表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/210

4-5 ゼラの過去〜かくれんぼとトラウマ〜


「も〜い〜かいっ」

「「「まーだだよっ」」」


 教会に住む子どもたち全員でかくれんぼ中。

 隠れ役は、サラ、双子のジンとシン。

 見守り役兼お昼寝役兼みんなのアイドルはユウリ。

 鬼役は僕だ。


「も〜い〜かいっ」

「「「もーいーよっ」」」


 ここの生活にもすっかり慣れた。

 年下の子たちが隠れやすい場所も把握済みだ。


 まずは1人目。

 ひび割れた窓を補修したテープと、元々は白かったはずの薄茶のカーテンとの間から、身体のほとんどがぜ〜んぶ出てる。頭隠して尻隠さずとはこのことだ。


「見〜つけたッ」


「ちぇっ。見つかっちゃったぁ〜」


 カーテンを(めく)られ、不満げなジン。双子のうちの、黒髪のほう。不貞腐れてしまうところも、とっても可愛い。


 お次はサラだ。

 サラは多分……ほら、あそこ。

 2段ベッドのフレーム枠からはみ出るサラのワンピース。多分、元々は赤だったワンピースは、色褪せた赤めのピンク色に。


「サラ、見〜つけた!」

「もー! ゼラお兄ちゃん、乙女のお布団を剥ぐなんてエッチなんだからぁー!」


 僕はコツンと軽く、サラのオデコにグーでお仕置き。


「サラ、言い方、ジンが真似したらどうするんだよ」

「やーい! ゼラお兄ちゃんのエッチ〜……ってなぁに?」


 ……あぁ、手遅れ。

 まったくサラはおませで困る。

 でもきっと今まで年上として気を張ってた部分もあるんだろう。サラより年上の僕に甘えることで気持ちが楽になるのなら、いくらでも甘えてくれて構わない。


「ジン、それはね、人をからかう言葉だからあまり気安く使っちゃいけないよ」

「はぁ〜い」


 素直なジン。

 そういうところも可愛いんだ。


 ――そして最後は。


「シスター、今日のご飯はなぁに〜?」

「あらあら、シン、かくれんぼはしなくていいのかしら?」

「あ! 忘れてたぁ。わはは〜」


 隠れることすら忘れている、双子の銀髪のほうのシン。

 シスターが一生懸命料理してくれているところを、リビングテーブルに頬杖をついて眺めていた。

 3歳になったばかりじゃそうだよな。

 しっかりかくれんぼに参加できるジンがすごいだけで、シンみたいにゲームのルールがふんわりとしかわからないのが一般的だと思う。


 ……といっても、僕も多くのことを知っているわけではないけれど。


 2歳の時の僕はどんな子だったか、

 3歳の時の僕はどんな子だったか……、

 4歳の時の僕は……?


 母さんは、何度も何度も、僕の話を嬉しそうにしてくれたんだ。だから僕は、年齢の特徴がなんとなくわかる。


 ……と、こうやって想い出を振り返るだけで、目頭は自然と熱くなる。


「……母さん……」

「ゼラ……お兄ちゃん……?」


 心配そうに覗き込むサラ。


 ――ダメだな、お兄ちゃんとして、しっかりしなくっちゃ。


 僕はブルンと首を振った。



「さぁさ、ご飯までもう少しですよ。かくれんぼなら、もう一勝負できるかもしれませんよ。遊んでらっしゃい」


 美味しそうな匂いのするスープをかき混ぜながら、シスターが言った。

 多分今日のメニューは、細かい野菜と小さなお肉の塩のスープと、パンだ。パンは時々石じゃないかなって思うくらい固いし、スープもあんまり味がしないけれど、もう慣れたし、僕は嬉しいんだ。


 この教会に着いたその日に、『女神フロレンス様なんていない』だなんて、悪態をついたにもかかわらず、家族として受け入れてくれて……優しくしてくれて、ご飯をくれて。みんなで囲む食卓が、何より嬉しいんだ。


「よーし! じゃあもう一回かくれんぼする人〜!」

「「「はーいっ」」」

「ふふふ、いってらっしゃい」


 ――父さん母さんを思えば辛いことはたくさんあるけれど……。僕は……僕は今……幸せも感じられるようになっている。


 ◇ ◇ ◆ ◆


 ――もう、どれくらい経っただろうか。

 僕は今、かくれんぼの隠れ役。

 鬼役はシンだ。


 もしかして、鬼役の意味があまりよくわかっていなくて、探すことをやめてしまっている?

 それとも、僕が隠れるのがうますぎて探せないだけ?


