第三十三話 とびだせろうごくの檻
「さあ行くんだノイトラたち。片っ端からノイトラを集めろ!」
「行くぞー!」
子供たちはそういう遊びか何かと勘違いしているのか、元気いっぱい、笑顔で孤児院の前から散り散りになって姿を消し、孤児院前のちょっとした舗装されてない道には俺一人となった。
少し手持ち無沙汰になり、俺はこのあとどうしようかと思って顎に手を当てた。
するとどうだろうか。そこへ一人のノイトラがやってきて、俺と目が合った。そのままそいつは俺の前までどんどん歩いてくる。
そいつは、一目見てまるでセシルのような奴だと思った。こんな薄汚れて見捨てられたような土地にいるとすぐにわかる。
周りとのあまりにはっきりしたコントラスト。溶け込む努力すら感じられないその姿。
上品かつ美麗で、肩くらいまでの赤髪を無造作に散らしたような感じのちょっと中性的なノイトラだ。
服装も中性的でどっちつかずな感じだ。身長は俺より高く、一般的な成人男性とそんなに変わらないくらいだ。
大人か、少なくとも十七、八歳以上であると思われた。俺を警戒させないように柔和な表情でそいつは歩いてくる。
もしやこいつが、太陽とコロンビーヌが形容していたアルかと思った。
理由は簡単、赤髪のノイトラだったからだが、違った。
というのもそいつは俺の近くまで来るとすぐ、うやうやしく挨拶してきて自己紹介もすぐ済んだからだ。
「これはこれは。今のお力は噂に違わぬノイトラたちの王の力でございますな」
「そういうお前はなんなんだ?」
「失敬、申し遅れました。私はこのようなものです」
などといってノイトラは名刺を渡してきた。見てみると名前はアレクサンドロス・アルキメデス。
ギリシャ系だろうか。『エヴァンゲリオン』という組織の幹部であるとのことである。
俺は訝しげにアルキメデスの顔を覗き込んだ。すると俺の心を見透かしたようにして先手を打ってこう言ってきた。
「私は革命軍の幹部です。まさかここであなたに会えるとは。あなたを保護しにまいりました」
「俺の名を言ってみろ。革命軍なら知っているはずだ」
「……どういうことですか。私より先にもう仲間が?」
「ん?」
俺たちの間には何か行き違いがあると察した俺はカマをかけるのはもうやめて、素直に事情を話した。
「どういうことなんだ。俺の親父は革命軍の創始者だと聞いているんだが」
「とすると……シュヴァインシュタイガーのことでしょうか」
「なんだって?」
「シュヴァインシュタイガーは豚舎の人という意味の実に皮肉なセンスの名前の組織です。
ボスはアラン=ミシェル・ロランという人物だと聞きます。あなたはその息子ということなんですか?」
なるほど。名前からしてドイツ語みたいだが、ドイツ語っぽい名前は俺の親父、トーマス・ドラクスラーや例のアルがいる。
これは親父がつけたような感じのセンスだな。俺は納得したが、決して油断はしない。
「アルキメデスとか言ったか。つまりアンタは俺の名前も知らないってことだな」
「納得がいきましたよ。ノイトラの王がシュヴァインシュタイガーのボスの実の子とはね。
酷いんですよ彼ら。我々が仲間に入れてやろうとしたら断られたばかりか、露骨に無視するんですよ。
その上、まさかあなたのような重要な人物を完全に独占していようとは……恐れ入ります。
我々は彼らを一歩リードしていたと思いきや、逆にリードされていた、といったところのようですね」
「御託はいい。アーダルブレヒト・オーベルシュタインについて何か知っているんだろう」
「おや、どうしてそう思うのですか?」
「その組織の幹部級のあんたがなぜこんなゲットーくんだりまで来ているのか。
アルと、彼が連れていたという少女がそれほど重要な人物だからだろう」
「これはこれは、私のセリフを全部取ってしまうつもりですか?
