異世界の救えない話
《登場人物紹介》
◆フルゴラ≠フルル
…僧侶
1
私、〝フルゴラ≠フルル〟は勇者と共に魔王を倒す旅に出た僧侶であった。
〝あった〟。
そう過去形。
何故なら魔王は私が〝願いを叶える魔法の鏡〟で呼び出した異世界の勇者様が倒してくれたから。
〝魔王を殺す力が欲しい〟。
そう鏡に願った。
今なら違う願いにしておけばよかったと思う。
「〝サンダーエンチャント〟!!」
魔法の杖に雷を纏わせる。
角の生えた小さな魔物が私に背を向けて走り出した。
誰かの叫び声が聞こえたが無視する。
「逃がすかっ! 〝サンダーランス〟!!」
投げ槍の要領で魔物を後ろから串刺しにした。
電撃が魔物を体内から焼き尽くす。
「ゴボッ…!」
血を吐いた。
私が。
魔法の使いすぎだ。
2
『僧侶ちゃんはさ。もっと自分の身体を省みた方がいいよね。僕様みたいに』
聖剣とナイフをお手玉しながら言っていた勇者様を思い出す。
『勇者様は別世界の住人だからそんな悠長なことが言えるんです。私っちは早く魔物を皆殺しにしなければならないのに』
『いいけどね。僕様は暴れられれば。でも、まあ僕様の仲間な以上目の前でグロい死に方しないでよ』
茶化した言い方をしていたけど勇者様の目は本気だった。
3
「〝エクセスヒール〟」
魔法の使いすぎで損傷した臓器を無理やり回復させる。
いつだったか一緒に共闘した魔法使いの女の子が言っていたことを思い出す。
『勇者様と初めてあった時はなにこの破天荒なヤバい人って思ったけど。僧侶ちゃんが一緒だと勇者様ストッパーになるのね。吃驚なんだけど』
確かに勇者様は喧嘩や暴力が大好きなヤバい人だけど、私と比べるのは流石に失礼だろう。
勇者様に。
「〝セイントサンダー・ギガ〟!!!」
魔物の集落に無差別に雷を落とす。
勇者様というストッパーを失った私は箍が外れてしまった。
魔王軍の残党狩りについてきてくれた仲間も、暴れることなく隠れ潜む魔物を探し出して根絶やしにしようとする私にはついてきてくれなかった。
「ガハッ…!!」
血を吐く。
勇者様ならどうしただろうか。
私を見捨てただろうか、それとも止めただろうか。
「フッ。〝エクセスヒール〟」
回復魔法で臓器を治す。
「あの破天荒な勇者様の行動を拙僧如きが測れようか」
読めない人だった。
いい加減でドライで暴力的なのに優しい人だった。
そんなところが好…
「あれ…?」
お腹から刃が出ている。
私が魔物の襲撃に気づかないはずが。
後ろを振り返る。
「人の…子ども…?」
「友だちの…仇っ」
友だち?
私が人間の子どもを傷つけるはずが。
『アグレッシブなのは僧侶ちゃんの可愛いところだけど、憎しみに任せて動き続けてるといつか意外なところから背中を刺されるかもねぇ。…まあ、少しは周りを見てって話なんだけど』
勇者様の言葉を思い出す。
ああ、そういやさっき小さな魔物を殺した時にこの子いたな。
なにか叫んでたけど覚えてないや。
…いや、覚えてる。
〝その子は悪い魔物じゃないから殺さないで〟
「は、ははははは…」
ザシュ
と音がした。
私の胸に刃物が突きたてられた。
子ども…、男の子の顔を見る。
憎しみに満ちた表情かと思いきや、意外にも怯えた顔だった。
「悪い化物を倒しただけなんだから…気にする必要は…ない、よ」
安心させようと思って笑ってみたのだが、子どもは走って逃げ出してしまった。
4
「ゴベッ…」
口から血の塊を吐く。
「あー、こりゃ回復魔法でも…無理だ」
杖に魔力を溜める。
そういや、私の魔物を憎む理由も友だちの敵討ちだったな。
忘れてたけど。
そうするとあの男の子にとって私は魔王か。
「とはいえ、子どもを人殺しにする訳には…いかないよねえ」
足りるか魔力?
自動回復も中断して杖に魔力を溜める。
『魔王を倒したから僕様は元の世界に送還される訳だけど。僧侶ちゃ…フルゴラも一緒に来る?』
勇者様の言葉を思い出す。
〝まだ魔物を根絶やしに出来ていないから〟と断ると
〝そういうと思った〟と諦めたように笑っていた。
余計な想いを残さないよう何も言わなかったが、あの時誘ってくれて本当に嬉しかった。
復讐の旅に出てから唯一、貴女といる時だけは幸せだった。
「大好き…、いや愛してましたよシナトちゃん。〝セイントサンダー・ギガ〟!!!」
自分に雷を落とす。
〝私を救ってくれる人が欲しい〟って願っていたら何か変わっていたのかなぁ、シナトちゃん。
[登場人物紹介]
◆フルゴラ≠フルル
性別:女性
年齢:15歳(享年)
種族:人間
趣味:日記
好き:子ども、魔物を殺すこと
嫌い:魔物
苦手:親しい人を亡くすこと、火
一人称:私っち、拙僧
メモ:
魔物が人間を虐げていた異世界の僧侶。
別世界から呼び寄せた勇者と共に魔王を討ち果たしたが、契約が切れ勇者が元の世界に送還されると次第に暴走。
戦意のない魔王軍の残党はおろか、人間と平和に共存していた魔物まで皆殺しにしようとした。
最後の方には魔法の使いすぎの反動で常に血だらけで〝エクセスヒール(過剰回復)〟で身体を再生しながら動き続ける生ける屍と化していた。
勇者がいた頃はまだ人間味があり、メチャクチャな勇者の言動やいい加減な剣術〝曲芸剣〟にツッコミを入れつつ笑うあう等、いいコンビとして仲良くやっていた。
技:
バックファイア …炎を跳ね返す呪文。火が嫌い。
エクセスヒール …過剰回復呪文。回復も重ねると毒となる。
サンダーエンチャント …雷属性付与。かつては勇者の聖剣に使っていた。
サンダーランス …雷の槍で敵を貫く技。
セイントサンダー・ギガ…雷属性の大魔法。僧侶の必殺技。




