第一話 残酷な世界で
転生したらスライムだった件。などのように、俺も生まれ変わったら、なんだかんだで楽しい人生が待っている。
そんな風に思っていた時期が俺にもありました。俺は、地獄にいる。
一体何から話したものか。正直俺もまだ心の整理がついていない。だが、とりあえず自己紹介をしておこう。
俺は生前、戦後の日本に生まれ、決して裕福ではないが、決して貧困でもない家庭に育った。
上を見たらキリがないが、日本の中の下程度の家庭に生まれたなら、世界的に見て勝ち組もいいところだ。
過去何億人、あるいは未来の何億人と比べてもまずまず当たりと言っていい人生だったと思う。
だが俺はそれを活かすことはできなかった。学校ではいじめられ、親以外の誰からも愛されず、蔑まれる。
否定はされるが、肯定はされない。俺は差別を受ける側だった。肌が黒いとか、病気を持っているとかではない。
俺は俺だから差別されていた。無能で、嫌われ者だったからだ。
そんな孤独と差別は無気力な腑抜けを生み出した。
三流大学を出て三流企業に就職したが、相変わらず無気力で人生がただただ息苦しかった。
そんな時だった。会社の車を運転していると不慮の事故を起こした。
それで俺は死んだ、そのはずだった。
ところが俺は次に目覚めたとき、ベッドの中にいた。病院に運ばれたのだと思って安心した。
涙がこぼれた。今まで生きてきて、いいことなんか一つもなかったのに、この命がまだ続いていることに心の底から安堵した。
生きていたい。まだ死にたくない。見たいアニメがある。まだ読んでない漫画の最終回が残っている。
そう思ってベッドから起き上がる。中は薄暗く、外の部屋から漏れる明かりで辛うじて部屋の様子が視認できた。
病院じゃあない、とすぐにわかった。部屋を出て明かりのついた部屋のほうへ行ってみると知らない中年の夫婦らしき二人がいた。
そこからはもう言うまでもないだろう。
「う、うるさかった? ごめんねトーマ」
トーマというのが俺の名前だと何故か瞬時に分かった気がした。
そして俺を気遣った母親らしき女性の後、父親風の男が言ってきた。
「お前ももう十二歳になるな。いい加減子ども扱いするのはやめよう。父さんと母さんの話聞こえたか?」
「い、いや……」
「そうか。今、お前を施設に入れる話をしていたんだ」
絶望、まさにそれしかなかった。今から俺は捨てられる。自分は子供だ、と理解した直後にだ。
「そ、そんな……」
「仕方がないだろう。お前を拾ったときからそうすると決めていた。法律で決まってるからな」
「え?」
「いいこと? あなたは被差別種族の子なの。だから施設へ行って教育されるのよ」
俺は何も反論できなかった。俺の人生には山もなければ谷もなかった。ずっと低空飛行を続けていた。
だが今回は違う。どうやら俺はとてつもないハードモード人生を引き当ててしまったらしい。
翌日、俺は両親とともに徒歩で出かけた。街中は現代日本に慣れた俺には全く見慣れない土地柄をよく表していた。
家々はレンガ、もしくは石造りだし、地面も石畳だ。高い壁が街を覆い、その上には大砲などが設置されている。
戦争なんて遠い世界の出来事と思って過ごしてきた二十数年間の人生からは考えられない物々しい雰囲気だった。
戦争と死が身近にある世界。そして俺は被差別種族だとかいう話だ。なんてタイミングだ。あまりにひどい。
その後施設とやらに俺はたどりついた。その施設は「マリアンヌの家」などという看板が掲げられた孤児院のようだった。
見慣れない文字だったが簡単に読めた。聞くところによると昔の人は識字率が低かったらしいが、俺の両親はまともな教育を施してくれるいい人なのだろう。
「こんにちはシスター。お久しぶりです」
父が帽子をとってあいさつする。おそらくマリアンヌの家、というからには、施設から現れたシスターという女性の名前がマリアンヌなのだろう。
シスターは深く両親にお辞儀をした。
「お久しぶりです、オットマンさま。今回はこの子が……?」
「ええ、よろしくお願いいたします」
「承りました。神様もお喜びになるでしょう、この尊い善行に。お名前は?」
俺はシスターに名前を聞かれたので仕方なく言った。
「トーマ……のはずです」
「偉いわね、ちゃんと自分の名前言えたわね。さあいらっしゃい、お友達が待ってるわ」
俺は十二歳男子だ。身長だってシスターと変わりないのに、これはいくらなんでも子ども扱いしすぎである。
被差別種族である、と言われたことをこうも早くに実感することになって俺は涙が出そうだった。
続いてシスターに施設を案内してもらった。施設はまあまあの広さだ。
入り口を入ってすぐが運動場になっていて子供がいくらか遊んでいる。
この運動場は円形になっていて、その中央を回廊が通っているので半円状の運動場が二つ存在する、とも言える。
