1-18 錬成した爆弾を投げてみよう
「ギャアアアアアアア、嫌、いやぁぁぁー‼︎」
モンスターとエンカウントして、一番取り乱したのはうさみだった。
「毛が逆立つ、綿がゾワゾワするうぅぅ。気持ち悪い、ムリ、ムリ〜‼︎」
めずらしくうさみは、後方に隠れた。
エンカウントしたモンスターは虫系モンスターだった。
全長1メートルくらいの、黄緑色の幼虫。
グニャリグニャリと動くたびに、針のような鋭い体毛を纏った蛇腹が動く。針の先端からは、何やらトロリとした液体が滴っている。頭からお尻にかけて背に一本の焦茶の模様があり、口からは白い糸のようなものが出ているのが見える。
「ううううう鳥肌が立つ。……とりあえず、聖女の慈愛!」
ミミリたち全員を、透明でじんわりと暖かい保護膜が包み込んだ。
パーティーの後方から全員に保護魔法をかけたものの、うさみはなお逃げ腰で、なるべく虫系モンスターを見ないようにしている。
「俺もあんまり得意なほうじゃないんだよなぁ虫って。……でも」
「うぅ。私も虫って苦手かも。身体がゾワゾワッてするんだよね……。……うん、でも」
「「討伐しよう‼︎」」
ゼラは騎士の短剣を、ミミリは木のロッドを握り戦闘体制に入った。
アルヒは臨機応変に対応できるよう、パーティーの先頭にて指揮を執る。
目的はミミリとゼラの成長を促すこと。
アルヒであればすぐにモンスターを討伐できるが、敢えて今日はそれをしない。
「二人とも、良い心掛けです。あのモンスターは、睡眠蝶の幼虫です。針の先端には猛毒がありますので注意してください。あと、口から……」
と、アルヒが説明している間に、シュッと幼虫の口から糸が吹き出された。
アルヒは後方に宙返りしながら後ろ手で糸を断ち切り、着地の直前に両手で剣を握り直して、斜め上から糸をもう一太刀した。
スパッスパッと切られる幼虫の糸。
アルヒの着地に一間遅れて、左耳のイヤリングがゆらりと揺れる。
そしてアルヒは言葉を続けた。
「……口から吐き出される糸は、錬金素材アイテムの木綿の糸ですよ。あと、体毛の毒針も使用用途があったはずです」
「アルヒさん、さすが……」
「うん、剣を持ったお姫様みたいだよ」
「もちろんよ、だってアルヒたんだもん。……ううううううう気持ち悪いぃ。おええええ」
うさみはやはり幼虫を直視できないようで、どうしても視線を逸らしてしまう。
「さあ、ミミリ、ゼラ。うさみからのサポートがない中、貴方たちはどのように闘いますか?木綿の糸で捕縛した後、毒針で麻痺させるのが敵の常套の手法です。ちなみに肉食ですよ」
……【マジックバッグ】の中に入れてきた錬成アイテム。
あれを使えば、もしかして。
ミミリは閃いた気がした。
「ゼラくん、幼虫の注意を逸らしてもらえないかな。できれば、体力も削ってほしいの」
「よし、わかった。やってみる!」
ゼラはフッと腰を落とした後、脚に力を入れて幼虫目掛けて急発進した。
「コッチだ! 虫いぃぃぃ〜‼︎‼︎」
「ーー‼︎」
ゼラの猛追と、発せられた大声に驚いて、幼虫は木綿の糸を吐き出した。
ゼラは避けることなく、木綿の糸を短剣で断ち切りながら、更に距離を詰めていく。
「……はは! メリーさんの酸弾より、全然遅いじゃねえか!」
そして幼虫の懐に入り込み、更に深く腰を落として左下から右上へ、幼虫の腹を斬り払った。
ゼラの一薙ぎで、清水の溜まり場の水面が飛沫立ち、辺りの草も大きく揺れ、部分的に切断された。
「……ギュアアアア‼︎」
幼虫は身を捩って悲鳴を上げる。
