第三十七話 世界の縮図
会いに行ってみようかな」
「ダメよ。学校も家もセキュリティ厳重で下々の者は近寄れない」
「やっぱダメか」
「セシル君が居れば色仕掛けで落とせるんだけどねぇ……」
「あ、やっぱ二コラさんもセシルに対してはそう思う?」
「そうだよね。なんかこう、ただ性格の優しい美少年なだけじゃなくて、高貴な感じがあるよね。
王子様的な。この年頃の厳格に育った優等生の女の子なんか、免疫ないから脳みそぶっ壊れるんじゃない?」
「そうだね。その上彼には優しいだけじゃなくて、危ない雰囲気もあるからね」
「まあ正直、セシルが制服でも着て中に潜入すれば何の準備もなく一発で誘拐してこれそうだけど……」
「それだと大統領の娘も巻き込まれてるって点が活かせないよ」
「まあそうだけど。じゃあトーマ、ばいばい」
妙齢の女医、二コラは俺に気さくに手を振ると家を出ていった。かわいい。
イタリアンな感じの美女だけあって、さっきパスタを食べていた時も様になっていた。
俺は早くもイザベルから二コラに浮気しそうになった。
が、気を取り直して横でぐーぐーと気持ちよさそうに寝ているイザベルを手でゆすって起こした。
不機嫌そうに俺を無言で睨むイザベルに俺は言った。
「セシルたちがここへ来るまで待ってくれ。あと一週間くらいの辛抱だ……それまでは俺で我慢してくれないか?」
「……」
イザベルは何も返さないが、一週間でセシルが来ると聞いてほんのわずかだが嬉しそうにした……気がする。
「二人ともここへ泊っていきなさい。明日までに制服などを用意しておこう。
テロを行うならそれにふさわしい準備をしておかないとね」
「ありがとうトントン。親父がセシルたちを助けに行ってるんだよね。大丈夫かな……」
「おそらく明日か明後日には電報が届くはずだ」
「電報って俺よく知らない。名前くらいは聞いたことあるけど……」
「まあ、正規のは使えないから非公式な電報だけどね。そのくらいの設備はあるのさ。
何しろ大統領閣下の後ろ盾を持った組織だからね」
「なんかよくわからないけどわかった。明日、制服でも着て偵察に行ってくる」
「そうするといい。だが今の君は裸の王様。ノイトラの助けはないよ。くれぐれも用心するように」
「わかった。ああ、久しぶりの自由時間だなぁ……寝るか!」
俺はもう寝ることにした。まだ日は高いが。
そして起きると夕方だった。夜もトントンが晩御飯を作ってくれて、俺はそれに舌鼓を打った後、しばらくしてからまた眠った。
夜中、昼寝したせいで目が覚めてしまった。体の中に滞るのは不思議な二種類の感覚。
体が冷たいのと、反対に体が妙に熱いのが同居している。これは一体どういうことだろうか。
暗闇なので目を凝らしても何も見えない。一般家庭に電気などないので灯りはせいぜい月明かりくらいのものだ。
カーテンを開けてみると、俺は矛盾した二つの感覚の正体がわかった。
子供らしく体温の高いイザベルが俺と同じベッドで寝ていたのだ。そしてイザベルはおねしょしていた。
一瞬、もうこの世に生きていることが何の価値もないと思われるほど気が滅入った俺だった。
だが一応気を取り直して服を着替えて体を洗い、その後トントンの寝室をノックした。
トントンは俺から簡単に事情を聴くと快く同じベッドで寝かせてくれた。
翌朝、三人で朝食を食べることになったのだが、気まずかったことは言うまでもない。
何しろイザベルが食べに来ないのだ。変に刺激したくないので俺たちは呼びに行くこともできない。
「しょうがない……僕はブローカーと会いに行ってくるから、トーマはあの子を何とかしてくれ」
「わかった。帰ってきたらさっそく潜入する!」
「トーマは働き者だね。本当だったら学校に通わせてあげたかったんだけど……本当に将軍の娘と同級生だったかもしれないね」
「気にしないでいいよ。ノイトラに生まれた時点でないだろそんな選択肢。それとも案外、その学校にノイトラもいたりするのかな?」
「居ないだろうね。まあ居たとしてもカモフラージュしているだろうからね」
「そっか……じゃあトントンを待っている間学校へ偵察に行ってくる」