 自分から出るのはなんだか負けた気分になるし、


「わぁーさすがゼラお兄ちゃん! 隠れるのうまいね!」

 とか、

「ゼラお兄ちゃんカッコいい!」

 とか、


 言われたいがためにジッとしていたけれど、そのうち……そんなことも考えられないくらい、なんだか具合が悪くなってきた。


 暑い……。

 いや、違う……。

 寒い……。

 おなかが、ぐるぐるする。

 胃が、気持ち悪い。

 眩暈(めまい)がする……。


 暗くて狭いこの場所が、なんだかとっても不快でこわくて仕方ない。


 だんだん、呼吸まで苦しくなってきた。

 


 ……意識が……だんだん……遠のいていく気がする。


 ……………………………………。


 ………………………………。


 ……………………。


 …………。



 『ひゃあああアハッハハァ〜! 馬鹿な小僧だよ』


 ……ヤツの……蛇頭のモンスターの声が頭に響き渡る。


 『お前がそんな愚図だから両親が逝っちまったんだヨォ!』


 ――違う! そんなことない……! 僕のせいじゃない!


 『本当にそう言えるのかい? お前のことを庇わなければ、両親らは違う選択肢もあったろうニィ』


 ――違う……!


 『お前のせいサァ』


 ――違う!

 ――違う!

 ――違う!

 ――違………………わないかもしれない……。


「ハァッ、ハアッ、ハァッ」


 息をしているのに、うまく息が吸えない。

 吸っても吸っても息が吸えない……!



 ――父さん、母さん……!

 ――ごめんなさい………………!


 僕は狭い暗闇の中で意識を失った。

 ――これが僕の――トラウマの始まりとなった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


「ゼラお兄ちゃん!」

「ゼラ……!」


 見慣れた、すのこ。


 ――どうやら僕は、無事に発見されたらしい。

 2段ベッドの下段に寝かされていたようで、シスターたちのほうを向くために寝返りを打つと、いつもどおりベッドのフレームがギシリと(きし)んだ。


「あぁ……女神フロレンス様よ、貴方のご加護に感謝いたします」


 シスターは、両手を組んで瞳を閉じた。

 シスターの祈りは大袈裟なことではなくて、どうやら僕は危ない状態だったらしい。


 かくれんぼでどうしても見つからない僕を、シスターも参加して全員で、(ようや)く発見できたのは、()()の中。

 ――そう、僕は納屋の中に隠れていたんだ。

 中には農具なんかがたくさんあって、狭くて暗くてそしてかび臭くもあって、とにかく……苦しかった。


 発見当時の僕は脱水症状で、ありとあらゆる身体の血色が悪かったらしい。


 ――僕は、トラウマをみんなに打ち明けなかった。シスターも、サラたちも、


「納屋で隠れるのは、もう禁止にしましょうね」

「ゼラお兄ちゃん、お大事にね」


 とだけ言って、深くは追求しなかった。


 深い意味があると思わなかったのか、それとも、気遣ってくれたのか。

 真意は定かではないけれど、なんとなく後者だろう、と僕は思った。


 この教会は、似たもの同士の集まりだ。

 触れていいこと、だめなこと。

 越えていいこと、だめなこと。

 その一線が、各々にある。


 僕の心の線引きを、きっと、感じ取ってくれたに違いない。


 僕は、少しの間一人にしてほしい、とみんなに告げて、2段ベッドの上段のすのこを見ながら、考えた。――自分の、トラウマについて。


 僕は、蛇頭のモンスターから隠れていた場所――大きな木のウロの中――と似たような狭くて暗い場所、そしていつ終わるかわからない時間的な余裕のなさ……複数が重なると発作のようなものを起こしてしまうようだ。


 このトラウマは……きっと……。

 たぶん……そう。


 蛇頭のモンスターに、復讐を果たすその日まで、癒えないような、そんな気がした。


 ……誰にも負けない強さがほしい。

 強くならなきゃ、ダメだ。


 そう、悟りながら。

 僕は心身の要望の赴くままに……

 意識を、深く、深く……落としていった。



 



今まで時折見せていたゼラのトラウマが明らかになりました。

暗くて狭いところで隠れていると、蛇頭メデューサのせいで両親を亡くしてしまったと時の記憶が蘇ってしまいます。


このトラウマを克服するには、蛇頭メデューサと対峙するしかないだろう、とゼラは考えています。

 

ミミリたちと悲願が叶えられることを願うのみです。


次話もよろしくお願いいたします。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆★☆ーー

最後までお読みくださりありがとうございました。


続きを読みたいな、今日の話なかなか面白かったよ!と思ってくださった方がいらっしゃいましたら、是非、ブックマークと下記の☆☆☆☆☆にてご評価をお願いいたします。


ブクマや、ご評価、感想をいただくたびに、作者はうさみのようにピョーンと跳び上がって喜びます!


とってもとっても、励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。


うさみち

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しそうなかくれんぼの様子から、急に恐ろしいトラウマの場面に変わり、何かゾクゾクッとしました。 ゼラ君、自分も悲しいのにおにいちゃんしてて偉いです。 でも小さいのに気を張って頑張りすぎで…
[良い点] ゼラの暗所恐怖症の謎が解けましたね。たしかに暗いところ苦手にもなりますよね。でも、お兄ちゃんしてられるときは自我が保てるのが救いでしょうか。読み応えがあって面白かったです。 [一言] 子ど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