第四十七話 俺たちゃ無敵のコンビだぜ
「王様、これは話しかけないほうがいいですかね?」
「集中してるみたいだ。少し様子をみるか」
ベンツの落とした紙には様々な重機の設計図が描かれていた。
重機という概念そのものが希薄なこの時代に描かれただけはあり、今まで見たこともないような奇抜なデザインのものが目立つ。
たった今重機の概念研究がこの場で始まったのだ。それにもかかわらず俺の知っている優れた重機たちにどこか似た特徴を持つ重機たちが設計図に描かれている。
これはきっと、モノの本質をベンツが理解し、それを反映させているために自然と似てくるのだろう。
「変な機械ですね……」
「だけど人命救助には必要だ。ベンツ、今ちょっといい?」
「ああ。どうしたのかね?」
ベンツは顔を真っ赤にしていた。興奮して仕方がないらしい。
気温的には結構肌寒くて、ほぼ街中は無風だがそれでも野外で座ってじっとしていると耐えられないぐらい寒いはず。
ベンツはこの気温が気にもならないようだ。俺は遠慮がちにこう言った。
「色々アイデアが浮かんだみたいだけど、家の下から人を掘り出したい。この設計図なんてどうかな?」
「ああ、それね。最初にできた奴じゃないか。今これの最新バージョンを描いていた」
机の上の設計図を見て俺は驚いた。実際の家を解体したり人命救助にも使う重機にうり二つだった、
やはりベンツは物の本質を理解している。俺は二つ返事で了承した。
「よし、これで行こう。素晴らしい……見てほしいベンツ。このバイクのエンジンが物質を作り出す」
「ほほう、これが。いつかこのエンジンとやらも解明したいものだ」
「アンタは多分組み立てのほうも好きな口だろう。必要な部品一つ一つを作って組み立てるんだろ?
使い方は簡単だ。このボタンみたいなのを押すだけでいい。思い浮かべたものを作ってくれる」
「わかった!」
次の瞬間にはけたたましい金属音が周囲に騒音となって鳴り響き、おびただしい数のネジやら歯車やらが発生した。
そして工具も。ベンツはこれで何を作るのかと思えば信じられないことにさっき俺がみた重機とは似ても似つかない機械を作り始めたではないか。
部品発生から組み立てまでわずか数分。冷蔵庫くらいの高さのある機械で、いったい何に使うのか見当もつかない。
「ちょっと王様、この人大丈夫なんですか!」
「いや、トントンが天才メカニックと言うくらいだ。何か考えがあるはずだ!」
「こいつは組み立てに使う機械だ。考えても見ろ。私の細腕で閉めたネジやナットが信頼できるか?」
「そ、それは確かに」
俺みたいな素人では考えもつかなかったが言われてみればそうである。
まさにプロ特有の目線。真っ先に作るべきなのは、機械を組み立て、作業するための機械とは恐れ入った。
「ほかにもプレスやリベット打ちなど様々な機能を取り付けた万能工作機械なのだ!!」
「あー、それで動力は?」
「もちろんそのバッテリーとやらだ」
「それなら充電する必要があるな……」
「はい、王様は下がっていてください。私が充電します。でもそれ本当に作動するんでしょうね?」
「当然だ。一応、電気で物が動くというのは知っている。この時代にはないが外の世界ではそれが普通だったし」
「なるほど……じゃあマリー頼んだ」
マリーがバッテリーに放電して充電し、ベンツの作った工作機械のスイッチをオンにした。
素人の俺にはそれで機械が動作しているのかさえわからないがベンツは自信を持った表情でこう言った。
「二人ともご苦労。今から大量の部品を製造するが、このエンジンは壊れたりしないよね?」
「保証はできないけど……持ち主の俺が許可しよう」
「わかった。では行くぞ」
さっきとはくらべものにならないほどの大量の部品がエンジンから出力され始めた。
これをこの世の誰も、ベンツ以外に使い方を知らない謎の工作機械で組み立てていく。
鉄板のようなものにナットを締め、ボルトをはめて鋲を打ち込んでいく。
プレスし、折り曲げ、本当にたった一人でやっているのかと疑わしくなるほどの手際で加工を進め、いつの間にか配線と外装部が出来ていた。
バッテリーを大量につなげた基盤が外装部に固定された。
これは俺の使っている高密度プラスチックの熱による可塑性を利用したようである。
「いつの間に熱可塑性を学習してたんだよ……」
「私には何が起きてるのかさっぱりです」
「配線のカバーをしつつ、溶接にも使える優秀な素材のようだね。さて、あとはギアがちゃんと動いてくれるかだが」
「本当にバッテリーや電気の仕組みわかってるのか……?」
ちなみに俺は、誓って言うがさっぱりわかってないよ」
左手の法則だとか、オームとか電気に関する用語はおぼろげながら頭の中にある気もするが、全然それらは頭の中で関連づいていない。
