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転生したら人権のない被差別種族だった件  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
第一章 ボーイ・ミーツ・ボーイ
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第十九話 レッツワーキング!

それらが終わると、もうすでにアンリは下半身を箱に詰め終わっていたところだった。

あと言うまでもないが下半身は腰から上の部分がない。

ではつなぎ目のところがどうなっているかというと、当然これは機械だ。

培養液は実は水ではないのかもしれないが、ともかく機械部分は一切錆びついている様子はない。


未来の技術ってやつなんだろうか。俺の想像もつかないような技術なのだろう。


「トーマ様。あの木箱はどうされますか」


「もちろん俺が運ぶ。アンリ、一人で持てるか?」


「階段は一人で何とか。これを一人で坂道を下りながらはちょっと……」


「俺が先に行く。すぐ戻って手伝いに来る」


「わかりました。ではそのように……」


俺の担当の木箱は軽い。十キログラムもないだろう。

俺はこれをもって軽々と階段を上り、額に汗しながら走って司令室へたどり着いた。

そしてすぐ、待機要員の一人に指示をした。


「これを持って可及的速やかに帰れマリー」


「わ、私ですか。了解しました!」


「俺は戻ってアンリを手伝う。二人も一足先に帰っていてくれ」


「了解です。よかった、特にトラブルもなく終われましたね」


「そういう気の抜けたことを言うなよ。おうちに帰るまでが遠足だぞ」


「これ遠足だったんですか?」


「早く行け」


「はい」


俺は指令室に荷物を置くとすぐに戻ってアンリと二人で数十キログラムはあるであろう、大きい箱を持ちながら慎重に階段を上った。

そしてそのまま地上へ上がった。ここまで遭遇した人数はゼロ。運がいい。

はたから見ればまるで葬儀屋のような恰好をして俺たち二人は坂道を下り、汗をかきながら街を練り歩いていく。


もしかするとあの研究所の関係者が町中に紛れてるかもしれないが、だとしても俺たちを見て研究所から足を盗み出したとは思うまい。

何しろ、内部の人間でないと盗むことは普通に考えて不可能だからな。

俺自身でさえなんで盗めたのか未だにわからないくらいだ。

何より第三者がこんなものを盗むメリットが全くない。

しかしともかく積極的に攻めに出ただけあって収穫は思った以上にあった。下半身だけでなく武器までも手に入った。

これをエースに聞けば何か答えが得られるかもしれない。この武器だってとんでもない技術が詰め込まれていることだろう。


恐らくは親父たちですら知らない秘密だ。屋敷のすぐ前まできたところで俺は周りのノイトラ四名に言い含めておいた。


「ドラクスラーには俺から報告をしておくが、お前たちは武器のことは伏せていろ」


「承知しましたが……お父上にもでしょうか?」


「ああ。これは革命軍すらも知らないこと。今後何らかの交渉などで手札となりうる。

覚えておけ。俺たちは革命軍を一旦利用しているだけだ。

お互いに今はこうしておいたほうが利があるというだけの話だからな。

都合が悪くなればいつでも切り捨てられるように、なるべく速やかに体制を整えたい」


「ノイトラの解放はどうなさるおつもりですか。

我々はあなたが王だから……解放の戦士だから!」


「心配するな。俺たちは革命軍の一員じゃなくてあくまで手を取っている独立勢力だ、と確認しただけだ。

俺はもうとっくに戦いの運命にからめとられてるよ。戻る道はもう忘れた。

別に去る者は追わない。お前たちは俺の部下か、それとも革命軍に保護された子供か?」


