6-3 毒耐性? まさかね……
「おお〜い! そっちは大丈夫か〜?」
大手を振りながら、先程まで河口付近で毒にやられていた船乗りが、元気に駆けてくる。
「お前ッ、なんで元気なんだ? さっきまで毒で……」
「それが、見習い錬金術士の嬢ちゃんが、【解毒剤】を作ってくれてさ! 手分けしてみんなに飲ませに行ってくれって嬢ちゃんが」
「お〜い!」
河口付近で闘っていた船乗りが、次から次に小瓶に入った【解毒剤】を持って走ってくる。
バルディたちが現場に着いた時から毒を受けていた者もいたので、このままでは危ないところだった。それに……コブシまで。
「すまん、俺にも一つくれ」
「大丈夫か?」
コブシの褐色の肌からは、ピンクの斑点が浮き上がってしまっていた。コブシは拳闘士である。接近戦である以上、どうしても攻撃は喰らいやすい。
引っ掻かれてからというもの、血液を巡るように毒は回り、強烈なめまいと怠さがあったのだ。その状態でもポイズンサハギンはなんとか仕留めたが、正直意識を保つので精一杯だった。
コブシは【解毒剤】を受け取ると、一気に飲み干した。
すると、今まで苦しんでいたのが嘘のように、体内からすーっと毒が浄化されていくのがわかる。
「さすが、ミミリちゃんだな。さぁ、もうひと仕事するか!」
ここまできたら、一旦安心。街の防衛の方は勝利の見える掃討戦となった。
◆
「危ないっ!」
「うわあああああん、ママぁー」
「きゃああああああ」
バルディはポイズンサハギンから逃げていた母子の救助にあたろうとしていた。
ちょうどこちらへ向かってくる構図だったのだ。矢をポイズンサハギンに打とうとした瞬間、5歳くらいの女の子が転んでしまった。母親は、咄嗟に子どもを庇ったが、バルディは弓をかなぐり捨て、咄嗟に母子を庇うように覆いかぶさり、左肘を爪で引っ掻かれてしまった。
「うわあああああああ、ぐっ。早く、早く逃げるんだ……」
「ありがとうございます……」
「バルディー! うおおおおおおお! ヒートナックル〜!」
駆け寄ってきたコブシによって、見事ポイズンサハギンは倒された。
「大丈夫か、お前、毒が身体に……」
「いえ、肘の切り傷のみですが……毒は爪にもあるんですか?」
「え?」
「え?」
お互いにわけがわからない模様。
「とりあえず、毒に関しては無事で何より。まだ闘えるな、バルディ」
「ハイッ、コブシさん!」
次々と河口付近から戻ってくる船乗りたちも参加して、街の防衛戦は勝ち戦となったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「ポイズンサハギンは排除できたし、重病人もこの場から逃した。……のはいいとして……あれが、ボスね、おそらく」
「そうだね」
河口付近の戦いは、残すところ1匹となっていた。小さなトカゲが1メートルくらいに成長したポイズンサハギンとは違い、形状はまるで同じだが大きさだけが違う大きなポイズンサハギン。間違いなくビッグボスポイズンサハギンだろう。2、3メートルはありそうだ。
「まだ闘えるか、ゼラ」
「大丈夫です。左腕はうさみが回復してくれたので闘えます」
「私たちも闘うよ!」
サザンカは驚いた。
筋骨粒々でもなければ、血気盛んでもない。
たった13歳の少女が即席で【解毒剤】を作り、劣勢を好転させてしまった。それだけではなく、爆弾でポイズンサハギンを倒したうえに、ボスとも闘うという。ミミリだけではない。うさみもだ。
「なんていう子たちだ……」
「聖女の慈愛!」
薄く暖かな庇護膜が、全員を包み込む。
おそらくこれも支援魔法か、とサザンカは驚きを隠せない。
「よし、行くぞ! 頼むぞ【ナイフ】! 怪我するのは覚悟の上だ! 属性習得のためには、耐えることも必要ってな」
……ボスとの闘い、楽しそうじゃねぇカァ。使いナァ。
ゼラは【マジックバッグ】に手を突っ込み、初めて紅の刃広斧を出した。
「う、うぐぐぐぐ……」
手が燃えるように熱い。火傷なんていうレベルではないかもしれない。
――それでも……!
「いくぞ! 見よう見真似! ――紅柱ぁ!」
――ゴオオオオオオ!
ボスに逃げる隙すら与えず、2本の火柱が交錯するようにボスを炙った。
「ギャアアアアアアア」
苦しみの声を上げるボス。しかし容赦しないのがミミリだ。
「みんな、耳、塞いでね! 今度は大っきいやつだから! えーいっ! 【弾けたがりの爆弾】!」
――ドオオオオオオン!