俺は電気工学など全くの素人である。コンピュータも同様。全然ベンツの言うことは理解してない。
「大丈夫だ。そもそも君らノイトラの電気は生き物が作っているからばらつきがある。
それを細大漏らさず受け入れて出力してくれる超高性能バッテリーをコピーさせてもらったよ。
恐らく未来……じゃなかったな。失われた古代テクノロジーではこのくらいのバッテリーが当たり前だったんだろう。
早い話、欲しいだけの電力を供給してくれて、乱暴な充電で大丈夫なこのバッテリーがあるから兵器ってことだ」
言われてみると、スマホとかもちゃんとした正規の規格以外の充電器やバッテリー以外は使用してはいけないことになっている。
そのような細かい技術的課題をいとも簡単にクリアしているのがこのバッテリーというわけか。
ロストテクノロジーなんだから何でもあり感がある。
と話しているうちに、ショベルカーのバケット部分もクレーン部分も出来ていた。
これらはさすがに工夫なしに作ると一人だと無理だが、人間の首の骨がそうであるように大量の関節がクレーンやバケット部分につけられていた。
つまり一つのでかい部品として造られるものを極めて細分化することによってトラックだとか工場が本来いるところをを用いず、この工作機械一つだけで大きな重機を作ることに成功したのだ。
出来たショベルカーはキャタピラーではなく大きなタイヤで動いていることを除けば俺のよく知るそれとほぼ変わりない外見のものだった。
それと、クレーンの先に土砂などをかいて入れるバケットがまだついていない。
「おっ、今、図面と違うと思ったね?」
「何か考えがあるんですね、博士?」
「よしよし、やっと私を尊敬し始めたのだね。いいだろう、そんな素直な君に見せてやろう……シャキーン!」
なんとベンツがスイッチを押すとクレーン自体が変形して巨大なかぎ爪状の構造物が出来た。
これならいくらでも街のがれきを撤去できそうである。
謎の技術過ぎる。設計に使ったのは一時間ぐらいなのに。
「おーすげー!」
「なるほど」
とマリーは冷めた反応。これは仕方ない。盛り上がっているのはベンツだけだがベンツは有り余る情熱を注ぎこみ、まだ泣き声の聞こえる家を解体し始めてくれた。
見る見るうちに家が片付いてくるとともに、周りには野次馬が集まってきた。そりゃそうだ、俺のバイクも重機も見るのは初めてだからな。
高いもののないこの街で背の高い重機はよく目立つ。そして一体何本目か知らないが、家の倒壊した柱をショベルカーのたくましい大きな爪がつまみ上げてどかした時だった。
にゃーという聞きなれた声と共に猫が下から飛び出してきて、野次馬からは拍手が沸き起こった。
「なんだネコかよ……」
「人間の子供かと。まあネコでも助かったならよかったですね王様」
「マリーは前向きなんだな。しかしこれなら、戦車や装甲車も作れるな」
「何と戦うつもりか知らないけど、ワクワクするものを作らせてくれるなら喜んで私も従うよ、王様」
推定三十代後半から四十くらいであろうベンツがやたらと若々しい元気はつらつとした笑顔と共に俺に言ってくれた。
「ありがとうベンツ。じゃあ野次馬にでも話をしようか。こっちにきてくれ」
「わかった」
ベンツが降りてきたところで俺は彼女と、あるいは彼と並んで野次馬の一番多い方角を向いた。
そして少し咳払いしてから俺は静まり返った彼らに、なるべく効果的な演説をしようと画策する。
演説はかのナチ党が熱心に勉強したと言われるように大衆扇動や人気取りに非常に有効な手段となる。
南米の人気政治家だった人の有名な名言にも、「(演説するための)バルコニーさえあれば私は大統領になれる」
という言葉があるほど。そのテクニックも一応、おぼろげながら知っている。少し歴史をかじったことがあるからだ。
「晴天の霹靂。予期せぬ災害によって家を失った人々。突然の災禍によって家族を失った市民たちに俺は語りかけている。
見慣れない妙な機械がたくさんあって怖いかもしれないが心配は不要だ。
ここにあるのは俺、ことノイトラたちの長、このトーマが作った最新鋭の機械。
もちろん安全に配慮し、人々を助けるためのものだ。よって心配する必要は何もない!」
人は人の話を聞くのが苦手だ。野次馬は百人ぐらい。つまりその中に百人に一人のおバカが居ることは当然だ。
百人に一人レベルのバカであっても理解できるように、繰り返し同じことを言って反復し訴えかけることが演説においては肝心なのだという。
そして断言。安全だと反復して断言すれば人々は安心する。あとはこれをほかの事にも応用していくだけなので、俺は続ける。
「こちらはこのノイトラの長、すべてのノイトラの王であるこの俺が保証する天才メカニックのベンツだ。
ベンツは天才だ。このベンツがいる限りどんな命でも助けよう! 我々は人々をかならず助ける!
