第四十四話 いい湯だな、アハハン♪
「まだまだ仕事はあるぞ。食料を運ぶとするか」
「いや、その必要はないぜ。俺にはこいつがある」
と、俺はバイクのエンジンを指さした。親父は怪訝な顔をする。
「いや……そうなんだが……それで食料を作れるのか。まじで?」
「まじだ。これで街の人の生き残りがいれば食料を作る。
親父、食堂から食料を何種類か持ってきてくれ。芋とか」
「わかった」
親父は段ボールみたいな紙の箱を一つ抱えて食堂から俺のそばまで運んできた。
するとマリーとミリーが興味津々で近寄ってきた。
「ああ、私もお腹すきましたよ。それで食料作ってくれるんですか?」
「ていうかお風呂入りたいです。水とか作れません?」
「またかよミリー。そればっかだな。まったく……じゃあ手始めに燃料と水を作るか!
それと風呂の湯船もだな。これも必要だろ」
「えっ、ここでですか?」
校舎裏の、トンネル入り口にほど近い暗い林の中での作業だったので別に問題ないだろ、と俺はミリーを説得。
俺はさっき銃を作った素材を用いた。これは俺自身構造がよくわかってないのだが、レべル5の使ってた銃の素材を流用した。
高密度プラスチックなのだろう。多分。硬さのわりに軽い優良素材で、もちろん水もはじくし水漏れもしない。
ただしこれは火にかけると融解してしまったので、ボツ。
俺はアルミのような鉄板を作り出し、これを大きな鍋に見立てた。
そしてさっきの高密度プラスチックを湯船の底に敷くことで、昔の五右衛門風呂のようにした。
まあ、俺は五右衛門風呂なんて実物は入ったことないが、まあこんなものだろう。
お風呂スキのミリーは不満顔だったが。
「学園ならきっといいお風呂があると思ったのに」
「贅沢言うなよ」
「わかってます。ありがとうございます王様」
次に俺は水を作り出すことにも成功。これを注いであとは適当に近くにいくらでもある木材を片っ端から浴槽の底に敷いて俺の電気ショックで火をつけた。
蓋を閉めてしばらくするとフタの隙間から湯気が出てきて、いい湯加減になってきた。
「ああ、ありがとうございます。さっそく入ろうっと」
と、ミリーは言って制服を脱ぎ、素っ裸になった。俺はともかく親父もそばにいるのだが。
「ノイトラってみんなこうなのかトーマ?」
「知らないよ。まあお邪魔はしないでおこう。じゃあなミリー、俺たちは食料を作って配る必要がある」
「はーい。あとでよかったら一緒に入りますか?」
「俺は学園のやつを使う」
「そんなぁ!」
俺は頑張ってくれた部下をねぎらって風呂を作ってやった。それだけのこと。
親切が足りないとしてもそれで文句を言われる筋合いはない。俺はミリーを放置して校庭へ戻った。
相変わらずだ。相変わらずノイトラたちは校庭に集結しているがいい加減外は寒いので家の中に入れてやりたい。
「みんな、この街のゲットーに家があるものは帰っていいぞ。
ゲットーに被害はほとんどなかったはずだからな……ていうかゲットーに帰りなさい!」
というと、校庭にいたノイトラは殆どが校門から外へ帰ってしまった。
だがエリザベスのようにゲットー外の安アパートとかに住んでる奴はまだ少しだが残っていた。
「フームしょうがない。校庭にいるノイトラは俺についてこい!」
ノイトラを連れて俺は食堂へ入り、そこで待機するよう命じた。
そしてまた外へ出てミリーのところへやってきた。まだ風呂に入っていた。
ミリーは俺と目が合うと恥ずかしそうにこう頼んできた。
「あ、あの、お風呂熱くなってきたんで火を……」
「ああ」
俺は命令するばかりではない。部下の頼みも聞いてやる。
鍋の下の焚火を蹴っ飛ばして、細い枝の先についたもうほとんど消えそうな小さな火以外は全滅させた。
「あ、よかったら一緒に入ります?」
「いや」
「王様って女の子が好きなんですか。それとも男の子が好きなんですか?」
「別に……自分でもよくわからない」
「ノイトラは男の人を好きになると徐々に男の部分が消えて、女の子らしくなってくるんですよ」
「俺、十二歳にしては胸が平らだと言われたよ」
「それは多分好きな女の子がいるからですねぇ……」
「フン、どうでもいい」
「食料は何作るんですか?」
「パンと魚かな」
まるで神話の救い主。まさにそれだ。俺が目指すべきはそれ。
人々が感動した神話の救い主を模倣することは、俺がこの街で受け入れられやすくなるということのはずだ。
ミリーは放っておいて俺は食料を作り出そうと頑張った。コピーは出来た。
魚は無理だった。コピー元がないからで、一から作るのはさすがに難しいみたいだ。
