9話 降りてきた絶望
「うぉぉあぁぁああ!!」
遥斗は奇声を上げながら斬りかかった。
我を忘れている遥斗は、その手にいつの間にか握られている漆黒の剣を疑問に思うことは無く、激しい憎悪と怒りに身を任せたまま、ただ目の前の侵略者を葬るために動いた。
そして、左手から溢れ出る謎の力によって、遥斗の身体能力は人間を遥かに超越した物になっていた。
一閃。
目にも止まらぬ速さで距離を詰められ、切りつけられた怪物は立ち尽くしたまま、肩から脇腹に掛けて斜めに鋭く切られていた。
一瞬で絶命したその魔物からは一滴の血も流れず、変わりに黄金に輝く塵となり床に山を作った。
「母さん…姉ちゃん…なんで…」
ようやく我に返り、母と姉を殺された現実を目の当たりにした遥斗は、右手に握られた剣をその場に落とし、膝をついて大声で泣いた。
しかし怪物達は、遥斗に悲観に明け暮れる時間を与えてはくれなかった。
辺りでも同じように虐殺があったのだろう。
白い身体を返り血に染めた怪物が、崩された壁の向こう側からこちらに近づいて来るのが見えた。
「なんなんだよ…なんなんだよお前らはぁっ!!」
怪物を葬った漆黒の剣は辺りからその姿を消していた。
しかしその行方を探るよりも、遥斗は姉に突き飛ばされた時に引っ掛け千切れたのだろう家族から送られたネックレスを探した。
直ぐに見つかったネックレスのリングを形見として、右手の人差し指と中指にはめた遥斗は香織の元へ向かうべく地獄と化した街へ飛び出した。
「香織…!無事でいてくれ…!」
感情のない表情で獲物を探し徘徊する白い怪物。その姿を見る度、家で起こった虐殺を思い出し激しい憎悪を抱くが、今は圧倒的な恐怖が立ち向かう勇気を消していた。遥斗は見つからないようやり過ごしながら、香織の住む家へと急いだ。
サイレンの音が辺りからけたたましく聞こえ、それに被るように人の怒号や悲鳴、銃声の様な物までもが聞こえてきた。
外は辺り一面、血の海と化していた。
人だけでなく犬や猫、鳥までもがその亡骸を晒し、それを見る度に何度も吐き気に襲われたが何とか抑え、遥斗は足を進める。
ふと空を見ると、遥斗はその絶望的な光景に思わず足を止めた。
辺りに殺戮を振りまくあの白い怪物達が、夜空から無数に伸びる光の柱の中をゆっくりと降りてきているのが見えたのだ。
その光景は遥か向こうの空にまで及んでいた。
「絶対、生き残ってやる……!」