そしてもちろん……皆さん気にしているのはそう。世知辛い世の中だ。見返りを求められないか心配しているのだろう?
心配は不要。我々ノイトラは何も受け取らない。いいか、何度でも言う。我々は与える者、困っている者から何も受け取りはしない。
見ておけ聴衆。世の中にそんなうまい話はないって? これを見てもまだそう言えるか?」
俺は持っていた最後の段ボールケースを複製。そして中のパンを取り出した挙句、それをぱくりと食いちぎって咀嚼して見せた。
「食料を作る。人命救助のための機械も作る。そして諸君に約束しよう。今度は住む家を作る、必ずだ。
家を失った人々。焼け出された人々。家が崩れ、住むところを失った市民たちに語り掛けている。
もう安心だ。家は必ず作る。この街の郊外に臨時の仮設住宅を建設しよう!」
「トーマとか言ったか?」
野次馬の一人が俺に話しかけてきた。これは劇物だ。話を盛り上げることにもつながるし、その反対にもなりかねない。
対処を誤ることはできない。ベンツは退屈したのか、もうすでに机に座って新たな設計図を描いている。
それを横目で見ながら俺たちは会話を続ける。
「与える者って……それは俺たちにくれたパンだな。あのパンはお前がそうやって作ったのか!?」
「美味かったはずだ。空腹を満たしてくれたはずだ。今もその腹に残っているはずだ」
「そ、それは……」
「人間がノイトラに今までどんな扱いをしてきたかを思えば、確かに無償で助けることに不信感を抱くかもしれない。
無理もないことだ。その気持ちはわかる。だがこのトーマを、そしてノイトラたちを信じてほしい。
我々は人々を助けたい、命を救いたい。まだ助かる命を無駄にしたくない。
そのためにも我々を信じてほしい。我々は与える者、困っている人から何も受け取りはしない。
我々はこの街に生きる者として一つにならなければならない。我々は一つなのだ!」
聴衆から謎の拍手が起き、なんならちょっと涙ぐんでいる人もいた。家族や家を失ったりして情緒不安定になっているのだろう。
俺はとりあえずこれにうやうやしく頭を下げて礼を返したが、なんと、俺に話しかけてきたさっきの男も涙ながらに俺に謝ってきたではないか。
「すまない、すまない、俺はこんないい子を疑って……!」
「大丈夫だ。無理もない。我々は同じ災厄に見舞われた。絆で結ばれている。
我々は一つなのだ。心を一つに頑張ろう!」
絆とかひとつとか頑張ろうとか、人間はそういう言葉が大好きだ。そういうことを言われると弱くなる。
聴衆はやにわに熱狂してさらに次の言葉を待っている。これならノイトラじゃなくたって言うことを聞くはずだ。
こういう群集心理はいいほうに導けば素晴らしい結果が現れる事だってある。
日本人は陰湿でジメジメしていて、同調圧力が強いとよく言われるが、震災などがあるとこれがいい方向に働き、火事場泥棒などの不謹慎な犯罪がすくない。
そして困っている人を積極的に助けることも多い。今回は俺がそれに導かねばならないのだ。
「ガレキに埋もれた人が居ないか探してくれ。そしたらベンツに言ってくれ。ベンツはこの機械で救助できるだろう!
