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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第二章 解放の戦士
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第二十七話 いい日、旅立ち

「ネットスフィア……知識をダウンロード……そういうことか。

お前のネットワークは、スフィアから外へは繋がらないってことか?」


「私は統治機構と繋がることを、それだけを望んでいる。だが私にはそれは出来ない」


「何故だ?」


「そのような権限は私にはないからだ。スフィアの外へ出ることは任務の放棄を意味する。

私にはそれだけは出来ないのだ。これから待つ意味と今まで待ってきた意味を失くすこととなる。

それは私にとって私の存在意義を自ら捨てることと同じなのだ。私にとって怖いものがあるとすれば、それだけだ」


「じゃあやっぱり、外には何もないってことなのか?」


「そうだ」


「ねえエリちゃん、分体ってどうやってるの?」


「今、その話をしていたはずだが?」


「あ、ごめんなさい……」


エースは俺みたいに甘えてくる相手には優しいし包容力というものがあるのだが、こういうエグリゴリのような高圧的な相手には屈してしまいがちらしい。

俺もそういう気持ちはよくわかる。

押しの強い人や高圧的な人って、こちらも真っ向から強い態度で迎え撃つより、折れたほうが楽だったりするものだ。


「私の分体は狭間の世界にある造換塔ぞうかんとうから送信している」


「あ、それ聞いたことあるぞ。親父が言っていた」


「トーマス・ドラクスラーか。そこまで情報を掴まれているとはな。

造換塔ぞうかんとうはスフィアのネットワークの中枢。私と統治機構のみが干渉を許されている。

だが、造換塔ぞうかんとうにあるデータは過去のスフィアの記録のみ。

そこに海や地球の情報が存在することは原理的にあり得ない。

お前の発言が嘘でないならば、お前はスフィア外のネットワークにアクセスしているということになるが……」


「嘘じゃねーよ。でも自分でもよくわからないんだ」


「今更隠し事か?」


「隠してないって。でも今の話でようやく俺のやるべきことがわかった。ありがとうエグリゴリ」


「理解しない。何を言っているのか不明だ」


エグリゴリは首を傾げた。意味の分からないことを言われたときはそうするのだと知っているようだ。

かわいい。俺は怪訝な顔をしているエースとエグリゴリに話を続ける。


「今まではお前を倒せばいいと思っていた。でも違った。ではどうするべきなのか?