幼虫の紫色の体液を浴びる前に、ゼラは後方へ跳んで退避した。
「チッ、浅いか。……ミミリ!」
「……はい! 行っくよ〜! ……エイッ!召っし上っがれ!」
「……ハイッ⁉︎召し上がれ⁉︎」
ミミリは【マジックバッグ】の中からある錬成アイテムを投げた。アイテムは見事、幼虫の前に投下される。
【弾けるピギーウルフのミートパイ(試作品) 火力(??) 特殊効果:一時的に体力を回復するが、上面に散らされた【弾けたがりの爆弾】のカケラが噛めば噛むほど爆発する。】
幼虫は、目の前に差し出された芳しいミートパイを躊躇することなく貪った。
「えぇと、みんな、耳、塞いでね?」
ミミリは先んじて耳を両手で塞いだ。
……ドォォォォン‼︎
けたたましい爆音と閃光と共に、幼虫は四方八方へ飛び散った。
幼虫のいた場所に、キラリと光るドロップアイテム。
ミミリたちは、
・睡眠蝶の幼虫の毒針
・誘眠材の素
・木綿の糸
を手に入れた。
「ミミリ、ゼラ、やりましたね。素晴らしい立ち回りでしたよ」
アルヒは満面の笑みでミミリたちに拍手を贈った。
「やったね! ゼラくん!」
ミミリは喜び勇んで、勢いよくゼラを見る。
しかし。
ゼラは血の気が引いたように、両耳を押さえたまま、顔面蒼白でミミリを見ている。
後方の離れたところからこちらを見ているうさみも、耳をパタンと閉じたままフリーズしているようだ。
「……ゼラくん……? ……うさみ⁇」
ゼラもうさみも喜んでくれると思ったミミリは、頭の中が疑問符でいっぱいになる。
「あのさ、ミミリ、今の錬成アイテムって何?」
ゼラは血の気が引いたままミミリに質問した。
「あれはね、試作品なんだけど、【ピギーウルフのミートパイ】だよ」
「それはわかってるんだけど、遠目からでもミートパイっぽいなぁと思ったんだけどぉ。でもホラあそこ!」
うさみは片耳は押さえたまま、片手で幼虫がいた場所を指差した。
「パイは弾けたりなんかしないの!」
あはは……、とミミリは少し気まずそうに笑う。
「ほら、この間、家で爆弾作ったとき、そのまま同じ釜で【アップルパイ】作って爆発しちゃったでしょ?あれを応用できないかなあって思って。それで……」
ミミリは照れ笑いしながら、おでこをかいている。
「……それでね。試しに、モンスターも食べられそうな【ピギーウルフのミートパイ】を作って、トッピングにちょっと多めに散らしてみたの」
「……何を?」
「【弾けたがりの爆弾】のカケラ」
ゼラもうさみも更に血の気がひいた。
二人とも、錬成アイテムの威力を目の当たりにしたのは、これが初めてだったからだ。
「錬金術士って……すげぇ。いろんな意味で」
「……ほんとね。いろんな意味で」
「錬金術士の面白さは、アレンジを効かせて効果を追求することにあるとご主人様も仰っていました。ミミリも通ずるところがあったようで、とても嬉しく思います」
ミミリはアルヒの言葉に食い気味で共感する。
「うんうん! 錬金術ってすごく楽しいなって思ったよ。だって【弾けたがりの爆弾】のカケラだけでこの威力なんだもん。本物を投げたらどんな威力かなって、試したくなっちゃったよ!」
「……」
うさみとゼラは、ミミリの錬金術士としての側面に若干の恐怖を抱くのであった。
爆弾娘ミミリ爆誕です!
次話は明日の投稿を予定しています。
よろしくお願いいたします。
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うさみち