平たく言えばその通りです。アルは少女を連れていたところを偶然我々に助けられましてね。
シュヴァインシュタイガーも我々も、ノイトラ援助には力を入れていまして。
そのどちらの網にかかるかは、まったくの偶然にすぎませんでした。二人は我々が保護しましたが」
「それでどうなったんだ?」
「アルは、彼女を古代兵器の眠る遺跡へ連れていかねばならないと言っていましてね。
少女の名はイザベル・オクセンシェルナ。北国生まれらしく、見ていて気の毒なほど青白い少女でしたねぇ……」
「二人はどこにいる。まあ、恐らくそのイザベルのほうは王政に捕まってこの街にいるんだろうが」
「派遣していた護衛の隠密部隊は、ほとんどが五日前にやられましてね。私は増援でここへきたのですよ。
アルとも連絡が途絶えています。ですが二人のことはひとまず置いておきましょう」
「なにっ」
「重要なのはそう、あなたです王様。私に、私たちに命じてください。虫けらたちを殺せと」
「誰が虫けらだって?」
「人間以外にいますか、王様。あなたの力ならば容易なはずです。ついに今日、そうされる決意が固まったのでは?」
「俺はアルを探してるだけだ。初対面だが俺はすでにお前のことが嫌いだ」
「お聞きしますが、なぜ人間をかばうのですか。ノイトラは人間に何をされようと泣き寝入りがあたり前。
皮肉にも人間が押し込めたこの隔離居住区、ゲットーがなければ生きていくこともできません」
このようなセリフから、どうやら『エヴァンゲリオン』とかいう組織は俺の親父たちの組織とは情報量に格段の差があることを俺を理解した。
少なくとも彼らは神のいる外の世界のことは知らないようだ。
そして彼らは親父たちの組織とは決定的に違う。彼らは圧倒的に過激なようだった。
「悪いが俺には人間の友達もいるからな。お前と話すことはもうない。
だがお前もノイトラだというのなら、ここにアルを連れてこい」
「承知しました」
アレクサンドロス・アルキメデスという恐るべき名前の過激なノイトラは俺の命令にだけは従順に従い、俺に背を向けた。
それと前後するようにほかの面々がノイトラをたくさん連れて帰ってきて、見る見るうちに孤児院前の狭い通りは人でいっぱいになった。
このゲットーは直径数百メートル程度と狭く、人口密度はそこそこ高い。
その区域の中の全員がやってきたのではないかと思われるほどのノイトラが俺のもとへ集まってきた。
赤ん坊を抱いた母親から老人まで実に多種多様な人が集まってきた。
俺はこれから行うことが恐ろしい反面、これから起こることに期待で胸躍らせ、顔面を紅潮させながら叫んだ。
「ご苦労、よしみんな行くぞ。これだけ集まれば十分だ。街の中心へ行くぞ!」
「トーマ様。恐れながら命令口調でなければ力は発揮されないようです」
「む、そうか。すまないアンリ。ではもう一度だ。この街で一番偉い人が住んでる建物へ、全員まとまって行進しろ!
それとアーニャ、そこにいるんだろう?」
「え、私?」
既に民衆は歩き出した。その数五百から六百といったところか。
雑踏の起こす砂埃に俺もアーニャもまみれながら会話は続く。
「アーニャは引き続きゲットーの外でノイトラを集めろ。外にもノイトラはある程度住んでいるはずだ」
「わかった」
アーニャも遅れないよう群衆の後ろを走り、やがて外へと消えていった。
ノイトラもウェイトレスをしてたり、メイドをしてたり、あるいは男と結婚している人も多いはず。
そういう人はゲットーの外に住んでいるのだ。彼らも仲間に加えたい。
まあ、アーニャがどのようにして彼らを仲間に加えるのかは俺の知ったことではないが。
俺も群衆に遅れないよう走り、彼らが早足で歩く中をかき分けて先頭へ出た。
その際にアンリから制止をされたがこれは無視し、俺は目立つ先頭に立って、街の大通りを進みながら声を張り上げた。
「ご町内の皆様、我々はゲットーのノイトラ。平和な非暴力の行進をただいま敢行中でございます!
