第四十一話 トトロで見たやつ
「とりあえず鹵獲させてもらうぞ、レベル5」
こいつに命があるのかといえば、レベル8で同じく機械の体であるエースに比べれば、ないと言っていいだろう。
そもそも命って何かという話もしなきゃいけないが、ここで哲学を語っている時間はない。
俺はレベル5の持っていた銃を鹵獲した。もっぱら奴らは手に持っているこいつではなくて、口の中に取り付けられた銃を発射していたが。
口の中のは取り出せないのでこちらを奪っておいた。安全装置などはついていない。
替えの弾倉はあったが、これは俺には重すぎて携行することは不可能に思われた。銃より弾のほうが重いのだ。
警官隊が持っていたボルトアクション式銃と比べても変わらないくらいの非常に長い銃だ。
明治時代などに日本でも見られた村田銃という長い銃があるが、警官隊の持っていたのはそれに似ていた。
俺の持っているのも長さだけで言えばそれに近いが、デザインは近未来的な感じだ。
弾も火薬も一体どんな素材でできているのかは俺も知らない。撃ったら俺の腕がもげるほどの反動があるかもしれない。
第一俺は銃を撃ったことがない。多少の知識はあるが素人の見よう見まねにすぎない。
それでも二体目の奴が子供を抱えた女性を撃とうとしているところを俺は撃ってみた。
驚くほど反動がなかった。どうなってるのか知らないが、その瞬間、機械兵は木っ端みじんと化していた。
ただ残念なのは木っ端みじんになった機械兵の破片によって女性と子供が出血してしまったことか。
「ごめん、でも助けるにはこれしかなかったんだからな」
と二人には聞こえない距離からつぶやくと、俺はまた新たな獲物を探してキョロキョロ辺りを見回す。
すると機械兵は見えない代わりに、ノイトラたちがどんどんこっちへ集まってくるのがわかった。
俺は眉をひそめた。この街の住民のうちノイトラはせいぜい一パーセントくらいだろう。
ここが百万都市だと仮定してノイトラの人口は一万か二万ぐらいだと思う。
俺は体感でノイトラの人口比率は大体そんなものだと学んでいるからだ。
俺の声が仮に全員の頭に聞こえていてもこんなにノイトラが生き残っていて学校へ押し寄せてくるのは極めて不自然だ。
だって機械兵は目につく生き物全部殺しつくそうとする勢いだからな。確率的におかしい。
だいたい、俺の掌底を無防備に受けたこともおかしい。このことから俺は次のような発想を得た。
「ノイトラは……抹殺対象には入っていない?」
エグリゴリも自分の使命は人間のせん滅だと語っていた。嘘ではないだろう。
その人間にノイトラは含まれていないということだろうか。
「おいおいノイトラ……何人集まってくる気だ?」
そういえば近くにゲットーやノイトラの集まる安アパートもあったことを思い出した。
俺のもとに集まってくるノイトラは千人、いやそれ以上は確認できる。本当にノイトラは全然狙われていないらしい。
寝ている間に家が焼かれたり壊されたりとかの不運な事故でもしかしたら死んでるかもしれないが、それでも人間との生存率の差は歴然だ。
やはりノイトラは狙われないと考えるべきだろう。それがエグリゴリに命令されたからなのか。
あるいは元々セキュリティというのは人間以外は眼中にないのか、それはわからない。
とにかくすごい数のノイトラが集まってくる。俺はさらに命令を下した。
「ノイトラはすべて学園の校庭に集合しろ!」
そのほうが都合がいいだろう。みんなは訳も分からず頭の中に響く指令のままに自分の意思で校庭へ向かう。
それが俺の命令のいいところだ。盲目的に従うのではなく意識も思考もはっきりしているので、”普通わかるだろ”みたいな問題が発生することがない。
ゲームとかをやっていると”ふつうわかるだろ”みたいなミスをコンピューターがすることがあると思うが、そういうのはない。
例えば俺の校庭へ集まれという命令だが、仮にノイトラ同士で不快に思うほど密集してしまった場合は校庭からはみ出すようにして集結するはずだ。
本人たちには意識があるからな。ノイトラたちは俺の横を駆け抜けて校庭にまっしぐら。俺は銃を抱えながらその中を縫って下へ向かって歩く。
坂を下りて路地の中へ俺は進んでいくが、そういえば、と思って俺は慌ててトントンにコールした。
「もしもしトントン?」
「ノイトラたちを学校に避難するよう誘導したんだね?」
「ああ。見ての通りだ。ノイトラは異様に生存率が高い。元々狙われないと考えられる」
「そうか。トーマも狙われてはないんだね?」
「今のところは。トントン、俺は目についた敵を倒しながら進みたい。
大統領は飛行機のそばにいると考えられる。飛行機はどこだ?」
「我々にも秘密の場所だ。どこかに運び込まれた。もしかすると学園の地下かもしれない」
