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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第二章 解放の戦士
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第二十九話 R2DX2遺伝子

「全ては俺にかかっている。失敗しても怒んなよ?」


「私は怒らないわよ、私はね。お父さんたちがどうするかは知らないけど」


「まあ、怒らせても殺しはしないだろ……」


などと雑談しながら俺たちは歩き、ついには日も暮れてからようやく街の城壁が見えてきた。

前来た時と様子は変わっていない。巨大な石造りの城壁の上には大砲があり、物々しい雰囲気だ。

戦争を感じさせる城塞都市だが、とはいえここは最前線ではない。

だから夜間でも別に門は開いていて俺たちは普通に入ることが出来た。

出来たのだが、当然宿には泊まる必要がある。俺は街へ入ると、エースたちにこう言った。


「悪いが俺にカネは全くない。エグリゴリ、分体を消して狭間の世界で休んでいるといい。

エースも俺の指示通りに動いてくれ。わかったな?」


「わかったわ」


「私は……わかった、そうしよう」


何か言いたそうにしていたエグリゴリだったが、やっぱり言うのをやめて姿を消した。

俺たちの立っている街の入り口は暗く人通りはほとんどない。そのため人が一人消えたところで騒ぎ立てる者はなかった。

エグリゴリが消えたことで俺は気を取り直して街の中心の比較的明るいほうへと歩きながら、それについてくるエースに話を続ける。


「俺はこれからゲットーへ行く。ゲットーで野宿だ。それにゲットーには用もあったしな」


「そうなの。まあ故郷だもんね。私はトーマの横で機能を停止してたらいいのね?」


「ああ、スリープモードでいてくれ。ゲットーへの道は覚えてる。すぐ行こう」


俺とエースはまるで親子のように手をつないで歩く。そのほうが怪しまれないだろう。

どう見たって母親と娘のようにしか見えないはずだ。俺はゲットーの外で腕章をしていないノイトラ。

バレたら殺されるが、俺は完全なるアウトロー。法律など守る気にもなれない。


祭りの熱気は街の中から去って、いつもの平穏を取り戻しているように見える。

街の明かりは控えめで、もう明かりが落ちている家もあり、店もちらほら閉まっているようだ。

そのほうが目立たなくていい。途中、シスター・マリアンヌの家の前を通った。


「あ……見ろよエースあれを」


「あれって……孤児院かしら」


「ああ。マリアンヌの家だ。ところがもうその名前がかかってない」


「知り合いだったの?」


「マリアンヌは革命軍のメンバーだった。多分、死んだか身を隠しているか、だな」


「なるほどぉ。身を隠すのには、たぶんゲットーがうってつけね」


「だから俺もそこで野宿しようかなって。シスター・マリアンヌにも会えるかもな。

会ったところで別になんも用はないけど」


「ドライだなぁ。じゃあゲットーに行こうか。連れてって」


「うん。帰るとするか故郷に……エースの故郷ってどこにあるんだ?」


「私はN極出身らしいわ。記憶はないけど……」


「N極とS極なぁ……それってつまり南と北ってことだろ?」


「私よくわかってないのよね。N極とかS極って」


「磁石を作ればわかるはずだ。磁石の作り方はエース知ってるか?」


「知るわけないでしょ。トーマは作れるの?」


「作れないこともないけど、今は必要ないかな……」


などと無駄話をしながら歩いてはいるが、俺の頭はそれとは違うことを考えていた。

N極というのは、恐らく北極の事。そしてS極は南極の事だと思われる。

だからそれがこのスフィアのことだとすると、やはりこのスフィアはいわゆる地球と同じ岩石惑星だと考えられる。


そしてスフィアが建設された岩石惑星が地球とは違って太陽光があまり届かない立地であるとする。

そうすれば、このスフィアに人々が閉じ込められ、ノイトラが人類を生活させるために奴隷として使われていることも理解できる。


そしてそのようになった原因もある程度推測できるのではないだろうか。

遥か昔、技術の進んだ人類が宇宙移民船団を出発させた。


ところが、何かのトラブルがあって移民船は当初移住先に考えていた過ごしやすい星ではなく、極寒の星に不時着して戻れなくなってしまった。

そして今もまだノイトラを使って人類は生き延びながら、外宇宙に住んでいる人類と再び交信


「少し考えてた。でもそれじゃ……ダメだよな」


そう、だめだ。こんなシナリオじゃ。これじゃ何の希望もないじゃないか。

俺は解放をもたらす戦士。ノイトラたちの王。彼らを自由に、そして幸せにする義務がある。

だがこんなシナリオじゃ誰も幸せにならない。こんなのじゃだめだ。俺はもう想像するのをやめてゲットーを目指すのに集中することにした。