とはいえ段ボールいっぱいのパンは作れた。これだけあれば急場をしのぐことが出来るはずだ。
「ミリー、やっぱり俺、せっかくだし自分の作った風呂に入るよ。
上がったら薪を足しておいてくれ。それじゃ俺はこれを食堂へ持っていく」
俺が段ボールを食堂へ持っていくと、何やら中で衝突が起きていた。
一応聞いてみると、痴話ゲンカだったみたいなので俺は聞く価値もないと判断して食堂の食糧庫にパンを納品して、それから親父のところへ行った。
「親父、俺、地下の食料運ぶの手伝うよ。ちょっと大回りだけどいいルートがあって」
「そうか。食糧庫はさっき見た居住区の食糧庫だ。すぐにわかるはずだ。
たしかサイドカーを作ると言ってたな。荷物を載せるサイドカーを作ってみてもいいんじゃないか?」
「わかった。それと飛行機なんだけど……俺、ここの人たちを放ってはおけない。
あれで一刻も早く飛んでいきたいのは山々なんだけどさ」
「そうだな。満足いくまでバイクで運送したら少し休め。明日はノイトラたちに命令しろ。
この街の復興をな。復興支援の工事と食料や水の配給までやれば、俺たちが市井の人の支持を得るのは時間の問題となる」
「そうなると……どうなる?」
「悪いがセシルよりも重要なのはお前だ。ここが正念場。
ここで働き、支持を得て基盤を作り直さないといけない。
そうしなきゃ外へは出られない。大統領はあのざまだしな」
「そうか。じゃ、俺は行ってくる」
俺はさっきバイクを停めておいた校舎裏へ戻ってみると、ミリーがあられもない全裸で火にあたっていた。
「あ、王様。そういえば体を拭くものがなくてですね……」
「それで火にあたってたのか。俺も入る」
と言って蓋を取って鍋に指を突っ込んだところ俺ははじかれたように後ろに倒れてしまった。
「あっつ!」
そういえばミリー、強めの火にあたってたので鍋が熱いのは当たり前である。
「ああ、すいません。しばらくお風呂入れないですね」
「やれやれ。じゃ、俺は荷物を運ぶことにする。あ、そうだ。
ごめんミリー。白状するよ。俺が好きな女なんだけど……」
「えっ。私と恋バナしてくれるんですか?」
「フィボナッチ補佐官っていう三十歳くらいの女性が好きなんだ。いや年齢は定かじゃないが……」
「もっと若い子が選び放題なんですよ王様。そんなのでいいんですか?」
「しかも子持ちの人妻と来ている」
「あらら……」
「だからまあ夫には悪いとは思うんだけど、あの人とドライブデートでもしようかなと思って」
「王様がそういう時には実際はそう思ってないって、私もいい加減覚えましたよ」
「お見通しか。あの人に地下を案内してもらわないと困るんでサイドカーに乗せたいと思う」
「補佐官ならバトラーさんって人もいますけど?」
「それはほら、下心だから。男はいらない」
「いいですね。応援しますよ私は。ダンナさん、今回の騒ぎで死んでるといいですね」
「爽やかな笑顔で何てこと言うんだミリー!」
「虫けらが死のうが生きようが私はどうでもいいですが。
ああ、人間でもセシル君は別ですよ……顔がいいですから」
「お前もそっち側のノイトラかミリー。優しくしろとは言わないが、人間は殺すなよ?」
「わかっています。今は人間の機嫌を取る必要がある、でしたよね」
「そうだ。じゃあな」
俺は言ってる間にサイドカーを作り終えていたので、それをバイクに接続することにした。
だがそれはバイクにまたがってトンネルを慎重に降りてからである。
そうして地下へ降りてからサイドカーを接続し、俺はバイクを駐車。
校舎へ戻って補佐官を呼びに行った。まさか補佐官は俺が下心を抱いているとは思うまい。
一緒に地下へ来てほしいと言われてこれを快諾してくれて俺たちは地下へ戻った。
「そこのサイドカー……膝を曲げて乗ってくれ」
「こ、怖いですよこれ。本当にこれ……走るんですか?」
「もちろん。飛行機はどこにある? まさか格納庫はここにはないよな」
「ええ。重くてかさばるので運搬に苦労しましたから。さっき、ラウンドアバウト状の通路を通って道なりに行ったら外に出たでしょう?」
「うん」
「あれは大動脈。出口付近に分岐があったと思いますが、そちらの方に飛行機はあります」
「ちょっと行ってみよう」
まあ、バイクを使っているので実際のところ、補佐官と話をしている時間はほとんどなかった。
すぐに案内のもと飛行機の格納庫へと到着。
ここには飛行機を格納する予定など元々なかったので、何かの倉庫の中身を急いで出して空いたスペースに飛行機を無理やり突っ込んだという感じだ。
「今はもうそういう次元の話はしていません。軍事力だとかなんとかより、あなた方に協力することが最善でしょう?