「ああ。この家のかなり近くだから道がわからないということはないね。今ならちょうど馬車などで登校している子供が見られるはずだよ」
「わかった。ばいばいトントン」
「ああ」
俺はイザベルに構う気が全然しないので、とりあえず彼女用の食パンだけで残して外へ出た。
確かにトントンの言ったとおり、この家からでもすぐに学校の位置はわかる。
この首都フィラデルフィアは非常に広大な平地にあり、少しでも周りの土地から高いと目立つ。
学校はほんの少しだけ高台にあるのか、実際の建物の高さ、大きさ以上に目立っている。
この国でも随一の名門なのだろう。俺に縁のある場所ではないが、とりあえず偵察だ。
そこへ偵察に向かう俺は、やはり下からよく見えるだろうとは思うが気にしないことにする。
俺は学校のある、ほんの少しだけ小高い丘を登ってから周りを見渡してみることに。
校門に背を向けてみると街並みが一望できる。いずれの建物も石で作られた白い街並みだ。
中央にあるのは国会議事堂か。大きな広場や噴水があるが、そんなに広い敷地を取っていても、噴水や広場に憩う人間は一人もいない。
そんな人間は過去にも未来にも一人もいないだろう。この国の政治を象徴している。
多分この国の連中は、史上初の女性大統領、といったような美名に踊らされて上手いこと大統領の思い通りにリーダーを選んでしまったと思われる。
そしてそれへの反発勢力はにわかに高まり、よくて支持率が五割行くか行かないか程度の不安定な政権ができた。
その政権を守るために国益を損なってもしょうがないとの判断を大統領は下し、その実行はこの国に縁もゆかりもない俺たちだ。
俺が政治に口出しする資格はないが、この国の政治がダメだということはわかる。
だが何度も言うが、俺にそれを言う資格はない。なんだかんだ言っても大統領だけが頼りなんだからな。
景色を見るのは一旦やめて後ろを振り向き、学校の様子をつぶさに観察してみる。
ここは超巨大学園であると言ってもいい。何しろ小学校一年生くらいの子から高校生くらいまでの子が一緒に通学しているのだ。
校舎は三つあり、それぞれ小、中、高等部か。
生徒は全員同じ制服を着ている。俺みたいなみすぼらしい恰好の奴が入れる場所じゃなさそうだ。
外にはちょっとした警備員の詰所がある。だが技術水準的に、防犯カメラやセンサーの類はない。
壁は高いが侵入自体は容易そうだ。何より、警備員が面白い。なんとおじいちゃんが一人、あと二人はノイトラだと思われた。
というのも、二人は女性に見えるが、女性の警備員ってみたことあるだろうか。自分はない。
昨日、女性の社会進出がどうのと二コラが話をしていたが、地球の歴史において女性の社会進出を男が阻んでいたのには理由がある。
保護するためだ。むき出しの競争から。もちろんそれが過保護だったということらしいのだが、この世界ではノイトラは差別されている。
ゆえに、社会進出へのブレーキはかかっていない。保護されていない。
ちなみにノイトラは力仕事が出来ない。女型が多いからだ。だから男と仕事を奪い合うことがない。
上手く共存できているようで、警備員のおじいちゃんもノイトラの二人とは険悪そうな感じは見受けられない。
思い切って話しかけてみようと思って俺は詰所に近づいてみた。
「おねえさん、もしかして俺と同じノイトラ?」
「あら、よくわかったね。そうよ、二人ともノイトラ」
「ダメだからねこんなところに来ちゃあ。ここは雲の上の人たちの学校なんだから」
「まあまあ、ワシも子供の頃はこの学園が憧れだったから気持ちはわかる……」
遠目から見た印象と全く変わらず、二人はノイトラでもう一人のおじいちゃん警備員との仲もよいようだった。
「まるでこの国の縮図だな。キレイゴトは壁の中だけ。壁の外には疎外された人間がいる」
「なんてこと言うんだこの子は。二度と人前で言うんじゃないぞ」
「先輩の言う通り。斜に構えて冷笑して……そんなんじゃいい大人になれないぞ少年」
「みんないい人だな。いい人すぎる。だから奴隷のままなんだ。
ここの生徒数は合計で何名いる?」
「一七四〇人……くらいだったかと」
「そうか。警備体制は? 警備員はこの三人だけ?」
