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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第一章 ボーイ・ミーツ・ボーイ
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第二話 孤児たちの家

「この部屋のもう一人はどうした」


四人部屋ならばもう一人はどっかにいるはずだ。これには背の高い方の子が答えた。


「新入りか。歓迎するよ」


「ああ、よろしく」


「この部屋はついこの間まで十七歳の二人が住んでた。二人とも十八になって出て行ったよ。

だからお前がこの部屋の三人目だ。やったな、ベッドは好きに使っていいよ」


「教えてくれてどーも。俺はトーマ……捨てられてここに来た」


するとさっきからずっと喋り通しの背の高い方の子が立ち上がって握手してきた。

仕切り屋さんなやつだというのが俺の第一印象だ。まるでもう片方の奴と俺を会話させたくないかのようだった。


「私はミシェル。お前は珍しいな……ノイトラは七割から八割ぐらいは、どちらかというと女に近い風貌だが」


「……」


俺はすかさずパンツの中に手を突っ込んでみた。毛は生えていないが、大事なところには生前のものとあまり変わらないバベルの塔が生えていた。

そしてさらに下へと手を伸ばせば、子供を作る際に必要な物質を作るあの臓器が袋に収まっている。

俺は恐る恐るさらにその下へと手を伸ばした。突然俺は涙が出てきた。


「うわ! なにこれ! こんなの俺にあるわけない!」


「当然だろ、男寄りだろうと関係ない」


「嘘でしょ、これ、噂では聞いたことあるけど……!」


俺はもう一度言うが、涙が出てきた。情けないやら悲しいやら、将来が不安やらで、子供に戻ったみたいに泣きじゃくってこれ以上何も言えない。


「あーあー、レオラ、お前のを貸してやれ」


「わかった」


もう一人の子が俺にハンカチをくれたばかりか、しばらく手を握ってくれた。

正直、女の子になりたいと思ったことが一度もないとは言わない。

むしろ男は女の子に多少憧れを持つこともあるほうが多数派じゃないだろうか。


だが現実と理想は違った。しかし救いだったのは、少々ミステリアスではあるものの、ルームメイトは親切にしてくれる点だ。

今の俺にとってこの二人だけが唯一の希望。この二人に嫌われたり、いじめられようものなら俺の新しい人生は今度こそおしまいだ。

将来兵士になるのもゴメンだが、ひとまずはここでの生活を生き抜かないことには仕方がない。


俺はまだベッドに座っているミシェルに殊勝なことを言った。


「ありがとう。代わりになんか手伝えることないかな?」


「いや、別にいい。強いて言えばそうだな。決まり事を守ってくれ。そのためには私の言うことをしっかり聞いておけよ」


「わかった……ここの決まり事ってことか?」


「そうだ。レオラ、ご苦労。では聞いてくれ」


次のような話が始まった。


「いいか。ここでは自由にしていていい。時間は好きに使え。

起床に点呼、そして食事と消灯時間はベルが鳴って知らされるが、ほかは特に何もない。

シスターに勉強ができることをアピールすれば文官になれる道もあると聞いた。

勉強するもよし。ほかの子と遊ぶもよし。場合によっては親がなにかを差し入れてくれることもある」


「そうか。俺の親は以前にも施設に子供を入れたことがあったらしい」


「親がいるだけマシだな。名前をきいてなかったのか?」


「ああ」


「まあいい、いずれお前の親が差し入れしてくれるかどうかはわかる時がくる。

それよりお前気をつけろよ。シスターには心を許すな」


「え?」


「私たちは脱獄しようとしてるんだ」


「そんなに兵士になるのが嫌か?」


「同部屋になった以上、この秘密は守ってもらう。選べ少年。

一緒に出て行くか、私たちに始末されるかをな」


「話が急だな!」


しかし考えようによってはラッキーじゃないか、とも俺は考えた。脱獄してもこの小娘どもに生活していくあてがあるのか、正直疑問だ。

