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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第二章 解放の戦士
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第三十五話 自由の国の大統領

「俺はあの子と二人で行くことになるのか?」


「何を怖がってるの。あれはきっと甘えてるのよセシル君に」


「出たよエースの知ったかぶりが。女でもないくせに女心がわかったようなことを……」


「私にはわかるの! あそこまでしても許してくれる彼に甘えてるのよ」


正直、だからといって許されていいものだろうかと思うがそれを口にするとややこしいので、言わないことにしたのは言うまでもない。


「じゃあ、俺のことは警戒してるから猫被ってくれるのか?」


「まあ、ナメられないことね。下手に出すぎると手を噛まれるかも」


「それは確かに。年上の威厳を見せないとな。それでこの遺跡についてだが……」


「もうやってるわ」


「さすがだなぁ……」


エースは修理をしていたロボットをほぼ完全に手なずけており、何らかの会話を済ませていた様子。

ロボットたちは部屋の中を物色し、スイッチを見つけた。あるいはとっくに見つけていたのか。

それを押したらしい。というのも、この遺跡は全部が真っ白のまるで大理石造りみたいな部屋なため、誰かどこで何をしているのか極端にわかりにくいのだ。

スイッチなど肉眼ではまず見つけられない。それを押したところ、警報のようなけたたましい音ともに部屋全体が振動しだした。


そして突然部屋が明るくなった。天井がいわゆる機械式のゲートのようにしてぱっくりと口を開け、多少の土砂が降ってきた。

機体はべつに無事だが、この遺跡は街のど真ん中にあるため、上が開くということは必然的に街からもこちらがよく見えるということになる。


大きく開いた青空が見えた。次に、逃げ惑う人々が見えた。

彼らの恐怖も困惑も、俺にとっては無意味であり、かつ、無関係だ。

むしろそれは俺が原因ですらある。そのことが全能感と自信と、そして更なる自由への飛躍を求める心を俺の全身に湧きあがらせた。


気が付くと俺はほこりが入ってくるのも構わず、大きく口をあけて笑っていた。


「はははははっ、そうだ解放しろ。世界をかき回せ!」


「すごい景色だわ……」


「トーマ、もっとだ」


セシルは俺の肩に手を置いてきて、さらにこう続ける。


「もっと僕に見せてくれ。こんな胸躍る景色を。

君と一緒ならそれがみられるって、僕は初めて会った時からずっとそう思っていた」


「それは俺もだ。まるで、下水道から羽根の折れた天使が降ってきたみたいだった。

あの時美しいと思った。心が奪われた。あまりに対照的だったから」


「ありがとう。君にプロポーズをしたいところだけど、せっかくの僕の顔が今は台無しだから、それはまた会えたらにするよ」


「お前……」


俺は、そんなこと言うのは死亡フラグって言うんだぜ、と言ってあげたかったが、言っても言わなくてもフラグなのでこれは飲み込んだ。


「また会えたらしてみろよ、プロポーズ。ていうかお前、いつから俺の事好きだったの?」


「あの夜、初めて会った時から。何やっても振り向いてくれないところがまた良いよね」


「あっ……」


もしかして、と俺は思った。一つ思い当たる節があった。

それは今からそんなに前の話ではないが、体感的には非常に遠い昔の事のように思える。

資産家の夫人の屋敷に居候させてもらっていたとき、なぜか突然セシルは、ミシェルって子が僕に気があるみたいだ、などと言ってきた。

もしかするとあれは、セシルなりに俺の気持ちを試したのではないだろうか。とも思えてきた。

まあその時の俺の対応と来たら全く言葉の裏を読まずに馬鹿正直な対応だったが。


「悪かったな気づかなくて。みんなトンネルへ退避しろ。飛行機を飛ばす……滑走路とかは、必要ないんだろうな」


「ついにこれが飛ぶのか……君とこれを初めて見た日が、もはや懐かしく感じるね」


「そうだな、みんな急げ!」


俺はセシルとエースの背中を押し、そしてイザベル・オクセンシェルナの手を取った。