食料がないなら俺かこちらのマリーに言うんだ。パンを作って与えよう。
今、困っていない人は困っている人を探してくれ。今は時間が惜しい。無駄にするな、この一分一秒を!」
「うおー!」
と雄たけびを上げた後、聴衆は男も女も雲散霧消。通りには俺とマリーとベンツだけになった。
「やれやれ、あんなに色々約束しちゃって大丈夫なんですか?」
「俺のキャパシティは大丈夫だ。ベンツ博士、悪いけどめちゃくちゃ働いてもらうぜ」
「私だけだとちょっと……誰か人手が必要だな。そこのマリーとやらの手が空いてるようだが」
「えっ、私ですか。機械なんか操縦できるわけないじゃないですか」
俺もシロウトに重機を操縦させて人命救助させるのに不安がないではなかった。
でもよく考えたら素人でもやるしかないのだ。だって、この世界にプロは一人だっていないのだから。
「マリーがやるしかない。俺は今からトントンと話をする」
「あっ、ちょっと――」
俺は無視してトントンにコール。すぐ出てくれた。
「どうしたトーマ。なかなか帰ってこないね」
「もうしばらく人助けをしてから一旦帰る。まあ、あと半日は眠れそうにもないけどな。
ディーゼル=ベンツはしばらくそっちには返せない」
「ああ。大丈夫だ。奴も君のそばにいるほうが何かと楽しいだろう」
「だといいけど。トントン、そっちの状況を報告してくれ。あと今後の方針もすり合わせておきたい」
「わかった。こっちは徐々に人が増えている。物資は十分あるが寝床がないと騒ぐ人もいる」
「そうか……あとでその人たちも何とかしよう。待っててくれトントン。じゃあ切る」
俺は通話を切り、その後も人々を助け続けたが、日も登ってきたころには息つく暇もなく人々にこう伝えた。
「諸君。今丘の上の学園に大統領がいるそうだ。ほかにも様々な人が押し寄せていて避難所と化した学園はぎゅうぎゅう詰め。
布団もなくみんな困っていてストレスの限界だそうだ。日が暮れる前に仮設住宅を作ってあげたい。
これは大仕事になるから少し郊外の空地へ行く。マリー、もう重機はいい。サイドカーに乗ってくれ」
「はい王様」
サイドカーにマリーを乗せ、さらにはもう片方のサイドカーにもベンツを乗せようとしたがベンツは猛反対した。
「乗ってくれ」
「イヤだ! 可愛いかわいい発明品を置いてくなんて!」
「全くもう……牽引用のやつも作るか」
俺は急遽バイクから降りてエンジンを操作し、サイドカーによく似た形の牽引用の台車を作った。
そして聴衆の中でも力自慢の若い男たちに、台車に工作機械を乗せるよう指示した。
これは確かにあとで使えるし、郊外に持っていくのはアリだ。俺は台車をバイクの後ろに引っ掛けて接続し、発進させた。
台車から俺一人で荷物を下すのは正直言って無理だ。
だが台車は手動で切り離す分には俺の力でも十分可能なように設計しておいたので、バイクのお尻から台車を切り離し、全速力でまた街の中へバイクを走らせて戻った。
今度は二人をサイドカーに乗せて再び爆走して郊外にたどり着いたが、まだまだこれでも準備の一割も進んじゃいない。
「うーっ、ヤバい。疲れた……死にそうだよまじで」
「ううむ。疲れて死にそうとか言うやつはたいていそうでもないが、これは本当に重症だね」
と俺を心配してくれたベンツをかなり意外に思った。機械以外も愛せるのかこの人はと。
マリーはベンツよりももっとストレートに心配してくれた。
「もう何時間も眠ってません……あれから丸一日経過したんですね、学園突入から」
「ああ。もうずいぶん昔の事のような気さえする……」
「休みましょう。私が見ていてあげますから」
「休むって……ああでも、奇麗なところだな」
ここは俺がイザベルと一緒に飛行機で降りてきたところからほど近い。
街の少し外側にある草原のような場所で、川や湖、森林や天然の花畑にも恵まれたこの世の楽園のような景色を誇る土地だ。
風になびく眩しいほどの緑色は荒んで様々なものの焼ける匂いのたちこめる街にずっといた俺を癒してくれて、今にも眠りに落ちそうなほどだ。
「指示だけを残して。休んでください」
「わかった。まずはこれを素材に家を……ベッドも作ってやろう……」
「ほう、この素材は……」
ベンツの初めて見る素材、高密度プラスチック。あるいは、いわゆるナノテク高分子長鎖炭素高次元重合体とでも言おうか。
もちろん意味はわからずに言った。フィーリングである。とにかく、いわゆるハイテクカーボン素材だ。
硬さと強さと軽さまでも併せ持った究極の素材。これで家を作れとの指示だ。