「いえ、各校舎にもそれぞれ三人の警備員が」
「中にノイトラは何人?」
「高等部の警備に一人だけ。ただ掃除夫や、食堂で働く者にもノイトラは何人かは……」
「そうかありがとう」
「どうなってる。お前さんたち知り合いだったのかね?」
おじいちゃん警備員は事態が飲み込めずきょとんとしている。その気持ちはよくわかるが、俺はジジイに構う気もしなかったので無視した。
「掃除夫に食堂の人か。まあそうだろうな。よくわかった。ところでジイさん」
「わしのことか?」
「クセになるなよ?」
俺はジジイの胸に手を当てて電気ショックを発生させた。以前のような鉄扉を溶かすほどの雷のような電力ではないが、相当効いたはずだ。
ジジイ警備員は声もなく倒れて痙攣した。もしかしたら死ぬかもと思ったが、一応息はしていたので気絶しただけのようだった。
「じゃあ俺はこれで。今見たことは口外するな」
俺はさっき街を見渡した時に目ざとくあるものを見つけていた。それはゲットー。
どこの国にもあるようだが、やはり街がでかいだけあってゲットーも大きく、それは高いところから見渡すとよく目立つ。
壁に囲まれたみすぼらしい隔離居住区。ノイトラのゲットーは歩くと一時間くらいの距離。
直線にして二キロから三キロメートルはあるだろうか。
ゲットーは出るのは多少の検問も必要だが、どこのゲットーでも入るのはゆるい。
俺はおよそ一時間ぐらいかけて歩いてゲットーの門前にやってきた。もちろんほとんどフリーパスだ。
入る分には誰も文句は言わない。その代わり中で問題が起こっても自己責任とされるわけだが。
俺はここに何食わぬ顔で侵入し、孤児院がないか物色。孤児院のシスターなら色んなことを知っているはずだ。
特にゲットー育ちのノイトラの就職先がみんなのあこがれる学園ともなれば、シスターはわがことのように喜んでいるはずだ。
孤児院へやって来ると俺の一応の故郷とされていたあの町と一緒で子供が騒ぎ、シスターが大忙しで働いている。
大ベテラン、といった風な外見のシスターと一緒にいる若いシスターが話しかけやすそうだったので、俺はさっきと波形レベルで全く同じことを彼女に言った。
「おねえさん、もしかして俺と同じノイトラ?」
「どうしたの。新顔の子かな? 私もあなたと同じノイトラよ」
「いや、ここに入る気はない。丘の上の学園に就職したノイトラを探してて……食堂の調理番のほら、あの人」
「ああ、エリザベスのこと。そう、この孤児院で育った私の同期でね。自慢なの」
「ふーん。家は?」
「集合住宅に住んでるわ。確か学園の近くの……その住宅には彼女以外にもたくさんノイトラが住んでると思うわよ」
「なるほどぉ……確かにそうだな。ここからだと遠い。
通勤手段がないから近くに住まないと大変だ」
ということは学園の掃除夫として働いているノイトラたちもそこにいる可能性が高いということだ。
恐らくそこは安アパート。掃除や調理番は、どうせ安月給だろうからな。
これはいいことをさっそく聞けた。と俺はほくそ笑んだ。
「アナタどこから来たの。迷子?」
「丘の上の……ほら、建売住宅のほうから来た。ファミリー向けの」
「ウソよ。あそこはそこそこ高給取りでないと住めないわ。
家出したなら正直に言いなさい……お姉さん怒ってないから本当の事を正直に言いなさい!」
「本当のことを言えば余計に困惑するだけだよシスター。でもシスターはいい人だね」
「あ、あらそう?」
「いい人過ぎるくらいだ。でもちょっとおしゃべりだな」
「よく言われる。でもそこが可愛いって言ってくれる男の人もいるの」
「聖職者としてそれはダメだろ……いや、そんなことはいい。
教えてくれてありがとう。エリザベスは学園近くの安アパートに住んでるんだって?」
「ああ。そういえば学園に就職したのは、近くにあったレストランで修行して、腕前が認められて……とも言ってたかな」
「へえそうなんだ。レストランが目印ってわけか。ありがとうシスター。
もし次に会えたら何かお礼をしよう。金貨を三枚。それでどうかな」
「ダメよ盗みは!」
「はーい」
