3-32 秘湯でドキドキ? レッツバカンス!
「雲ひとつない澄みきった空、
眩しい太陽、
アンスリウム山の中腹に広がるルフォニアの花畑の中、
丈の短いバスタオルを身に纏い、恥じらう美女たちを眺める可愛いうさぎが1羽。
そう、私は罪なうさぎ……。
だってビーチチェアに横たわる私の色気に、半裸の下僕2人(容姿ヨシ)が夢中になっているもの。
あぁ、私ってばなんて罪深いのかしらんっ。
……あ、ゼラ、飲み物ありがと。そこ置いといて」
「う……ん、いいんだけど、下僕って俺とコブシさんのことじゃないよな?」
「んふふ〜ノーコメントよんっ」
「それ、最早そうだって認めてるようなもんだからな?」
ゼラはうさみにツッコミを入れながらも、ミミリが【マジックバッグ】から出してくれた【魅惑のはちみつジュース】をローテーブルにそっと置く。
ビーチチェアに横たわるうさみが手を精一杯伸ばしても届かなそうだったので、すかさずうさみの口元までもっていってやった。
その尽くしっぷりは、本当に下僕のよう。
「はははっ! ほんっと、うさみちゃんたちって面白いよ」
「あら、ありがとコブシ。でもコブシも私に尽くしてもいいのよん?」
「例えば、どんなことをご所望なんだ? うさみちゃんは」
「ん〜。そうねぇ。バニー的バカンスっていったら、新鮮なニンジンだと思うのよ」
「バニーって……。でもニンジンは持ってないから、また今度だな」
下僕その2(コブシ)に向かって、短い灰の手を小さく振るうさみ。もしうさみに指があったなら、人差し指を立てて左右に振っていたに違いない。
「チッチッチ! コブシ、なってないわねん。もっと修行してバニーレベル上げてちょうだいッ」
「ハハッ、精進しますよ、うさみちゃん」
◆ ◆ ◆
「ああ〜、気持ちいい〜」
「ほんとですねっ! ルフォニアの花に囲まれて入る温泉って最高です〜」
ミミリとデイジーは、花の優美な香りに囲まれて冒険のご褒美を堪能中。
ミミリは温泉の湯気を頬に浴びながら、左手で乳白色の湯をすくう。見た目に反してサラリとした手触りで水捌けもよく、肌に残るベタつきもない。
最高の湯に、最高の景色。
そして【マジックバッグ】にはたくさんの成果品が。心が満たされた状態での温泉は、最高の贅沢だ。
「でもこの温泉、どうして秘湯なんですか? アンスリウム山の頂上を目指す一本道の中腹にある温泉なら、みんなの目に留まりそうですけれど」
「あぁ、それはですね……んん〜!」
デイジーは、頭にタオルを乗せて温泉のへりに寄りかかって大きく伸びをする。はみでんばかりの両胸の窪みにたまった乳白色の湯が、デイジーの褐色の肌を際立たせてなんだか色気たっぷりだ。
「それはですね、本来アンスリウム山はモンスターとの遭遇率が高いからですよ。ミミリちゃんが出してくれた小屋がなければ今頃モンスターに囲まれてますよ!」
「ううう……。それは想像しただけでこわいですね。こんな無防備な格好でモンスターに襲われたら」
「そうなんですよ。普段なら入ることが叶わないですから、そういった意味で秘湯ってことですね」
「なるほど……」
ボソリと呟いた声の主によって移動された衝立からチラリと顔を覗かせて、ゼラがボソリと呟いた。
ゼラが衝立の後ろに隠れているように、ミミリのデイジーの入浴シーンを愛でる会(うさみ主催)は男子禁制かというと、そうでもなく。
ビーチチェアに横たわるうさみも、傍に立つコブシもバッチリとミミリたちの入浴シーンが見える位置にいる。というのも、ミミリたちはバスタオルを纏って入浴しているために見られていても何ら問題がないからだ。
ゼラは、罪悪感から自主的に衝立の後ろに身体を隠しているだけだった。
「ねえゼラくん。そんなところにいないで、一緒に入ろう? コブシさんもっ」
ミミリは乳白色の湯から白く透き通った腕を出し、2人を手招きした。
「えっ! そそそそそんな、ミミ……」
狼狽えながらも喜びを隠せないゼラ。
そしてコブシは、遠慮することもなく……。
「おっ! ありがとなミミリちゃん。それじゃ、遠慮なく……」
「何言ってるの、ダメよコブシ。後でゼラと2人きりで入りなさいっ」
「「はぁ、やっぱりそうだよなぁ……」」
「そっか、そうだよね。みんなで入ったらうさみ1人ぼっちでさみしいもんね」
「あー、うん、そう、そういうことにしとくわ」
うさみたちのやりとりを見てクスリと笑うデイジー。頭の上の冷えたタオルを湯につけてギュウッとしぼり再び頭に乗せた。
「ああ、温泉にお酒を浮かべながら呑めたら最高でしょうねぇ〜」
デイジーの発言に目を光らせるコブシは、すかさずデイジーに釘を刺す。