運動場を抜けるとまた長い一本道の廊下で、その左右には部屋があり、ベッドが置かれているのでどれも寝室だ。
そしてシスターは新入りの俺に、トイレや食堂、勉強のための教室、それに俺が寝る寝室などを案内する途中色々と教えてくれた。
「いいこと、トーマ君。あなたは"ノイトラ"の子供なのよ、だから教育が必要なの」
「はい?」
「男性と女性が結婚して子供を産むのは知っているわよね?」
「一応、そう聞いてますけど」
と、俺は実践したことがないので、正直に答えた。
するとシスターは頭がおかしくなりそうな話をし始めた。以下は原文ママだ。
「そうね、普通の男女からもノイトラの子供が稀に生まれることがあってね。
それにノイトラの人と結婚したら子供は高い確率でノイトラになる。
ノイトラの人と血が近いほど、ノイトラの子が出来る可能性が高まるのよ。
ノイトラの人同士が結婚しても、普通の男の子や女の子が出来ることもあるけどね」
言っている意味がわからなかったが、「普通の男の子」などと言った言葉の端々からシスターはやはり俺を見下し、差別していることは伝わってきた。
「いやあの、ノイトラってなに?」
「中性とも言うわね。ノイトラの人は男性と女性、どちらとも子供を作れるし、ノイトラの人同士でも作れるわ。
でもね、神様はご自分の姿に似せた男性をまず生み出し、その肋骨から女性を作ったの。
そうして最初の人から徐々に増えてったわけなんだけど、そんな中、悪魔が一人の人をそそのかしたの」
なんだか聞いたことのあるストーリーな気がするが、俺は黙って聞いていた。
「悪魔は、みだらな性をよしとした。神様が許していない悪徳を神の子である人に教え、みだらな体にしたのよ。
だからノイトラの人が生まれた……男女どちらとでも子供を作れるようになったのよ」
俺は色々と納得することができた。そして次にシスターに聞いてみた。
「シスター。あの、俺の両親なんだけど、俺以外にも養子をここに預けたことがあるの?」
「以前に二人ほど。二人とも今この施設にはいないわね。ここは十八になったら出ることになるわ。
トーマ君、あなたもそこへ行くのよ。軍隊としてお国に奉仕するのよ」
「どうせ、それ以外に道はないんでしょ」
「喜ぶべきよ。悪魔に魅入られてみだらな体にされたの、でもお国のために役に立てる道はあるわ!」
シスターは盛んにみだら、みだらと言う。要するに俺たちノイトラへのイメージが、みだらという事なのだ。
確かに、全ての人間との生殖が出来る第三の性別をもつ人間ということなら、まあそう考えるのも無理はない。
でも考えてみると、別に男だって、女だけでなく男同士でもやろうと思えばやれる。
このことから見ても明らかに不当な差別だ、少なくとも別に俺はシスターに欲情したりはしていない。
確かにまあまあ綺麗な人だが。少なくとも俺は普通の男と比べてみだらではない。
こういった話を聞いて俺は不愉快になり、シスターにぶすっとした顔で聞いた。
「俺の寝室どこ?」
「あ、今紹介しようと思っていたところよ。右手の部屋の一番奥の二段ベッド、その上を使いなさい」
「はい」
「あとはもう自由にしていていいわ。あ、でも同室の子とは仲良くするように」
「わかりました……」
同室の子である、ということはそいつらもノイトラであるに違いない。
俺は、自分がそうであるとはあまり実感がないのでそいつらに会って確かめてみる事に。
中へ入ると四人部屋になっているらしく二段ベッドが二つある簡素な寝室。
窓と勉強机、そして小さな戸棚がある以外は何もない部屋で二人の同居人がこっちを見ていた。
次に起こした俺の行動を語る前にその二人組について説明をきっちりと細大漏らさずしておかなくてはならないだろう。
さっきシスターが説明した俺の寝るベッドの下の段に座って二人組が並んでいる。仲良しらしい。
しかし二人とも中性的で、どちらかというと女の子っぽい感じだ。二人とも骨格からして華奢な感じがする。
俺は自分の姿を鏡やガラスに映る像を見ていたので知っているが、中性のノイトラとはいっても比較的男の子よりだ。
ノイトラにも男の子寄りの個体と女の子っぽい個体がいるのだな、と納得した俺。
ちなみに背の高い方は胸が小さめなのに対して背の小さい方は大きめなのだが、身長が低い方が胸は大きく見えやすいらしいので、これは何とも言えない。
二人は喋りかけてこないので舐められないよう、俺は先手を打った。
「この部屋のもう一人はどうした」
四人部屋ならばもう一人はどっかにいるはずだ。これには背の高い方の子が答えた。
「新入りか。歓迎するよ」
※ここで本編終了。興味ない方は飛ばしてください。
こちらは主人公・トーマ君の表情集です。
まあ、だからといってどうということはないですけどね。
こんなとこ転生したくねー。