だから飛行機についても教えても問題ないでしょう」
「ああ。今は確認するだけだ。あとで正式に交渉することにする」
「はい。次はどこへ行きましょうか?」
「食料を学校に運ばないといけない。食糧庫があったら案内してもらえないか?」
「もちろんです。私にも学校に息子がいますから。行きましょう、Bブロック南東です」
俺たちは再びバイクに乗り、三分くらいでまたすぐに目的地へついてしまった。
狭いったらありゃしない。徒歩だったら一時間くらいかかる道のりだがバイクだと一瞬で済んでしまう。
便利であることが不便になるとは、この世はままならないものだと言わざるを得ない。
余談だが、これはあとで知ったところになる。
それというのも補佐官の息子はなんと身長が一メートル八十センチくらいある大柄な中等部の子で、天地がひっくり返っても補佐官が息子より年下な俺を恋愛対象にするわけなかった。
べつにどうにかなろうと思ってたわけではないが、ここは一応補足しておく。
さて、俺はもう一つのサイドカーを使って荷物をそこに置いた。
ちなみに"バランスが悪くなるのでもう片方のサイドカーに乗っている補佐官の体重を教えてほしい"というもっともらしい理由をつけてセクハラをしたことを、俺は白状しなければならない。
補佐官は正直に体重六十キロほどであると言ってきた。
実際にサイドカーに荷物を積んでみると、たしかにおおよそ六十キログラム弱でつり合いがとれた。
本人の名誉のために言っておくが、太っているわけではなく彼女はかなり身長が高いほうだから体重もそれなりなのだ。
つり合いがとれるように荷物をバイクに積んだところでまた発進。
ちょっと遠回りにはなるが階段を昇らずに済むので、補佐官の指示のもとトンネルの通路を回って緩やかな坂を上って新しい出口へ出た。
どうやらここは官庁のある場所の最寄りのトンネルで、ここを通って大統領らはトンネルに入ったらしい。
官庁そばは発展していて金持ちが多そうな感じがする。だがそれは平時の話で、かなりの家が焼けているので見る影もない。
一応街中でたくさんの消防士が頑張っているのは見えるが、同時多発的に街のいたるところで一斉に火が出たのでとても手が回っていない。
この街の水源は恐らく平時でもカツカツだったと思う。消火用の貯水槽など足りていそうにない。
「ああ、疲れた。でも消防士は夜通し働くことになりそうだなぁ……」
「ノイトラに命じても、何でもできるわけじゃないんでしょう?」
「ノイトラを動員しても人手が足りない。今何時かな?」
「多分そろそろ日付も変わったと思いますが……何しろ街の時計塔も被害を受けていますから」
「そうだな。じゃあ補佐官さん、学園へ急ぐとするか」
俺たちは遠回りにはなったものの、かなり荒れ果ててしまった街中を縫って学園へ戻った。
戻ってきた真っ暗な深夜の学園には元気な人間が数多くいるが、それだけに絶望的な空気が漂っていた。
灯りもろくについていないし、校庭や前庭にはほぼ人はいないが、一応灯りのついている校舎は目を覆いたくなる状況だった。
特に戻ってきた初等部の校舎はさすがにもう緊張の糸が切れていて、泣いてしまっている低学年の子供も多く、多くの人が寝床にも困っている。
そして相変わらずエリザベスたちは銃を持っているということもあり、一向に外へ出られないという様子だ。
だが、俺が戻ってくると主犯でよく目立っていた俺の顔を皆覚えていて、初等部の子供たちはほぼ全員が戻ってきた俺に注目。
泣き声も止み、人質だけでなくエリザベスたちまでもが俺に指示を欲しがっていた。
もちろん俺はそれにすぐ応じてやる。
「どうも、戻ってきた。俺だ。俺の顔を覚えてくれているようで光栄だね。
お前たちには帰宅の許可を与える。何か問題があったらこの学園に戻ってこい。
