第十八話 大怪盗スマッシュシスターズ
「一旦家へ戻りましょう」
とアンリに制止されて正気に戻った俺は、とりあえず屋敷へ戻り、水を浴びた。
すると頭の傷はふさがっていて別に水も傷にしみなかった。
俺はどうやらけっこう不死身らしい。それはある意味ではよかった。
俺というのはひどい運命に巻き込まれ、父親は危険人物で命を狙われている。
今も下手を打てば誰に何をされるかわからない。神とやらの影の政府に命を狙われているのかも。
そんな俺に不死身の体はありがたい。俺は水を浴びて屋敷にあった女の子用の服に着替えた。
この家には女しかいないし、ほかにいるのはノイトラだけなので、女物の服さえ用意してればよかったのだろう。
俺にリボンをつけたがる父と言い、これといい、どうもこの世界は俺に女装をさせたがる運命の修正力がある。
俺はそれに気づきながらも気にしないで身を任せ、またすぐに家を出た。
一見すると俺たちはただの四人で歩いている少女の集団に過ぎない。
変装は完璧だ。ただし、先頭を歩く俺の不愛想さに目をつぶればだが。
先頭の俺が無言で前をむいて歩き、後ろの四人は何も言わず、どこか怯えた顔をしてそれについていく。
普通若い女が四人も集まって道を歩けば、誰でも一度は見たことあると思うがやかましくて仕方がない。
その上横に広がって道幅を占領することこの上ないものである。
俺たちはすこぶる怪しい無口な女の子グループとして通行人に明確に認識されながら歩き、気が付けば一時間近くも歩いた。
やってきたのはこの街の中心地である中央の丘だった。
この街は東の果てに川と港がある。そしてそこから西へ行くごとに標高が上がり、ある地点をピークに逆に下がり始める。
つまり両端が低く中央が高いという地形になっているので中央へ向けて歩くと、直線距離ではそんなでもないが、坂なので結構時間がかかった。
俺たちはこの街の中央の高くなっている丘に登ってきた。これが何を意味するのか、俺は当然理解していた。
「みんな、革命軍の連中には悪いが、勝手に古代兵器のとこへ行っちゃおうか」
「えっ、トーマ様が探しておられたのは半身では?」
「というか半身って何なんですか?」
「半身と古代兵器はおそらくほぼ同じ場所にある。場所はこの下だ。
つまり、この少し高くなっている丘は、地下にスペースがあり、このスペースに巨大な核爆弾が格納されている、とみていい。
俺がこの古代兵器が眠るとされる街の中心へ半身を求めてきた、それが何よりの証拠だ」
「ここに爆弾が。しかし何のために爆弾が埋まっているのでしょうか」
「さあ。”神”が人類を管理しやすくするためか。何にせよろくな目的じゃないだろうな。
とにかく行くぞみんな。俺には位置が分かっている。道順までもはっきりと」
俺は街の中心の丘の頂上付近まで来ると、ここに不自然に立っている石造りの建物に目を付けた。
周囲の建物と文明レベルを合わせてきているようだが、どう見たっておかしいのはひとめでわかる。
ある種ずさんなやり方だ。なぜ見た目ですぐわかるかというと、その建物は見た目からして古さが尋常じゃないからだ。
その辺にある近くの建物はレンガ造りだったり石造りだったりするが、そこまで古いものはない。
が、どう見てもこの頂上付近にある用途不明の建物は築数千年は立っていようかという風化具合だ。
しかも周りは古い高木が森のように立ち並んでいて暗く、ここには近づくな、というメッセージが無言のうちに伝わってくる。
「本当に行くんですかトーマ様。政府とかに見つかったりしたら……」
「俺を信じろ。俺を誰だと思ってる?」
するとアンリ達は口をそろえていった。
「はっ、トーマ様はノイトラの王です!」
「そうだ。俺はお前たちに自由と、笑顔と、平和を与える。
こんな兵器を隠し持った”神”のような支配じゃなくて、もっと暖かな世界をな。
