2-10 入学テストの解答内容 〜ゼラ〜
「えへへへへ〜」
ミミリの透き通るような白い肌は、ほんのりピンク色に染められていく。
ミミリは、くま先生から返された木箱の中に詰まったたくさんの錬金素材アイテム、ぷるゼラチンを見ては、満足気にニッコリ微笑むのを繰り返す。
ミミリの幸せは止まらない。
ゼラは同じ轍を踏んでミミリを再び怒らせてしまったことを激しく後悔したが、くま先生のクサいキザなセリフで事なきを得た。更にはミミリの機嫌が直ったタイミングでぷるゼラチンを返してくれたので、ミミリはたちまち上機嫌になった。
くま先生は、明らかに女性の扱いに長けている。
いや、そのような言い方は失礼かもしれない。
紳士的な女性への接し方を心得ていると言った方が丁寧だろう。
「これが大人の男性ってヤツか……」
と、ゼラはボソリと呟いてしまい、ハッと気づくがもう手遅れだった。
「な〜に〜? ゼラ、ちょっぴり悔しかったりするわけ?」
からかってやろう、という気満々のうさみ。
短い灰色の腕も足も組み、小鼻を上げてミミリ越しにゼラを見ている。
しかしゼラは反抗する気すら起きない。
「悔しいとかっていう感情ではないな。キザなセリフは置いておいて、紳士的な振る舞いとは何か、学ぶべきところがたくさんあるな」
「あら? 殊勝なこと言っちゃって。ん〜、まぁ、私もからかいすぎた節はあるけど、ゼラはゼラのいいところ、たくさんあるわよ?」
「どんなところだよ?」
「はちみつパンケーキは絶品ね」
「それ、紳士的な振る舞いじゃなくて料理の振る舞いだから!」
「あら、よくわかったわね?」
「……ったく、あんまりからかうなよな?」
うさみとゼラの掛け合いは、ミミリの耳には入ってこない。
ミミリの頭の中は、ぷるゼラチンから派生させる新たな錬成レシピのことばかり。
「まずはみずまんじゅうでしょ、あとは何を作ろう……」
くま先生は、三者三様の生徒たちにフフッと笑ってしまう。
久しぶりに現れた審判の関所の挑戦者に、胸を躍らすのはくま先生も一緒。
授業中だというのに、ゆるい雰囲気となってしまった生徒たちへの、審判もどうしても甘くなってしまう。
「コホン‼︎ そろそろいいですか? 授業に戻りましょう」
くま先生は咳払いして自分を律し、生徒たちの集中力も引き戻す。
「ミミリさんは、一旦ぷるゼラチンを【マジックバッグ】の中にしまいましょう」
「はぁい……」
ミミリのワンピースの猫耳としっぽは、しょんぼり気味に項垂れた。
ミミリを挟んで座るうさみとゼラは、その様子に思わずクスクスと笑ってしまう。
ーードムッドムッ!
切り替えを促す、くま先生が手を叩く音。
ミミリたちは、教壇に立つくま先生に集中した。
「では、入学テストの採点結果を発表します。まず、ゼラくんから!」
「ハ、ハイッ」
「個人情報ではありますが、パーティーの仲間の知識の程度をお互いに知ることも大事です。公表しますが、よろしいですか?」
「ハッ、ハイッ! ……アッ! ……仕方ない、腹を括るか……」
くま先生は、ゼラのテストを緑の板書に張り出した。
『森のくま先生の錬金術士の錬成学校〜入学テスト〜
名前:ゼラ
第一問(記述問題)
汎用性の高い【ミール液】を錬成するために必要な錬金素材アイテムの名前は?
答:ミール液の素?
(お湯を注げは出来上がるみたいな、そういうイメージです‼︎ 【ミンティーの結晶】は即席のお茶の素ですよね? そんなイメージです‼︎)
第二問(記述問題)
戦闘アイテムにおいて使用頻度の高い【睡眠薬】。必要な錬金素材アイテムの名前は?
答:ホットミルク?それとも白湯?