「なんだって。でもそうか、政府の秘密地下研究所だもんな。あり得る話か」
「おそらくそこへの入り口は無数にある。それこそ街の外にも長大なトンネルがなければ飛行機を人目に触れずにどこかへ隠すのは無理だろう」
「それこそ無理だ、俺一人じゃカバーできない。マリーとミリーを寄こしてくれないか。
三人で敵の銃を鹵獲してせん滅効率を高めたい」
「ああ。すぐに向かわせる。そこで待っているんだぞ」
「わかった」
俺はこの時間を利用して倒した敵兵士の持っていた銃を二丁拾った。まだ俺が倒したのは三体だけだ。
他にはまだ姿を見かけていない。何百体いるのかは不明だが、戦っていけばいずれは倒せるんじゃないかと思う。
それにこいつらはある種希望だ。セシルたちの戦っているのがこいつらなら、コロンビーヌやアルと言った戦闘力に長けたノイトラが一緒にいる。
セシルの安否はまず心配いらないはずだ。俺が蟻んこのようにして大きな銃を必死こいて坂の上まで運んでいると、ようやく二人が来た。
思えば今回の事件があるまではまともに会話もしたことない二人だが、四の五の言ってられない。
「二人ともこの銃を持て。一緒に命をかけてくれるよな?」
「命令されなくても戦いますよ王様!」
「やだもう……十八時までにはお風呂に必ず入るのに!」
なんだか反応が正反対だったがまあいい。どっちにしろ二人は大人しく銃を手渡されてくれた。
「三方向に分かれよう。俺は日が沈みかけている西側だ。二人は他を頼む」
「わかりました」
「日が沈む前に片付けますよ!」
もう恐らく人口の三分の一くらいが死んでいる。早くしなきゃここは廃墟だ。
大統領の権限もどこまで持つかわからない。
この状況が終わったら再選挙とか、あるいは国という総体が弾け飛んでしまうかもしれない。
それでもあと数日程度は大統領も権力の座にその年季の入った大きな尻をのっけていられるはずだ。
そのわずかな期間だけでいい。それだけで構わない。俺は外の世界へ行く。
俺はそうやって前向きな気持ちでことに臨んだ。とはいえ向こうは止まってくれないし無数にある路地にまで入り込んでは逃げた人間を処理する。
いっそのこと人間も操れたらどんなにいいか。人間が一か所にしかいなくなれば機械兵の動きも読みやすいのに。
しかし贅沢は言ってられない。これがもし時代が違えばシェルターとかの人が集まりやすい施設があって、それを防衛すればいいという楽な任務だった。
ここにはそれはない。地道に一体一体をつぶしていくしかないのだ。マリーとミリーの戦果は知らない。
とにかく潰すのみだ。そう思っていたら、何故か後ろにトントンがいた。銃を持っている。
「トントン、どうして」
「子供たちばかり戦わせるわけにいかないからね。革命軍の本部も気になるし」
「そういえば本部ってどこ?」
「街の西側、まあこっちの方面だからね」
「そうか。とにかくトントンについていくことにするよ。どっち行く?」
「ついてくるんだ」
トントンはさっき俺が倒した敵の銃を持っていた。別に頼もしいとは思わないが、一人でやるより二人のほうが気が楽だ。
と思っていたらトントン、この人ヤバかった。何がって、ヤバいとしか言いようがない。
目がいいのか腕がいいのか両方か。銃を握らせると今までの優しくて料理が得意なトントンとは別人のようだった。
まるで壁の向こうも見えているかのように、民家の壁を撃ちぬいたかと思えば向こうで機械兵が倒れていた。
「どっ、どうやったんだ?」
「私はトーマほどじゃないがノイトラとしての力は生まれつき人より強い。
こいつらは微弱な電波を飛ばして通信をしている。まるで闇夜の灯火のようにここでは目立つ。
何しろ電波を出すものなんてこの世には全くと言っていいほどないからね」
「なるほどそれで……何と通信してるかわかる?」
「おそらく造換塔。司令官はいないようだ。少なくともこの街にはね」
「そっか。数はわかる?」
「ああ。今マリーかミリーの誰かが一体倒した。こっち方面に敵はいない。学校のほうへ戻らないかトーマ?」
「学校のほうに来てるのか?」
「来た時対処できるようにしないと。ほかはともかく、イザベルは重要な存在なんだろ?」
「ああ。あの子は絶対に失ってはならない存在だ。トントンの言うとおりだ。ひとまず帰還する」
「それがいい。じゃあ僕は二コラの家を見てくる」
「わかった。じゃあ待ってる」
学園へ戻るとノイトラたちが思った以上に密集していた。まるでこの街中の生き残ったノイトラ全員が集結しているみたいだ。
彼らが何ともないことからも、まだ学園には機械兵は来ていない様子だ。
とはいえ、俺はトントンから非常に気になることを聞いてしまったのである。
まずこの学校には大量の人間がおり、さらに、その地下には研究所と古代遺跡がある。
そしてここに接続するためのトンネルが掘られており、このトンネル網がどこまで複雑化しているかは誰も予想できない。