彼女は手を握った瞬間びくっと身を固めたが、意を決して足を踏み出し、二人して付属のタラップで座席へ座った。


そして座席に座ると、シートの上に妙な紙があった。ちょっとしたありあわせの紙なのだろう。

破った跡がある。見てみると操作の手順が書いてあった。セシルが用意したようだ。


「それに従えば飛行機が動かせるはずだ。多分!」


「ありがとう。あとは勘で何とかする!」


俺はセシルに手を振り、手順通りに準備を進めた。そして俺はふと、準備中に気が付いたことがあった。

それというのも、非常に大事なことなのに頭からすっぽり抜けていたことだ。

燃料である、この機体は燃料のほう大丈夫なのか。と思ってメモを見るとしっかり書いてあった。


俺も車を運転したことはあるのでFUELが燃料であるということはわかる。

それの表示がコックピットにあったので見てみるとしっかりあった。


「よし……燃料は何を使ってんのか知らないけど、とにかく満タンのようだな」


「デバイスを起動したようだな」


「うわっ、びっくりした!」


突然頭の中にエグリゴリの声が響いてきて俺はオーバーなリアクションをとってしまい、頭を上にぶつけそうになったほどだ。

そして相変わらず真面目でつまらないエグリゴリは俺に淡々と続ける。


「自動操縦を適用。あと百二十五分三十一秒で目的地へ到着予定だ」


「勝手に目的地を決めるな、どこだ!」


「西経二十八度四十五分……」


「余計わからん!」


「ナビゲーションを開始する」


なんとエグリゴリは遠隔から俺の乗っている機体を操作し始めた。

が、これは不幸中の幸い。みるみるうちに機体が垂直に浮き上がり始めた。

さっきまで見上げていた街並みはあっという間に眼下に小さくなり、青空に浮かぶ雲が眼前に現れた。


「はははっ、楽しいなぁ。あれ、そうでもない?」


俺はセシルと同じで、こういうされるがままの女の子は嫌いじゃない。

相も変わらず無口で反応を返してくれないイザベルを面白くないとか、嫌われてるのかな、と思って敬遠するタイプもいるだろう。

俺は割とマイペースなほうだと自負している。だからというわけではないが、こういう一方的な関係性も嫌いじゃない。


案の定笑いながら後ろへ話しかけても無視されたが構わず続けた。


「ああそうだ。向こうへ着いたらカネを政治家からせびろうか。

そいつで何か美味しいもの食べさせてやるよ。好きな食べ物とかある?」


無視。と思って前を向いたところ、イザベルがしゃべりだした。

彼女は勝手にしゃべれないものだと思っていたが、それは俺の早とちりで、話すのに少々慎重な性質なだけだったようである。


「わ、わ、わたし、ししに……の、ノイトラなんかががが、ぶ、無礼な……!」


これはしゃべるのが面倒臭そうな相手だと思ったが俺は我慢を知っている。

ここは相手が区切りのいいところまでしゃべるのをジッと待った。


「喋れたのはいいけど、今時流行らないぞノイトラ差別なんか」


「わた、わ、わたしは、お、お前なんかき……き、きらいだ!」


「ふん……セシルと仲が良かったことを気にしてるのか?」


「……!」


何やら言葉にならないような怒声を後ろで上げるイザベル。

俺はまあ確かに、無抵抗で受け身でされるがままの相手と話すのも嫌いじゃないが、こういうからかうと面白い相手と話すのはもっと好きだ。

年下の女の子。気遣うべきなのはわかっているが、ついついやってしまった。


「会話は聞こえてたろ。俺とセシルは将来を誓い合った間柄だ」


会話はここで止まった。再びイザベルは沈黙モードへ移行した。

俺はちょっとからかいすぎたことを反省しながらこう言った。


「俺は君と仲良くしたい。どうしたらいい?」


「会いたい……」


「なあ、聞きたかったんだが、アルのことはどう思ってるんだ?」


無視。俺は三度話しかけて、三度とも無視されたのである。

べつにコケにされたと怒ることはない。イザベルの状況を整理すれば、そんな気には誰もならないだろう。


一年ほど前、ノイトラたちに襲撃されて故郷は全滅。一人だけ生き残り、その主犯によって連れまわされていた。

盗みをやって彼女に食べ物を与えるほどアルは困窮していたようだから、二人での旅は彼女にとって過酷を極めたに違いない。

