7-1 錬金術士を繋ぐ人と黒い本
ミミリは光り輝き宙に浮かんだ黒い本に綴られた、錬金術士、スズツリー=ソウタからのメッセージを見上げた。
これは以前、ミミリたちが旅立ったばかりの頃……そう、審判の関所において、『もう少し力をつけてからもう一度魔力を流してみてほしい』、とミミリを力不足であると評した本だ。
しかし今は、メッセージの続きが読めるらしい。
ミミリの実力が、本に再評価されたということだ。
「声に出して、読んでみるね。
『未来の錬金術士へ
あれからずいぶんレベルを上げたようだな。
魔力操作も技術も、段違いだ。
すごいじゃないか!
今は色々な錬成ができるようになっただろ?
生半可な気持ちや、中途半端な努力ではなし得ないことだ。
この本に認められた君は、本当にすごいよ。
俺はだいぶ、審査を厳しくするよう仕組んだからな。
君はただの錬金術士じゃない。
努力のできる錬金術士だ。
そんな君を見込んで、頼みがある。
俺は今、アルヒっていう機械人形を稼働させるための錬金素材アイテムを集めているんだ。
アルヒを動かすための錬成アイテムの名前は、【アンティークオイル】。
俺がこの世界にやって来た時に神様がくれたものなんだけど、いよいよ底が尽きてきた頃、大部分が盗まれちまってな。
しかも、仲間だと思っていたヤツに。
……情けないだろ? ひいたか?
俺は、しばらくの間、立ち直れなかった。
あぁ、こんな話は必要ないな。すまない。
俺は、【アンティーク・オイル】をイチから作るために、アルヒとポチを置いて、旅に出たんだ。
俺はあらゆる保険を残してな。
雷様もその保険のうちの1人なんだけど……、あぁ、ポチとか雷様だなんて言ってもわからないよな。ごめん。
雷様、怒ってるだろうなぁ。
ちょっと酒に仕掛けちまったから。今も寝てたりしてな。まぁ、100年くらい経てば起きるだろ。
アルヒの件とは別に、俺はあることが理由で時間に追われてる。
実は正直、時間がない。
【アンティーク・オイル】に必要なレシピと、今まで俺が集めてきたアイテムの半分を、保険として海中神殿の中へ置いておく。俺が錬成できたらそれでいいんだが、できない可能性もでてきちまったから。
俺が何を言っているのかわけがわからないだろ? いろいろ言って、ホントごめんな。
だけど、同じ錬金術士のよしみってことで、俺の意志を継いではもらえないだろうか。
アルヒは、俺にとって大事な人なんだ。どうか、頼むよ。
海中神殿は、俺が設定したエリア内に君が足を踏み入れた瞬間に、海底から浮かび上がるよう仕組んである。
酸素山菜ボンベがあれば行けるはずだ。
もしかしたらもう、君はそれを作れるかもしれないけれど、一応、レシピを記しておく。
【酸素山菜ボンベ 効果(大) 効能 水中で呼吸ができるようになる】
・酸素山菜の酸素の粒 ×5
・【ミール液】 ひと匙
・【瞑想の湖の結晶】 ひと匙
申し訳ないが、海中神殿からレシピと材料をとってきて、錬成に取り組んでみてほしい。
ただ、俺の【アンティーク・オイル】のレシピは不完全なんだ。
なにかが1つ、欠けていることはわかっているんだが、それがなんだかわからない。
俺は今、それを探しているところだ。
もう一度言うな。
悪いけど、俺には本当に時間がないんだ。
後生の頼みだ。
未来の錬金術士よ、どうか俺を……アルヒを助けてほしい。
未来の錬金術士、君ことを信じている。
不思議だな。会ったことがないというのに、なぜか信頼できる気がするんだ。
なにか縁があったりしてな。
まぁ、それはできすぎたシナリオだ。
これはただの俺の妄想だから気にしないでくれ。
なんにせよ、どうか、アルヒを助けてほしい。
俺は俺で【アンティークオイル】の研究を進めつつ、来たる脅威に向けて、準備を進めるつもりだ。
もし俺と君が出会うことができるならば、感謝の気持ちを述べさせてほしい。
会える時間が、俺に残されていればいいんだが。
どうか、君に幸あらんことを。
君の勇気と優しさに感謝を。
スズツリー=ソウタ』
……これで、この本は終わってるよ。
ソウタさん、アルヒのこと、本当に大事に思ってくれていたんだね。
理由なく、アルヒとポチを置いていったわけではなかったんだね……」
ミミリの胸は、じいんと熱くなる。
「海竜さん、私も海中宮殿に一緒に連れていってください。これは私の大事な人を助けるためでもあるんです」
海竜は、「ふうむ」と、蓄えた髭をさする。
「錬金術士、か……。我が宮殿に訪れた男のことだろう。ワシにも覚えがある。察するに、主とあの男には、不思議な縁があるようじゃな」
「お父様、私からもお願いします。ミミリたちをどうか、海中宮殿へ連れて行ってほしいのです」
ふうむ、と海竜は腕をアスワンへ向けた。
「良かろう。アスワンよ、かの地へ案内せよ」
アスワンは、右手を胸にドンと叩いた。
「お任せください。お力になれること、身に余る光栄です」
話がまとまったところで、うさみは呟く。
「錬金術士って、奥が深いのね。2人の錬金術士を繋ぐのは、私たちのアルヒだなんて。……これってただの偶然にしてはできすぎている気がするわ。なにかもっと、大きな力が働いている気がする」
「そうだな……」
驚くべきこの状況に、胸が高鳴ることもなく。
まるで自身を客観視するかのように、ミミリは必然を感じていた。
ーー私はきっと、導かれてここまで来たんだ。
なんとなく、そんな気がする。
「アルヒ、待っててね。手がかり、漸く、掴んだから」
新天地へ向かうが一転、海中宮殿へ寄り道することになったミミリたち。
しかも、スズツリー=ソウタが作ったと思われる、海中神殿。自然と審判の関所を思い出す。一筋縄では、いかないだろう。
それでも、ミミリは諦めない。
そしてうさみも、同じくゼラも。
「行きましょう」
「ああ、行こう」
【アンティーク・オイル】を求めて始めた冒険に、一筋の光が差した。
スズツリー=ソウタの全貌が明らかになってきましたね。スズツリー=ソウタの冒険の詳細は、別のタイトルの作品として公開予定なのでもしよかったらご覧ください。
第7章のあと、ミミリの連載を一旦止めてスズツリー=ソウタの冒険を公開予定です。
活動報告に事情も含めて書いたのですが、9/1より先行的に別サイトにてスズツリー=ソウタの冒険を公開する予定です。
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