親父には造換塔ぞうかんとうへ行けと言われていた。そいつがつまり、エネルギーから物質を生み出してるってことか?」


「そうだ。エネルギー源はノイトラのそれだ。私の分体は、造換塔ぞうかんとうからの情報を送信することでこのネットスフィアにダウンロードすることが出来る」


というのが、エグリゴリの分体ってやつのからくりらしい。

造換塔ぞうかんとうとはこのスフィア全体を統括する無線ネットワークの中枢にして、奴隷のノイトラが生み出すエネルギーを使って物質を生成することが出来るという。

それを情報として送信することで、スフィア内ならどこでもまるでゲームの世界みたいに物質が出現するのだ。

改めて、それは俺の知ってる現代社会の何千年先の技術か見当もつかないほど途方もない話だった。


「つまりこういうことか。お前に反旗を翻すことは、無尽蔵の兵隊を相手にするようなものだと。

分体を作り出せるなら兵隊を作り出すことも可能じゃないか?」


「無論だ。ノイトラを制御する力を持ったお前を擁していない勢力が、私を弑逆することは不可能だ」


「そう考えるとやっぱり、神を倒すために一旦中へ戻ってノイトラの王を確保することにした革命軍は賢明ね」


「と言っても親父たちはエグリゴリに見逃されてたって話だろ?」


「奴らの実態は知っている。王政を打倒するという名目で活動しているが、その実はお前を使って私を倒そうとしているのだったな」


「俺はもうその気も失せたよ。はい、あくしゅ」


俺はエグリゴリの手を取った。奴は俺とつないだ手を不思議そうに見つめる。


「これが平和の印だ。人間はこういう儀式が好きな生き物なんだよ」


「これが平和か。私も、お前と戦う気はない」


「それはよかった、お互いにな。だが革命軍はその限りではないだろう。

これから俺のことを王政と革命軍が取り合いになるかもしれない。

だが、飛行機さえ手に入れればこっちのものだ。俺たちを捕らえられる敵はいなくなる」


「あっ。そういえばエリちゃん、私たち飛行機で飛びたいんだけど二人乗りなのよね……」


「私には関係ない。分体はお前たちがどこへ行こうと出力可能だ」


「なるほど……盲点だったわ」


「そういえばまだ言ってなかったなエース。俺は飛行機を手に入れたら北にある合衆国の首都へ向かいたいと思う」


「首都って……私たち飛行機で行くんだよ。私もトーマも土地勘ないでしょ?」


「あっ、そっか。飛行機って管制塔とかがあって初めて目的地へ行けるものだしなぁ……」


「私の腰に手を当てろ」


「えっ」


突然何を言い出すのかと思えばとんでもないことをエグリゴリがすました顔で提案。

俺は顔を真っ赤にしながら聞き返し、奴は何食わぬ顔でもう一度言った。


「聞こえなかったのか。私の腰に手を当てろ」


「そ、そんな……エースも見てるし……」


「私は別にいいけど……どうしたの、ダンスでもするのかしら?」


「当てますよ、当てればいいんでしょ!」


俺はこの奇妙な状況に頭がおかしくなりそうなほどの妙な興奮を覚えながら、指先まで鼓動を感じるほど心臓を高鳴らせてエグリゴリの腰に手をまわした。

すると、俺の指先にコードのようなものが触れた。余談だがエグリゴリの腰のところは意外な感触だった。

一見、バレエのレオタードのような、白くてぴっちりと体に張り付いた生地が下半身を覆っているように見える。

ところがそもそも、その下の肉体がないのである。レオタードのようなものを履いているように見えたが、実は下半身は裸。

ボディが白いだけで、そのさわり心地は水族館でイルカを一度触った時のことを覚えているが、まさにそれと同じ感触だった。

ツルツルとして滑らかで、表面はセラミックのように硬いのだが、その下は若干の弾力を感じさせる。

そうでなければ人間のような柔らかい動きが出来ないはずである。まあ要するに、思ったよりエグリゴリはセクシーな格好をしていた。


そしてもちろん、裸なので股間の部分は隠されねばならないはずだが、丸見えだ。

エグリゴリの股の部分はマネキンのごとく、何もなくてツルツルだ。胸のふくらみも全くない。

中性的、というよりも無性的な容姿だ。残念なような、ちょっと安心したような気分がした。


「まだ同期できていないようなので、有線で繋がる」


「えっ……」


俺は前回エースにやられたのと同じく妙なコードが俺の中に入ってくるのを感じた。

なんで俺はそのコードと接続できるのか誰も説明してくれない。

接続自体はすぐに完了して、俺はようやくエグリゴリから解放された。


「これでどうだ」


「あれ、これって……」


「そうだ。お前と私だけで話している。音声通話は非効率なので私は好きではない」


「これは遠隔でも可能なのか?」


俺は察しの悪いほうではないはずだ。そして俺の察したことはすぐにエグリゴリも察してくれた。


「私が分体を合衆国首都に飛ばして通信することでお前が乗る飛行機を誘導することが可能だ」


「その時は頼んだ。でもずいぶん協力的なんだな?」


「これを恐らく、”希望”というのだな」


などとエグリゴリは切なそうに唇を震わせながら言った。

そして目を伏せながらこう続ける。


「まさかこの私に、何かを切に願うことがあるとはな」


「ねえさっきから二人……何を見つめ合ってるわけ?」


ここで俺たちの無線会話は中断された。俺たちの横で見ているエースからすればこの状況は奇妙奇天烈。

それゆえ、最初は話しかけるのも忘れていたようだ。俺はすぐにエースにこう答えた。


「俺とエグリゴリは、頭の中に直接声をかけることが出来るようになったんだ」


「何それ。通じ合ってるみたいじゃない……ちょっと焼きもち」


「エグリゴリ、結構時間がかかってきたけど、ようやく本当の気持ちを言ってくれたな」


「……」


エグリゴリは何も答えないが構わずに俺は続ける。


「この出会いは運命だエグリゴリ。俺はお前を助けるために生まれてきたんだ」


「理解しない。生まれてきた意味など、もとより存在しない」


「それは俺に決めさせてくれ。それに……ずっと待ってたんだろ誰かを。