そんな旅のさなか、ついにイザベルが王政に捕まり、三日ほど軟禁されてからついさっき助け出されたというわけだ。


ちなみにイザベルは多分八歳から十歳くらいで、過酷な旅の間、目も見えずアルに頼るしかなかった。

俺だったら耐えられない。でも、そうやっていわゆる憐憫ってやつを抱いていることを悟られると、逆に彼女の機嫌を損ねることになるかもしれない。

だから俺は常に後ろへ向かって軽口をたたき続ける。そうすれば俺に対して、好意は抱かなくとも最低でも安心はさせられるはずだと考えた。


「それでさぁ、そのキダっていうやつがな……」


と昔話に話を咲かせていたときだった。エグリゴリの声が頭の中に響いた。

あいつめ、言葉こそ氷のように冷たくて堅いが、なんだかんだで真面目というか几帳面というか、世話を焼いてくれる。


「今から垂直着陸する。私が手を貸すのはこれで終わりだ」


「ああ、ありがとう。あともう少しだ。もう少しでこの借りを返せるはずだ」


「私は寝る」


そもそも、やることがないからいつも寝てるのだが、エグリゴリは勝手にそう言ってぷっつりと接続を切り、声は聞こえなくなった。

とともに、内臓がにわかに浮き上がるような独特の感覚に襲われた。


「ひぃ……!」


と、後ろからも声が聞こえてくる。垂直着陸というのは本当のようだ。

全くもって理解しがたい超テクノロジーの数々がこの飛行機には詰め込まれている。

普通飛行機と言ったら離着陸に長い滑走路が要るはずだが。


ちなみに、俺は飛行機に全然詳しくない。特に戦闘機のことなどは。

だからこの操縦席を覆うガラスかアクリルのような材質の屋根を何と形容したものかわからない。

とにかく、コックピットの屋根あるいは窓としか言いようがない。

まあ、超技術ロストテクノロジーで作られているから、たぶんアクリルでもプラスチックでもガラスでもない、何かこう、すごい素材でできているハズだ。


そんなことより、その窓が開いて俺が外へ出たときのことが重要なのだ。外へ出ると、そこにはすでに人だかりができていた。

周囲を見渡すと、俺たちが降りてきたのは森と背の低い原っぱが広がる全く人間の生活感のない感じの土地だ。


そして人だかりだが、俺たちを取り囲んでいるのは百人近くにも上っており、中には見知った顔もあるが、ほとんどがカタギじゃなさそうだ。

兵士か特殊部隊か、あるいはさらにディープな、犯罪をもいとわない組織なのか。

その中の見知った顔というのが、そう、トントンだ。親父の顔はない。

トントンの横には明らかに抜群に身なりのよい、金持ち風の女性がいた。


結構美人で、三十代くらいか、あるいは若作りした四十代前半くらいといったところ。

背が高く、出るところの出た成熟した女性だ。セシルが好きそうなタイプだ。

俺も嫌いではないが、この女性の目は今まで見た誰より冷たいと感じた。


人間ではなく、機械でできたエースやエグリゴリの分体だって、こんなにも冷たくはなかった。

この女性の目はまるで熟練した職人によって精巧に作られ、魂を吹き込まれた人形のようだった。


そして俺が感じたこの感覚は後に、そう的外れでもなかったということを知ることになる。

女性は俺と目が合うと、パンパンと拍手し、べったり口紅を付けた唇を曲げてにっこりと笑った。


「おめでとう。ようこそわが合衆国へ。あなたがトーマね?」


「わが……とはどういうことですか?」


「文字通りの意味よ。私は合衆国・第三十二代大統領。

ジェニファー・マクブライド。ところで後ろの子供は……?」


どうにもアメリカンな名前の大統領。まさか大統領が女性だったとは。

などと雑念もいろいろ頭をよぎったが、俺はすぐさま今必要なことを話すことにした。


「後ろの子には十分な医療と食事を提供してあげてほしい……いつ倒れてもおかしくないくらいです」


「ふむ……私が聞いていたのは男の子だったが……?」


「何か行き違いが発生しているようですね」


と答えたのは革命軍司令、アラン=ミシェル・ロラン。


「あの、トントン。この子の事頼みます。勝手な行動をしたのは申し訳ない、けど……」


「今更別にいいよ。言っても詮無いことだ。女の子のことは任せておいてくれ。

もともと君やセシルを収容するため、医療班をここに呼んであるからね」