そのためには兵器……はどうでもいいが、地下に隠された半身を見つけることだ」
「わかりました……我々は王についてきます」
ちょっと強権的すぎるかもしれないとは思ったが、アンリ達にはこのくらいで丁度いいと思われた。
俺を王と呼ぶのなら、独裁上等。引っ張ってくれなければ不満に思うだろう。
森に囲まれた白い石造りの建物へと俺は無造作に近づき、ドアに手をかけた。
引いても押してもカギがかかっていて開かない。
「鍵が開いてませんね。ここはいったん退却したほうが……」
「慎重だなコロンビーヌ。ところでお前たち、ノイトラとして、放電が出来るか?」
「一応……ですが電気なんか起こしてどうするんです?」
「この扉を開ける。少し下がっていろ」
俺はどうやったら電気を出せるかは自分でもわからないが、とりあえず目の前の扉を電熱で溶解させることを思いついた。
取っ手をつかみながら体から思い切り放電するイメージで力んでみると、思ったより簡単に体から電気が流れた。
そして目もくらむような発光とともにすさまじい熱と衝撃波が発生し、俺はその場からほとんど吹き飛ばされるような感じで後ろへ飛び退いた。
「トーマ様、大丈夫ですか!」
と心配してきてくれたアンリたちだが、約一名コロンビーヌだけはその場から一歩も動いていなかった。
森の間を抜ける風に吹かれて小麦色の髪を後ろへなびかせながら、太陽よりも目を輝かせて言葉を失っていた。
「……これが王の……力……」
「いいやコロンビーヌ。王の力の一端に過ぎないよ」
「隊長。では王の本当の力とは……?」
とコロンビーヌ聞くとアンリはこう答えた。
「王の力はこの世のすべてを……ま、それより扉も開いた。進むとしよう」
俺の電熱はほんの一瞬の出力ではあったが、扉の鍵を融解させていた。
この扉は二枚の鉄板押すと開くようにできていて、その鉄板同士をつないでいるのがカギだ。
当然頑丈に作られた硬い鉄板が間に入っていたが、それは溶けて流れ、扉が新緑の空気を淀んだ地下空間いっぱいに吸い込んでいた。
中は暗闇、光は届かない。俺たちは中へ入っていった。
「あ、あの。王様。暗いんですけど!」
とメリーだかマリーだかどっちかわからない子が言ったが、それには俺がこう答えた。
「俺には見える。アンリ、お前も暗視ができるだろ?」
「ええ。お前たちは出来ないのか?」
「隊長と王様だけみたいですね……」
「アンリ、両手に花だ。マリーとミリーと手をつないでやれ」
「王の命令なら……」
と、アンリは渋々俺の言った通り後ろの二人の手を取り、俺は余ったコロンビーヌの手を引きながら階段を下りていく。
暗いので手を引いていても時折足を取られるものがありながらも俺たちは階段を下りて行った。
まあ地下施設なので当然だが。もはや後ろを振り返っても地上の光は天のようにしか見えないほど深くまで来てようやく次の扉が見えた。
こちらの扉に俺が手をかけるとあっさりと戸が開いた。
「中の警備は手薄なようだな。当然か」
「ええ。本来こんなところに来ても、誰にとっても得はないでしょうからね。
トーマ様、例の……エースとかいう女の下半身は見つかりますか?」
「近くにあるな。まだ人気はない……先に何がある?」
俺は扉を開けた先の部屋を見渡して状況を把握してみる。
この部屋は司令室のような感じになっていて、様々なものが置いてある。
大きなコンピュータ、施設内の放送設備のようなもの。コーヒーメーカーのようなもの。
着替え用のロッカー。防護服。白衣。まさにこの地下施設全体が研究所であることを示している。
が、この司令室のようなところに誰もいない以上、ほぼ間違いなくこの施設に人間はだれ一人いないと思われた。
普通、一番最初の扉を力づくで開けた時点でここは蜂の巣をつついたような大騒ぎになっているはずだからな。
ここがこれだけ暗くて静かであるということは本当に人が誰もいないということだろう。