ここで役に立つのが意外にも、好みなので夫がいることを非常に俺も残念がっている美人補佐官だった。
食堂へ行くとマリーもミリーもいないため、銃を構えているのはエリザベスと、エリザベスが仲間にした警備員のノイトラ。
そして俺が仲間にした警備員のノイトラ二人、総計五名のみと、子供や教員を制圧できるギリギリの人数のみだった。
案の定戻ってくると補佐官に話をしたかったのに教員に詰め寄られた。
「一体外では何が起きてるんですか! 子供たちだけでも返すわけにはいきませんか!」
「説明してください。人質なら私たちが代わりに……」
「一介の教師ごときが、名家のお嬢様やお坊ちゃんの代わりになるわけないだろう。
いいな、妙な気を起こしたら殺す。だがトイレなら許可しよう」
「本当ですか!」
「教員一人につき子供五人。合計六人で必ず揃って帰ってこい。
一人でも遅れた場合は殺す。エリザベス、そこの食堂入り口前で立っていてくれ。
トイレに行く連中の身体検査と数の確認頼む」
「わかりました。王様はどうされますか?」
「俺は少し話がある。フィボナッチ補佐官、少し向こうで話を」
「わかりました」
俺は二階へ上がる階段の踊り場に補佐官を誘い、コソコソとした控えめな小声で質問した。
「大統領は多分地下にいるんですよね、しかもこの地下に」
「ええ。首都の地下は研究所と古代遺跡に通じていますが、有事の際の要人のための空間にもなっています」
「やはり……トンネル網は複雑化しているんだろうと思うが……」
「はい。これを把握している人はごくわずかかと。私もすべてを知らされているわけでは……」
「わかった。現在外では……いや、これを説明できる気がしない。とにかくヤバい事が起きている」
「ここは無事でしょうか?」
「失礼だがお子さんは?」
「ええ。お察しの通りです。ここに私の息子がいます」
「そうか。俺たちもここで死人を出すわけにはいかない。
だがもはやこの首都では安全なところはどこにもない。
意外と安全な地下トンネルってやつが一番危なかったりしてな」
「いい加減外で何が起こっているか教えてもらえますか?」
「今から言うことを完全に細大漏らさず信じると約束するなら」
「もちろんです」
「嘘は言わない。今、殺人機械とでも呼べるような兵士が虐殺を行っている。
何故かノイトラは襲わないが、家は燃え人は死に、たぶんすでに何万人も死んでる」
「それは……!」
「本当だ。見てきた。嘘は言わない。人間の匂いをかぎ分けてトンネルに入っていくこともありうる。
この学園から地下へ行けるんだな。大統領のところへ案内してほしい」
「トンネルには入れるなと命じられています。飛行機がありますから」
「言ってる場合かよ。大統領にはまだ死んでもらっちゃ困るんでな。
地下の遺跡へ行かせろ。緊急事態だぞ。決断は任せるが」
「私には……」
補佐官は少し考えた後、無言でこの場を去った。すると同じ補佐官で、この学校の食堂に運よくは要れた男を連れてきた。
「二人で話したのですが、やはりお教えするべきかと」
「賢明な判断だフィボナッチ補佐官」
「ではバトラーさん、本当にいいんですね?」
「ああ。私の責任でやるといい。ただし手柄も私のものにするが」
「ありがとうございます」
「話は済んだみたいだな。じゃあ俺のほうも準備が……」
俺は食堂のほうへ戻り、イザベルを探し出した。
この状況で泣いていないのは偉い。相当なストレスだろう。
床に三角座りをしていたイザベルは俺に呼びかけられて顔を上げるとこういった。
「せ、セシル探しに……行く?」
「古代兵器を求めて遺跡へ行く。イザベル、ついてきてくれ。
俺のことは嫌いでも何でもいい。出来るな?」
「い、行けばセシルに会わせて……く、くれる?」
「もちろんだ。イザベルにお願いするのはこれで最後にする。あとは大人しくしてくれればいい。
最後のお願いだ。今から一緒にきて古代遺跡に行き、古代兵器を」
「わ、わ、わかっ……た」
イザベルは相変わらず強めの吃音を発生させながらも辛抱強く会話した。
まあ俺も辛抱強く会話することでは大差ないが。イザベルは会話することすらも苦痛なのだ。
全くもって世話の焼ける小娘で、早いところ世話はセシルに丸投げしたいところだ。
二人並んで踊り場へ戻ってくると、補佐官たちは校舎裏に案内した。
校舎裏にはなんに使うのかわからない備品の倉庫がある。
ここにまだ告白してないがいい感じの男女を閉じ込めたりしたいところだが、残念。
なんとこの倉庫の地下にはトンネルがあったのだ。この地下のトンネルを少し歩くと妙な部屋があった。
「あ、電話だ! トトロで見たやつ!」
「何を言ってるのか知りませんが、そう電話ですね。ただし施設の中でしか通じません」




