6-7 くまさんとほそっくまさんと怪力さん
酸素山菜を求めて一同は出発した。
どれほどの工程を行くのかと思えば、そんなに離れた距離にあるわけでなかった。
サザンカの話にもあったように、川下の町の子どもたちが採集して海で遊べるくらいなのだから、割と近く――それも教会の裏手の丘あたりにあるらしい。
「そうだ! 教会に寄って子どもたちも誘いませんか? 気分転換に!」
「いいわね、ミミリ」
「ミミリ、ありがとう……」
ゼラは、心からのお礼をミミリに伝えた。
こうして、教会に立ち寄って山菜取りに誘うことにした。あまり教会から出る機会もないだろうから。
と、思ったミミリだったが、よくよく聞いてみると、ゼラは教会にいた頃から川下の町のパンケーキ屋さんでバイトをしていたらしい。今はそれをデュランとトレニアが引き継いでいるとのこと。
ーー養われるだけじゃなくて、自立しようと思うなんて、偉いなぁ。
そんなことを考えながら教会まで足を運べば、あっという間に着いてしまった。
◇
「ゼラお兄ちゃああああああん」
着くやいなや、ユウリが泣きべそをかいて走ってきた。
「どうしたんだ、ユウリ?」
ゼラは腰に提げた短剣を出し、ユウリを背に庇う。
「他のみんなは?」
「あっち、あっちにいるの〜」
「捕まってるのか?」
「仲良ししてるのー。くまさんきたのー」
「⁇」
わけがわからないゼラたちだが、くまと聞いてはうさみが黙っているはずがない。あの愛しのくまゴロー先生の可能性も捨てきれないからだ。
「行きましょう、ゼラ! 早くッ」
興奮するうさみにサザンカは、
「ぬいぐるみはくまが好きなのか……」
と呟くも、バルディは
「あれは恋する乙女だよ。多分ね」
と言う。
やはり、バルディの恋愛観は周りの一歩上を行くらしい。若しくはサザンカの恋愛感が著しく劣っているか。……おそらくは両方だろう。
ミミリはクスクス笑いながら、コブシも微笑みながら。人間界が初めてでドキドキのディーテはミミリの背に隠れながら。
そしてサザンカは腕組みしながら、教会の内部へ入って行くのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「びえ〜ん! くまさんとほそっくまさん〜!」
ユウリはゼラの背に隠れたまま、2人のくまさんを見て大泣きする。
「困ったなぁ、こりゃ……」
「まぁ、仕方ないさ」
――くまさんとほそっくまさんの正体とは……!
「ガウラさんかガウリさんかガウルさん〜?」
例の、ガウラ兄弟だった。
「おっきなくまさん……」
「コラ! 失礼でしょう、ユウリ」
「なるほど……」
話が漸く見えた。
ガウラさん兄弟2人が教会におそらく善意でやってきてくれたのにもかかわらず、まだ11歳の少女であるユウリだけは馴染めず、でも誰にもわかってもらえず、泣いてゼラに走ってきたというわけだ。
ゼラは腰を落としてユウリに諭す。
「ユウリ、ガウラさんたち兄弟はな、とっても優しい人たちなんだ。見た目は確かにくまさんみたいだけど、優しいくまさんなんだぞ。ユウリは優しいくまさんにいじわる言ってもいいと思うか?」
「………………だめ……」
「じゃあ、どうしたらいいと思う?」
ユウリは、ガウラ兄弟の元へおずおずと歩いて行き、「くまさん、ごめんなさい」と謝れた。
「「気にしなくていいぞ」」
そして、ゼラの元に戻ってきていいこいいこしてもらい、ご満悦のユウリ。
シスターは、ゼラのおかげで場が収まり漸く一息ついた。
「助かりました。ゼラ。ありがとうございます」
「いえ、全然。……どうしたんですか? これは」
「俺から説明させてくれいッ!」
と、頭にハチマキを巻いたガウラ兄弟の1人が元気に声を出した。
坊主に口髭。頭にはハチマキ。筋骨隆々に少し汚れたTシャツに動きやすそうなズボン。
おそらく、初対面な気がする。
「あの、もしかして、ガウレさんですか?」
「おお、正解だぜ嬢ちゃん! うさみちゃんを抱っこしてるってことは、ミミリちゃんか?」
「はいっ、正解です! ということは、お隣さんが、ガウディさんですか」
「御明察」
これでガウラ兄弟全員と会った。なんだか満足感さえ覚える。兄弟の中で、ガウディさんだけが少し違った印象に見えた。筋肉兄弟! というよりは、バルディに似たような風貌で黒髪を後ろに結い(兄弟で唯一髪がある)、図面のようなものを持ってメガネをかけている。作業着というよりは、小綺麗な洋服を着ているといった印象だ。
「それで、ガウレさんとガウディさんは、どうして教会に?」
「ああ、ペラルゴ町長んとこの子どもらが見つかったって聞いてな。いてもたってもいられず会いに来たってわけだ。……良かったな、バルディ」
「……はい。ありがとうございます……」
話題のデュランとトレニア、特にトレニアは恥ずかしそうにモジモジしている。顔を赤らめて、恥ずかしそうにデュランの背に顔を埋めて。
「トッ、トッ、トレニアちゃん、可愛い〜!」
ぎゅうううううううう〜!
