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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第二章 解放の戦士
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第三十二話 ノイトラ・スタンピード!

「……例の遺伝子の持ち主を奪還することをコロンビーヌと話していた。

手がかりはない。アルというコロンビーヌの知り合いのノイトラが知っているかも、と言っていた」


「ふむ。まあアルって人も気になるところだけど、王政がその持ち主を確保してる可能性が高いんだろ?

だったら話は簡単だ。もうなりふり構うんじゃあない、トーマ」


「なんだって?」


「みんな、コロンビーヌ嬢が戦うようだが、同僚としてどう思うのか聞かせてくれないか」


「僕はもちろん残りますが」


とセシルに答えたのはアンリ。そして案の定残りのマリーとミリーは難色を示した。


「ウソでしょ。王様も全員でここを離れましょうよ!

私たちにはここで命を捨ててもいいほどの大義も個人的感情も、コロンビーヌのようにはないので」


「そうそう。コロンビーヌは筋金入りの変わった子ですからね」


「それは俺もそう思う。二人の言うことは正しい。マリー、ミリー、俺がいいと言うまでセシルから離れるな」


「はい」


「承知しました、王様」


「え?」


二人は先ほど見たのと同じようにセシルの両脇にくっつき、またもや両手に花と言った様相に。

面白いくらいに王である俺の言うことを聞くノイトラたちの性質を利用させてもらった。

顔を赤くして困惑しているセシルには悪いが、俺はこう言い放たせてもらった。


「セシル、お前からその二人は絶対に離れない。二人のためを思えば恰好つけてないでさっさとここを立ち去るんだ」


「人質とは卑怯な真似を!」


「何とでも言え。アンリ達は、悪いがついてきてもらうことにするよ。

今後の方針を決めておこう。アルとやらを探すか王政に逆にこちらから攻撃を仕掛けるか、だ」


「トーマ様。僕から提案よろしいですか」


「どうしたアンリ」


「トーマス・ドラクスラーにアラン=ミシェル・ロラン。革命軍のボス二人はいずれもこの街から船で半日の近い距離にいます。

セシルたちを逃がし、我々はゲットーで数日潜伏すれば革命軍のより強力な支援を得られるでしょう」


「一理ある。一つ選択肢に追加だな。革命軍の援護を待つ作戦」


「それならば私からも提案がありますトーマ様」


「はい、コロンビーヌ」


と、ここでセシルが割り込んできた。


「わかった、君は言っても聞かないタイプなのは正直、前から分かっていたからね。

僕は二人を連れて、帰ったら革命軍の援護を頼む。また会おう」


「ああ、元気でな。もしかしたらこれが最後の別れになるかもだけど」


「縁起でもないことを。じゃあね」


セシルは最後にまた、俺の頭をぽんぽんしてきた。まあ、俺はそんなの無視だが。

三人を窓から見送ったところで、コロンビーヌの話の途中だったことを思い出した俺はすぐに話を彼女に振った。


「コロンビーヌに案があるんだったな?」


「はい。セシル君がなりふりかまうな、と言っていましたが、続きを言いかけていたのに、話がそれてうやむやになってましたよね」


「あ、ああ。そういえばそうだった……気もする」


「おそらく彼が言いそうになっていたのは私とも同じ意見だったかと思います。

トーマ様、ゲットーや孤児院にいるノイトラに片っ端から声をかけて巨大な群衆を作りましょう」


「なにっ、そんな王政に目立つことをしたらお前……ノイトラたちが虐殺されるかもしれないだろ!」


「いいえ、それはありえません。ご存じでしょう。たしかにノイトラは家畜も同然。

逆を言えば、王政にとっては神への大切な捧げものでございます」


「あ、そっか」


「王政に手出しはできません。その中にトーマ様が紛れれば向こうに区別は不可能かと」


「なるほど、考えたなコロンビーヌ。それにその作戦だと一石二鳥じゃないか?」


「一石二鳥ってどういうことだアンリ」


「申し上げます。この街中のノイトラに声をかければ一人くらい、アルとかいうノイトラを知っている人が居るかもしれません」


