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たき火

作者: 長光一寛

たき火


私どもフローレンスはメンバー3人で、中野区のあるケアセンターを訪れて唱歌や演歌や民謡を演奏させてもらい、皆さんにいっしょに歌ってもらっています。メンバーの一人がその近くに住んでいるわけで、最後の練習はその人の家に集まって行い、そのままセンターに行って本番です。


私は初秋に磯部にひとりででかけ、碓井川のほとりで11月の演奏予定曲目を練習していて、唱歌「たき火」の3番の歌詞の最後がものたりない気がしました。1番の最後の行は「北風ぴーぷー吹いている」、2番は「しもやけお手々がもうかゆい」と面白いが、3番になると「相談しながら歩いてく」と、そっけない。そしてすぐに思いついた、ここは「お芋のにおいもしているよ」に変えてみたらどうだろうと。


私は司会役もするので、あの手この手と工夫してそれぞれの曲に関する話題を用意していく。自信のない話をしていると「早く歌をやれ」とヤジが来ることもあった。何とか興味をそそるような話にしなければならない。そこでこの「たき火」はクイズをからめようと決めた。


それは歌う前に、「この曲にはクイズがあります。お渡しした歌詞の中で、一行だけ原作の歌詞とは違っています。よく考えながら歌って、その変えられた所を当ててください。オリジナルの歌詞はどうだったかも当てていただければ満点です」と出題する。


グループ練習の際に、これを言うと、中野在住のくだんのメンバーが、彼が別に属しているハワイアングループは寒い季節になると必ずこの曲をリクエストされる、それはこの曲の作詞者がかつてこのあたりに住んでいた人なのでこのあたりでは特に親しまれている曲なのだから、と言う。「だからその歌詞をかってに変えるとおこられちゃうよ」、と注意した。しかし面白いかもしれないということで実行に移すことにした。


さて本番で歌が終わって、さあどこが原詩と違うでしょう、わかったひと手を挙げて下さい、と尋ねると、だれも手を挙げない。「お芋のにおいもしているよ」はすなおに原詩の流れに乗ったかのようだ。そこで「最後の行の、お芋のにおいもしているよ、が違っています、では本当は何だったでしょう?」しかしこれも手が挙がらない。この曲は3番まで歌われることは比較的少ないので、わからないのだろうと思う。そこで「相談しながら歩いてく」です、と言うと、やっと「ああー」と二三人の女性から納得の声が上がった。


そこで、もう一度歌いましょう、今度は3番の最後の行は繰り返して歌ってください。一回目は「お芋のにおいもしているよ」二回目は原作の「相談しながら歩いてく」にしましょう。・・・そして歌い終わると、「ありがとうございました、これで私らも原作者に叱られずにすむでしょう」と結んだ。


しかし話はここで終わらない。その日、近くに住むくだんのメンバーのうちで反省会をし、それが終わって、風の冷たさを感じながら夕暮れ時の道をもうひとりのメンバーと新井薬師前というバス停に向かう。近道をしようと誘われ、細道に入る。彼も記憶が定かでないので、道が分かれるたびにどちらに行こうかまよう。相談しながら歩いてくうちに、珍しいところに来た。垣根がびっしりと並べられた竹でできているのだ。こんなのは見たことがない、と私は歩を止めて、触ってみたりした。そして今度からこっちをいつも通りましょうなどと言いながら過ぎ去った。


ひと月ばかりしてあるインターネットサイトで、唱歌「たき火」について調べていると、原作者が作詞のヒントを得たと言われる「鈴木家の竹垣」の説明があり、そこのURLをクリックして、あっとびっくり。まさに我々が通った竹のかきね道が現れたのだ。「たき火」の作詞者は、この旧家・鈴木家の前をよく通り、冬によく眼にしたたき火が、かの詩のモチーフになったとのこと。


きっと今は亡きこの原作者もあの日の私らの演奏が気に入ってくれたので、こっちに導いてくれたのだろうと思っています。



たき火の歌詞

http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/shouka/takibi.html





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