「もちろんこの身は我が王に」


と真っ先に答え、次にほかの三人も一斉に言った。


「私はあなたの家臣です」


「私もですよ!」


「なんかカッコイイ! 私も独立勢力です!」


「ありがとう。謎の武器に関しては口外無用だ。

さて、あとはこの下半身を持ってくるだけであいつを蘇らせられるかどうか……」


俺たちは屋敷の門を開けて、引っ越し業者のように箱を運搬しながら前庭を横断して玄関をノックした。

出てきたのは怒った顔のミシェルと、話に聞いていたメイドさんだった。


「これはこれは。どうやら街で少し騒ぎを起こしてこられたようで。

一体その箱はどこから持ってきたんですか?」


「まあまあ、大目に見てよ。それよりメイドさん、革命軍と関係ある人なの?」


メイドさんは第一印象と同じく、冷たく返してくるかと思いきやちゃんと一から十まで答えてくれた。


「ええ。この屋敷の主人はこの港町を拠点に活動する富豪の商人でした。

その財産を相続した未亡人が今の主です」


「なるほど」


「ご主人様はもはや年老い、外出することさえも叶いません。

そして革命軍にそそのかされたのです。どうせ使い道のないお金なら、有意義なことに使ってみてはと」


「なんだか、革命軍が嫌いそうに聞こえるな」


もちろん嫌いだろう。革命軍のせいでこんな大人数の子供をほぼ一人で面倒見る羽目になっているのだからな。


「私はノイトラです。説明はこれで十分でしょうか」


「そっか。俺が周りからなんていわれてるか知ってるかメイドさん」


「ええ、解放の戦士、この世の救い主となるノイトラの王がやってきたと」


「腹が減っては戦が出来ぬっていうからな。お昼ごはん出来てる?」


「ご案内します。皆さんもどうぞ」


メイドさんは話の分かる人だ。俺はまずメイドさんに自分たちの部屋を見せてもらった。

きれいに片付けられており、調度品の数々もセンスはそんなによくもないが、孤児院と比べれば天国のような部屋だ。

何より一人部屋が用意されており、ベッドを一人で使わせてもらえるなんて最高だな。

そう思っていると、メイドさんはこう注意した。


「何かあったときはお申し付けください。

特にそのような怪しげな箱、見つからないようにするのが賢明ですね……」


「わかった、ベッドの下にでも隠しとく」


俺は例の箱をベッドの下のわずかな隙間にねじ込むと、すぐ部屋を出てメイドさんについていく。

一階のダイニングではすでにセシル、ミシェル、そしてずっと姿を見てなかったレオラが昼食を食べているところだった。

驚いたのはセシルだ。こいつのことを俺は今までちょっと誤解していた。


紳士なのだと思っていた。そのように教育されているのだと。

確かにそれは間違いではないかもしれない。

だが奴は、あとの二人に鼻の下を伸ばしている。

もちろんそれは比喩で実際にはその端正な顔は崩れてないが、やはりこいつ、生粋の女好きらしい。

なんで俺がちょっと嫉妬しなきゃならないのか、俺は理不尽を感じてムカつきながら三人に声をかけた。


「おーっす」


「あ、トーマじゃないか。まだご主人に挨拶もしてないのに何してたんだ……もしかして遊んでた?」


「楽しかったよ。俺もお腹すいた」


「あ、隣来る?」


とセシルは自分の隣の椅子をぽんぽんと手で叩いて俺を誘った。

すると不思議なことに、妙なことをミシェルが言い出した。


「私が行こう」


なんでだよ。と思ったが、レオラの隣が空いたので何となくそこに座らないと気持ちが悪いかと思い、俺はさっきまでミシェルが座っていた席に座った。

ほどなくして俺の部下、アンリ達が例の箱を部屋に運搬し終え、メイドさんに誘導されて部屋に入ってきた。


「あちらのテーブルをお使いください。私は主人をお連れしてまいります」


と言われたのでアンリ達は俺たち四人が座っている横に座った。