シスターは最初から最後までいい人だった。その後、ほかの人にも聞いてみたが大体答えは一緒。
首都での居住権、労働権を得ているノイトラはそこそこおり、彼らはだいたい安月給。
教育はまともにされてないからだ。で、安月給なので安アパートに住んでいるという理屈だ。
そのためどのノイトラに聞いても外の奴は安アパート。これ一点張りだった。
ちなみに、帝国ではノイトラはゲットーの外では腕章をしていたが、合衆国では多少ゆるい。
さっきの警備員のノイトラ二人にしても腕章はしていなかった。これは今日気がついたことだ。
お腹が減ってきたので俺は正午前にはゲットーを出ることにした。
家に帰ってきてみるとトントンがお昼ご飯をイザベルと一緒に食べているところだった。
食卓にはなぜか妙な紙袋が二つ置かれている。
「ただいま。トントン、その紙袋って……」
「おかえり。そう、それはトーマにプレゼントだ。初等部の制服。ブローカーが売ってくれた」
「へえ。買った時はさぞ変態だと思われたことだろうね」
「いやいや。私は新品を買ったからね。本当に変態と思われるのは中古さ。実際そっちのほうが倍以上値段が高い」
「それは勉強になる」
「しなくてよろしい。まあともかくこれを着るといい。学園の偵察は順調かい?」
「二、三日以内には計画を立案する。今日中にはこれを着て中へ潜入しようと思う」
「見つからないようにやってくれよ。中にはノイトラも少数ではあるが働いていると報告に聞く。
その人たちの協力を得れば万が一怪しまれたとしても何とかなるはずだ」
「わかった。ところでこの近くの赤い建物の家……帰ってくる途中見かけたんだけどあれってレストランかな?」
「ああ。この街は白い建物が多いからあえてレンガにして目立つようにした……と、店主が自慢していたよ」
「なるほど。そのレストランの近くに安アパートがあって、ノイトラがそこに住んでいるって情報をゲットーで聞いた」
「早いね。さすがに王の力。ノイトラが問い詰められたらすべて白状してしまうというわけか」
「今組織の裏切り者をあぶりだすのに使えるな、とか思っただろ?」
「思ってないよ。仮にそうだったとしても、非ノイトラの構成員が裏切り者の可能性のほうが高いからね」
「ほらやっぱり考えてた。スパイとか裏切り者っているのか?」
「過去には少しね。今は対策をしてあるからほとんどいない。あ、そうだ。
その制服は初等部のだから、それ以外の校舎には近づかないようにするんだよ」
「わかった。トントン、作戦決行の際には俺の部下だけで十分だ。彼らは武器の扱いにも慣れているし、何より人間の兵士よりも強い」
「それはつまり……話に聞く能力の解放が出来たということかい?」
「その上、元々の潜在能力がずば抜けた奴もいるし、銃弾が効かない機械の女までいる」
「潜在能力?」
「炎を操るやつ。そして、本人の口からきいただけで本当かわからないけど、天候を操るやつがいた」
「とてつもないな。ああ、トーマに革命軍のノイトラの兵士を解放してもらえたら強いんだろうけどな」
「そんなことはやるまでもない。俺の真の力を発揮出来たら、その時は……王政も大統領も俺にひれ伏す、だろ?」
「知っていたのか?」
「トントンも聞いただろ。俺は外からきた天使を部下にしたって。そいつから聞いたのさ」
「黙っていてごめんね。そう、ノイトラは過去のロストテクノロジーによって生み出された存在。
今の私たちには感知できない未知の方法でエネルギーを作り出していると聞く。
革命軍に一人、天才メカニックってやつがいてね。ライナー・ディーゼル=ベンツってやつなんだが」
「なんだその車を作りそうな名前の奴! おもしろっ!」
「トーマは反応するところが独特で面白いね。ディーゼル=ベンツの当時言っていたことはこうだ。
何でもこの世にはどんなに真空にしてもエネルギーはほんのわずかにだけ湧いてくる。
それは現れては消えを無限回繰り返していて、知覚できないほどの短いスパンにしか存在しない。
だが、何もない完全なる無からこの世界そのものが作られたのは、その真空にしても湧き出すエネルギーのためだという」