俺は医療班と呼ばれた人が担架を持ってきて、イザベルをそれに寝かせて運んでいる様を横目で見ながらトントンたちに近づく。

そして背の高いトントンとそれに並ぶ大統領に上目づかいで聞いた。


「どうしてこの場所が?」


「大統領閣下に神様から指示があったそうだよ」


「そう。私も先代から神が存在することは知らされていたけれど……今日、この日まではほとんど信じていなかったわ」


「なるほど。それで、ええっと、一応大丈夫だと思うんですが、例の街にはセシルたちを残してあります」


「困ったね。まあ革命軍の別動隊が支援に向かっているから、とりあえず何とかなるだろうと思うが。

正直予定していなかったことだ。ここまで直接的に王政と正面から事を構えることになるとはね」


「ごめんなさい……」


「でもとりあえず、無事でよかった。話はあとでゆっくり……」


「いや、私の時間を無駄にさせないでもらおうか」


「大統領……閣下……」


トントンは大統領に強く出られない。大統領が恐らくまだ一議員だったころからその力に頼り、この合衆国で力を蓄えていたのが革命軍。

ここに本部がある。逆らえば組織は維持できないのだ。さすがは女だてらにして一国の大統領に昇り詰めるだけのことはあるといったところか。

さっきまでのは仮面だったとでも言うように、大統領は冷徹な本性を現した。


「私にとって興味があるのは神でもこの世界に存在する古代兵器の謎でもない。

お前たちを支援することは私にとってリスクだ……それに見合ったリターンがあるのか、それだけが重要だ」


「力のほどを証明しろということですか。この俺に……?」


「少し違う。見せてもらうのは働きだ。だがまずはこの飛行機という古代遺産を私に預けてもらおうか」


「それは……トントンはどう思うんですか?」


「それについては議論の余地がない。喜んで進呈しましょう」


「なにっ」


これだけ苦労して手に入れた飛行機をあっさり渡す約束をしてしまうトントンに文句を言いたくもあったが、途中、ある事に気が付いたのでやめた。

というのも、俺たちが情報を漏らさない限り、大統領たちがこの飛行機を動かすのにイザベルが必要であるということには絶対に気が付けない。

だから飛行機の現物を渡してもイザベルを革命軍が確保している限り、実質何も渡していないのと同様なのだ。

さすがはトントン、焦らず冷静に手を打ってくれた。俺も足を引っ張るような真似をしてはならないと自分を戒めた。


「これをここへ持ってくるのは想定外でしたが……まあ、考えようによっては幸運でしたね」


「私はとても満足している。だが私のイメージ的にも、有権者へのアピールにこれは響かない。

これでも私はクリーンで誠実な政治家として通っているのでね。もっともそんな政治家は過去、一人としていなかったが」


「そうですね。では……仕事の話をしましょうか。そのために来られたのでしょう」


「ああ。仕事の時間だ。バトラー、例のものを」


「は……」


大統領からバトラーと呼ばれた男は、人ごみの中から歩いてきてトントンに何かの書類を渡した。

トントンはそれにさらっと目を通し、二つ返事で依頼を承諾した。


「承知しました。トーマ、行くよ。もうここに用はないだろ?」


「わかった。女の子は?」


「介抱させている。部下に丁重に扱わせるから心配は要らないよ。

それより移動しよう。この場に長居は不要だよ」


大統領は踵を返し、いくらかの側近もそれに追従していった。

そして俺はというとトントンの後ろを闇雲についていく。

草原と森が広がる人っ子一人いない地帯は思ったよりも街に近かった。


さっきは大人がずらりと並んでいて見えなかったが、大統領の後ろには古めかしい鉄道の駅があり、街も数キロメートルくらい向こうに見える。

ここは森林伐採場だったらしく、木こり小屋のようなものも見える。それと青くて丸い、空が落ちてきたような姿をした大きな湖もあって景色がきれいだ。

コテージのようなものも何軒か建っていて湖畔で釣りをしている人もいるなど、ちょっとした観光スポットらしい。


鉄道の駅にトントンと一緒に行ったが、大統領たちは一便早くいくことになった。

一緒の便で帰ったら怪しいからな。そういうわけで次の便に俺たちは乗ることになったのだが、そこには医療班とイザベルも乗ってきた。