テーブルをはさんで向かい合わせに席があるため、アンリ達も縦と横、それぞれ二人ずつが四人で向かい合って座る形となっている。


ほどなくしてメイドさんはキュラキュラというキャスターの音とともに登場。

車いすを押しながら部屋に入ってきたメイドさんの姿に俺たちは絶句する。

車いすには人形のようなものが乗っているだけで、主人の老婦人がいないのだ。

俺はそれだけで、この屋敷の状況をあらかた理解してしまった。

ほかの面々もそこまで頭の回転が遅い連中ではなく、全員俺と同じく気づいた顔をしていた。


「そう……初めに言っておきます。この家の主人は半年ほど前に亡くなっております。

私が革命軍からの指示……何より、ご主人さまの生前からの希望で庭に埋葬いたしました」


「嘘だったのか、主人は家から出られない病状だというのは」


「決して嘘ではありませんが……」


「モノは言い様だな」


と俺は吐き捨てた。メイドさんは続ける。


「主人の願いは革命軍の皆様のお役に立つこと。あなた方が革命軍にとって必要な存在ならば、お世話をさせていただきます」


「もちろん必要だ。最初はちょっと驚いたけど面倒がなくていいじゃないか」


とセシルは信じられないことを言った。俺はそれには答えず質問する。


「俺の分の食事はいい。まだやることがあるから……」


俺が席を立とうとしたところ、意外に強い力で隣の席のレオラに腕を掴まれて制止をされた。

よくよく見ればレオラはむっちりと肉付きがよく、俺よりも体重が重そうなので、確かに下から捕まえられると俺も身動きが取れない。

と失礼なことを考えている俺にレオラは子供をあやすような声で言った。


「まあまあ、そうカッカしないで。ごはん食べないと元気でないよ?」


「放っとけよ。俺はお前の弟じゃない」


俺は手を振り払った。レオラの手は力が抜けていたので簡単に払えたのですぐに部屋を出て別の部屋へ向かった。

向かったのはアンリ達の部屋。ここは一人一人に個室とはいかないようでベッドが二つ。

ここにガラクタ女、エースがいた。そして俺が見つけるよりも先に向こうから声をかけてきた。


「見つかったのね、私の下半身」


「ああ。下半身があれば俺に……なんだっけ?」


「あなたと繋がることが出来るわ。眠っている力を呼び起こせるかも……」


「この部屋に運んできた。確認してくれ」


俺はアンリ達がついさっき運んできた箱を開けて一糸まとわぬ下半身を出して見せたところ、案の定エースが怒った。


「もう、女の子の下半身をそんな風にぞんざいに扱って、デリカシーがないんだから!」


「最初から服着てなかったんだからしょうがないだろ。

さあ、下半身見つけてきたぞ。まだほかに何が必要か?」


「いや。私の腕はまだ動く。十分だ、それさえもう少し近づけてくれればいい……」


恐る恐る下半身を上半身だけの女に近づけてみると、エースの右腕が動き、何かのコードのようなものが出てきた。

そして下半身の露出した機械部分をいじりだし、みるみるうちに下半身と上半身が一体化しだした。


「ふむ……少し気に入らない部分もあるけど我慢しよう、これでよし!」


「おっ、全盛期の力を取り戻したか?」


「トーマ、ありがとう。礼を言うわ」


エースはほぼ完全に裸の状態で立ち上がると俺に頭を下げた。

まばらに生えた髪が垂れる。


「お、おお。どういたしまして」


「どうやらあなたがそばにいる限り、私のエネルギーは尽きることがないようね。

もう少しここで生活していれば自然修復していけると思うわ」


「それはよかった。ところでさ、エース」


「どうしたの?」


「アンタ食べるもんも普通の人間とは違うだろ多分。食事持ってきてやるよ。

食べなきゃ傷も回復できないだろ。機械油か、金属片か?」


「あら優しいのね。確かに機械油、金属片の類は摂っておきたいところかしら。

