第十六話 お子様ランチ
「そんな荷を俺たち子どもに背負わせんなよ……」
「そう言うな。もっと自信をもて。言っておくが、古代兵器の類を入手することは確かに計画には入れていた。
だがあくまで保険。いや、むしろ囮だ。本命はお前。お前さえいればいい。
あとは野となれ山となれだ。もはや王政に喧嘩を売った。
神の遣わした天使をお前が懐柔しているそうだな?」
「そいつらはどうした」
「どうもしてないさ。部下に保護させている」
「そこへ俺を連れて行ってくれ」
「別にいいが、その前にもう少しだけ俺の話を聞いていけトーマ。
この街に俺たちがやってきたわけだが、お前にはセシルと組んでやってもらいたいことがある」
「古代兵器のところへ……か?」
「そうだ。話が早いな。俺たちも世界の果てでそれなりに色々と情報を仕入れたはいいが、まだまだ俺の知らんことはあるらしい。
機械の人間がいるとは聞いていなかった。そのエースとやらのお仲間もこの街にいるかもな」
「いるんじゃないか。たぶん」
「セシルと組んで古代兵器の保存現場へ行け。お前の力はすでに覚醒している。
造換塔へ行かずとも、ノイトラを従えることくらいは出来るんだろう。
ノイトラが共通して持っている能力、無から有を生み出す能力はどうだ。
そいつをお前が使えるだけでもずいぶん違うようだがな」
「無から有を生み出すってさぁ……半信半疑なんだよね。
ほかのやつも同じようなこと言ってたりするけど、俺以外のノイトラも誰もやってないじゃん」
「試しにやってみろ。お前が来たときのためにこいつを用意しておいた」
「え……」
親父が俺に手渡してきたのはどっかで見たようなリボンだった。親父はそれを俺の髪に結び付けて、こう続ける。
「お前の力は電力を生み出すはずだ。生み出せればこいつは光る」
「なんで俺をカワイくさせたいんだよ!」
と怒ってみたら、俺の頭の上から光が発せられたのがすぐにわかった。
部屋中が蛍光グリーンで明るく照らされ、俺は驚いて後ろにしりもちをつきそうになった。
「フッ、やはり持って生まれたか。王というだけあって力も申し分ない。
その分なら……いや、そうか。ふむ、興味深いな。お前の力はそれほどのものか」
「な、なんだよ。急に興奮しだして」
「すまん。おそらくお前の力は覚醒し、周囲にまで漏れ出しているのだろう。
道理で機械の女がお前が来たとたんに急に動き出したはずだ。
お前の力により電力……つまり動力が注入されたものだと考えられるな」
「そんなに……?」
「ああ。お前に意識して使えるのならそれに越したことはない。
それを応用することによってさまざまなことが出来るが、残念だがそれを教える人間がいない。
それができるノイトラはすべて世界の果てにいるからだな」
「そうか。世界の果てにノイトラはどのくらいいるんだ?」
「さあな。想像もつかない。俺たちは少ししか知らないからな。すぐに帰ってきた。
やむを得なかったんだ。その話はまた今度だ。さて、トーマ行くか」
「行くってどこに?」
「どこってお前、セシルと合流しろって言っただろ。お前場所知ってんのか?」
「おーいアンドレアス。あんたのところのボスが勝手に外出するぞ。いいの?」
「俺が代わろうか、ボス?」
「お前はアホウかジュリアン・アンドレアス?
