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5-1 瞑想の湖と文殊の知恵


「……剣聖の逆鱗ッ! 聖女の慈愛!」

「チッ、キリがないな」


 アザレアの森の中。

 うさみの支援魔法を受けて、ほろよいハニーたちを倒していく。

 剣聖の逆鱗を唯一纏うゼラはスピード重視の接近戦。

 バルディは遠距離からの矢によるサポートだ。

 ミミリもなんと驚くほど強くなったようで、ゼラから逃げおおせたほろよいハニーを雷のロッドで殴打(おうだ)していく。なんとも頼もしい。


 戦闘を繰り広げていくうちに、ミミリたちは一つの仮説を得た。

 ――それは、もしかしたらゼラが住んでいた街、川上の街(廃墟の街)と川下の町が近いのではないか、ということだ。


 なぜこの仮説に至ったかというと、アザレアの森ではめったに見なかったモンスター、テールワットが頻出するようになったからだ。


 バルディは木の上に登って、ほろよいハニーよりは比較的狙いやすいテールワットを撃ち抜いてゆきながら、その手応えを感じていた。


「あれが……ゼラが言うテールワットか。これは、()()()()は濃厚だな。もう何匹めだ、これで。後で矢を回収しないと」


 バルディが言うように、アンスリウム山の頂上で見つかったという隠れ穴、攫われたマールが手がかりを残してくれたその穴から続く道が、ゼラが住んでいた町へと通じているのではないか、と淡い期待を抱かずにはいられない。

 ――ひいてはデュランとトレニアが住む協会へも。バルディが引く弓の力は、一層強くなる。


 本当はもっと確証があるならば言うことはないのだが、ゼラはまだ幼く5歳だったゆえ、地図など見たことがないし、自身がすんでいた3拠点(川上の街、川下の町、教会)しか知らないのだ。

 それに、アンスリウム山は切り立った崖のようなので、こちら側からしか登ることができない。


 そのため、今回初めて見つかったアンスリウム山の隠れ穴と、その3拠点へ続く道が繋がっていても不思議ではないのだ。


 事実、蛇頭のメデューサが目撃されている場所とは、アザレア側(アザレアの森や瞑想の湖)だけでなく、川上の街側(川上の街から川下の町へと続く森)という共通点があるのだから。


 魔法を展開しながら、うさみは言う。


「瞑想の森まで着いたら野営しましょう。急いでいるとはいえ、無理は禁物……。どの道、乗馬に長けた者が早馬を走らせない限り、1日でアンスリウム山に着くなんて無理なんだから。ってことを考えると、コブシは相当馬を駆るのが上手ってことね」

「そうだね。そうしよう」


 ひとしきりモンスターを狩り終え、素材も余すことなく回収し、瞑想の湖へ向かった。


 ◆ ◆ ◆


「うう〜ん、うう〜ん……」


「なぁ、ゼラなら付き合い長いからわかるんだろ? なんでミミリちゃん、(うな)ってるんだ?」

「うう〜ん。悩んでるんでしょうね」

「そりゃ、俺もわかるわ」


 小屋も出し、火も起こし。

 野営の準備もバッチリ終えたミミリたち。


 珍しく、「今日の夕食はゼラくんとバルディさんに任せますっ」と言ったミミリは今、錬金釜の前でうーんうーんと(うな)っている。


「甘いわねぇ。下僕たちよ」


 瞑想の湖の(ほとり)に、リクライニングチェアに横たわりくつろぐうさみ。ゼラたちを下僕呼びするということは、しっかりと()()に浸っていらっしゃるということだ。

 

 このままでは、そのうち「新鮮なニンジンをちょうだい」などと言われかねないほど。

 右手バタークッキーに、左うちわ。

 この緊張感の中、さすがうさみ……と言いたいところだが、言ったら最後、生命に関わるので最早下僕たちはなにも言えない。


「ミミリりん、なにに困っているの? みんなで考えたら、いいアイディアが思い浮かぶかもしれないわよ?」


 うさみの言葉に、ミミリの【白猫のセットアップワンピース】はピーンと伸びる。


「うさみっ、聞いて聞いて! ここまで! ここまで出かかってるの! 答えが〜」


 振り返って身振り手振りジェスチャーを始めるミミリ。片手を地面と並行にし、首元で右左左往させている。


「喉元まで来てるってことね」

「そうなの〜!」

「で、どんなものを作りたいわけ」


 ミミリの動作は、ピタリと止まる。


「蛇頭のメデューサって、男の人、操られちゃうんだよね? 魅力(チャーム)、だっけ?」

「……うん、そうなんだ」

「ゼラくんが話してくれてわかったみたいに、魅力(チャーム)にかかった人を往復ビンタして本当に解けるかわからないから……」


 ゼラとバルディは、ミミリの話を聞きながら、思わず両頬を押さえてしまう。ほろよいハニーを雷のロッドで殴打(おうだ)して倒すほどの腕力の持ち主のビンタを想像したたけで、両頬が腫れ上がりそうな気さえする。


魅力(チャーム)の効果を無効にできる、サングラスみたいの作りたくて!」

「……なるほど……(よかったビンタから思考が離れてくれて)。でも俺は……」


 決意したように、ゼラは言う。


「俺は、護衛騎士さん――ミミリの父さんと同じように、目にバンダナを巻いて闘うつもりだ。俺はまだ……足捌きで動作は読めない。だけどせめて……魅力(チャーム)にかからないようにする。みんなに迷惑がかからないように。……それしか、ないかなって」

「そこなんだよな。俺は射手だから、視覚あっての物種だ。蛇頭のメデューサの魅力(チャーム)の効果範囲がわからないとなると、草葉の陰から撃つしかないかなと思ってる」


「まったく、おバカな下僕たちね!」


「「へえっ⁉︎」」


 急にうさみに怒られて、思わず萎縮するゼラとバルディ。――しかし、口にはとても出せないが、見た目『バカンスうさぎ』に言われても……とゼラたちは思う。


「わかんないからみんなで考えるんじゃない……! ホラ、4人集まればなんちゃらの知恵ってよく言うでしょ?」

「それを言うなら……」


 ――チャポン……。

 静寂な湖が、中央から凪ぐ。


『5人だよ……』


「なんだ? 急に風が……」

「おかしいな、風なんて……」


 わけがわからないゼラたち。

 ――しかし――

 ミミリは木のロッドを練金釜に残し、一歩一歩瞑想の湖に歩いていく……。


「ミミリ? ――もしかして――」


 ミミリは振り替えずに、湖を見て引き込まれそうな声で答えた。


「うん……。聞こえるんだ……。

 それに、見える。

 湖の中央に、アルヒ似のお姉さんがいるよ……!」


 ミミリ以外には見えないが、アルヒ似の美少女は、ミミリにだけ見える姿と声で、ニッコリ微笑んで答えたという。


『5人で一緒に……考えよう』


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミミリも強くなって頼もしいですね!事件があった町は近いかもしれないんですね。期待が高まりますが無理は禁物。相変わらず強いうさみ。久々に読んだので懐かしいです(*'▽'*) それにしてもチャ…
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