6話
女の武器を使うことに抵抗が無くなってきたようです。
「エキドナちゃん。お願いがあるんだけど、良い?」
他の班員にバレないように僕が話しかけると、エキドナが「ぎぅ」と反応した。
「……この先を進んで、倒せそうな魔物が居たら倒してて欲しいんだ。他の人にバレないように、ね」
僕の考えていた方法というのは、これだった。
召喚獣と僕は経験値を共有出来るのだから、つまり、エキドナちゃんにこっそりと魔物を倒して貰えば、勝手にレベルが上がるという寸法である。
これは、人数が多い時は使えない手で、少人数の班で動く今だからこそ使える手段だ。
人数が多い時にこの手を使うと、エキドナの存在がバレる確率が高まるし、そうなった場合に、魔物を倒しに行かせる=その間は僕が無防備、という風に考える輩も出て来る。
襲って下さい、と自ら言っているにも等しいそんな行動を起こすつもりはなくて、それをどうにかしつつレベルを上げるとなったら、まさにこの方法がベストなのだった。
「僕の言ってる事、分かった?」
そう訊くと、エキドナは小さく「ぎぎぅ」と鳴き、するすると服の中を通って僕の足元から外に出た。
ちらりと班員の様子を伺うと、エキドナに気づいたヤツは居ない見たいだ。
よしよし。
これであとは、適当に危なくないように迷宮内をうろついて、待てば良いだけになった。
他にやる事は特に無いので、僕は最後尾につきつつ、A班の進み具合を眺めて時間を潰す事にした。
A班の先頭を歩いているのは、ゴリだ。
ゴリは体育教師と言う事もあってか、結構力も強い方であり、いきなりの戦闘などが起きた場合に対処するには適任で、あと一応年長者だから、という理由から本人が希望した事であった。
個人的には、出来れば他の人に先頭に立って貰って、ゴリには僕の傍で護衛をして欲しかったんだけれど……真っ当な理由による希望は拒否し辛く、OKを出してしまった。
ゴリも、僕とケダモノ達のやり取りを見ていたハズなのに、どうして……と思っていたら、どうやらゴリは、それらをただの冗談の応酬と捉えていたようで、「遊びも程ほどにな」的な事を言って来た。
折角かけたゴリ保険の安心度が、こんなにも早く下がり始めるとは……。
ぬぐぐ……。
と、ケダモノ一郎と二郎の二人が、こっちを見てニヤッとした。
むかつく顔してくれちゃって。
ゴリが先頭だから、「アテが外れたな」とか言いたいんだろうけど……そんな事はないのだけどね。
先頭だろうが、ゴリが班に居る、と言うだけで手を出し辛くなっているのは事実だし、それにもう一つの保険にも僕は目ざとく気づいている。
――二段である。
二段は、僕を変な目では見て来ない、数少ないクラスメイトの一人だと判明しているのだ。
空手をやっているという事もあって、強さも期待出来る。
「……あのさ、ちょっと良い?」
取り合えず、二段に、なんとか傍に居て貰えるように頼んでみる事に。
隙を生じぬ二段構えを構築するのである。
二段だけに。
「……ん? どうした?」
「ほら、僕って今はもう女じゃん? だからさ、あんまり戦力にならないじゃん。で、それってつまり、危ない時に自分の身を守れるかも正直……怪しいって事なワケで」
「あぁなるほど。だからゴリも追加したのか」
「うん。でも、ゴリは先頭行っちゃったし。他の三人はアレだし、二段に傍に居て欲しいなって……駄目かな?」
と、ここで必殺の涙目。
「うっ……まあ、確かに不安だよな。その体じゃ」
「じゃあ」
「分かった。ただ、自分で出来る事は自分でやれよ」
効果はばつぐんだ!
やった。
にしても、やはり二段は女性に免疫が無い様子……。
ちょっと気が引けるけれど、これも身の安全の為だから、許してね二段。
おっと、そうだった。
ケダモノ一郎と二郎を煽るのも忘れてはいけない。
「ふっ……」
二段を傍に置いた僕は、勝ち誇った表情をケダモノ一郎&二郎に向ける。
「ゴリの次は鉄かよ……」
「……口論ぐらいならやってもいいが、鉄と殴り合いの喧嘩まではしたくねーな。あいつ見た目通りにめっちゃ強いらしいからな」
「ちっ……」
ぼそぼそと何かを言っている。
良く聞こえないけれど、悔しそうって言うのだけは、雰囲気で伝わって来る。
勝った。
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氏名:小桜 勇気
性別:女 レベル:0.1
次のレベルまで:58/60
動体視力0.91
基礎筋力0.45
身体操作0.72
持続体力0.66
魔力操作0.93
魔力許容0.78
成長水準3.65
固有スキル 召喚士2.00
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ちょくちょく自分のステータスを確認して見ると、その度に経験値が溜まり、あと一歩でレベルが上がる程になっていた。
現在の獲得経験値が58。
スライム一匹で2の経験値だから、どうやら、放ったエキドナが都合29匹も倒してくれたいるようだ。
まだ一時間程度しか経ってない事を考慮するに、かなりハイペース。
エキドナ大丈夫かな……。
大きな怪我とかしてないと良いんだけれど……。
いや、倒せそうな魔物が居たらってちゃんと言ってあるし、杞憂だよね。
召喚獣のことを信じよう。
と言うところで、エキドナのステータスも確認してみよう。
召喚獣のステータスは、離れていても見る事が出来るようだからね。
確か、エキドナは、次のレベルまでの経験値が僕より低かった。
レベルが上がっているかも知れない。
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名前:エキドナ
性別:メス レベル:0.2
次のレベルまで:8/100
動体視力0.55
基礎筋力0.40
身体操作1.23
持続体力0.52
魔力操作0.63
魔力許容0.77
成長水準0.65
スキル 暗視0.60 毒牙0.75
経験値配分 均等
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おおっ。
上がってるよ。
で、そのお陰で、ステータスも若干強くなっているね。
初めて1になった数値も出てきている。
まぁ、クラスメイト達と比べれば、依然として低くはあるけれど……でも、着実に強くなっている。
千里の道も一歩からと言うし、少しずつ、成長を積み重ねていこう。
「……まったく魔物が出てこないな。どうなってるんだ?」
先頭に居るゴリが、悩ましげに唸っていた。
どうやら、全くといって良いほど魔物の姿が見えないらしい。
確かに今まで一匹も遭遇していない。
エキドナが、こっそりと、獅子奮迅の活躍をしているお陰だ。
でも……魔物と全く出くわさないのも、それはそれで問題かも知れない。
ゴリも怪訝に感じているくらいだから、原因を探ろう、みたいな話になる可能性もある。
それはよろしくない展開だ。
違和感を持たれない為にも、後でエキドナへの指示を変更しておかなきゃね。
全部は倒さず、多少は見逃しておくように、と。