とはいえ、出て行かないと俺は兵士にされ、前線で消耗品にでもされるのがオチである。

何より、俺はこの国でまともに生きていくこと自体、恐らくもうできないのだ。

子供とは言えない年齢、つまり十二歳以上の"ノイトラ"は差別されていて、恐らくまともな仕事にはつけない。


現実世界でも黒人などが差別されていたが、それの比じゃない。

人間扱いされないどころか、こうして問答無用で探し出され、収容されてしまっている。

しかもシスターの言葉からして、血を残すことすら許されていない。


それならば答えは決まっていた。


「わかった、口外しないと約束する!」


「ああ。三か月ほどあとに、独立記念日がある。年に一度のな」


「独立?」


「お前モノを知らないやつだな、少年。レオラ、教えてやれ」


「わかった」


レオラ、と呼ばれた小柄で黒髪のほうの女が俺に説明してくれたのは次のような話だった。


「昔、人々は無数の小国に分かれて戦争をしていた。

でもある日、"エルダーガルム帝国"という帝国が大陸中をひとまとめに統一してしまったの。

それから五百年。帝国は衰退して今は形だけの統一王。私たちの国も二百年前に独立したんだって」


「名目上の、世界の王か……」


「そういうわけでな、三か月後には独立を祝したお祭りがある。

その日ばかりは町中が大騒ぎさ。大人は酔っぱらってるし子供もたくさん夜中に出歩いている。

私たちが脱獄して町を抜けるにはそれが恐らく唯一のチャンス……」


「手はずはどのくらい整ってるんだ、ミシェル?」


「ばっちりだ、いつでも抜けられる。何しろアニキたちが残して行ってくれた穴だからな」


「アニキって、最近までここに居た二人のことだな。二人はその穴を使って脱獄しなかったのか?」


と俺が不思議そうに尋ねるとミシェルはぶすっとした不機嫌な顔をしたが、一応答えてくれた。


「二人は戦争へ行った。だがお前考えてもみろよ。戦争だぞ、帰ってこないんだぞ。

私たちは被差別種族だぞ、おまけに孤児だ。帰ってこなくても誰も文句は言わない。

本当に戦争へ行っているのかどうかすら怪しいものだ。だから私たちは脱獄するんだ。

この自由を封じ込める牢獄から。アニキたちは使わなかったんじゃない、使えなかったんだよトンネルを」


「どういうことだ?」


「今年のお祭りは夏、アニキたちは年始に出て行くことになったからな。

私たちは脱獄するからには、アニキたちはもちろんここのみんなも助けたいと思ってる。

あの革命家、アラン=ミシェル=ロラン様のようにな」


「誰だ?」


「革命家だと言ってるだろ。世界の平等のために戦い続けているという、二百億フランの懸賞金の男だ」


「政府、払う気ないだろ」


「だろうな。彼と同じく私たちもここから出たらお尋ねものだ。

強制収容所はまかり通るが、自由への脱獄は罪だと言うらしい」


この世界はクソだ。俺の第一印象はそれだったが、その印象が常に上書きされ続けている。

一体どこまで株を落とせば気が済むのか知らないが、今のところ底が見えない。

日本にいたときなどは自由や戦争のことについてそこまで深く考えたことはなかった。

それは遠い国の出来事だと思っていた。自由や平和は生まれた時からそこにあった。


改めて考えてみるに俺は生前、差別されるみじめな人生を送っていたが、同時に自由や平和を享受できていた。

だがここでは、差別も受けるし、自由や平和とも程遠い。あまりに割に合わない。

どうせならもっと、のほほんとした牧歌的なところに生まれ変わりたかった。


実際、俺は童貞のまま死んだが、こんな可愛い子二人とひとつ屋根の下で三か月の間生活すると言う状況になっても一ミリも興奮しない。

言っておくが二人は見た目は普通に美少女だ。柔らかい胸だってあるし、俺と子供だってつくれるはずだ。


しかし全くそれどころの心理状態ではない。本来なら状況を楽しみたかったところだが、それができるのはいつになることやらわからない。

もしかしたら一生そんな幸せな時期は訪れないかもしれない。何しろ情報が足りない。

この世界に関することを俺は何も知らないのだ。ただ幸いなのは文字は読めるという事。


俺はミシェルたちにこう断った。


「二人とも本当によくしてくれてありがとう。二人と同室で幸運だった」