(カフェインを含むものではないと思います! 自分が寝る前に飲むのは白湯ですが、一般的にはホットミルクかもしれません!)
第三問(択一問題)
アイテム錬成には、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。では、次のうち不要なものは?
1 温度管理
2 MP管理
3 工程管理
4 探究心
5 熱い心
答:どれも必要そうなので検討もつきません。
(ですが、ミミリが錬成の様子を見ていると5の熱い心ではないような……。ミミリはいつも穏やかな心で錬成しているからです。だからわからないけど、強いて言うなら、5の熱い心?)
第四問(択一問題)
味覚だけでなく嗅覚、視覚、心をも虜にする【魅惑の香辛料】。次の錬金素材アイテムに加えて、後一つ必要なものは?
・魅惑のスパイス(赤)
・魅惑のスパイス(黄)
・魅惑のスパイス(オレンジ)
・【ミール液】
・?????
1 【雷電石の粉末】
2 【火薬草の結晶】
3 【ミンティーの結晶】
4 【しずく草の原液】
5 【陽だまりの薬湯】
答:5の【陽だまりの薬湯】のような気がします。
(ミミリの作る【陽だまりの薬湯】はとても美味しいです! しょうがとはちみつがよく効いています。そこまで深くない傷だったらたちまち癒えますよ? 先生も飲んでみてはいかがですか? ……ってこれテストでしたね。ミミリの錬成アイテムのオススメしちゃいましたけれど。でも先生!うちのミミリはすごいですよ!)
問題は以上です。お疲れ様でした!』
「どうですか皆さん。ゼラくんは錬金術士ではないそうですが、よく問題と向き合って、よく考えて解答していますね。」
くま先生は生徒たちの反応を見ると、やはり三者三様だった。
ゼラは、腹を括りきれずに羞恥心から両手で顔面を押さえている。よほど恥ずかしかったのだろうか、耳たぶまで真っ赤になってしまっている。
必要なことではあったとはいえ、くま先生はゼラの問題用紙を白日の元に晒してしまったことを申し訳なく思った。
ミミリはゼラが真摯にテストと向き合い解答したことに感動を覚えるもの、ゼラの問題用紙の中で自分が褒められているとは思わずに、顔を真っ赤にして両手で頬を押さえている。
そしてうさみはというと、こらえることもなく吹き出して大笑いしている。
「ゼラ、アンタの夜寝る前の飲み物の話なんて聞いてないわよ! ひー! 笑いすぎてお腹痛い」
うさみは片手でお腹を押さえて、もう一方の手で口を押さえて大笑いして忙しそうだ。
「もう、ダメだよ、うさみ。からかったら。ゼラくん、一生懸命書いたんだから。……それに私は、ホットミルク派だから、ゼラくんの言いたかったこともわかるよ? ね、ゼラくん?」
「ミミリ、ありがとう、と言いたいところだけど、かなり傷を抉るコメントだぞそれは……」
「……! そうか、ごめんね。やっぱり知ってるよね。 ……本当はホットチョコレートの日もあるの」
「グハァッ!」
ミミリの悪意のない一言がゼラの羞恥心にトドメを刺した。
「俺は何で、夜寝る前の飲み物について解答してしまったんだ……」
「ひー‼︎ お腹痛い〜!」
「もー! うさみってばー!」
やはり三者三様の生徒らを見て、くま先生は目を細めてフフッと笑う。
「貴方たちのパーティーの仲のよさが、手に取るように伝わってきますよ」
そう言いながら、くま先生は次の問題用紙を緑の板書に張り出した。
「ーーこれは‼︎」
次に公開されたのは、うさみの問題用紙だった。
ゼラは思わず、息をのむ。
「ふふん、私ってば、魔法だけじゃなくて絵も上手なのよねん」
うさみは誇らしげに、胸を張って時を待つ。
絵も上手だと自負するうさみには、拍手喝采を浴びる未来しか見えなかった。
ゼラは一生懸命な子です。
暖かい目で見守っていただけると嬉しいです。
次話は明日の投稿を予定しています。
よろしくお願いいたします。
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うさみち




