5-4 【七色のメガネ】効果検証実験
「できたよ〜! どうかな?」
【七色のメガネ】に、水属性を付与した専用の武器。一晩のうちにこれらを作ってしまったミミリ。これは相当な快挙だと言える所業だった。
「すごいよ、ミミリ!」
「これが、錬金術士か……」
ミミリは、ゼラとバルディに褒められ、嬉しそうに鼻をこする。その背後で、うさみはなぜか誇らしげ。
「へへへ〜! お姉さんも手伝ってくれたからね! ありがとう、お姉さん」
『私も一緒に考えられて嬉しかったわ』
「……ありがとう」
ミミリにしか見えない瞑想の湖の美少女。アルヒに似ているということが影響しているかはわからないが、何故か懇意にしてくれる。
「ねえねえ、メガネ、かけてみて!」
ゼラとバルディは、ミミリに言われるがまま【七色のメガネ】をかけてみた。
すると何故だか、ゼラではなく。
ミミリは、じーっとバルディを見ている。
――ミミリちゃん、どうして俺をっ……!
(バルディ、心の中で動揺)
――ミミリ、どうしてバルディを見つめるんだ?(ゼラ、ショックのあまり敬称略)
双方の荒ぶる胸中、ミミリの真意は、というと……。
2人はミミリの真意が気になるところではあるが、うさみは真意を知っているようでニヨニヨしているので、まともな理由じゃなさそうだ。
「ふむ〜、ゼラくんは大丈夫だとして、バルディさんも大丈夫そうだね」
「そうね、ヒヤッとしたわ」
『よかったわね』
「うん! よかった、感電しなくて」
「「――――――⁉︎」」
……ミミリ、恐るべし。
これは、完成と言いつつも実験を兼ねた試着会だったわけだ。
「――俺は感電するところだったのか。下手したら」
「そうなんです。バルディさんは雷属性の耐性を持っていないから、肌に触れる部分は充分に瞑想の湖の結晶の庇護膜を……」
と、悪びれることもなく説明をするミミリ。
「ぷっ……あはははは」
ミミリの説明の途中で、噴き出すゼラ。お腹を抱えて吹き出している。【七色のメガネ】の隙間からこぼれ落ちる涙。そこまで面白かったのだろうか。
「な、なぁにっ、ゼラくん」
「ははは。ごめん。バルディさんに、いつもの俺の気持ちが伝わったかなって思ってさ」
複雑そうなバルディに、大笑いのゼラ。
「ああ、伝わった……。ゼラの実験台人生、いつも綱渡りなんだってこと」
「そうでしょう、ドキドキなんですから、毎回」
ミミリも漸く意味がわかり、ぷくーっと頬を膨らませて反論する。
「バルディさんのメガネはね、割と自信あったんだよ。ねー? お姉さん?」
『そうね』
「それで、何割くらいの自信だったんだ?」
ゼラにからかわれつつも、ミミリはうう〜んと腕組みして本気で悩む。
「そうだなぁ。……6.5割くらい?」
「「「低っ!」」」
うさみまでもがお腹を抱えて大笑いして、ミミリの機嫌はどんどん、明後日の方向に……。
「な、なぁ……、うさみ」
「あーはははは。――ハッ」
「もっ、もっ、もううう〜! みんなして〜!」
「「ま、まさか……」」
「えっ⁉︎ どうしたんだ? ミミリちゃん」
うさみは危険を察してゼラの後ろへサッと隠れた。時すでに遅し。ミミリの頬は、焼きりんごのように膨れていって……。
ここで漸くバルディも、事態に気がついた。
「あ、あの、ミミリちゃん」
謝ろうにも、やはり、時すでに遅し。
「もー! みんなして〜! 今日のオヤツは【アップルパイ】だったのに、一口もあげないんだからッ」
――――――――――――‼︎
――衝撃の発言。
「「「ご、ごめんなさい〜」」」
「もー! ……いいよ」
「「「いいんだ……」」」
ミミリがあまりにも早く許してくれたので、みんなまたまた大笑い。瞑想の湖の美少女までがクスリ、と笑っていた。
『そうだわ』
と、美少女は言う。
『ミミリ、【七色のメガネ】の効果を試すのはどうかしら』
忘れていたことを思い出させてもらい、ミミリのしっぽはピーン! と伸びる。
「そうだ! やってみよー! おー!」
「「「なにを?」」」
「『お色気に誘惑されないかゲーム!』」
「つまり、魅了を防げるかっていうことね」
「そうなの! だから、ゼラくんとバルディさんが興奮しちゃうようなドキドキとする、魅力あふれる状況を作り出して、それを防げるかっていう……」
――ゴクリ。
男共は、生唾を飲んだ。
擬似魅了の効果実験、つまりは、ミミリの……
「しかたないわね。ひと肌脱ぐしかないわね」
「うん、お願いね! うさみ! 衝立出すから、着替えてみて」
「はぁん。しかたないわね。任せてちょうだい」
「(うさみのほうか)…………………………」
ゼラとバルディは、なにも言えなかったが、果たしてうさみで効果検証実験になるのかどうかは、疑問に思った……。
◇
「準備できたわよーん。衝立、どかしていいわ」
「――シャラララララーン」
うさみのセルフ効果音。
片付けられた衝立の奥から現れたのは……セクシーな下着を身につけたうさみだった……!
――そんな下着を一体どこで!
言いたい気持ちをゼラは根性で抑える。
口に出そうものなら首が飛ぶ。
「どうかしらん。
ふわっふわの身体。
薄ピンクの透けるヴェールのようなネグリジェタイプの下着。
下着の下には、透けることで色気が何倍も増した私の魅惑的なうさボディが見えるはずよ……」
と言いながら、胸を突き出し、背中を反ってお尻を突き出す。うさみの真っ白なしっぽは、魅惑的にふるふると高速で震える。
「いかがかしらぁん」
「うっ……。うさみ、私、鼻血が出そうだよ……」
思わずミミリは、鼻を押さえた。
「大変だわ! どうやら効果はバツグンのようね」
一方でゼラとバルディは……
――いつもほぼ裸じゃん……。
と言いたい言葉を命を賭けて堪えている。
「ああっ……」
ミミリはついに、カクンと、膝を折った。
「ヤダッ! 大丈夫ミミりん! ごめんね私が、魅力的で罪深いうさぎでッ」
目の前で繰り広げられる『うさみシアター』。
思わずバルディは、口をついて喋ってしまう。
「……………………………………こ、効果はバツグンのようだな、ゼラ」
「……………………ええ。なにも…………感じませんね」
「すごいわミミりん! 大成功じゃないッ!」
「やったねうさみ、ひと肌ぬいでくれてありがとう!」
むぎゅうううううううう〜、と抱き合う2人の喜びはひとしお。
――これにて、無事に実験終了と思いきや。
いや、効果検証実験は終わったものの。
瞑想の湖の美少女だけが、白けた目でゼラとバルディを見ていたのは、ここだけの話。
お待たせいたしました。
141話、よろしくお願いします。