まずは教員からだ。教員とノイトラを除く職員は家に帰っていい。早く行け」
「トーマ、まずは子供じゃなくていいのか?」
とトントンがこっそり通信で言ってきたが俺は短くこう返した。
「子供は騒ぐ。後回しだ」
「確かにね。帰ったら家がないなんてかわいそうだ」
教員を帰らせてから、俺はバイクから荷物を次々と食糧庫へ運び入れた。
とはいえ、子供は警戒して食べないだろうから、元々ここで料理を作っていたエリザベスにはそれを使ってせいぜい十人分くらいの料理を作ってもらうことにしたのだった。
俺、トントン、親父、イザベル、マリーとミリー、エリザベスとあと、警備員のノイトラ二人。
フィボナッチ補佐官にも声をかけたが、息子も中等部でお腹を空かせているだろうから自分は食べられないとのこと。
べつに無理強いして食べさせることはないので、俺は食堂にあるテーブルで先ほど名前を挙げたメンバーと一緒に集まって食事をとった。
今夜のメニューはかなり深い時間になってしまったとはいえ、明日も今日にまして忙しくなることを見越してのボリュームだ。
段ボールいっぱいの俺が作った食パンに、それにつけて食べるためのソース。
これは辛めのトマトソースで、さらにはお好みでトウモロコシ粉を使って作ったパンも添えてあって食卓はずいぶんメキシカンな感じに。
まあこの世界にメキシコなどという概念はないが、一応トマトやトウモロコシ、唐辛子といった新大陸原産の食べ物があれば人間は似たようなことを思いつくのだろう。
そしてその辛めのソースの上にジャガイモと一緒に塩コショウだけで味付けしたポークソテーを添えてある。
かなりのボリュームだ。たった一品だけで強烈なボリューム。これを食べ終わるころには教員の一人が戻ってきていた。
全員戻ってくるというわけにはいかなかったものの、狙いは当たった。
何を教えてる教師か知らないが、その男は青い顔をして食堂に戻ってきて泣きそうな顔をしながら報告してきた。
「家がない! 街も焼かれてる! お前たちは何をした!?」
「俺に意見を求めたのか……?」
俺は重い腰を上げ、胸元についたパンくずを手で払い落すと落ち着かせるように低い声で言った。
「学園からお前たちを出さない理由がわかったろう。街では大火災が起こった。
かなりの街の建物が焼けるか壊されるかした。多くの者がこの深い時間だというのに家に帰れない」
「本当にお前たちは関係ないのか?」
「この学校では死人が出ていない。それが証拠だとでも言っておこう。
もはや銃で脅すことはしない。全員、帰りたければ帰って結構だ。帰れる家があるならだが」
「私たちはどうすれば……?」
「ずいぶん協力的な教員だな。もちろんそれが一番いい。
アンタは一人でも多くの子供を家に帰らせろ。家が残っている者もいるだろうからな。
それには大人の付き添いが必須のはず。正直、俺たちもお前らなんか放っておいて家に帰りたいんだ」
これは本音だ。正直言って疲れた。もう子供の顔などみたくない。家に帰って寝たいのが本音だ。
体は重く、意識も時折遠くなる。全身が鈍く痛んで吐き気がする。
冷静に考えると俺のやっていることは徒労にも等しい。
結局飛行機は取り戻せたがプラスマイナスゼロ。マイナスがゼロにもどっただけだ。
バイクの取得は幸運だったが。
大統領にさえ協力すれば外の世界へ行けるとのことだったが、そのためにやるべきことが山積みとなってしまった。
少なくとも俺は今日一晩中起きていなければならず、朝になって日が昇ったら今度は救世主ごっこをしなければならない。
人々にパンを提供してノイトラたちを集め、街を復興する手伝いをさせる必要がある。
とにかく疲れた。俺はご飯を食べるとすぐに校舎裏へ足を運んでたきぎに火をつけて露天風呂に入った。