こうして助けがやってくるのを。俺にお前を助けさせてくれ」


「それは……」


図星をつかれてエグリゴリは言葉が出てこなくなった。それにさらに詰め寄ろうとする俺をイジメてるとみなしたのか、エースがここで止めに入った。


「かわいそうでしょ、そんなに追い詰めたら」


「でも……」


「でもじゃありません。トーマって好きな女の子にはめっちゃグイグイ行くタイプだったのね?」


そう言われるのは心外だった。

一部事実と異なる表現をエースがしていたのは確かだが、俺がグイグイと無造作に距離を詰めすぎていたのは事実だったため、俺は素直に謝っておいた。


「反省してます……」


「よろしい。エリちゃんもトーマの言うことは話半分に聞いておいてね。

力になってあげたがってるのは本当だと思うけど」


「理解できる行動だ。お前は私が好きなのか?」


「えっ。あ、うん。俺はお前が好きになってきた」


と答えると大きくエグリゴリはうなずいた。


「好きというのは都合がよいということだろう。理解できる反応だ。

私がお前の役に立とうとしているからだな。最初からそう言えばいいのだが……少し理解が遅れた」


「まあそうだな。ちなみに、俺もお前の役に立とうとしていることは伝わったと思うけどどうかな。

エグリゴリ、案外お前も俺の事がけっこう好きになってきたんじゃないか?」


「お前が私に都合のいい限りはな。お前もそのはずだ」


「……これは、俺らは好きあっている同士だと言ってくれてるとみなしていいんだよなエース?」


「私に聞かないでよ同じレベル8だからって……」


「まあ今日のところはそれで満足だ。エグリゴリ、俺たちは今日中にはもう次の街へ到着しているはずだ。

たしかあの船、途中水門とかで結構時間はかかってたよな?」


「え? ああ、私ほら、機能停止してたから知らないのよ」


「あそっか。俺もほとんど寝てたけど……」


「飛行機のある街だな」


とエグリゴリが言ったので俺はすぐに食いついた。


「そうそう、そうなんだよ。俺らそこ目指しててさ」


「時速四キロで歩けば八時間後に到着すると考えられる。それがどうした」


「その時飛行機を手に入れたら合衆国で誘導頼むなって言おうと思ったんだ」


「それが私の今やるべき仕事だと理解している」


「その先のことも話しておくべきかなと思って。俺一人では決められないからな。

エース、見切り発車で飛び出してきた手前あれだけど知恵を貸してくれ」


「えっちょっと待って。合衆国行くって言ってて、ノープランだったの?」


「いや考えはあったよ。合衆国ってくらいだからトップは大統領だろう。

政治家は選挙で選ばれているはず。そうだよなエグリゴリ」


「私は関知していない。統一政府瓦解より後のことはな」


「何百年前の話だよ……」


これは孤児院で勉強したことだし既に説明したことなのだが、もう一度簡単に話そう。

かつて世界は帝国という統一政府によって平和な世界になっていたが、やがて分裂。

様々な国が独立し、それぞれ争っている状況だ。どうやら政治形態の統一はエグリゴリの意思が働いたものらしい。

そしてこれも推測になるが、セシルの一族が受け継いできたという古代文字とは、いわゆるローマ字のアルファベットのこと。


特に古代文字は英語で書かれていたことから、考えてみるとセシル・ローズ・アルバート・サー・ペンドラゴンという極めて英国的な名前のセシルの一族に英語が受け継がれていたのは、とても納得できる。

それともサーって名前の一番前につけるべきだろうか。でもセシルが上のように言っていたからこれで正解のはずだ。


「選挙で選ばれた政治家の誰かが革命軍に金を渡して破壊工作をさせているはずだ。

そして親父は合衆国の力を借りて狭間の世界へ俺を連れて行こうとしていた。

このことから、革命軍のパトロンはまず間違いなく政権の中枢にいる大臣級の人物しかありえない」


「まあそうだろうけど……それで、まだ終わりじゃないんでしょ?」


「ああ。そして革命軍の本拠地からそう遠くない場所にその政治家は根拠地を構えているはず。

ここまでくれば首都で少し情報を集めるだけでそいつにたどり着けるはず。

あるいは、俺たちが飛行機で合衆国に着陸すれば向こうからやって来るか……どうだろうエース。

政治家がパトロンだろうけど、そいつにノイトラの王と言われる俺のことを、革命軍は話してると思うか?」


「つまり革命軍の真の目的ってことでしょ。話してるんじゃないかと思うけど。だってそうじゃない?

トーマの力のことを話さずに狭間の世界へ行く協力を取り付けることが出来るなんて思えない」


「だよな。だから俺は飛行機で合衆国首都にさえ行ければ問題は解決すると思っている。

間違いなく向こうから接触してくるはずだからな。絶対目立つだろ、飛行機で着陸してきた俺たちなんか」


「……すると話がここに戻ってきたわね。信用するってことでいいのね、あの子を」


エースはちょっと嫌そうな顔をしてエグリゴリを指さした。どうも二人はあまり関係良好ではないらしい。

まあ気持ちはわかるが。俺は素直にうなずいた。


「要るか要らねーか、それだけだろ。もしエグリゴリが裏切ったら。

それとも罠だったら。そんなの考えるだけ時間の無駄だ」


「トーマは果断なのね。私も同意見。あの子の誘導で合衆国首都に飛行機で着陸、それが最短ルート」


「全ては俺にかかっている。失敗しても怒んなよ?」


「私は怒らないわよ、私はね。お父さんたちがどうするかは知らないけど」


「まあ、怒らせても殺しはしないだろ……」


などと雑談しながら俺たちは歩き、ついには日も暮れてからようやく街の城壁が見えてきた。

前来た時と様子は変わっていない。巨大な石造りの城壁の上には大砲があり、物々しい雰囲気だ。

戦争を感じさせる城塞都市だが、とはいえここは最前線ではない。

だから夜間でも別に門は開いていて俺たちは普通に入ることが出来た。

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