか、寂しいのか、よくわからない。

全部かもしれない。聞くのは悪い気がしたが、今俺はそのような話しかする気分じゃない。


「何か思い出したのか?」


「胸が苦しい。いや、そうじゃない。それって……もしかして?」


「これは飛行機のエンジンだったものだ。抜き出してきたんだ」


俺は手に持っていたエンジンをエースに見せた。それを無言で見つめるエース。

察していなかったわけじゃあない。俺はあらかじめ言おうと思っていたことをエースに言った。


「エースにも搭載されているんだな。これと同じようなものが」


「多分……だからだね。あなたが来てくれなかったら私は目覚められたなかったの、トーマ」


「自分を修復できたのはそれが理由か。逆にそれまで修復できなかったのも」


「そうみたい」


「おいトーマ、この女の事少しは説明してくれないか?」


「うるせーな親父、ちょっと黙ってろ。いいか、エースは飛行機に乗ってこの世界に来た。

それまでに、ずっと旅をしていた名前も分からない男と別れたんだろう。

二人乗りの飛行機の前にエースが乗ってて、後ろには、状況的に見てイザベルの祖先……イブが乗っていた」


「イブ!」


エースが名前に反応したとともに頭を抱えだした。その目からはなんと、大粒の涙が流れている。


「泣いてんのかエース。どうした、何か思い出した?」


「私は……私は……そうか……私、使命を果たしたんだ……!」


「なんだって?」


「トーマ、どうやら俺だけじゃなさそうだぞ。説明を求めてんのは」


「まったく黙ってろって言ってんのにうるせー親父だなぁ……」


俺はため息をついてから静かに切り出した。


「やはりそうか。エース、エースは何があってもイザベルの祖先をここに、この世界に届けなくてはならなかったんだな。

たとえその身が朽ち果てかけても。何とかして逃がすことが出来たんだな?」


「え、ええ。でもその子孫のイザベルにもし危険が迫っているなら……」


「ああ。エースの力が必要だ。とにかく時間がない。車に乗ってくれ!」


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