第三十話 こーくーはーくー!
「みんな。なんか恥ずかしいってこんな風にさ……もう会わないみたいな感じで別れたのにまた会うのは……」
「我々こそ申し訳ありません」
とアンリが言った。そして、俺と未だに全然打ち解けていないマリーだがメリーだかいういつも一緒の二人は、なんとセシルとくっついていた。
そういえば奴ら、俺はまだ子供だから恋愛対象にはしないが、セシルは割とイケる、みたいなことを話していた記憶がある。
全く腹立たしい話だ。でも事実だからしょうがない。俺はアンリの唯一のまともな部下であるコロンビーヌとの会話に専念することにした。
アンリの次にコロンビーヌはこれからの話の軌道を俺に示してきた。
「ええ。我々はセシル君と共に船で来ました。その道中も話したことがありまして、それが何とか遺伝子のことなんです」
「そうだったな。それについて何か話があるんだって?」
「そうです。つまりそういう遺伝子を持たない者は飛行機を扱えない。セシル君は機体にそう書いてあるのを目撃したそうです」
「つまり、エースの事じゃないのか?」
俺はエースの顔を指さした。俺たちは目が合い、エースと俺はほとんど同じタイミングで首を傾げた。
「……私のことじゃないの?」
「エース、あなたは人間じゃない。全身すべてが機械の体をしている。遺伝子などそもそも持っていないんだよ」
「あ、そういえばそうか」
「えっ。エースって人間の体を機械に改造したサイボーグなんじゃないのか?」
衝撃的なことを口にするセシルに俺は事態が飲み込めず、バカみたいに思ったことをそのまま口にした。
セシルは両手に花。別にこれっぽっちも羨ましくはないが、マリーとミリーを脇に従えている。
が、俺の質問に返す彼の表情はいたって真剣そのものだった。
「ああトーマ。そのことについてだが、エースさんは欠片も人間ではない。これほど人間らしいのにも関わらずにね。
このことから考えられるのはつまり、セキュリティ・レベル8という存在は人間そっくりに作られた機械であるということだ」
「……では何故、エースは神とこれほど違うんだ」
と言ってから俺は先に問いただすべきものがあると考え、質問を変えた。
「いや、そうだ。それより神のことはコロンビーヌもセシルたちから聞いたか?」
「はい。私も会ったことはないのですが、どうやらトーマ様たちの前に姿を現したそうですね。
神様はセキュリティ・レベル8だと自分で名乗っていたとアンリ隊長に聞きました」
「ああ。エースも恐らくそうだ。そしてエースは……」
俺がちらりとエースを見て続きを語るのに躊躇したのを見てすかさずコロンビーヌが俺の言葉を先手を取って奪った。
「エースさんは不良品だと言っていたそうで。やはり機械として造られ、使命だけを存在意義としてただ任務を遂行する存在。
それが私たちの神でした。エースさんはおそらく……」
「もしそうだったとしたら、その……トーマは私の事どう思う?」
俺より背が高いにもかかわらず、エースは手を膝について腰をかがめながら上目遣いで怯えたように俺を見て言ってきた。
こんなの、こんな表情が出来るのだったら、それが完全に人間とは違う機械だったとしても人間以外の何物でもない。
俺は嫌いな人間とエースだったら間違いなくエースのことを人間と認める。
「エースと初めて会った時から思っていた」
と言ってもそんなに長い時間は経ってないが。俺は続けてこういった。
「俺とエースはどこか似ているって。やっぱりそうだった。俺たちは同じ不良品だったんだな」
「そうね。私たちは同じ不良品。エグリゴリちゃんも私たちをそうひとくくりにしてたから」
「不良品と呼ばれていい気はしないけど、エースと一緒なら少しうれしいよ。
やっぱりこの出会いは運命だエース。お前らもそう思うだろ?」
「は、はい……」
アンリ達は俺に気を使って付和雷同してくれた。俺は気にすることなく話を変えた。
「ところで、飛行機に乗ってたようだけど、あれは二人乗りだったはずだ。
後ろには誰も乗ってなかったのか。それともまだ記憶はないのか?」
「……セシルくんたちの話だと、私の後ろには誰かが乗ってないとおかしいって話だったわよね」
そうだ。エースは遺伝子など持っていないので、例の遺伝子を持っている人間でないと動かせない、とされる飛行機にあと一人誰か乗っていたはずなのだ。
だがこの様子だと――
「覚えてないのか」
「うん……でも私が飛行機に乗ってこのスフィアってところへ何をしに来たのか。
それってまだ全然謎だし……もしかしてその後ろに乗ってた遺伝子の持ち主が……」
「おいおいセシルもお前らも……話の趣旨が変わってきたじゃないかよ。
俺たちはこれから飛行機を奪って合衆国へ行くんだぞ」
「わかってるってトーマ」
とセシルは俺の頭をぽんぽんしてきた。もしかしたら、これまではこの手を使えばどんな女の子も落ちてきたのかもしれない。
もちろん俺はみじんも落ちることはあり得ないが。
「要するにだ。今からトンネルを通って飛行機を奪いに行くのはべつに止める気はない。
だけど最悪の場合、飛行機を奪えず遺伝子の保有者を探しに行かなきゃいけなくなるってことを言いたかったのさ」
「うーむ、まあとりあえず行ってみるか」
「トーマらしいね。僕はここでハーレムを楽しんでいたいけど、行かないといけないよね」
気づくとセシルはさっき言ったマリーたちの肩を抱いていた。メリハリの利いたやつである。
「お前が必要だからな。トンネルへ行くのは俺、セシル、エースの三人でいいか?」
「それがいいね」
「じゃ、アンリは隊長として三人を監督しつつ、四人で周囲の警戒を怠るな」
「は、承りました」
「あっ、あのう……」
「どうしかしたかコロンビーヌ?」
コロンビーヌは控えめな性格だが、マリーたちとは違って俺に積極的に話しかけてくれる忠誠心の高い子だ。
その彼女が話の流れをぶった切ってまで話したいこととは。俺は興味があった。
「あの王様。私、王様に話したいことがあるんです。だからここまでついてきました」
「それはありがとう。俺も会えて嬉しいよ」
「ありがとうございます。それで……今がダメなようならトンネルに行ってからでも……」
「いや、今言ってくれ。俺はトンネルからここへ戻ってこない可能性が高いぞ」
「あ、ではちょっと外に……」
「わかったけど……」
俺は一応レディファースト、と思って先に外へ出て玄関を開け、コロンビーヌの手を取った。
が、よく考えたら俺も彼女もノイトラなので、どこにもレディはいないとあとで気が付いた。
街の外はまあ普通にいつも通りの様相だ。人通りはまばらで、昼間なので大体は仕事中の人か、すぐ近所にあるお店で買い物をしにきた女性がほとんど。
十七、八くらいの美少女コロンビーヌと十二歳のノイトラの俺が二人でいると、若干目立っているが気にせず俺はコロンビーヌを急かした。
「それで二人でしか出来ない話ってなんだったんだ、コロンビーヌ?」
「実はその……私、王様に、トーマ様に告白しなければならないことがありまして」
「な、なんだって?」
「こーくーはーくー!」