ゲットーの門では今日はいつもと当番が違うのか、見たことのない兵士が立っている。

そして俺と目が合った。兵士はすぐに俺を取るに足らないガキと判断して目を逸らしたが、中へ入ろうとするので呼び止めてきた。


「貴様ら腕章をしていないな。忘れたのか?」


「いや私たちは別に……ノイトラではありませんが」


と一応エースが言ったが、仕事熱心でない門番はすぐに興味を失ってくれた。


「そうか。通ってよし」


兵士の目の前にいる俺たちはノイトラの迷惑になるかもしれないが、別に構わないのだろう。

仕事でやってるだけだからな。俺にはそういう不真面目な態度のほうが有難い限りだ。

もちろん向こうにとってもそれは幸運なことであり、あまり絡んでくるようなら俺が電気ショックで気絶させていたところだ。


俺たちはゲットーへと入る許可を得てすぐに川のほうへ出た。そして以前、セシルと一緒に寝た橋の下に来た。


「今日はここで寝る。エースは自由にしててくれ」


「わかった」


俺はここまで歩き通しで、顔にこそ出していなかったが体は疲労困憊状態だったのである。

眠気はすでにピーク。右肩上がりを続け、どこまで眠気が大きくなるのか自分でもわからないほどだ。

意識は混濁し、なんなら立ったままでも眠ってしまいそうだった。

とりあえずまともに荷物と呼べるものも持っていない俺は橋の下の砂地の上に猫みたいに寝転がってすぐに眠った。


起きると横でエースが寝ていたが、少し肩に触れただけでエースは起きてきた。


「よかった。まだ王政には追われてないみたいね」


「ゲットーは身を隠すのにうってつけだからな。じゃ、少し俺は用がある。

それが終わったら、とりあえず行ってみよう。遺跡のある場所へのトンネルに」


「革命軍はもうそれを塞いでるんじゃ?」


「かもな。とりあえず行ってみる。じゃあ俺はこっちに用があるから」


俺は別にエースがついてこようと、ついてこまいとどっちでも構わなかった。

後ろには目をくれずに川沿いを歩き、目的の場所へ到達。そこは俺の母が住んでいた小屋だった。

俺は最初ここに来た時に、母が死んで遺体を埋めなきゃならなくなったというあまりにひどい思い出の場所だ。


「あら、お墓にお花。誰か亡くなったのかしら」


「誰がこんなことを……俺は母親をここに埋めただけのはずだが」


「お母様を? じゃあお父さんしかなくない?」


「いやいや……親父はそんなことをするガラじゃ……」


「わからないわよ。逆にそれ以外考えられる?」


「いや……まあとにかく、ここへは多分二度と来ないから、寄っておこうと思って」


「寄っておいてよかったね。お父さんの事誤解したまんまにしなくて」


「本当にね」


「ん?」


後ろを振り返って俺は目を疑った。何しろ二度見したぐらいだ。

そこにはセシルと、俺の幼馴染だが、全然会った記憶はないアーニャという女の子が並んで歩いてきていた。

セシルは当然、こちらを驚愕の表情で見つめてくる俺たちに事情を説明する。


「いやぁ、あの後メイドさんから報告があってね。何でも二人してこちらの街へ旅に出るとか出ないとか……」


「お前の姿を見なかったぞセシル」


「当然だ。僕は船できたからね。困るなぁこんなことされると。ボスも怒っていたよ」


「連れ戻しに来たんならやめといたほうがいいぜ。今の俺は多分世界一強い」


「だろうね。あまり戦いたくはないな。ボスからの伝言だ。

古代文字を読めるのは僕だけだ。僕を連れて行け。君の力になろう」


「ああわかったよ。せっかく来てくれたし。ところで二人はどういう関係で……」


「この子かい? トーマについて聞き込みしてたら見かけたと教えてくれたからね」


「そうか。久しぶりだな。三か月ぶりくらいか?」


「その人だれ?」


俺たちは会話がかみ合っているようで噛み合わない。俺は面倒くさいのでアーニャには答えをはぐらかした。


「別に誰でもいいだろ。よしセシル、行こうか」


「冷たいね。まあ君らのことだ。僕は何も言わないけど」


俺はアーニャなどに興味はない。俺にとっては一度会っただけの人だし、はっきり言って何の感情もないので冷たくしてもぜんぜん平気である。

だが、ノイトラの王としてはそれはどうなのか、という気もしてくる。俺はちょっとだけ後ろめたい気持ちがあった。

しかしそれは気にしないことにし、アーニャとは少し目も合ったが、別に何も言わずそばを歩いて通り抜けた。

すると後ろからエースが耳打ちしてきた。


「いいの? なんか訳ありみたいだけど……」


「訳なんかあるかよエースまで。それよりセシル。例のトンネルはどうなってる?」


「あのあと革命軍はこの街から全員撤退したと聞いている。時間的に見てもトンネルを塞ぐ時間なんてなかっただろうね」


「王政はトンネルの存在に気が付いていると思うか?」


「おそらくはそうだね。トンネルを使って君を例の遺跡へ行かせるのはリスクが高いよ。