俺は喜んでまたイザベルに色々話しかけたのだがやっぱり無視。


「何ともなかったみたいでよかったなイザベル。ところでこの子の話はもう?」


「大丈夫だ、医療班のみんなは革命軍だからね。しかしどうして君たち二人なんだ?」


「飛行機は俺しか操縦できないみたいで……エースは土地勘がなかった」


「トーマにはそれがあったのかい?」


「いや。説明すると長くなるが、要するに無線遠隔通信を使った」


「……よくわからないが、まあ、そういうことにしておこうか」


「そうしてくれトントン。あ、遅れたけど医療班のみんな、ありがとう」


「ご丁寧にどうも……」


とみんな頭を俺に下げてきたが、疑問は消えまい。俺のことを事前に彼らに話しているとは考えられないからな。

何故組織のボスと対等にガキが話しているのだ、と思っているに違いない。

だがまあ、それは気にせず俺は続ける。


「あの女の子、イザベルは古代兵器を動かすために必要な血統の保有者だった。

正直たまたまだった。彼女を見つけられたのはな。運がよかった。イザベルを大統領に渡すのは絶対だめだ」


「なるほど。まあ、そうでもないとこの状況で後ろにいるはずがないとは思っていたが。

よろしくねイザベル。私は革命軍の幹部の一人だ。君を保護させてもらうよ」


好きにしろとでも言うようにすねたイザベルはそっぽを向いて、硬い木の椅子のひじ掛けを使って頬杖をつき、車窓を眺める。

まあ乗ってるのは汽車なので噴煙が入ってこないように窓はきっちりと閉まっているのだが。


「気難しい子らしい。故郷を滅ぼされて天涯孤独だそうだ。それに目が不自由で吃音がある」


「それはまた……私は無神経なところがあるからね。付き合っていくのは難しそうだ」


「もちろん連れてきたのは俺だ。責任はもつ。ただ、可能な限りここにセシルを連れてきてほしい」


「ほう。どうしてまた?」


「セシルがいないと不安定になるようなんだ。可能な限りストレスは与えたくない。

あの子の役割は飛行機を動かす程度じゃ収まらないと思う。大統領ではないけど、リスクにはリターンで応える」


「まあトーマが言うなら信じよう。これから帝国の首都、フィラデルフィアに入る。

組織の本部だ。そこで二人で話をしよう。イザベルは君に任せる」


「わかった」


その後、汽車を降りると駅にはかなりの人が居た。労働者だろうか。壁も人の服もみな煤けている。

石炭による汚れだろうか。まるで産業革命期のようだ。なんとなく人々の服装も昔のロンドンの労働者のようだ。

思ったより南の帝国と、北の合衆国で街並みや文化の違いはない様だ。

過去、巨大帝国に統一されていただけのことはあるようだ。


だがここへきて初めて分かったことがある。黒人や東アジアの平たい顔族が雑踏の中に普通にいるのだ。

やはり、俺がいた街ではたまたま見かけなかったのだ。なぜなら田舎だったから。

日本や中国などと言った国はこの国にはないだろうが、俺が思ったより人種は多様性が保たれているようだ。


「びっくりしたかい。この世には肌が真っ黒な人が居るんだよ」


「別にそんなことは言ってないけど……」


「まあ、私の育ったスラムには珍しくなかったけどね。この国ではああいう人たちにも選挙権が与えられている。

すごいだろう。それを推進したのはジェニファー・マクブライド大統領なんだよ……さっき会っただろ」


「へえすごいね。思ったよりいい人なんだなぁ……」


「まあ、多数決で決まる政治機構だから、人口の少ない彼らにはさして意味はないけどね」


「せいぜい票田としか考えてないってこと?」


「まああの人とある程度接すれば嫌でもわかるよ。あの人は人間というより昆虫に近い」


「ひどい言われようだなぁ……仮にもスポンサーなのに」


「同じことが帰って仕事の依頼書を見てからでも言えるかな?」


「ちょっと待って怖いんだけど……」


「とにかく一度帰ろう。仕事はトーマにもやってもらうことになるかもしれないよ」


「わかった、行くよ。でもあのちょっとその……トイレ……」


「ダメだよ。治安が悪いから駅のトイレは。駅から近いから我慢しなさい」


「はい……」


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