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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第一章 ボーイ・ミーツ・ボーイ
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第二十話 時の輪が今、つながる


すると心配してくれていたのか、屋敷に住んでいる人が総出で出迎えてくれた。


「何時間もどこへ行ってたんですか!? 心配してたんですよ!」


「すまん。ちょっと。エースを呼んできてくれ」


「わかりましたけど……」


アンリはむくれながら渋々俺の命令を聞いてくれた。ほかのみんなも俺に何か言いたいらしいが、まずはメイドが言ってきた。


「もう、そんなに汚して。しばらく家に入らないで下さいよ」


「ごめんなさい……」


「夕ご飯作って待っていますから、今度こそ食べてくださいね」


メイドは俺に複雑な感情を持っているのだろう。少なくとも悪くは思っているまい。

それが表情から読み取れた。メイドは家の中へ姿を消し、入れ替わりでアンリがエースを連れてやってきた。


「我が王。ご命令を遂行いたしました」


「大儀であった。エース、あの、ごはんこれでよかったら……」


おずおずと俺が手に持った金属片を差し出すとエースはこれを受け取る。

そして恐るべき咬合力で、果物のようにこれをかみ砕いてエースは飲み込み、さらにこう言った。


「ここにもこんなに残ってる」


エースは多分舌のような機能を持つ器官が口の中にあるのだろう。

これを使って俺の黒くなった手を掃除してくれて、終わったら隅々まで奇麗になっていた。

不思議な感覚だった。ちょっとだけだが、エロイと感じてしまった。

俺は変態だろうか。相手は顔の皮膚が一ミリもないほど化け物的な容姿なのに。


「だ、大丈夫かエース。そんなもん食べてお腹壊さない?」


「アンタが持ってきたんでしょ。ありがとう、おいしかったよ」


「それは何より」


「これで元気になれそう。晩御飯食べたらまた私を部屋に呼んでね」


「あ、ああ。わかった」


俺は呆気にとられていたのでエースには適当に生返事し、屋敷に戻って一応手を洗ってダイニングの席についた。

俺は一番先に席についていたが、ここで攻防が起きた。

それに対して俺はなすすべもなく、ただ状況を見守るほかない。


まずはミシェルとレオラが入ってきて、レオラが俺を見つけると微笑んできた。


「お昼一緒に食べられなかったら……また横に座ってもいい?」


などと聞いてきた。さっきの今だ。ちょっとバツが悪い俺。

レオラには冷たい態度をとってしまったので二つ返事でいいよと言おうとしていたその時。

そこへセシルとアンリ、そしてなんとエースが入ってきた。


「あ、トーマ。一緒に食べよう。席隣でもいい?

