何も言ってないのと同じ
〈食パン〉は家に帰ると、食パンを焼いて、それを食べながら甘酒を飲んだ。
テレビをつけると、〈ガムシロ〉が出ていた。
ニュース番組だ。
それによると、殺されたのは、なんどもレイプを繰り返してきた男だとわかって、こんなやつ、殺した方がよほど世のためになるじゃないか、とつい思ってしまう。
畳の上に寝転がった。
あの夏、四人で海に行った日のことを思い出した。
とても楽しかった。
四人というのは、〈食パン〉と〈ガムシロ〉と〈柿子〉と〈ゆびゅ〉のことなのだけれど。
テントからは、海の上でこの世界のすべてがキラキラと反射しているのが見えた。
〈ゆびゅ〉が戻ってきて、みんなに缶ジュースを投げる。
なぜか〈食パン〉にだけ全力投球するから、頭に当たって大きなたんこぶができた。
「このやろー!」
「あはは!」
〈ゆびゅ〉が海の方へ逃げる。
「パンくんはこっちまで来られないだろ! パンだけに水でふやけてしまうから」
「うるせえ!」
〈ゆびゅ〉が転んだ。
「みんな来てくれ!」
と〈食パン〉は、〈ガムシロ〉と〈柿子〉と力を合わせて、〈ゆびゅ〉を砂に埋めた。
顔だけを砂から出して。
みんなで海でバシャバシャやっていると、〈ゆびゅ〉が
「おーい! 悪かったよ! 謝るから!」
と叫んでくる。
聞こえないふりをした。
とても楽しかった。
ある時、〈食パン〉と〈ゆびゅ〉は、〈ガムシロ〉と〈柿子〉との「ランデブー」を、影から見守っていた。
「ダメですよ、こんなところで。誰かに見られたらどうするんですか」
と〈柿子〉が言う。
「じゃあ、別の場所ならいいのか」
と〈ガムシロ〉。
「……いいですよ」
〈食パン〉と〈ゆびゅ〉は笑いをこらえるのに必死だった。
とても楽しかった。
そこでインターホンが鳴ったが、〈食パン〉はインターホンシンドロームだった。
勝手にドアが開けられた。
「おい! 不法侵入だぞ!」
「ニュース見たよ」
と〈ゆびゅ〉が言った。
〈食パン〉は、これまでのことを〈ゆびゅ〉に一通り話した後で、
「だけど、これは俺の推理が間違っているだけかもしれないな。すべてはあいつの言った通りで、自分に都合のいい推理をしているだけなのかもしれない。俺は結局、あの夏の日の海の思い出を、忘れたくないだけなのであって……」
「そうかもしれないし」と〈ゆびゅ〉は言った。「そうじゃないかもしれない」
ずるいな、と〈食パン〉は思った。
それじゃあ、何も言ってないのと同じことだ。
そ(ry→