さあパレードに参加したい方は家を飛び出し、この中へ。集まれノイトラ、ここに集まれ同胞たち!」
俺の声は空気を震わせて伝わる単なる音の波ではないことはすでに把握済みだ。
ノイトラたちにとって俺の声は場合によっては通常の声よりもはるか遠くそして早く伝わるのだ。
まるで電波のように。俺の声は伝播して、ノイトラたちへ次々と伝わり、瞬く間に集団は五百人くらいから、その倍くらいに膨れ上がり始めた。
大通りと言ってもこれだけの人間が密集して行進すれば、その列は最後尾が見えないほど遠くへ。
もはやこの中にアルが紛れていたとしても判別は困難。俺は今はそれを気にしないことにした。
アンリ達の言っていたこの作戦は今のところは完全に上手くいっている。
それが次のフェーズも上手くいき、時間が経過すればいずれイザベル・オクセンシェルナもアルも手に入れられるはずである。
話はそのあとでいい。母親が、子供が、メイドが、次々と家から飛び出してきてこの大行進の中へ加わっていくという目を疑う異常な光景。
当然何事かと思い、パトロールや見張り中の兵士たちだけでなく、人間の住民たちまでもが家の者の異常を感じ取ってどんどんと外に出てきた。
「いいぞいいぞ。どんどん行進だ。このまま庁舎へ進め。さあ、同胞たちよここへ集まれ!」
俺はさらに声を大にして叫ぶ。進みだした群衆は止まることがない。後は全員と心中だ。
さらに膨れ上がった群衆の行進は一糸乱れることがなく、一心不乱に街の中心、庁舎を目指す。
時折見られるのは、俺が三か月の間一緒にいた孤児院の面々である。顔ぐらい覚えている。
十二歳から入れられるので、同い年から五歳年上の子まで様々なノイトラが居た。
群衆に入ってくる彼らの顔をちらほら見るので、恐らくそのほとんどがこの群衆の中にすでに入ってきていると思われる。
と思っていたらなんとシスター・マリアンヌが俺に話しかけてきたではないか。
「トーマ君、いったいこれはどうしたの!」
「おっと、久しぶりですねシスター。あなたはノイトラだったんですか?」
「いいえ。私は人間の女よ。でも革命軍には協力してきたわ。これは一体……」
「シスターもここで見ているといい。歴史が変わる瞬間が、すぐそこへ近づいている」
「な、何を……」
「危ないですよ。距離を取るか、でなければ中へ入ったほうがいい。
歴史の中の革命は、案外こうやって唐突に発生し、あっけなく成功するものかもしれないな」
俺はシスターには横についてもらうことにし、手をつなぎながら一緒に行進する。
そういえばこういう行進は現実に一度見たことがあるが、その時の連中もこうして手をつないで更新していたものである。
「どこへ向かっているのトーマ君?」
「俺が目指すのは庁舎のみだ。さて、連中が挑発に乗ってくれるといいが」
俺はこの街に三か月も住んでいたのだ。この街の地形や情報はある程度頭に入っている。
まず城壁があり、ここに兵士が大勢いるので、一定の間隔で見張り塔や兵士の詰所がある。
そして街の北東に大規模な兵舎と訓練場があり、それ以外はほとんどが住宅街である。
酒場や工場などといった施設と住宅街が混在し、中に小さなゲットーもある。
街の中心から放射状に何本かの大通りが伸びていて、その中心には最も大きな施設があり、これが庁舎だ。
普通に考えて、女の子を拉致・軟禁しているとしたらここ以外には考えられないだろう。
ここは例の古代兵器の眠る遺跡にも近いし、もしかしたら遺跡と直で繋がっていて失逸高等技術が秘められているのかもしれない。
ここに偉い人もいるだろうし、この大きな建物ならばいくらでも女の子を隠す場所はある。
何より、ここに突進すれば偉い人が出てこざるを得ないだろう。俺の目標は最初からここであり、そして庁舎が目と鼻の先にまで近づいてきた。
「一旦止まれみんな」
俺は指示し、全員が歩みを止めた。目の前には兵士。バリケードなどを設置する暇はなく大慌てで近くからかき集めてきたという感じである。
「待ってくださいトーマ様。身を隠さねば、誰がリーダーか丸わかりですよ!」
「少なくとも俺は、自らが先頭に立つリーダーについていきたい。悪いが今は大人しくしていろアンリ」
「わかり……ました……」
アンリは引き下がった。彼の言うことは正論だ。確かにそのとおりであり、俺は無駄なリスクを冒している。