多分何百年も摂ってないことだし。この家には多分ないわよね……」


「デートにでも行こうか?」


「色男の誘いは断れないわね。気持ちだけ受け取っておくわ……トーマは優しいね」


と言ってエースは俺の頭を金属だらけの手で少しだけ触れた。まるで撫でるように。

俺は残酷だっただろうか。こんな格好をしたやつを外へ連れていけるわけないのにデートだなんて冗談を言ったこと。

後悔や不安、様々な感情が渦巻きながらも俺はエースに言った。


「外でメシ、手に入れてきてやるよ。それまでにパンツでも履いててくれ」


「わかった。今までさんざん待ってきた。そのくらい待てるわ」


「悪いな。手に入れるって言って何のアテもないけど……でも責任はとる」


「え、責任? そんなセリフどこで覚えてきたのかしら」


「あ、そうだ。歩けるか? ちょっと俺の部屋に来てくれないか」


「うん」


エースは快諾して俺についてくれた。最初は歩けもしなかったところから偉く進歩したもので、裸で俺の後ろをついてくる。

上半身は機械がむき出しのわりに下半身だけ妙に艶めかしい上に裸なので目のやり場に困る。

俺が先頭でよかった。後ろでエースの尻を見ていたら変な気分になっていたところである。

二階の部屋にエースを入れると、ベッドの下にしまっておいた例の武具を見せてみた。


しかし意外なことにエースの口からはこのような言葉が出てきた。


「あら。何かしらこれ。私の武器……なの、これが?」


「えっ。これは下半身があった研究所からくすねてきたモンだ。

エースのものとしか考えられない。頼むぜ、記憶とか飛んでない?」


「飛んでないとは言えないわね。正直昔のことはかなり記憶がおぼろげなの。

武器のことは全然覚えていないわ。どうやって使うのかしら。

この引き金を引けばいいのかしら」


エースに武器を持たせてエースが引き金を引いてみるが、どうもロックがかかっていて引けないみたいだ。


「銃には安全装置ってのがあるらしい。それじゃない?」


「ダメね。ほかに操作できそうなボタンとかないし……」


「しょうがないな。とりあえず体が戻ってからまた試してみようか」


「ごめんね役に立てなくて」


「いいって」


俺は武器を箱に直してベッドの下に再度隠し、立ち上がってさらにこう言った。


「俺は外へ出てくる。俺の行方を聞かれたら、ドラクスラーなら知っていると答えてくれ」


「それ嘘じゃない」


「まあいいじゃんか。行ってくる」


「じゃあ行ってきますのチューしてあげる」


と言って、エースは金属でできた骨格の眼窩に目玉もなく、当然皮膚も唇もない顔を近づけてきた。

不思議と嫌ではなかった。抵抗もしなかった。

冷たい金属に唇を触れさせ、俺はまるで母親に送られて学校へ行く子供のように部屋を出た。

さっきまではセシルとメイドのせいで少し気分も悪かったが、それが嘘のように晴れやかな気分がしていた。


廊下を歩き、階段を下りる足取りも軽やかで、みんなが食事している部屋の横を通った時に何か言われたが気にもならなかった。

何のあてもなく外へ出た俺だが、少し思い出したことがあった。

それは工場に行かねばならないという思いであり、これは硫酸などの物質や機械油を手に入れる上でうってつけであると考えた。


当然そうなると盗むことになる。俺は盗みに関してはもうすでにやっちゃっているので、罪悪感など既にない。

犯罪ということで言えばこの世界のルールにおいて、人間への反逆を支持することができるノイトラの王である俺は、きっと存在自体が罪なのだ。

その上、革命軍という犯罪集団の幹部の息子となれば万事休すというやつだ。


とはいえ、あまり目立つようなことはすべきではない。目立ったら革命軍に危機が及ぶ。

盗むなら上手く盗まないとな。そう考えていると、次に俺はどうしようか、と思い、こう考えた。


