学校生活2
チャイムが鳴り、朝のHRが終わった。
伊吹は席を立ち、教室を出た。向かった先には“売店”と横書きで書かれた木版が目に入った。しかし、伊吹の目的は食べ物ではない。飲み物を買いに来たのだ。
売店の隣に並ぶ3つの自動販売機。その中から気分で飲みたいものを買う。これが、伊吹の学校生活のルーティーンだ。今日は炭酸が飲みたい気分なので、サイダーを買った。
用を済ませた伊吹が教室へ向かう途中、廊下の端で話し声が聞こえてきた。
「赤金君って、彼女とかいるのかな?」
「どうだろうねぇー、でも、あれだけ運動も出来るし、彼女の1人や2人いてもおかしくはないねぇ」
2人組で話している生徒はどうやら赤金優里──言うまでもなく、クラスに1人…いや、こいつの場合は全国的に見て1人必はず居る存在だ。なんてったって、優里は小学生低学年の頃から剣道をしており、積み上げた努力の成果が全国中学校剣道大会“優勝”である。
そして、高校でも剣道部に所属した。そのため、優里が入る前まではほどほどの部活だった剣道部が今では1番と言っていいほど活気溢れている。
っと…!無駄話はこれくらいにしてと。立ち止まっていた伊吹は教室へと急いだ。
1限目までギリギリで間に合った伊吹は教科書を取り出して授業を受ける姿勢をとる。それから午前中の授業は特に変わったこともなく、あっさりと時間が過ぎていった。
昼休みは、いつもは教室で母の手作り弁当を食べるが、今日だけは売店で何か買って食べると言った。
朝と同じように、売店へ向かった。すると、
「……人が多いな…。」
つい言葉に出てしまうほどに、人集りが出来ていた。売店のおばちゃんが生徒で隠れて見えないほどに。伊吹は、病気であってもなくても、争うことを嫌うので、仕方なく待つことした。
──無くなったりしないよな?
そんな不安を抱えたまま、人集りが去るのを近くの椅子に座って待った。こうして眺めていると、この学校にも色んな生徒が居るんだなと、学校の方針に感心した。
人が減る様子が無いので待っている間、本を読むことにした伊吹はスマホの電子書籍を開く。
伊吹の読む本はラノベが基本だ。しかしこれも、好きなジャンルなどが一切無い為、異世界でもラブコメでもどんなジャンルでも、どんな属性ヒロインも楽しんでいる。
常に詰まらなさそうな顔をしている伊吹もラノベを読んでいる時は、生きた目をしている。
まるで、2次元が自分の全てだとでも言うような…そんな表情をしていた。
10分ほどでやっと売店周辺には人影は全く感じられなくなった頃、伊吹は売店へ向かう。伊吹の予想通り、と言っていいのか売店にはほとんど、買うものが無くなっていた。
しかし、売店のおばちゃんは後ろでずっと待っててくれたからと菓子パンを2つと飲み物をサービスしてくれた。
伊吹は心の底からやったぜ!と声を張り出したいほどに、嬉しかった。売店のおばちゃんへの感謝を言い、売店を後にした。
伊吹が向かった先は屋上。多分、人が多いだろうが1つくらい空いているだろう、と屋上へ行った。
そこで伊吹は驚愕した。なんと、屋上には誰一人として居なかったのである。
もしかしたら、立ち入り禁止なのかと思い確認してみるも、それらしい看板や張り紙は見当たらない。ということはつまり、運が良かった、という事になる。
屋上はプールがあるため、1人では勿体ないくらいに広く、周りに比べ若干高台になっているため風が気持ちよく、尚且つ景色も良い。学校の魅力の一つでもある。
伊吹は丁度日陰になるところを探して、そこに腰を落とした。椅子は所々にあるが、日陰の場所には無かったので仕方なく、座って食べることにした。
売店のおばちゃんからもらったのは、大きめのカレーパンと、普通の焼きそばパンだ。それと飲み物は緑茶を頂いた。
折角の好意を無駄にする訳には行かないので、より快適に寛げる場所で、昼食を堪能する。とはいえまだ、気温は高めだ。陽射しはかなり強い為、肌の弱い人なら直ぐに皮が向けてしまうだろう。屋上にずっと入れば熱中症になる可能性だって十分に有り得る。
だが、伊吹はそこを考慮した上で屋上を選んだ。
今思うと、屋上に誰も人がいないのは暑いからなのかもしれない。教室にはクーラーが付いているし、教室の方が圧倒的に寛げるのだろう。
伊吹の考えは、陽射しが強ければ良い昼寝が出来るし、日陰にさえ入れば─時々肌触りの良い風が吹く─熱中症になる心配も薄れる。そして、遠くの山々を眺めたり、街中の景色を眺める。この学校のパワースポットだ。
昼食を食べていると、急に屋上のドアが開いた。
ドアから出てきたのは、可憐な少女だった。自分の身長よりも10センチ程低い彼女は、ドアから出た途端に口を動かした。
「わぁ、凄く良い景色…」
その言葉の中には、沢山の意味が込められているのだろう。それが何なのか分からない伊吹がそんな事を思った。
どうやら、伊吹のことは気付いていない様子。ここでただ見ていたらバレた時変質者扱いされないだろうか?そんな不安から声をかけようとしたが、彼女の言葉が伊吹の行動を遮る。
「これが最期の景色になるのですね」
どこか切なく、ある事を思い切ったような…そんな声音で独り言を話していた。
彼女が一体どこの誰で、何を抱えているのか、詳しいことは分からないが、今の伊吹には何となく勘づいていた。
──彼女もきっと同じ境遇なのだろう
なんの根拠もないが、そう思った。
彼女は暫く景色を眺めたり、写真を撮ったりした後に屋上から出ていった。
出ていく瞬間、伊吹は顔を真っ白にしていた。まるで、何かに酷く驚いたようだった。
伊吹の頭には彼女彼女のことでいっぱいになっていた。午後の授業は、何をしたのか全く覚えていない。
今回は少し長くなってしまいました。
これからどうしようか、すごく悩みますが、1000文字ずつであればちょこちょこ変更可能なので、頑張っていきたいと思います。