「デイジー! しばらく禁酒だからな。何が原因で今冒険者としてここにいるのか、わかってるだろ?」
「うっうっうっ。わかってるよ〜、兄さん。ただちょっと、言ってみただけだから」
デイジーは気まずそうに、口元まで湯に沈めてブクブク泡を出している。
「そういえばデイジーさんって、C級冒険者なんですよね? モンスターとの戦闘もできるんですか?」
「はい、一応。条件付きですけれど……ははは……」
「条件付き……?」
「はい。エイッ! ヤァッ!」
デイジーは立ち上がり拳を前にシュッと突き出して戦闘ポーズをとってみせる。だけれど少し恥ずかしげで、繰り出されるパンチはスピードもなければ、威力もない。
「コブシっていう拳闘士を知っているだけに、なんだかちょっと……」
と、うさみは言葉を濁しながらも指摘する。
デイジーは、うさみの指摘に、頬をぽりぽりとかいて小首を傾げ、チラリとコブシを見た。
コブシは、「言ってもいいぞ」というように小さく首肯する。
「あはは……。私、お酒を呑むと闘えるんですよね。まぁ、みんなはご存知だと思いますが、悪酔いしてモンスターに絡みながら闘っちゃうんですけれどね」
「ええと、お酒の拳闘士ってことですか?」
ミミリの質問にデイジーは照れくさそうに微笑んで言う。
「えへへ。そういう言い方だとマイルドですね。私の二つ名は、『酔拳闘士のデイジー』です」
「……デイジーらしいわね……」
「ありがとうございます! ……一応、呑みだしたら逃げろ、とまで言われていたんですよ〜」
うさみにお礼を言いながらも目を逸らすデイジーは、胸元で指をいじいじと遊ばせている。
「えっと……」
場の空気を壊しかねないとわかっていても、うさみはどうしても言いたくて仕方ない。
「えっと……あの、それは酔拳闘士のデイジーがあまりに強いから? それとも悪酔……」
うさみが全てを言いかける前に、デイジーの表情に気がつき言葉を止める。
「うっううっ。わかってます、本当はわかってますよおお、うさみちゃん。悪酔いデイジーが面倒だから逃げろって意味ってことなんです〜!」
「みんな、うちの妹が……本当にゴメン! でも一応、戦闘力はあるほうなんだ。酒があればっていう条件付きだけれど」
あわや泣きそうなデイジーと、必死に謝るコブシ。
この光景は、すでにどこかで見たような気もするが、どこか人を和ませる雰囲気が感じられる。
「なんだか、貴方たち兄妹っていいバランスだと思うわん。とっても、とってもね!」
◆ ◆ ◆
「さぁ、ミミリちゃん。そろそろ上がりましょう。のぼせちゃいますから」
「……はい〜」
立ち上がって話し続けていたデイジーは、その間ずっと入浴中だったミミリに声をかけた。
しかしミミリからは、気の抜けた返事しか返ってこない。顔も真っ赤で、目もとろんとしている。
「たっ大変! のぼせてますっ、ミミリちゃん」
「「「ええっ?」」」
ゼラは衝立から飛び出して、羞恥心も罪悪感もどこへやら、温泉へ飛び込んでミミリを抱き上げた。
「だ、大丈夫かミミリ。今水を飲ませて……。
――!」
ゼラはミミリをお姫様抱っこしたまま、みんなに背を向けて……そして空を見上げた。
「な、なに? どうしたの? ゼラ」
「あーえーあー、えーっと、手の感じでしかわからないんだ。見てはいない、見てはいないんだけど、多分バスタオルがはだけてると思うんだ。だから、デイジーさん、バスタオル持ってきてもらえませんか? 俺はこうして空を見てますから」
「あの……、ゼラくん、見ても大丈夫だと思いますよ? 私たち水着着てますから」
「エッ!」
ゼラは腕の中のミミリを見た。
ミミリは確かに、水着を着ていた。
ミミリの晴れた空色の瞳の生地の水着に、白のフリルレースがあしらわれた可愛らしいつくり。白い肌が目にまぶしい引き締まったお腹に、細い太腿。そして、胸元は……。
ゼラが目を向けようと思った矢先、視線があった。
「ううう。ゼラくん、そんなにじーっと見たら、恥ずかしいから、やだよぅ」
「――!」
目を潤ませて顔もほてらせたミミリの止めの一言で、ゼラは天に召されるだけでなく……。
「ゼーーーーーーラーーーーーー」
うさみの背後に揺らめく炎。
ーーうさみにも召された。
「ギャアアアアアアア!」
ゼラはこの後、うさみの重量魔法――闘神の重責でこっぴどく締め上げ……ではなく、押しつぶされたのだった。
お色気第二弾、いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけましたら、とても嬉しいです。
次話もよろしくお願いいたします。
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うさみち