父と息子が街を歩くのを、代わろうとする奴がどこにいる」
「お前……!」
どの口がほざいてるんだテメェ、アンドレアスはそう言いかけてやめた。
どうも比較的まじめな性格をしている彼に、親父は性格的に敵わない相手なのだと俺には思われた。
親父は常にその風みたいに優雅で爽やかな物腰を崩すことがない。
親父を覆う爽やかな風はあらゆる批判を受け流し、親父は自分がツッコミ不可避の非常識な言動をしていることを理解していても、その余裕の微笑みを崩さない。
この男はかなり無敵だ。突っ込んでも意味がない。
だからアンドレアスは一瞬反論もしかけたが、これを中断したのだ。
身にまとう雰囲気だけで相手を屈服させた親父は俺に手を差し出した。
「お前セシルと仲良いんだってな。会いに行きたいだろ?」
「ああ。それに親父の言うことが正しいならエースのそばに俺がいてやらなきゃ、いずれまた動力を失ってしまうんだろ」
「たぶんそうだと考えられる。だから行くぞ。アンドレアス、ご苦労だったな」
「あんたがボスだから指示には従う。だが言っておくぞ。
あんたがいての組織だが、あんたを切り捨ててでも組織を守らねばならない」
「好きにしろよ。さて行こうかトーマ。そういやお前、ノイトラにコマンド。
つまり命令を下せるんだったな。セシルと一緒にノイトラの子も何人か収容してるし、腕試ししてみるか」
「素直に自分の前で力を見せてほしいって言えよ」
「やれやれ、こいつの子守は大変だったろアンドレアス?」
「まったくだ。顔も見たくねぇ」
「口に気をつけろよ……俺の息子に向かって。てめぇ首にするぞ」
「理不尽か!」
と俺がツッコミを入れると親父はすぐに笑顔に戻って俺の手を取ってくれた。
そして階段を下りて外へ出ると、まずは親父がこういった。
「さて、お前も十二か。そろそろこういう話してもいいだろ」
「なんだよ、下ネタか?」
「まあそのようなもんだな。お前、女の子か男、どっちが好きなんだ?」
「さあ……最初はドキドキした気もするんだけど、胸のある子と一緒にお風呂入っても何とも思わなくなったよ……」
俺は男型のノイトラらしいので、男の部分もあるはずだが、その男の部分はもう半分の女の部分によって抑えられているのか。
不思議なほど女体に興味がなくなっていて、しかもそれが残念とも思えない。
重症である。かといって別に男が好きなわけではないので、親父の質問にハッキリとした答えを俺が出すことは現状不可能だった。
親父は煮え切らない答えを聞いても面白そうに頷くばかりだ。
「ふむ。まあ俺もその年ごろだとそんなもんだったかな。
女が好きだって答えたなら俺が女の落とし方でも教えてやろうかと……」
「女を不幸にするヤツの言うことは参考にならないね」
「手厳しい~!」
最低なんだ、こいつ。俺の毒舌にも完全におどけていて、母さんは死んだって俺、こいつにちゃんと教えたかなと不安になるレベルだ。
確かにせめて父親らしいことしようかな、とでも思って話しかけたんだろうが逆効果だ。
しかし親父はなおも父親らしいことを言おうとして続ける。
「まあ、あれだ。俺のこと嫌いなのもわかるけどな。二人のためを思えば会うわけにはいかなかったんだよ」
「危険人物だもんな」
「そうだぜ。王政も”神”も”天使たち”も俺の首を狙ってるんだ。
会うわけにはいかないだろ。わかってくれるか?」
「わかってるよ。ただ言っておくけど、俺はノイトラと人間の戦争の火ぶたを切ったりはしないからな。
俺のせいで誰かがたくさん死ぬなんて、受け止めきれないよ」
「そうか。では俺がこの革命軍てやつを率いている理由を教えてやろうか。
俺が王政と敵対し、神に仇をなす理由。俺には夢があるからだ」
「夢?」
「ああ。男も女もノイトラも、差別なく自由に生きられる世界を作ることだ。
そのためには、ノイトラ差別を意図的に生み出している王政を打倒しなければならない。
そしてその王政を操っている”神”と”影なる政府”も同罪だな。
そうして初めて自由が訪れる。だから、俺が狙っているのはあくまで上層部だけだ」
「だといいけど……」
「それにお前の力が本当の意味で覚醒したならば、もはやそのような次元の戦いは終わる。
お前は世界の救い主になれるんだ。その話は、”世界の果て”の造換塔へ着けたらまた話してやる」
「世界の果てか……っていうか世界の救い主って。重いって肩の荷が!
