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3-38(幕間 前編)緊急依頼! ローデ討伐ミッション


「あ、あの声って……」


 アザレアの街、冒険者や商人たち御用達の店が立ち並ぶ英気の道沿いを歩いていたミミリたちに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「じゃあ今晩、よろしくお願いしますねっ!」

「おー! 二足の草鞋(わらじ)、大変だろうが身体に気をつけてなっ!」

「ありがとうございますっ」


 ちょうど用事が終わって退店するところだろうか。

 居酒屋食堂ねこまるの扉に左手をかけ、上半身のみ店内に取り残している聞きなれた声の主は、下半身を店外にひょっこりと出している。

 ミミリたちの位置から見えるのは、紺のショートパンツに黒のレースアップサンダル。


 この出立ちは……。


「デイジーさんっ?」

「あ! ミミリちゃんたち! こんにちは。奇遇ですね」



 予想したとおり、声の主はデイジーだった。

 赤髪に褐色の肌、深い緑色の瞳。

 肩出し白ニットも、褐色の肌によく映えている。


「どうしたのん、デイジー。まだ昼間よ? それに貴方……」


 言うなれば謹慎処分中でしょ、とうさみが言いかけたのを察したのか、デイジーはゆっくり目を逸らし、手をもじもじさせ始めた。


「あ、あははは……。実は、今晩だけは『酒乱デイジー』解禁! ってやつです」


「そうか! だからガウリさんから大量に酒の名水の注文が入ったんですね! 私たち、ちょうど居酒屋食堂ねこまるに納品しに行くところなんです。……でも……」


 ミミリはデイジーの言葉にピンときたようで、若干腑に落ちない部分があった。

 デイジーはたしかに、お酒が入ると悪酔いしてしまう。だけれど、大量にお酒を消費するのは、デイジーというよりは……。


「まさか……ロー……むぐぐぐ!」

「し〜っ! ダメですよ、ミミリちゃん!」


 ミミリはデイジーの両手で口を抑えられ、志半ばで口をつぐんだ。

 デイジーは、ミミリがある人物の名前を大きな声で言わないことを確認してから、そっと手を離した。


「いいですか……、みなさん。実は、ある計画があるんです」


 デイジーを中心に、ミミリもうさみもゼラも寄り添って耳を側立てる。


「実は、今晩……」


「「「うんうん」」」


「酒好きの聖地、アザレアの酒(ワン)グランプリを開催予定なんです」


「へ〜、楽しそうじゃない……。でもどうしてヒソヒソ声で話さなきゃいけないの?」


 うさみはヒソヒソ声で話さなくてもいいんじゃないかと思いながらも、一応場に合わせてヒソヒソを続ける。


「うさみちちゃん、実はですね、このグランプリに副題があるんです」

「副題?」

「はい。それは……」


 ――――――――


 ――――――


 ――――


「緊急依頼! ローデさん討伐ミッション、です」


 ためにためたデイジーは、蟻のように小さな声で、ここだけの話ですよ、という前置きに続けて副題を告げた。


「――‼︎」


 ミミリたちは慌てて自分たちで口を抑え、一間置いてから口を開く。


「危ないわね、デイジー、失神させる気?」

「俺も危なかったです、デイジーさん。倒れるかと思いました」


「わわわ、私は大丈夫じゃないです、ローデさんのこと、やっつけちゃう気ですか? 酔拳で?」


 ミミリの呼吸はこの上なく乱れ、はぁはぁと肩で息をしパニックになっている。


「ふはっ! 大丈夫だよミミリ。そういう意味じゃないと思うぞ」

「ダメですよ、ゼラくん。ほわほわなミミリちゃんにメロンメロンだからって、声が大きいです」


「メッ、メロンメロン……! いや、俺は……!」


 ゼラの桃色な困惑はお構いなし――というよりは、敢えてゼラの言葉に被せて、うさみはデイジーに質問をする。


「詳しく説明してちょうだい?」

「はい。アザレアの銘酒、フェニックスの生産に追われているので、市場に出回っている通常のお酒の供給が追いついていないらしいんです。そんな最中、居酒屋食堂ねこまるにローデさんが頻回に出没するらしくって……」

「なるほどね、ただでさえ枯渇しているお酒が、ローデの胃に入っていくってわけね。しかも」

「「どれだけ飲んでも顔色も変えずに」」


 うさみとデイジーの息は、まるで双子のようにピタリと合う。


「それで、どういう計画なの? 酒(ワン)グランプリの開催と、ローデ討伐ミッションは表裏一体なんでしょう?」

「そうなんです。実は……」


 ――――――ひそひそ。


 ――――ひそひそひそ。


 ――ひそ、ひそひそ。


 デイジーからひそひそと計画を伝えられるたびに、うさみの表情はみるみるうちにわる〜い顔になっていく。


 そしてうさみの黒い瞳はギラリと光り、エニー(お金)マークに。


「ふふふ。エニーちゃーーーーーーんすっ!」


「チャンス?」

「そうよ、ミミりん。金銭のニオイがするわ。そうと決まれば、早速打ち合わせよッ、デイジー」

「ご協力いただけるんですね! 嬉しいです」 


 ――ヒソヒソ声ではあるものの、英気の道の中央で話し込むミミリたちの周りには、気がつけば人だかりができていた。


 デイジーとうさみの目論見が、デイジーの兄、コブシに伝わるのも時間の問題。



 酒(ワン)グランプリ――デイジーとうさみの目論見は、果たして上手くいくのだろうか……。





幕間は、

前編ー中編ー後編ー後書き

の予定です!


次話もよろしくお願いいたします。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆★☆ーー

最後までお読みくださりありがとうございました。


続きを読みたいな、今日の話なかなか面白かったよ!と思ってくださった方がいらっしゃいましたら、是非、ブックマークと下記の☆☆☆☆☆にてご評価をお願いいたします。


ブクマや、ご評価、感想をいただくたびに、作者はうさみのようにピョーンと跳び上がって喜びます!


とってもとっても、励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。


うさみち

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― 新着の感想 ―
[良い点] 酒1グランプリ(*´艸`) またまた大変な騒ぎになりそうな企画ですね〜! うさみちゃんもやる気満々のようで、デイジーちゃんはいったい何を企んでるのやら。次話が楽しみです♡
[良い点] アザレアの酒事情はシビアですね。ゼラの桃色メロンメロンはみんなに筒抜けなのですね。とても面白かったです。うさみも悪い顔になってきて。それぞれの魅力がふんだんにあらわれていて良いと思います。…
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