「ふう。アンリ、明かりをつけられるか?」
「スイッチはこれでしょうか……」
アンリに指示すると部屋の明かりがついたのがわかった。俺はコロンビーヌの手を放し、ほかの二人にも指示をした。
「みんな、俺とアンリだけでいったん先へ進む。ここは明るくしとくから待機していろ」
「わかりました……」
と三人はほぼ同時に言った。もう怖い思いをして暗い中を進まなくてよいとわかって安堵したのが顔に出ている。
「僕もそれがいいと思います。悲鳴でも上げられたりしたら危ないですし」
「そこまでは言ってないだろ……」
「行きましょう我が王。この扉の先には階段でしょうか」
「いや……待てアンリ。見えるぞ。視界に……いや網膜に何か映っている」
「えっ、僕には何も見えませんが」
「私も見えないです。王様、何が見えるんでしょうか」
「待てよ……そうか。ダウンロードできるか。いや、出来るはずだ」
俺は一か八か網膜に移るインフォメーションをもとに司令室のコンピューターの前へ出た。
そして意味の分からない文字が表示される中、コンピューターのロックされた何かの蓋を解除する。
するとフタが開いてその下には手のひらの形をかたどった、何らかのパネルが現れた。
これに手を合わせればいいのかと合点した俺は周りの制止も聞かずに手を突っ込んでタッチをした。
すると手のひらにちょっとした痛みが走り、すぐ手を引っ込めるとわずかに血がにじんでいた。
細い針でわずかばかり刺されたという感じだ。アンリはこの人信じられない、と言った具合に目を細めて俺を見つめていた。
「トーマ様……僕は止めましたからね。どうなっても知りませんよ」
「うむ、完了した。マップがダウンロードできた」
「……?」
俺以外の五人はほぼ一斉に首をかしげたが、そうなるのも無理はない。
だって俺自身にも理解できていないのだ。なぜそうなったのか。
わかっているのは、恐らくさっきのパネルに手を触れたことが原因であること。
そして今の俺はこの施設のマップを隅々まで把握していること、それだけだった。
この施設は非常に複雑な造りになっているが、その最深部まで行く必要はない。
最深部には核燃料を搭載した爆弾が鎮座しており、近づくだけでも命の危険がある。
その最深部はこの司令室にある扉を抜けた先にあるエレベーターを使って降りるが、そこまで下りる必要はない。
ここを地下一階とすると地下三階の研究室に下半身が収められていることがわかっているからだ。
「アンリ、地下三階の研究室だ。下半身を奪ったらすぐに帰還するぞ」
「ええ。ですが下半身なんて目立ちそうですね。どうやって持ち運びましょう」
「それは考えてなかった。何とかしてくれ」
「しょうがないですね。では僕がケンタウロスを装います」
「お前そんなキャラだったか!? しまった、こんなことならエースを連れてきたらよかったな」
「冗談ですよ。マップがわかるのなら袋のようなものが置いてあるところを検索してみては?」
「ふむ、まあとりあえず行ってみてから考えるか。もう一回いうけど三人は待機だぞ」
「はい、再びご命令があるまでここを動きません」
「いい返事だコロンビーヌ。行ってくる」
俺はアンリを連れてさらに奥深くへ。司令室のいくつかある扉のうち、非常階段につながる扉を開けて二階分を下りて地下三階へ降りた。
ここからの道順は覚えている。地下施設は中央に卵型の大きな空洞が開いていて、その外周に設備が設けられている。
そしてそれがらせん状に連なり、はっきりとどこから地下三階でどこから地下四階というのもないのだが、エレベーターの止まる位置でおおよそ判断した。
地下三階の研究室らしき場所に”それ”があることは知っているので、アンリを置いていかんばかりの勢いで俺は歩き、すぐに目的の部屋に到着した。
「ここですか。カギは開きますか?」
「いや、そんなレベルのもんじゃないらしい」