「ああ、それはどうもな」


「俺は勉強をすることにする。こんな世界とはいえ、俺は未来が欲しい」


「そうだな。図書室ならすぐ近くだ」


二人へのあいさつもそこそこに、図書室に行ってみるとあまり人はいなかった。

もっぱら子供たちは外で遊んでいる。俺たちに教えてもこの孤児院側が都合悪くないような本が並べてあるのであろう、本棚を俺は物色して歴史の本を適当につまんだ。

そして机に広げて読み始める。その歴史については全部話していると長くてつまらなくなるので、ダイジェストで語ろう。


この大陸には昔から無数の国が群雄割拠していた。

当然、その時にもノイトラは存在し、差別され、奴隷にされている者が多かった。

だが"エルダーガルム帝国"という帝国が大陸を統一すると、それから百年ほどして何代目かの皇帝が奴隷制度の改革に着手し、奴隷制は撤廃。

この皇帝のもと、ノイトラは比較的まともに社会に出られるようになり、男性や女性とも法律上は対等に扱われた。

そのためか、この国の男性や女性は帝国からの独立記念日を喜んでいるのに対して、ノイトラの人は帝国統治時代を懐かしむことが多いのだという。


しかし時代というのは、文明というのは必ずしも時とともに進み続けるわけではない。

時には後戻りをしたり、以前出来ていたことがのちの時代では出来なかったりする。


二百年前、帝国は徐々に力を失って衰退し、一斉に傘下の国々が独立。

今俺が居る国"アルル王国"もその時に独立。奴隷制度が復活した。


といってもノイトラの人はどちらかというと体つきや体質が女の子寄りであることが多く、働き手としては男に比べて劣った。

そこで、同じく奴隷として買われたり連れ去られてきた男との子供を産む、奴隷生産のための役割を押し付けられたようだ。

しかしこの制度は上手くいかなかった。子供を育てるのにはコストがかかったので、あまり賢いやり方ではなかったのだ。


いよいよノイトラの人は使い道がなくなった。実を言うとノイトラは女にモテない。

女というのは自分より年収が劣る男と結婚することはまずないことは読者も当然知ってるだろう。

ノイトラは俺みたいな男寄りの個体は少ないらしい。

だから働き手としては女とほぼ同じで腕っぷしも非力なことが多く、守ってくれるような、頼りがいがないことが多い。


だから女にモテない。そしてノイトラも女はあまり好きじゃない。

これは、まさに今俺が上で説明した、女がノイトラを敬遠する理由と全く同じである。

つまり、この世界では男に生まれると、ノイトラと女の両者から需要があるため、割と異性に不自由しないことが多いようでうらやましい。


男からすればノイトラも女も大して変わりはないからな。

当然女とノイトラという二つの性別は、条件の良い魅力的な男を奪い合う犬猿の仲となるし、さほど条件がよくない男でも妥協してくれることも多いのだろう。

ここでややこしいのが、差別されてるノイトラと結婚して子供をこさえる男が結構いるという点だ。

そのため、差別されてる割にノイトラの数はそこまで減らず、一定数確実に存在している。


そもそも俺のような男寄りのノイトラが少ない原因がまさにこれだ。

ノイトラは女の子型で可愛い子のほうが、男と遺伝子を残しやすいので有利だ。

その結果、男型のノイトラが遺伝子を残す率を女型は大きく上回っているというわけだ。


ちなみに、ノイトラはノイトラにモテない。せっかく中性なのでノイトラ同士で子供が出来るのだが、ノイトラ同士での結婚は少ない。


ノイトラは女とは犬猿の仲であり、比較的男を好きな傾向がある。

つまり、俺のような男型のノイトラはこの世で最もモテない、ということがお分かりになっただろうか。

自分で言ってて悲しくなってきたわチクショウ。

生物学的にはこういった第三の性というのは自然淘汰され、残らないとされているそうです。

だけどまあ、ここはそういう設定を前提とした作品として大目に見て頂いて。

そのうえで、もしこういった性別が実際にあったら社会がどういう反応をするか、どういう性淘汰を受けるかは真剣に考察しました。

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