2-8 成長したゼラとさすがのミミリ
四方八方の大砲に照準を合わせられたゼラはまさに四面楚歌。
ゼラは頭の中で危機脱出の選択肢を模索する。
……敵対心をこれでもかってほど集めて砲弾の発射とともに不規則に動き回るか?いや、計算して動かないとミミリたちのドームに集中砲火されるかもしれない。
……一か八か、大怪我覚悟で全弾被弾するか?いや、命懸けだなそれは。俺が倒れたら、ミミリたちがやられるかもしれない。
ゼラは常に背中をドームへ向けて戦っていたことを今更ながらに後悔した。
敵対心を集めるゼラを囲むぷるぷるたちに背後を取られないよう、ミミリたちに背中を託していたつもりが、彼女たちを危険な目に遭わせてしまうとは。
「ゼラ! 早く中に入んなさい! 私の意志でアンタはこのドームを通過できる!」
「ーー‼︎」
ゼラはうさみの助け舟にありがたく乗った。
全神経を脚に集中させ、前傾姿勢で駆け出した。ドームにぶつかる寸前で少し躊躇するも、目元を手の甲で軽く覆っただけで、うさみを信じて頭から突っ込む。
「ーー‼︎」
ーーシュン!
うさみの言うとおり、ドームの壁に拒まれることなく通過したゼラ。
うさみを信じていたものの、無意識に身体を張っていたようだ。ドームを通過した瞬間に足がもたつき、その場でつまづき転んでしまう。
「痛ッテェ!」
「大丈夫? ゼラくん」
ミミリはゼラに駆け寄って、腕をミミリの肩へ回させ担いで起こそうとする。
「うっ、お、お、重た……」
ミミリはゼラを支えきれずに、ゼラを道連れにぺしゃんと尻もちをついた。
「いたた〜」
「イテッ!」
緊張感があるようでない2人を呆れ顔でチラ見するうさみ。
とりあえずゼラにかけた剣聖の逆鱗を解除して、囲まれた大砲から撃たれようとしている砲弾に身構えた。
「守護神の庇護! うっ、キツい……」
防御魔法の重複展開。
灰色の石像の背後にもう1体の石像が現れ、ミミリたちを囲むドームを更に新しいドームが囲った。
「ーー! うさみ、無理しないで!」
ミミリは尻もち姿勢から腰を上げ、うさみの小さな背中に向かって言う。
いくらうさみが凄腕の魔法使いでも、数多のぷるぷる砲を受け切るには負荷が過ぎる。
ゼラも続けて声をかけようとしたその時、うさみの頼もしさは背中で語られた。
「言ったでしょ、貴方たちは私が守るって」
うさみは小さな身体の毛を逆立て、ぷるぷる砲を向かい受ける覚悟を口にした。
「クソッ、俺が敵対心を集めて空高く跳べたら、ミミリたちが的になることもないだろうに」
言ってゼラは、片膝をついて拳を握る。
「……敵対心、空、高く……。ーー‼︎」
ミミリはゼラの言葉を部分的に復唱しながら打開策はないか考えを巡らせた。
途端、ミミリの表情は強気に変わる。
……いけるかも‼︎
「ぷっぷぷーー‼︎」
「ぷぷー‼︎」
砲手ぷるの掛け声とともに、発射準備を整えるぷるぷるたち。どうやら一斉に砲撃するつもりのようだ。
「やばい、俺がやっぱりドームの外に出るから……」
と、ゼラが言いかけたのを視線で静止するミミリは、ゼラの言葉に被せるように、決意固くうさみに言う。
「うさみ! 真上に向かって投げるから、これに剣聖の逆鱗かけて!」
「エェッ⁉︎」
ミミリは中腰のまま【マジックバッグ】の中に両手を突っ込み、つかんだアイテムを思いきり真上に二つ投げた。
「いっくよー! えーいっ!」
「わわわ、なんだかよくわかんないけど、剣聖の逆鱗! ……うっ」
うさみに認識されたアイテムは、二層のドームを通過し真上に放たれた。
当のうさみは、相次ぐ魔法の重複展開で足元がふらつく。これ以上の負荷は限界のようだ。
「ぷぷっ⁉︎」
砲手ぷるたちの目を惹く、大きな三日月のみが特徴的な紺一色の背景に打ち上げられた、二筋の光。
金と、赤。
筋を描きながら天へ昇る鮮やかな二色の光に、周りを囲む砲手ぷるたちの敵対心は向く。
砲手ぷるたちは、瞬時に標的を変え、一斉に発射した。
「ぷー!」
「ぷぷー!」
……ドン!
……ドン!