「ですね、やっぱり……」
この世界は何度も言う通り十九世紀ぐらいの文明レベルだ。
自動車は走っていないし、飛行機も発明されていない。
ハーバー・ボッシュ法による窒素固定の発明もなされていない。
そのため戦争も使用される火薬量が少ないし、化学肥料がないので世界の人口密度も低いはず。
だがどうだろう。この地下施設の研究室の扉は何とも近未来的だ。
タッチパネルと扉があるばかりで、この扉は鍵などたぶんついてない。
地味な話だが電気が通っていて、地下施設自体、壁などの材質はコンクリートだろう。
扉は電子的なロックがなされていて、それ以外ではまず突破できないと思われる。
俺の電気ショックをもう一度使ってもいいが、体力消費的な心配があるし、何より電気ショックで機械が壊れて二度と扉が開かなくなったりしても困る。
どうしようかと迷いながらタッチパネルに手をかざしてみたところ、扉がいきなり話し出した。
「認証完了。”管理者権限”で実行します」
と言い出したかと思えば、扉がひとりでに開いた。
外の世界を知るアンリだからこのような技術があることは知っているだろうが、それでも驚愕の表情を隠しきれていなかった。
「毎度、トーマ様の底知れなさには驚かされるばかりです」
「俺もだ。理系はからっきしなんだけど……」
「あ、下半身ってあれでしょうか」
アンリの指さした先にそれはあった。上半身が朽ちた機械であったエースとは全く違う。
生々しい女性の下半身が培養液みたいなものを満たしたガラスの円柱の中に浮いていて、ここではとても言えないが、かなりグロい光景だ。
まあガラスじゃなくて強化アクリルとかかもしれないが、それはともかく、これはとてもじゃないが外に運びだして人目に触れさせるわけにはいかないと思われた。
「ど、どうしましょう。運ぶのも重そうですし何より見た目が……素っ裸の女性の下半身ですよ」
「毎度思うが、あの女の半身が何の研究の役に立つ?
よくわからないな。まあ俺たちにとっても別に役立つわけじゃあないけどな。
とにかく外へ出して運ぼう。アンリ、木箱とかないか?」
「そんな都合よく……ありました」
なんと部屋の中に木箱があった。開けてみるとこれがまた奇妙だ。
発泡ウレタンだろうか。ビロードだろうか。すべすべしていて寝心地のよさそうな肌触りがするうえ、ふかふかと柔らかい。
そんな素材で満たされた木箱の中に銃のようなものやその他、名状しがたい細々した機械類が入れられていた。
これらにはすべて”8”という番号が刻まれているのだが、それは俺にそう見えるだけで実は”∞”と書いてるのかもしれないが、そこについてはどっちか自信はない。
いずれも弾力ある生地にふんわりと優しくめり込んでいて、この箱をどんな高さから落としても中身は壊れなそうだ。
「中身を出して半身を詰めよう。あ、違うわ。ごめんアンリ。
あそこにモロこの下半身を運んできたらしき箱があるじゃないか」
「あ、ありましたね」
俺が部屋の中をうろちょろしながら見つけたのは研究室の机の下にある箱。
合成紙でできた分厚くて硬い紙の箱に半身を入れるようにとアンリに指示。
続いてすぐに俺は培養液の入った円柱に操作を加えた。操作は簡単だった。
ボタンを押して研究室内にあるコンピュータを起動し、”Drain”と書かれたボタンを押す。
それが”排水”という意味であることぐらいは俺でもわかるので押したら排水した。
すぐに円柱のようなモジュールに近づいてみる。
すると上のほうがフタになっていて開けることができた。
下半身は排水されたので円柱の中でべちゃぁっと無造作に落下しており、抱えるのも一苦労。
若干体がそのせいで濡れて薬品臭くなったが気にしない。俺は円柱を中から倒すと、これを抱えて脱出。
横倒しになった円柱を立て直してフタを閉め、すぐにコンピュータの電源を落とした。