そんなもん息子に背負わせんなよ。誰かにやってもらえ!」
「まあまあ。しょうがないだろ他に代役がいねーんだから。
俺も詳しくは知らないが、造換塔には人間へ絶対服従する遺伝子が壊れたノイトラ。
つまりノイトラの王となれるお前のチカラが必要らしい……わかったな?」
「わかるか! とりあえず流れには逆らわずに身を任せてみるけどさ……」
「そうしとけ。いずれ……いや、もうすでに運命はお前をからめとっている。
なんなら生まれる前からな。さて、ついたぞ。ここでお子ちゃまたちを預かっている」
親父は何の変哲もないちょっと大きめの住宅街の屋敷の目の前で立ち止まった。
金属製の高さ数メートルの門があり、侵入者を拒んでおり、オオカミのような大きな犬まで飼っている。
と思ったが、俺は門の隙間からそのデカい犬が子供たちにもみくちゃにされて大喜びしているのを見てこの屋敷を怖がる気も失せた。
「おーいみんな。遊びに来たよ」
「あ、これはトーマ様」
声をかけるとアンリが一番先に門の前へ来て、その横にまだ俺が話をしたことのない、アンリの部下であるノイトラたち三人がそろった。
その三人は俺にぺこりと頭を下げ、矢継ぎ早にこう言ってきた。
「これはトーマ様。私はコロンビーヌと申します。
あなた様に出会えなければ私は一生”神”の兵士だったでしょう。
なんとお礼を言ってよろしいか。感謝いたします!」
とアンリの部下の一人コロンビーヌは門の隙間から手を伸ばしてきて俺の手をつかんできた。
その目はうるんでいて、手は女の子特有の柔らかさと高い体温で、ほんのちょっと俺はドキッとした。
「お、おお。どういたしまして」
「私はマリーです!」
「私はミリーです。間違えないでくださいねトーマ様」
「あ、ああ」
残ったアンリの部下の二人があいさつをしてくれたが、多分俺は覚えられない。
困惑して立ち尽くす俺の横で親父は軽く笑いながら言った。
「よかったなモテモテで」
「親父、何か指示をくれ。この後何をすればいい?」
「この後か? まあそうだな。今日はセシルと話でもしていろ。
明日はアンドレアスを先導とし、お前ら二人を古代兵器の現場へ案内する」
「そっか。明日何かわかったらまた……」
「ああ、しっかりやれよ。じゃあな」
親父はドライで爽やかな男なので、俺に手を少し振った後、振り返りもせずに俺に背中を向けて街へ消えていった。
そんな親父に対して俺は特に何の感情もなく、三人のノイトラに開けてもらった門から入り、その直後犬に吠えられた。
「コラッ! ダメでしょあの方に吠えちゃ!」
「バカ犬ッ!」
などと三人にどやされた犬は番犬としての役割を中断し、小屋に戻って丸くなった。
季節は秋口、毛だらけの犬にとっては過ごしやすいであろう適度な寒さだ。
前庭に生えた木々がそれぞれに実をつけている。実に裕福そうなこの家に期待を膨らませて家の中へ入ってみた。
すぐにアンリとセシルが出迎えてくれたので俺はあいさつもそこそこに聞いた。
「セシル、この家の主人はどこに行ってる? あいさつの一つもしときたいんだけど……」
「主人か。お年を召した婦人とメイドさんが一人ずつだね。
それより聞いたよ。すごいじゃないかトーマ。君、ノイトラの王なんだって?」
「メイドさん一人でおばちゃんとたくさんの子供の世話するのか……で、俺が王だったらどうした?」
「見せてみてよ。君にはすごい力が眠ってるんだって?」
するとすぐさまアンリたち”天使”によるブーイングが起こった。
「馬鹿野郎!」
「トーマ様を愚弄するか!」
「そんなことを試してはならない」
「ノリが軽いぞ君」
「ぼ、僕はそんな……軽い気持ちで……」
と涙目になってまともに反論できないセシルを見かねた俺はこう言った。
「わかった。けどいいかセシル。もう実感してるだろうけど、この四人は別に俺の王の力を使わなくたって命令を聞きそうだろ」
「確かに、それもそうだね」