だが、みんなに危険を強いておいて俺だけ安全地帯にいるというのは筋が通らない話だ。
俺はだれが何と言おうと先頭を離れるつもりはない。俺が先頭で仁王立ちしていると、ほどなくして庁舎の中から一人の男が出てきた。
服装を見てわかる高い身分。兵士たちの態度からもそれが司令官であることは明白だった。
「どうした代官。アンタも行進に加わりたいのか?」
「虫けらどもが反乱か。何が望みだ。話をしようじゃないか」
「バカかテメェ。話をしに来たんじゃない。俺たちは命令しにきたんだ……お前の答えはハイだけだ」
「死にたいらしいな。構え、筒!」
兵士たちは俺たちに銃口を向けた。周りからノイトラたちの悲鳴が上がるが俺は余裕である。
弾丸は放たれることがない。それは重々承知している。
驚くほど冷静だった。次に何をすべきか、まるで事前に知っているみたいだった。
「エース、出番だ」
「殺しは?」
「自由だ。コロンビーヌとアンリ、お前たちも加勢しろ」
「仰せのままに、王様」
「殺してしまいますが、構いませんね」
「ああ。代官は殺すなよ」
ノイトラの中に人間への憎悪が募っていることを俺は何度でも悟らざるを得ない。
いつも穏やかで俺には優しいアンリでさえ、人間の兵士と戦うというこの状況においては殺すという選択肢が常に頭の中にあるのだ。
俺はそれをあえて禁じない方向で指揮を執ることにした。
「さて、こいつはどうかな?」
代官はぱちんと指を鳴らした。するとほどなくして二人の子供が運ばれてきた、
見るとひとりは女の子。八歳から十歳くらいの小さな子だ。肌は病的に白く、眼もまるで焼かれた魚のように真っ白だ。
恐らく、目が不自由であると考えられる。その横には見知った顔。セシルだった。捕まっていたのか。
下手に逃がすよりかは俺のそばにいさせたほうが安全だったか。セシルの顔を認識した刹那には俺は自分の行いを後悔したが、否、俺にそんな自由な時間はなかった。
代官は人質二人を見せびらかしながら大上段から物を言ってきた。
「話は早く済ませよう。こちらには人質がいる。初めからわかっていたことだろう。
要求は簡単だ。この二人を交換する。お前はこちらへ来い。そしてノイトラたちを解散させろ」
俺を確保した後で、人質は軍事力で簡単に取り戻せる。そういう腹積もりであるようだ。
「どうしますか」
などとアンリが小声で聴いてきたが俺は答えられない。無理だ。そんな決断。
女の子のほうはともかく、セシルは今後も重要な人物だし、何より、俺にとってはこの世界で初めてできた友達だ。
なんかいけ好かないところも幾らかはあった。セシルってそういうやつだしな。でも、いい奴だ。失いたくない。
この場を切り抜けるにはどうしたらいいのか。俺は残り少ない猶予で頭から湯気が出そうなほど必死に集中して考える。
「話は早く済ませようと言っただろう。突然の行動には驚かされたがな……」
「僕を先に撃て」
「ん?」
兵士に押さえつけられて地面にひざまずいているセシルが代官に言った。
そう、セシルは女の子をかばう、絶対にそうするだろうと俺は確信していた。
なにしろ、マリーとミリーがここにいない。セシルが庇って逃がしたのだろう。
俺の命令が彼女らに与えた影響を振りほどくほどに。
「ふむ。それは虫けらどものリーダー次第だ。お前はどうする?」
「待て代官。わかった、お前の言うとおりにする」
「……それはお前が投降する、と捉えてもいいのかね?」
「その必要はないぜ!」
「なにっ!?」
「あ、あれは!」
コロンビーヌが指さした先は代官のすぐ後ろ。
そこに、少し赤みがかった茶色い髪をしたノイトラのような奴がいた。
とはいえ、こいつはちょっと今までにないタイプのノイトラだ。
前髪を伸ばして左目を覆い隠しているが、ちらちらと覗くその下の顔にはやけどのケロイドのような跡が見える。
そしてその目は黒い眼帯をしていて、よっぽどの傷を負ったことがうかがえる。
間違いない。こいつこそが噂に聞いている、アルに違いないと俺は確信できた。
「ありがとよ王様。おかげで俺もやっと本気を出せる!」
今までにないタイプのノイトラだった。ここまで男型の奴はそういない。
身長も高いし、厚着だがそこそこの筋肉があることがうかがえる。
声も低いし、事前にノイトラだと聞いていなかったら男だと勘違いしていただろう。
「焼き尽くせ、世界の歪みを」