ビッグ・バン理論だ。ビッグ・バンで宇宙が生まれたことぐらい誰でも知っている。ただしこのスフィア内の人間を除いて。
そのビッグバンが無に等しい点から一体どうやって生まれたのかは俺の知る限り諸説ある。
で、ディーゼル=ベンツの言っていることは、その中の有力と言われる一説だろう。
この世にはダーク・エネルギーという未知のエネルギーがあり、これが宇宙創成に大きく関わっているはずなのだという。
これを解明して操れれば、無限に等しいエネルギーが人類には約束される。
スフィアのような完全閉鎖空間であってもエネルギーを生み出し、増やすことが可能だろう。
「これをダークエネルギーと呼ぶ。ノイトラはダークエネルギーを操る能力があり、無限のエネルギーを生成できるという」
「何かリスクはないんだろうか?」
「能力が劣化する……あるいは、体が摩耗して、限界を超えると死に至る。
恐らくそれはあると思う。無限永劫に力を使い続けることは出来ないだろう。
そうでなければノイトラの奴隷をとっかえひっかえする必要はないからね」
「ところでさ……仮にの話だよトントン」
「なんだい?」
「分体って言って、本体とは別に体を離れたところに生成することが出来る奴がいたら、どういう理屈かな?」
「さあ……ディーゼル=ベンツに聞いてみないことにはな。
しかしもしそれが本当にあったならまさしく神の所業。この世のすべてを掌握しているということだ。
ちなみにトーマ、外にある造換塔という施設の話、覚えてるかな?」
「何回か聞いたよ。その施設にたどり着ければ俺はすべてのノイトラに命令をし、奴隷となっているノイトラを解放できる。
そうすれば俺の一存でこの世の人間すべての生き死にさえ決められることになる。
王政も合衆国も敵じゃなくなる。そういう、なんというか、最終目的地みたいなところだったと思うけど」
「ああ。それは外の世界にあるんだが、その機能はそれだけではない。
エネルギーと引き換えにどんな元素でも作り出せるというロストテクノロジーの宝庫。
どんな元素でもだ。金でも鉄でも水でも。とにかく何でもだ。この世はそうやって作られたらしい。
もし仮に分体を作り出すなどという芸当が出来る奴がいるとしたら、その本体は造換塔を操ることが出来るということだろう」
「それだけの力があるから俺はそこに行かなければならないってことだな、トントン」
「ああ。君はそこに導かれる運命だ」
「わかった。そのために必要な仕事をこなすとしよう。要は大臣よりリー将軍のほうが緊急性は高いんだろ?」
「そうだね」
「行ってくる。あとイザベル。俺のことを嫌いなのは知っているけど、偉そうなことを言わせてもらうぞ」
「どうかしたのかトーマ。イザベルのことは興味ないものだと……」
俺が話しかけるとイザベルは何も言わず顔を上げて見つめ返してくる。
唇が薄くて鼻が細くて小さい。そして目だけは若干釣り目で、大きい。
まさしく猫のような顔をしている。こうして黙っているだけならかわいいのだが。
と思いつつ俺は少し咳ばらいをしてから言った。
「悪いがセシルたちが来たら、俺と一緒に本番の……つまり学園の潜入をしてもらう。
予備に制服がもう一着あるな。イザベルもこれを着て潜入する。いいな?」
「まさかトーマ、半日外へ出ただけでたどり着いたのか?」
「おっと、トントン。別にカマをかけたつもりはなかったけど、そういうって事は俺の推測はあたってる?」
「そうだね。君もこういう重要都市を見るのは初めてじゃないことだから……ね。
この都市には古代遺跡が眠っていて、一応大統領もご存じだが、いかんせんこの国にはセシルがいないだろう?」
「初めて会った時、男の子が来るはずだ、とも言ってたよね大統領」
「そう。それがセシル。わが革命軍がセシルたち古代文字を扱える者を抱えていると知っていた。
数年前、大統領が当選したときにも催促をされたが、セシルは我々の切り札だった。
渡すわけにはいかなくてね。まだ小さかったし。
王政がセシルを消そうとしている理由も、実際、合衆国に渡したくないって理由も大きい」
「あー、なるほど。合衆国に渡したくないから消そうとしたっていうのは盲点だったな……考えもしなかった