「あ、確かにな。あるいはアル本人が居るかもしれないな」


「その可能性もあります。というのも、仮に遺伝子の持ち主である少女、とやらが王政につかまっているとしましょう。

彼女は間違いなく、飛行機のあるこの街にいるでしょう。それを取り返そうとアル本人がこの街にいる可能性も考えられます」


「ううむ確かに。アンリの言っていた援軍を待つ作戦と並行してそれを行うことにしようか。

さあ、話し合いはここまで、これからは行動することにしよう」


「承知しました。まずはゲットーへ?」


「ああ」


「わ、私どうしよう。ノイトラの中に混じっててもいいのかな?」


不安そうにエースが言ったかと思うと、禁断症状の出てきたアルコール依存症患者のように、バックパックから瓶を取り出して中の透明な液体をぐいっと飲んだ。

もちろん中身はアンリが用意してくれた硫酸である。


「大丈夫だ。エースもゲットーへついたらノイトラへの声掛けに参加してくれ。

なるべく迅速に人を集めて王政が手出しできなくさせたい。中途半端な数だと効果がないからな」


「わかった。まあ、この家の周りを王政軍が取り囲んでなければの話だけど」


「怖いこと言うなよ!」


軽口をたたきながら俺たちは外へ出た。外に軍が配備されている様子はない。まあ軍を組織して動かすのは時間がかかるものだからな。

俺たちの行動は迅速だ。王政に足元をすくわれないようにするには、ただ速さだけが必要なのだ。

さっきゲットーを出てきたばかりだが、またすぐに俺はゲットーへ戻った。

そしてゲットーの中で離散すると、俺はこの塀の中で唯一の孤児院に足を運ぶ。


門すらない簡素な孤児院は敷地面積がちょっとした一軒家ほどしかなく、三階建てである。

そして外から聞こえてくる子供の甲高い声は、中にぎっしりと子供が詰まっていることを物語っている。

多分それをワンオペで全部世話しているのであろう、パワフルな感じの中年シスターがちょうど表に出てきたところへ俺と目が合った。


するとシスターは俺のことを知っていたようで、こう声をかけてきた。


「トーマじゃないか。アーニャが怒ってたわよ。なんか妙な仲間を増やしていて冷たくなったって」


「俺も色々あったんだよ。ところでシスター、ここにいる子供を呼び出して俺の前に並べろ」


「わかったわ。みんな、出ておいで!」


たまに不気味になる。ミシェルなどは俺に反抗する意思もあったようだがシスターなどは、俺の命令に何の疑問も持たずに指示通りにしたのだ。

いくら俺が種族の王とはいえちょっと怖い。だが、その特性と力を最大限利用すると決めたのだ。


ほどなくしてきゃーきゃー騒ぎながら、しつけのなってないバカそうな子供たちが家の中からぞろぞろと出てきたではないか。

みんなボロを着ているか、あるいはほとんど服を着ていないありさまである。

薄汚いぬいぐるみのようなものを片手にしている幼児から、十七、八歳のノイトラまで様々だ。


十代以上のノイトラは露骨に少ないように思われた。まあ、ただでさえ貧困なゲットーの孤児院だ。

十代にもなったら外で働いて少しでも家計を助けている奴が多いのだろう。

さっき言った十代後半のノイトラだが、二人ぐらいしかいない。

二人とも恐らくシスターの手伝いとして子供を世話している孤児院の重要な戦力なのだろう。

十九歳のコロンビーヌの同期であるアルがここにいる可能性は、ほぼない。


そしてこの子供たちの中にアーニャもいた。まさか彼女が、R2DX2遺伝子保持者などということはないだろうが、一応聞いてみた。


「みんなよく集まってくれた。まずは感謝する。この孤児院のOBのトーマだ、よろしく。

ところで聞くが、アルというノイトラと、そいつと一緒にいる女の子を見たことがあれば、ぜひ教えてくれ」


「あ、トーマ様。こちらは三名連れてきました」


コロンビーヌがちょうどいいところへ帰ってきたので俺はこっそり聞いた。


「ああコロンビーヌ。ご苦労。ところでアルって名前なんだっけ?」


「アーダルブレヒト・オーベルシュタインでございます、王様」


「そうそう。アーダルブレヒト・オーベルシュタインっていうノイトラを見なかったか?」


「そんな名前かは知らないけど……」