ミミリとうさみは思わず抱きつく。
「わ、くる……し……い……よ」
それを見たコブシは「うらやましいだろ」と、バルディをからかった。
「ええ。本当に……」
バルディがあまりに哀しげに微笑むので、コブシはバルディの頭を撫でてやった。
ここでシスターは、遠方から来たみんなを労い、ダイニングテーブルへと誘った。
「さぁさ、こちらへどうぞ……。お疲れでしょう。お茶でもいかがですか……」
「まぁ、ご招待いただけるだなんて嬉しいですわ」
と言う普通のディーテに対し、
「なんと、可憐な……シスターか」
と不穏な言葉を言ったサザンカの声は、運良く誰にも聞こえなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
「改築ですか⁉︎ この教会を?」
「ああ、改築というよりは立て直しだな」
「実は、この間蛇頭メデューサのところから助けてきた子どもたちもシスターが預かってくれることになってな」
シスターは、ニコリと微笑む。
「同じ境遇のほうが、子どもたちも安心すると思うのです」
「シスター……ありがとうございます」
ゼラにはその気持ちが痛いほどわかる。
両親を失った後、どれほどここの子どもたちが自分の支えになったか……言葉で言い表すことすらできない。
そんなゼラの胸中も見透かすように、シスターは優しく微笑んだ。
「俺、ガウレは大工で、双子の弟のガウディは設計士なんだよ。そこで教会を一新しようと思ってな」
「いい考えね!」
「本当にうさぎのぬいぐるみが喋ってら。可愛いぜぇ。あとで抱っこさせてくれ」
「いーやーよー! おせんべいになっちゃうもの」
「「「「「あはははははははは」」」」」
◇
「そこで嬢ちゃんに頼みがあってな」
「私ですか?」
「川下の町のほうに行ったと聞いて追いかけてきた。ま、俺らも一応C級冒険者でもあるからな。ここまではなんなくこれたってやつだ。それに途中までヒナタもいたしな。どこかへ行っちまったが」
「あはははは、ヒナタさんらしいですね」
さすがレアキャラの迷い子ヒナタ。次は一体どこで会えるだろうか。
「それで、頼みって言うのは?」
「立て直している間にみんなが住める小屋を貸して欲しい。あと、森で木材を取ってきて欲しいんだ」
「兄貴に聞いたら、嬢ちゃんは誰よりも力持ちって聞いてよぉ」
「あ、あははは……。ちょっと、恥ずかしいです」
「まぁ、ミミリなら持ち運べるだろうな」
「もー! ゼラくんまで。でも、私、持ち運べても木は切れないです」
「それはここにたくさんいる男どもがなんとかするだろ」
と言うガウレ。たしかに、ゼラ、バルディ、コブシ、サザンカがいればなんとかなるだろう。
「俺らはここで作業してるからさ、順次運んでくれ。頼むよ」
「わかりました! そしたら山菜を採りながら木を伐採すればいいんだね!」
「そうね!」
「ガウレさん、庭の端っこら辺なら、邪魔にならないですか? 今、小屋出してきますねっ!」
「待ってくれ! 俺らも行く!」
◇
「では、いっきまーす! いつもより、みんなが住める大きめの小屋! えーいっ」
――ドオオオオオオン!
ガウリとガウディは呆気に取られた。兄貴らから話は聞いていたとはいえ、にわかには信じられなかったらだ。
とても大きな小屋。ランタンまである。10人程度ならゆったりと住めそうだ。
「あと、これも……」
ミミリは、次から次へと【マジックバッグ】から木材を出していく。しかも小さな木材でない。立派で上質でいて太い木の幹だ。
「「……? なんだっけ……」」
うさみにもゼラにもなんだか見覚えがある代物らしい。
「この木材、何かの足しになれば……これは、昔住んでた家の川向こうの森で爆発させて採った、森の窪地の大きな木です!」
「「「「「「………………………………」」」」」」
「木こり部隊、いるか?」
「いりま……せんね……」
「爆発と言っても、睡眠蝶っていうモンスターやっつけたついででしたから、そんなすごいことじゃ……」
「「「「「……………………………………」」」」」
どんどん墓穴を掘っていくミミリ。
間違いない。
ミミリは既に、ここの面々には怪力認定されてしまった。
ミミリはあれだけのことをみんなの前で見せたらそれはもう、怪力認定されますよね!笑
作者はゆるふわのミミリも好きですが、豪胆なミミリも大好きです。
このお話が少しでも気に入っていただけましたら、ブックマークおよび現時点のご評価で構いませんので☆☆☆☆☆をよろしくお願いします。