……ドドドドドーン‼︎
白煙とともに、砲口から放たれるぷる砲弾。
そのスピードで、白煙を纏った砲弾は、白いベールを瞬時に突き抜ける。
「どんと来いよ‼︎ ……エッ?」
ドームに撃たれるものかと思って身構えていたうさみは、半信半疑で天を仰ぐ。
円周上に等間隔に配備された砲台から発射されたぷる砲弾は、弧を描いて頭上の二点の光とぶつかった。
「や、やったぁ‼︎」
ーーピカッ‼︎
ーーゴロゴロゴロゴロ…‼︎
ぶつかった焦点から放たれる鮮烈な白光。
ぷる砲弾の体内で血走る雷鳴。
ミミリが狙ったとおりだった。
ミミリは罪悪感を抱きながら、ギュッと【絶縁の軍手】をはめた両手を固く握る。
「ぷー……」
数多のぷる砲弾は、落ちゆく過程で内なる高電圧に表皮が破け、大きな三日月を背景に、ドームの頭上で蒸発した。
……ポテッ、ポテッ。
ぷる砲弾の代わりに降り注ぐのは、討伐成功を告げる、パステルカラーのドロップアイテム。
ミミリたちは、
・ぷるゼラチン(各色)
を手に入れた。
「うさみ! ドーム、一つ解除だ!」
うさみがミミリの機転に驚く最中、ゼラはうさみに指示を出す。
ゼラの指示通りに防御魔法が解かれるタイミングで、一重になったドームをすり抜けていくゼラ。今度は顔を覆わなかった。
ゼラは地に落ちた色彩豊かなドロップアイテムを踏まないよう配慮しながら、隙間を縫うようにかけてゆく。
握る短剣には、雷電を纏わせて。
砲手ぷるは、瞬く間にゼラの斬撃に駆られていった。
そうしてゼラがドームを取り囲む砲台を一周したころには、紺色の床面に散らされたパステルカラーのぷるゼラチンによって、『三日月の反省部屋』による、ペナルティの終了が告げられた。
「アンタたち、カッコいいじゃない!」
全ての魔法を解除して、小さな身体に背負った2人分の命も漸く地に下ろし、ほうっと身体の緊張を解いたうさみの、心からの褒め言葉。
「うさみも、お疲れ様! 重複魔法すごかったよ! それにゼラくんも、カッコよかったぁ」
「ミミリこそ。いつもながらに感心するけど、閃きの瞬発力がすごいよな。うさみも、今日もカッコよかった!」
緊張が解けたのか、2人は一緒に大きなため息をついて、そして顔を見合わせふわっと笑う。
「まったく、いい顔しちゃって」
2人の安堵混じりの穏やかな笑顔は、『三日月の反省部屋』の大きな三日月とパステルカラーのぷるゼラチンに彩られた幻想的な空間によく映えた。
ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ‼︎
「なっ、また⁉︎」
ぷるぷるペナルティの終了から、一息つく間も与えられず、再び身体の中まで振動が伝わる、鳴り響く地響き。
ーーそれはまるで、時間の巻き戻し。
突如、地面が大きく揺れる。
地の中央に再び現れた大きな黒い穴。
渦を巻く底闇から、吸い込まれたはずの椅子や机が、原形を無くしてグニャリと吐き出された。
そして世界は全ての色彩を取り戻す。
引きちぎられたように割られた緑の板書も、亀裂が及んで破りちぎられたかのようだった教室も、元からそこにあったかのように全てが元通りになり、大きな黒い穴も口をすぼめて閉じられた。
ぷるぷるペナルティの終了とともに、再び『森のくま先生の錬金術士の錬成学校』へ強制転移されたミミリたち。
……ガラガラ‼︎
教室の前方のドアが開かれる音。
……ドスッ、ドスッ!
大きな者の、歩く音。
白いワイシャツ、黒のネクタイ。
ワイシャツは、紺のズボンにインさせて。
黒のベルトで締めたお腹を若干ぽっこりと前に出し、服の裾から覗かせる、逞しい茶色の手足。
片腕には、壺ではなく何かが入った箱を抱き抱えている。
そして、ワイシャツから出た茶色の首も逞しく。大きな顔に、黒縁眼鏡。
くま先生が、再びやってきた。
「せん、せい……」
うさみの胸中を渦巻くのは、くま先生への羨望と授業態度への罪悪感、そして急に『三日月の反省部屋』へと誘ったその扱いへの憤り。
ゼラはうさみの心中を推し測って、代弁しようと口を開けた。
「待って、ゼラくん。私が言うから!」
腕をゼラの前方へ広げ、言葉で更に静止を促すミミリ。珍しく、ミミリが憤りを露わにしている。
……さすがミミリ。ミミうさ探検隊の隊長だよ。全部任せた、言ってくれ。
ゼラの思いを背負ってくま先生へ物申すミミリ。
物申された内容は、さすがミミリ。
その一言に尽きるものだった。
「返してください、ぷるゼラチン! 私たち、そのアイテムでみずまんじゅう作って食べるの、楽しみにしてるんですから‼︎」
成長したゼラとさすがのミミリ、いかがだったでしょうか。
第2章では、2人の成長と錬金術の奥深さをお伝えできたらなと思っています。
次話は明日の投稿を予定しています。
よろしくお願いいたします。
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うさみち