この街にもゲットーがあるはずだ。ゲットーへ行こうと。

俺は道行くおじいさんを呼び止める。


「ねえおじいさん」


「んん……?」


おじいさんは耳が遠そうなので大き目の声で言ってみた。


「ゲットーへはどっちへ行けばいいですか?」


「南だよ。大きな門があるからすぐわかるさ」


「どうもありがとう」


「いいよ。あんまりノイトラの子が外へ出るなよ、さらわれるぞ」


「親切にどうも。じゃあね」


俺はおじいさんに軽く礼を言うと南へ向かう。

今午後で少しだけ日が西に傾いているので、南地区がどっちかはわかっているし、何より近くに見える川が目印だ。

大河は南北に流れているので、南側はどっちかすぐわかった。南へ行くと確かに高いゲートが見える。


そこに衛兵が立っていて、ぐるっと壁が張り巡らされているではないか。まさしくゲットーだ。

俺は衛兵に軽く会釈をし、ゲートの間を無遠慮に入っていった。ゲットーの中へ入った瞬間には懐かしい感覚が胸を駆け巡る。


ゲットーはどこでも同じなようで、軽く薄汚れていて、貧しくて女性のような姿をした人が非常に多い。

彼女らはすべてノイトラだろう。ここの人たちは普段仕事は何をしているだろうか。


貧しい女の職業としてすぐ思い当たるのはウェイトレス、家政婦、そして売春である。

だが、ノイトラだらけの場所では売春もできないだろう。

基本的にノイトラはノイトラに性的な欲求を覚えない。どちらかというと、男が好きという人が多いらしい。

またゲットーは貧乏人が多いのでメイドという線もないはずだ。

つまり彼女らはそれらとは別の仕事をしているに違いないのである。


確かにゲットー外ならばノイトラの売春婦を見かけることもあるかもしれないが、それは参考にはならない。

というのもだ。俺も詳しくは知らないが、こういった吹き溜まりのような街ではリサイクル業が盛んだ。

早い話ゴミの回収であったり、普通は人が捨ててしまうようなものを取り扱って商売をする。


例えばヨーロッパだと被差別民のロマ、あるいはユダヤ人といった人々がいるのをご存じだろうか。

特にユダヤ人などはお金持ちという印象があるかもしれないが、実はそれはごく一部の上澄みだけの話。

大抵のユダヤ人の先祖は昔、貧しかった。


彼らの仕事は普通の人が就かない職業が多く、特に金貸しなどが有名だが、肉屋が捨てた動物の臓物を調理して屋台で売るなど貧乏くさいことも歴史上やっていた。

奇しくも日本の身分制度やインドのカースト制度でも底辺層の人々が、肉屋が捨てた臓物を扱っていた。

という事例があるように、ノイトラも人々が捨てたゴミを再利用するなどして生計を立てているに違いないと睨んだわけである。


俺はゲットーを歩きながら、比較的若いノイトラに目を付けた。この人はこの真昼間に割と急ぎ足でゲットーの外へ出ようとしている。

とりあえず声をかけてみた。


「お姉さん仕事行くの?」


「あら見ない顔ね。どうしたの、ついてきたいの?」


好感触だ。結構ちゃんと対応してくれるので俺はグイグイと距離を詰めて行く。


「仕事何してるの?」


さすがに昼間に仕事に行こうとしているのだから売春婦じゃないだろう。

そう思った俺のカンは当たっていた。


「レストランよ。アナタけっこう可愛いし、来たら結構お客さん呼べるかもね?」


俺は仕事して金を稼ぐまっとうな生き方をこの世界でできると思ってはいなかった。

だが、このお姉さんについていけば日銭を稼げそうな感じがした。

何も盗まなくたって、お給金で金属片や機械油を買っても構いやしないだろう。


とは思ったが俺はお姉さんには断った。


「客商売って怖いなぁ。男の人とかも怖いし。リサイクル系の仕事とかない?」


「私は嫌よあんな仕事。すぐ機械油で汚れるしね。でも行きたいならゲットーのすぐそばの武器工場に行ってみなさい。