私があーんして食べさせてあげようか?」


「いや、あの……」


俺は、「そんなことを言うがお前、エース、普通の飯食うの?」

と言いかけたがそれはぐっとこらえた。するとアンリがエースに言った。


「トーマ様の横ならば僕が。食べさせて差し上げるのも僕がやりましょう」


「何よ、アンタ私と張り合う気? トーマのこと好きなの?」


「好きというのは恐れ多いですが……もちろん嫌いであるはずがありません」


「いやお前ら、よくまともに話せるな……」


この場の誰もこの状況に突っ込みを入れないのでたまらずミシェルが言った。

そりゃそうだ。メイドさんもさっき全然驚いてなかったが、こんな機械の体をした人間が当たり前のように言葉を話している。

それをアンリも俺も普通に受け入れているという事態はかなりの異常さであり、これはミシェルが正しい。


これにはエースが答えた。


「私からしたらアナタ達ノイトラも不思議な生き物だけど」


「それはそうだな。じゃあエース、ここ来てくれ」


俺は席を変えてテーブルの一番端っこに来た。そしてその一つ隣の席にエースを誘う。

エースは気をよくして来てくれた。そしてすぐさま二人で雑談モードに入る。


「前から聞きたかったんだけどさ、エースって名前は人につけてもらったって聞いたけど……」


「あ、その由来が知りたいんでしょ。私はエースパイロットだったからね」


「え、そんな理由?」


「それに……アルファベットって知ってるでしょ。ローマ字」


「ああ。最初の文字はエースとも言うらしいよね」


「私はもともとキダとその人に呼ばれた。それが最後の文字だけ残ってエースになったのよ」


「ふーん。全然わからん」


「いずれ話してあげるわ。それよりごはんまだー?」


「はい」


メイドはキュラキュラとキャスターの音を立てて部屋に入ってきた。

今回は車いすではなくワゴンを押しての登場。メイド本人の分も合わせ、しめて十人分。

具だくさんクリームシチューと大きなパン。さらに小鉢のカットしたフルーツというメニューだった。


これをそれぞれお皿によそい、スプーンで食べつつパンをシチューにつけて食べる。

これでも十二分に豪勢な食事だろう。俺はこれらの料理を前にしてじっとエースのほうを見ていた。

いつ料理に手を付けるのかと。エースはちらりと俺のほうを向いてこういった。


「どうしたの。食べさせてほしい?」


「自分で食べる。本当にそれ食うの?」


「私を何だと思ってるの! もう失礼しちゃうわ」


と言ってエースはパンをちぎり、シチューに浸して口に運んでいた。

俺はそれを見届けると自分もシチューに視線を移し、パンを口に運んだ。

目線を上げると目の前にいたのはコロンビーヌだった。


容姿を説明するのを忘れていたが、コロンビーヌはだいたい身長が一メートル五十センチくらい。

俺と同じくらいだ。若干色素が薄く、髪も眉毛も茶髪。

レオラと同じくむっちりとした肉付きをしていて二の腕が太い。

そばかすがノースリーブの服から覗く肩や、つきたてのお餅のようにふっくらした二の腕に浮いている。


とても神の使いである”天使”などという柄じゃない、素朴な感じの子だ。

考えてみるとこいつらは元天使でありながら俺のもとに屈してしまったわけだからさしずめ堕天使といったところか。


と思いながらコロンビーヌの顔を見つめているとコロちゃんは思いつめたような顔をして若干こっちに上半身を乗り出しながら小声で言ってきた。


「あの、トーマ様」


「トーマでいいよ」


「これは女のカンなんですが……レオラちゃんってトーマ様のことが好きなんじゃ?」


「なんでそう思ったんだコロンビーヌ?」


「そう見えるのは私だけでしょうか。お昼もトーマ様が横に座るように誘導してませんでしたか?」


「そうしたのはミシェルだろ?」


「ミシェルに指示したのかも」


「バカ言え。レオラはそんな腹黒じゃない」


「わかりませんよ。女は恋をしたら腹が黒いの白いの言ってられなくなりますから」


「知ったかぶりしやがって……」


「あ、ばれました? えへへ」


「あなたも好きね。ねえトーマ、もしこの中で恋人にするんだったら誰を選ぶ?」


「え、この中だったら? そりゃぁ……」


俺はエースに言われた質問を脳内で反芻し、しばらく部屋の中を見渡してから言った。


「アンリかな。一番尽くしてくれるし裏切らないしアンリなら信じられる」


「あれ、僕じゃダメだったかな?」


「ダメだ、セシルは浮気しそう」


と俺はシャットアウトしておいた。反応が見たかったのでアンリのほうを見てみたのだが、俺と同じ横列に座っていて、顔がよく見えなかった。


「へえ、トーマは男型のノイトラって聞いてたけど、案外あの子みたいなのがタイプなのね」


「あんま真に受けるなよな……」


「僕はどちらでも、トーマ様のご随意に」


というアンリの声が聞こえたが顔を伏せていて、髪でほとんど横顔も見えてこない。

俺はリアクションを見るのはあきらめて大人しく夕餉を楽しんだ。

その間、恋バナが好きなコロンビーヌは俺の不在の時のことを聞いてきた。


「お昼はいきなり飛び出してどこへ行ってたんですか?