サザンカは呆気に取られた。
一歩間違えば、ボスに同情しそうになっていた。火で炙られたかと思えば、けたたましい音がする爆弾でトドメをさされる。
ボスは既に、丸焦げになって倒れていた。
ミミリたちは、ドロップアイテム
・ポイズンサハギンの毒爪
・ポイズンサハギンの毒牙
・ビッグボスポイズンサハギンのしっぽ
・ビッグボスポイズンサハギンの肉
を手に入れた。
「やったー! 倒せたね」
「相変わらずすごいなミミリの爆弾は。気をつけないとパイにも仕込まれているからな」
「え……爆弾をパイに……?」
明らかにドン引きのサザンカ。
「もー! サザンカさん、ゼラくんのいじわるだから気にしないでくださいね! 食べられるパイも作れますからね、ちゃんと」
「本当に爆発するパイがあるのか……」
驚くサザンカに、うさみはそっと手を触れた。
「本当よ、サザンカ。ゼラと私はちょっとしたトラウマを覚えていてね」
サザンカの背筋に、たらりと一滴汗が滴った。
◆ ◆ ◇ ◇
「バルディさーん! コブシさーん! 倒せましたよ〜!」
「おー! さすがだなミミリちゃんたち。こっちもなんとかなったよ」
「ボスにトドメをさしたのはミミリですよ」
「嘘だろ? すげぇな」
驚くコブシは、ハッと思い出す。
「うさみちゃん、悪いんだけど、回復魔法みんなにかけてくれないか。バルディも左腕をやられてさ。逃げる時に転んだ子もいたし、結構怪我人はいるんだ」
「もちろんよ、まかせて! ――癒しの大樹!」
――――パアアアアァァァ!
うさみから、まるで新緑の葉が鈴なりに音を奏でるように、爽やかな青い風が吹き出した。
町中を包む、爽やかな木々の香り……。
「心まで洗われるようだ……」
サザンカは、思わず呟いた。
「ありがとう、うさみちゃん。俺の左腕も治ったよ」
バルディは治った証拠にグルングルンと腕を回してみせる。
「ところでさ……コブシさんでさえ毒が身体に回ったのに、何で俺は大丈夫だったんだろう」
「えっ、バルディさんもですか?」
「ゼラもか?」
「「不思議……」」
ミミリはうう〜んと腕組みしながら、錬金術士の視点で質問を始めた。
「昔から毒に耐性があったということは?」
「「特にない」」
「耐性をつける出来事が最近ありましたか?」
「「多分ない」」
「2人して、なにか変わったことはありませんでしたか? 例えば、同じ経験をした、とか」
「「あ……」」
「え……?」
「「あーいや……」」
「……?」
「「まさか、ね……」」
ゼラとバルディは顔を見合わす。
「何よ、勿体ぶらないで話しなさいっ!」
うさみは2人を怒鳴りつけた。
まさか、とは思いながらも、ゼラはポツリと話し始めた。
「最近で思い当たることといえば、蛇酒を呑んだデイジーさんに、こっぴどく毒づかれたなぁーと思って。俺たち2人だけ。意識を失うくらいに」
「あれはひどかったよな、ゼラ」
「はい。人の羞恥心を徹底的に痛めつける毒づき方でしたからね」
「まさか、毒舌耐性だけじゃなくて、本物の毒耐性もついたってこと?」
驚くうさみに、ミミリは一言。
「蛇頭のメデューサの蛇が素材だから、可能性の斜め上をいっても不思議じゃないかもしれないですね」
――――――――――一同、絶句。
◆ ◆ ◆ ◆
「ハクシュンッ」
「あら、デイジーさん、風邪ですか?」
「あっ、ローデさん。いいえ、至って元気です。……誰かが私の噂してたりして。……なんてね」
◆ ◆ ◆ ◆
「毒づかれただけで毒耐性付与? なんてね……」
呆れるうさみとは反対に、燃えるバルディ。
ーーこれはチャンスだ。
バルディは思った。
アザレアへ帰ったら検証してみようと。
新たなビジネスに、胸を弾ませるバルディなのであった。
三冠王のデイジー(酒乱、泣き上戸、毒舌)がどうやら良い方向に活躍したようですね!
バルディも盛り上がっています。
今までお酒関係で人生を間違えてきたデイジーも、これが本当なら大手を振って歩けるのではないでしょうか。
このお話が良かったなと少しでも思っていただけましたら、ブックマーク及びご評価をよろしくお願いします。
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ただいま、恋愛小説を並行して連載しています。タイトルは、
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という、大人の恋愛を意識して書いた物語です。全40話。完結保証ありです。
もし良かったら、覗いてみていただけると嬉しいです。
ただし、ゆるふわなミミリとは文体も内容もかなり大人です。一応年齢制限はございませんが、申し添えさせていただきます。