と言いながら挙手したのは、さっき言った孤児院で数少ない十代後半ぐらいと思われるノイトラだった。


「何か知ってるなら教えてくれ。名前は?」


「ルカです。三日くらい前だったでしょうか。

八歳から十歳ぐらいの子を連れた新顔のノイトラを、食料の買い出しで見ました」


「どんな奴だった?」


「薄汚れていて、店の食べ物を盗んでました。

妹らしき子供にあげていたので、私はあえて黙っておいたんですが。

何より盗んでいたのはゲットーの外の店だったので」


「そいつがどうかしたのかいトーマ。こんな仰々しく人を集めて……」


そうシスターが言うということは、いくら王である俺の命令とはいえそろそろ元々あった用事に戻りたがっているようである。

俺の推測は当たり、シスターの周りの子供たちも一斉にそれにうなずいた。

悪いとは思っているが彼らには俺の役に立ってもらうと決めている。

俺はシスターの問いにはこう答えた。


「今からゲットーの外へ出てこの街中のノイトラを集めて行進する。ここはその最初の足掛かりだ」


「何を言っているのトーマ。悪ふざけならあとにして」


「俺は真面目だ。みんな、一人でも多くのノイトラを俺の前に呼んで集めてこい。

一人でも多く。特にアーダルブレヒト・オーベルシュタインというやつを探すんだ」


「わかったわ、今日はトーマの帰還祝いということで特別に付き合ってあげる。みんなもそれでいいわね」


「うん、わかったよマザー」


「ありがとう」


と俺は腰を折って礼をしたが、その最中も恐怖はぬぐえなかった。

シスターたちや子供たちは俺に多少の好意があるためか、あるいは逆らう意思を見せたミシェルのほうが特別なのか。

どちらかはわからないものの、シスターたちの従順さに恐怖を禁じえないのは確かだ。

なんなら深層心理にまで影響して俺の命令が伝わっているのではと思う。


昔、このような恐るべき実験が実際にあったことをご存じだろうか。

俺は趣味でこういうことは調べて知っているたちだ。俺は人間が好きだ。

人間個人個人と接することはべつに好きではないが、人類全体としてみると、これほど面白くて愛すべき生き物はいないと思っている。


そんな人体の不思議の中でも特に興味をひく謎の一つが、そう、意識の謎だ。意識とは何か。

俺たちは自由を求めている。自由を求めて戦っている。俺はノイトラにとっての解放の戦士。


自由と相反する命令と服従の力をもち、ノイトラたちの王として戦う宿命を運悪く背負わされてしまった男だ。

自由を欲するということは逆説的には、俺と、ノイトラたちは自由ではないということになってしまう。

自由じゃないから自由を求めている。それは必然の反応であり、そこに本当に自由意志があるのか、という哲学的な問題が発生している。


自由意志とは何か。それを確かめようとしたこのような実験がある。


脳梁という左右の脳を接続する部分に疾患を抱えている分離脳の患者がいた。

その患者に片方の耳から「歩いてください」と囁きかけた。その通りに患者は歩いた。

一方でもう片方の耳にしか聞こえないように「何故歩いているんですか」と囁いてみた。


すると患者は「お腹がすいたので売店にでも行こうかと」などと言った。だが、それがデタラメであることは明白だ。

患者は自分の行動に後付けで理由を説明しているわけで、実際には命令されてのことだ。

ところが本人は心の底からお腹がすいたので歩いていると思っていたという。


要は人間の行動とは、脳が判断して行動を決め、その後意識が発生し、行動の理由を自覚するという順番になるので、自由など元々ない、ということになる。

シスターたちはまさに今それじゃないのだろうか。まず命令が頭の中に入ってくる。

この時点で命令通りに動くことは確定している。


その後、まるで自分の意思であると錯覚したまま俺の命令を聞くのである。これは怖い。

とはいえそうも言ってられる状況ではない。それでも今のまま何もしないよりマシだ。ずっとずっとマシだ。

王の力を持ったノイトラが今生まれたのはそういう運命だ。宿命なのだ。元から自由なんかないのだ。


「さあ行くんだノイトラたち。片っ端からノイトラを集めろ!」


「行くぞー!」


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