ボスはそう判断して僕を派遣した。まず行くのは僕一人だ。君たちはゲットーでいつでも逃げられるように待機していろ」


俺は耳を疑った。正直言って例の港町、ル・アーヴルからの旅の間はかなり楽な気分で、せいぜい遠足程度に思っていた。

行動あるのみ。行動すれば事態は何か動くだろう。俺は無敵だ。運命に愛されている。そう思っていた。


だがセシルの顔からは困惑と失望、そして覚悟しか見受けられない。

俺を守るために命を捨てろとの命をボスから受けた顔だ。


「そ、そんな……俺は軽い気持ちで……」


「まずは腹ごしらえでもしよう。君と前に一度行った店でよかったかな?」


「あ、ああ」


「じゃあ行こうか」


いつも優しいし、女好きでバカなことも言うセシルだが、ここまでキリっとした顔つきで真面目な態度をとられると怖い。

エースもついてきて、俺たち三人でゲットーにある、三か月も前に一度だけ入った飲食店で三人座った。


セシルはパスタ料理など注文していた。俺も同じのを頼んだ。二人でそれを最初に口に運び、咀嚼して飲み込んだ。

それが終わったタイミングでセシルがこのように話を切り出してきた。


「もう一度言うが、トンネルからの潜入は困難だ。君の力はもう聞いている。

正面からは電気的なロックがあって入れないはずだが、君の力は研究所のロックを破ったんだってね」


「ああ。ハイテクなら任せろ。俺はハイテクなんて全然わかんないけどな!」


「リスクは高い……が、時間をかければかけるほど警戒が厳重になってしまう危険性もあるね。

ボスは僕に、一刻も早く君に飛行機を渡して君を合衆国へ来させるように要請してきた」


「理解のある親父たちで助かるよ。止めに来たんじゃないんだな」


「ああ。だけどひとつだけ僕には懸念がある。ボスたちにもまだ話せてないことだ」


「……なんか心配事があるのか?」


俺はバカみたいに首をかしげながら尋ねた。セシルは厳しい顔つきで目を伏せてこう言った。


「R2DX2遺伝子、というワードが出てきたんだよねあの飛行機。つまり運用できるのはその遺伝子を持つものだけという可能性がある」


正直言うと俺はそれについてはうろ覚えだった。確か、そんなこと言ってたかなぁと辛うじて記憶にある程度だ。

俺は覚えてるふりをして適当に合わせておいた。


「そんなの俺がロック解除できるって。たぶん……」


「君を近づけるな、と言われている。それを忘れたのか?」


「俺が親父の言うことを今まで聞いてたか?」


「やれやれだ。エース、あなたはどう思う。これ以上トーマに危ない目にあわせたくないだろう」


「いや……彼はノイトラの王にしてこの世を解放する戦士。トーマなくして革命はなしえないわ。

私も行く。三人で遺跡を目指しましょうよ。早ければ早いほどいいんでしょ?」


「僕はそうならないようにしにきたんだけどね。しょうがない、行くとしようか」


「え、今?」


「早ければ早いほどいいと言っただろう。怖気づいたのかい?」


「まさか。お前に言われなくてもそうするつもりだった」


「なら行こう。エースもそれでいいよね」


「もちろん。準備とかは要らないの?」


「とにかくトンネルのある家だ。あそこさえ大丈夫なら。カギは組織のほうから預かってある」


「まあまだ、人手に渡るほどの時間は経ってないもんね。行こう!」


俺たちは一応バラバラのタイミングでゲットーを出た。万が一怪しまれるかもしれないからな。

そしてセシルが手筈通りに先に家に入っていてくれて、玄関をノックするとセシルが出てきた。


「いやぁ中は変わってないなぁ」


「本当ね。私ここにいたときはそれはもう、ガラクタ女とかひどい呼ばれようだったわね……」


「あの時は悪かったよ」


「ここならやっと話もできるね」


とセシルは床下をもぞもぞとまさぐりながら言った。そして床下からぽっかりと口を開けた懐かしい闇が現れた。


「話ってなんだ?」


「話というよりお説教かな。二度と危険なことはしないでほしい。それに君は独断専行が過ぎるよ」


「ごめん。悪かったって」


「ところで君に会わせたい人が居てね」


「んん?」


セシルが指を鳴らすと、俺にとって初めてできた部下たち四人が奥の部屋から出現した。

待っててくれたようだ。そしてセシルはあえてそれを俺に隠していた。


「これはどういうつもりだ?」


「うむ。さっき話したことだけど、もう一度彼らを交えて話がしたい」


「なんだ話って?」


「まあまあ、僕はいいから今は彼らとあいさつを」


「うん……」


四人は俺の顔をじっと見てくるが、何も言ってこない。

別に責めるような表情ではないが、かといって笑顔では決してない。俺はバツが悪くてこちらから口を開いた。


「みんな。なんか恥ずかしいってこんな風にさ……もう会わないみたいな感じで別れたのにまた会うのは……」


「我々こそ申し訳ありません」


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