工場から出た廃材の金属を買ってくれる業者がいるし。まあオススメはしないけど……」


「ありがとうお姉さん。そこ行ってみるよ」


「頑張んなさいね」


「うん。それじゃあ」


俺は気を取り直し、お姉さんと別れて別の人に目を付けた。

そして油じみた服を着た二十代くらいのノイトラを発見しロックオン。

すぐにそばへ寄って行って、言った。


「お姉さん、工場に行くんでしょ。ついて行ってもいい?」


「どうせ行っても、子供は体力ないから追い返されるよ」


「行くよ俺。行かなきゃいけない。食わせなきゃいけない人がいるんだ」


「そう……私も母と二人で暮らしてる。いつか男の人と結婚して自由になりたいと思ってるけどでも……」


「でも?」


「こんな鉄と油の臭いがする私がお嫁にいけるわけないし、お母さんは私がいないと」


「結婚か……まあいいことあるってそのうち!」


「ありがとう……ついてきて」


ちょっとテンションは低いがその代わり敷居も低くて、割とすぐ心を開いてくれた優しいお姉さんに連れられて俺は入ってきたばかりのゲットーからまた出た。

そしてすぐそばにある武器工場の裏手のほうにやってきた。

ここにはお姉さんと同じ境遇と思われるノイトラたちが数名おり、彼女らの中心に一人の男がいた。


そしてその男の後ろにはうずたかく積まれた金属の山。金属油もありそうだった。

武器工場では大砲や銃の様々な部品を一手に製造しているようだが、その分不良品もたくさん出てしまっているらしい。

その処分代を節約し、ノイトラはわずかな儲けを得る。

一石二鳥というわけらしい。その作業工程はぼーっと見ているだけでほぼつかめた。

何も難しい作業ではない。工場勤務なのだろう男の指示に従い、ノイトラたちは失敗作の山から銃を抜き出してくる。


銃床など木製部分をそぎ落として分別し、木の部分はどうやらまとめて銭湯屋さんに安値でくれてやっているらしい。

金属の部分だが、これは失敗作をまた鋳溶かして、なんてやっているヒマはない。

ここには金属板が運ばれ、プレスなどを経て武器になっているだけで溶鉱炉などはないようだ。


そのため、クズ鉄は再利用されることなく業者に安値で渡る。これを分別し、運搬する作業をノイトラがやっている。

分別も簡単だった。俺は工場の男に話しかけたところ、「勝手にやってろ」との言葉をもらった。


要は許可が出たってことなのでほかのノイトラに混じって金属と木材を分別。

支給されたバケツ一杯の金属を近くの業者の敷地へ運び、わずかな対価をもらった。

これを半分工場に渡し、半分は俺の懐に入った。が、別にお金が欲しいわけではない。


第一もらった額じゃあ一日中働いてもその日の食費と家賃で吹き飛ぶ程度しかない。

俺は白昼堂々このくず鉄を盗むことにした。別に仕事の監督なんてまともにされていない。

バケツで金属を運ぶが、俺はだれにも気づかれないよう住んでる屋敷のそばを通り、前庭に金属をいくらか投げ込んだ。


これを何往復か繰り返して日が暮れてきたころ。

俺は昼食抜きで腹も減っていたし、監督の男が仕事を上がったこともあって仕事を切り上げた。

ほかのノイトラも日が暮れてきたので仕事を終わらせ、ゲットーへの家路につく。

そんな彼女らと一緒に仕事をしていた俺が、大きな屋敷へ消えていったら怪しまれるので俺はゲットーまではお姉さんたちと一緒に帰った。


「あ、忘れものしたわー」


などと白々しい演技をして俺はゲットーの門をくぐるかくぐらないか辺りで踵を返し街へ戻る。

そしてわずかな日銭を手に屋敷へ戻った。汗はそんなにかいてないが、手は機械油のせいで黒く汚れている。

その状態で屋敷へ帰り、前庭へ投げ込んでおいた金属片を回収、そして家に戻った。

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