もう全然帰ってこないし帰ってきたらドロドロで私たち心配しましたよ」


「それはごめん。部下を頼れないのは悪い上司だよな」


「言いたいことを言われてしまいましたね。どうなされてたんですか?」


「工場で働いてた。エースにご飯を届けたくて」


「あら嬉しい。可愛いところあるわね」


「少しゲットーにも遊びに行った。また行くと思う。

コロンビーヌ、なんかほかの話題にしてくれないか」


「じゃあトーマ様。お母様の血筋がすごい家系なのだそうですが、お母様についてうかがっても?」


「もう死んでるし、名前さえも聞きそびれたから知らないんだよな。

六歳のころから孤児院で育ったし。親父に聞くのも忘れてた」


「何もご存じないってことですか」


「恥ずかしながら。ご馳走様」


「え、早っ!」


「エース、約束通り俺の部屋にこい」


「素敵。男らしい!」


俺をからかうようにエースは言うと、食事もそこそこに席を立って俺の部屋までついてきた。

ドアを閉めると俺は大きくてふかふかのベッドに腰かけた。

すると何も言わずにエースが俺の横に腰かけて、まるで俺たちはラブホテルに入ってきたカップルのようだが、こういう時は男のほうが切り出したほうがいいよな。

と思い、俺はほとんど諦めたようにしてエースに話を振った。


「エース、俺になんかの端子をつないで記憶を見せるとか言ってたよな」


「いいの? 私の記憶を流し込むということは多少の苦痛も……」


「やってくれ。俺は親父におんぶにだっこで依存して、向こうからも利用されて。

そんな操り人形になる気は毛頭ない。この出会いは運命だエース。

俺はアンタという切り札を親父に対して持っておきたい」


「わかったわ。今の私にならそれは出来る。目を閉じててね」


「うん……」


目を閉じていたほうが怖いが、俺は覚悟を決めて目を固くつむった。

膝の上で手をぎゅっと握っている間にエースの声が聞こえた。


「もう大丈夫だよ。さあ始まる」


俺はベッドの上に座ってエースと物理的につながっている。

サイボーグの体から出る端子で記憶が流れ込んでるなんて我ながら変な体だ。

それを意識する自分がいると同時に、俺の視界に見えているのはエースの記憶の世界だった。


これが恐らく最古の記憶。一体何百年、何千年前なのだろうか。


目の前に男がいた。周りには不思議な景色。壁のすべてが金属質で、てらてらと照明で光っている。

天井が吹き抜けになっていて、上下にどれだけの大穴が開いているのか目視ではわからないほどだ。

上からではなく下から光は届いてきていて上は暗闇。

そしてこの巨大にもほどがある大穴の中心部をまるで数学の問題のように、直線が貫いている形だ。


これは空中に浮いた橋のような形で建設されており、俺たちはこの空中回廊の中心にいる。

つまり大穴の中心点にいるわけだ。エースと目が合っている男は頭をボリボリとかきながら言った。


「付き合うよ先生。どうせ目的のない身だ。記憶が戻るまで誰かのために生きていくのも悪くない」


「よし、じゃあ行こう。いざS極へ!」


「N極だろ常識的に考えて」


「なんでだっ!」


「何があるのかわからないS極より、人がいるN極のほうがいいだろ」


「でもね私が出て行ってから数百年経ってるんだよね。まだN極に人がいるのかなぁ」


「へえ。先生、N極ではどういう暮らしをしてたんだ?」


「よくぞ聞いてくれました」


なんと、今既に過去編なのだが、過去編の過去編に話が推移していってしまった。

といっても過去編の過去編の話は割と簡潔である。


先生と呼ばれているのはつまりエース。エースは男に先生と呼ばせている。

で、エースは何百年も前にN極なる場所に住んでいてそこから出てきたという。


N極での暮らしは詳しくは描写されなかったが、とにかく、自分はキダと呼ばれていたことを明かした。

そしてその由来というのが自らの体に書かれたローマ字であることを明かした。

この文字は本人には読めなかったのだが、遥か昔からキダと呼ばれていたという。


その過去話を聞かされた男はローマ字が読めるらしく、エースのうなじのところに書かれたその文字を指で優しくなぞりながら説明する。


「なんでキダって呼ばれてたのかって。恐らくそりゃ文字は読めるが、文字列の意味がわからない人がそう呼んでたんだろう」


「意味? 私の名前には意味があるの?」


「”KID A”とうなじに書かれている。意味としては”名無しの子供”

あるいは”有象無象の中の一人の子供”といった意味だろうか」


「有象無象……名無しの子供?」


「つまりキダと読むのではなく、キッド・エーと読むのが正解だ」

クリスマスはぜひうちの小説を読んでいってください

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