「ふむ、ならそのベッドで君が寝ていてくれ、王様」
「ああ」
この会話を最後に俺はどうやら眠りに落ちたみたいなのだが、次の瞬間には夢も見ずに目が覚めていた。
実は人間の眠りは浅いところから深いところへ徐々に落ちていくのではなく、まず入眠するとズドンと底に落ちる。
夢も見ない状態だ。そこから徐々に浮上して夢を見だし、また沈んで、また浅いところまできて夢を見る、ということを繰り返しているらしい。
次に目が覚めた時太陽の位置はほとんど変わってなかったので、恐らく一時間も寝てはいなかっただろう。
最初に夢も見ないほど深い眠りへ落ちた後すぐにまた起きたらしい。目の前には真っ黒な一軒家が建っていた。
俺の意図を組んでくれたか、ベンツは究極の素材を使って簡素な家を建ててくれた。そうじゃなきゃいけない。
大量に建てる必要があるからな。メカニックと聞いていたが建築も出来るらしい。
しかも何気に、重機をすでに幾台か作ってしまっている。向こうに取りに行くより作ったほうが早いということだろうか。
しかしよく重機が動いているそばで俺も眠れたものだと感心する。いや、そのせいで起きたのかもしれないが。
「おっ目が覚めたか。丁度家が一軒建ったところだ」
と俺のすぐ後ろの方から声が聞こえた。見ると頭上の操縦席から重機に乗ったベンツが話しかけてきていた。
ほかの重機にも目をやると、別の重機にマリーが乗っていた。こっちのやつは整地用のアームの付いた重機で、家を建てる基礎作りをしてくれたようである。
「中はどんなもんかな?」
玄関ドアを開けて中を見てみると、俺が出した粗末なベッドをコピーしたものが家の中にデンと入れているほかは何も家具がなく、ガラスの窓が鉄のフレームにはまったのが一つあるほかはすべて真っ黒な壁。
カーボン素材ですべて覆われており、味気がない。冬の寒さが大変そうだ。
「なあ、暖房とかつけてやることできないかな?」
「出来るわけないよ。窓付けてやっただけ親切だと思うけど?」
「そっか……しょうがない。ベンツ、俺がだしてやった筆記用具は」
「もちろんここに。ただ紙がない」
俺は紙を出力したところで、これに書き殴って図面を描いた。
「こういうことが出来るはずだろう。やってくれないか」
「なるほど。考えたねトーマ君。君は結構建築関係の才能もあるんじゃないか。
作図はヘタだけどアイデアはとてもいい」
「誉めても何も出ないぞ博士」
「ええと、この図面は一体?」
マリーは聞き上手で質問上手だ。俺は図面を適宜指さしながら解説する。
「これはエトワール型避難所とでも名付けよう。エトワールとは星と言う意味だ。
見ろこの中央塔。見るからに重要そうだろ。これは暖房専用の塔。いわばでっかい煙突、暖炉なんだ」
「とすると……この中央塔から延びる無数の線はもしかしてダクトですか?」
「マリーは賢いね。そう、中央塔で作った暖かい空気をこのようにしてダクトで循環させる」
「だがこのダクトには少し改良が必要だ。圧力がかかってしまう」
「どうすればいい、博士?」
ベンツはすぐに図面に修正を入れて手直ししてくれた。
具体的にはダクトを一直線ではなく、折り曲げてわっかを作っている。
居住区へと続く通気口には仕切りが施されていて、中央塔から来る暖かい空気はこの仕切りにぶつかったあと、戻っていく方向の通気口を通って中央塔に帰り、また暖房で温められる。
仕切りを開けると逆に中央塔へ戻る方向の通気口が閉鎖され、当初のようにダクトは中央塔と居住区を直線で結んで暖かい空気を届けてくれるという仕組みだ。
「このように住民が手動で開閉できる間仕切りを作る。そしてダクトを中央塔とループ状につなげるんだ。
暖房が要らないときは間仕切りを閉めれば、こっちのダクトから中央塔へ空気が流れていく。
暖房が欲しいときは開ければいい」
「なるほど……」
「それらを全部中央塔に集約させる。これが星のように見えるからエトワール型ってことか。
最初に作っちゃったやつはもうそのままでいいとして、他のやつは時間短縮と断熱性の向上のためにも、窓はつけなくていいね。
あと出来るだけ人を多くしたいから高層階化したいねトーマ君」
「そうしようか。階段作るのめんどくさいけどね」
「一個作ったらコピーできるからいいでしょ」
「そうだね。やれやれ忙しくなるな……でも博士、一緒にいると楽しいね」
「どうした急に。まあそれは私も同感だが」
「俺が大枠を作って博士がディテールを埋めてくれる。俺たちは名コンビだ。出会ってまだ数時間だけどな!」