こいつ……と俺は思った。こいつ出る作品間違えていないか。
そのぐらい今までにないタイプのやつだ。俺とコイツ、どっちがノイトラの王様にふさわしいカッコよさがあるかといわれれば、どう見てもこいつだ。
アルは一体どういう理屈なのか、炎を発生させて兵士たちをひるませたかと思うと代官の膝裏に蹴りを入れた。
そして代官を後ろに倒れさせた。奴が片足一本で体重を支え、背中を地面と水平にさせたところでアルがこれを拘束。
持っていた拳銃を代官のこめかみに突き付けた。万事休すである。
「投降しろ。十数えたら撃つ。十、九……」
「よせ、正気か!」
「八、七……」
「わかった、人質は解放する!」
「そうか。王様、これからどうする?」
「お前アルだな。よし、そのままにしておけ。アンリ、人質を回収しろ」
「はい」
アンリが女の子とセシルの手を引いて戻ってきたところで、やはり俺以外に代官と話を出来る者はいないためさらに先頭の位置から俺は飛び出した。
「代官、大人しく投降しろ。すべて俺の計算通りにいったな」
「なにっ、お前たちの行進は囮だったとでもいうのか!?」
「その通り、何から何まで計算ずくだ」
「フッ……」
とアルは鼻で笑ったが、かといって、別にあえて否定はしてこなかった。俺は続ける。
「ともあれ、当初の予定以上の戦果は得られたな。兵士たちは武装を解除しろ」
「その必要はないぜ王様。こいつらは俺が焼き払う」
「なにっ、よせ!」
一応、よせと言ったのが聞こえたのでやめてくれたが、もうすでに遅かった。
どうやってるのかは知らんが、アルは自在に火を操って、庁舎から出てきたわずかばかりの兵士を焼き払った。
火だるまになった彼らはでたらめなルートを全力疾走した後地面に崩れおち、のたうち回った後、動かなくなった。
「手ならもう汚れてる。心配するな王様。これからは俺が守る。
安心してくれ。あんたらにはもう、危険てやつは訪れない」
「よかった。とりあえず代官は生きてるな。さてどうしようか……」
「アル! よかった生きてて!」
「あ、お前……コロンビーヌか!」
コロンビーヌが後ろのほうから走ってきて、俺のすぐ横くらいでぴたりと止まり、今は膝に手をついて荒い息をしている。
感動の再会ってところだな。アルも驚いていて、例の人質にされていた女の子に構いたいが、構ってる暇がない様子だ。
「お前こそどうしたこんなとこで。もしかして王様に助けてもらったのか?」
「ええ。元気そうでよかった。さっきの女の子はやっぱり……?」
「ああ。あの時は助かった。これからは俺も仲間に加わるな。まあ一つよろしく頼む。
じゃっ、俺は用事があるからな。積もる話はあとでいくらでもできるだろ?」
「わかった……ところでトーマ様」
「ん? これからどうしようかって話か、コロンビーヌ?」
「はい。これだけの群衆、利用しない手はありません。命令系統はここに集約されています。
ひとまず、兵士たちがここへ集結することはないでしょう。
全員に命令されてはどうですか。禁じられた力を解放しろと」
「いや……せっかくだがそれはダメだな。おいお前たち、そろそろ邪魔していいか?」
何やら目の不自由な女の子と抱き合ったり話をしたりしていたアル。
呼ばれた彼は俺のほうへと女の子の手を引いて歩いてくる。そしてその横にいるのがセシル。
セシルも空気を読んでこっちへ歩いてきた。周りの群衆はあれこれ騒いでいる。
大変なことをしてしまったとか、これからどうしようとか。まあもっともな話だ。
彼らは後で開放するとして、今は別の用事がある。
「いやなんというか、感謝するぜ王様。あんたらが目立ってくれたおかげで俺はここまで来ることが出来た。
その上、代官のバカ野郎がイザベルを外へ出してくれたからやりやすいことこの上なかった」
「うむ。話に聞いていたイザベルがその子か。よろしく、俺はトーマだ」
と言ってみたが女の子は答えない。代わりに泣きそうな顔をして下を向いてしまった。
「お、おいおい。ごめん、悪かったって」
「いや、そうではない。この子は目が見えない。その上、事件のショックで口を利かなくなったんだ」
「そうか。それは気の毒に。じゃあ名前はどうやって知ったんだ?」
「この子の持ち物から。ところで王様、少し自己紹介が遅れたな。
この子はイザベル。俺はアルだ。コロンビーヌから話は聞いてたみたいだな」
「ああ。よろしく頼む」




