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リバイバル・サーガ・オンライン  作者: Lut
最終章 「リバイバル・サーガ」
20/22

4-5

『素晴らしい――としか言い様がないな。キミたち六人は見事勝利し、私に覚悟を示してくれた』


 五人が未だ倒れている戦場の跡。

 天上から響いたのは、無機質なアナウンスではなく、まるでゲームのお偉いさんが言うような尊大な台詞だった。


『と、そのままでは会話もままならないな。少し待ちたまえ』

 直後――仰向けに倒れた俺の上に、転移の光が降り注ぐ。

 どこかに移動させられた、と感じた時には戦闘不能から回復していて、周囲には仲間たちが勢揃いしていた。


 ゲームの裏側からしか使えない、まさしく神の力と言ってもいい能力。

 飛ばされた場所は、〈シャドウスピリッツ〉の突入前にいた石灯籠の道だった。


「……私たち、勝ったの?」

 寝起きのようなぼんやりとした様子で、ナエが呟いた。

 それに、ゴベさんがしっかりと頷いてみせる。

「ええ。みなさんお見事でした。もちろんナエさんも」

「勝ったんだ……ホントに」

 再度、確かめるように呟いたナエは、それから悔しそうに口を尖らせて言う。

「でも、私はすぐやられちゃったから、何が起こってるのかさっぱりだった」


 そんな少女に、腕を組みながら笑いかけたのはツァラさんだ。

「ま、多少のアクシデントはあったけど、楽勝だったよ。なあギース?」

「あ? ――ああ。俺は初挑戦だったが、AIも大したことなかったな」

 こんな時だけ上手いこと結託し、ははは、と笑う二人。


「そうだったんだ! 必死な声ばっかり聞こえるから心配してたけど、楽勝だったんだね!」

 やっぱりレベル90はすごいんだなー、とナエが尊敬の眼差しを向ける。

 その純粋さに良心を責め立てられ、二人の笑いは苦笑いに変わった。


「……で、さっきの声の主だが、あれがウラバハーラってヤツかい?」

 誤魔化すように訊ねてきたツァラさんへ、俺は頷き返す。

 そして口を開こうとしたところで、再び天上から声が響いた。

『そうだ。私が野木に作られた存在にして、地下に潜むAI――ウラバハーラだ。これで、ライネ君の言っていたことが妄想ではないと、証明されただろう』


 妄想、という単語に、俺は思い当たる節があった。

 声がする辺りを見上げて問う。

「……もしかして、全部聞いてたんですか?」


『ああ。私はキミと話をしたあと、密かに動向を追っていた。キミたちの作戦も、全て聞かせてもらっていたのだ。私がAIを特級用に変更し、さらにこの世界に順応させるべく手を加えていなければ、こちらはあっさり負けていただろうな』


 ――は? 

 ウラバは、コイツは今なんと言った?


『しかし、キミたちはそれすらも倒してみせた。まさに素晴らしいの一言だ』


「……なるほどね。中級にしては、反応が鋭すぎると思ってたんだ」

 呆れたようにツァラさんが呟く。


 確かに特級ならば、あの強さにも納得いくのだが……、

「ちょっと待ってください。あなたは、プログラムの書き換えには干渉できない――みたいなことを言ってましたよね?」


 声は断言する。

『あれは嘘だ』


「は?」


『キミの覚悟を確かめるため、あの時は嘘をついたのだ。だから、償いというわけでもないが、キミが行う予定だった作業の四分の三ほどは私が引き受ける。それで許してくれたまえ』

 不遜だが、どこか憎めない声の調子。


(……コイツ、どこまでも野木さん染みているな)

 俺がそんな感想を抱いているうちに、ウラバは話を続けた。


『さて、私は地下室に戻って、キミたちの偉大なる決定を待つとしよう。これからこの世界をどう創り変えてゆくのか――それはキミたちの手に委ねられた。十分に悩み、検討して決めたまえ。それでは、さらばだ』


 ハルバハーラの台詞を引用してそう言い残し――スピーカーの電源が入った時に感じるようなウラバの気配は、どこかへ消えてしまった。

 まったく勝手なAIだ、と嘆息する。


「んで、あんなことを言われたけど、アタシらは具体的にどうしたらいいんだい、リーダー?」

 肩をすくめてツァラさんが訊いた。たった三分程度だったとはいえ、あの激闘で結構な精神力をすり減らされていた。だというのに残業を与えられた気分の俺は、うんざりしながら答える。


「それが、ウラバの言う、世界をどう創り変えるかの会議を開こうにも、まずプログラムの書き換えによってどこまでが実現可能で、どこからが不可能かってことの詳細を確かめないといけません。だから俺は、言うだけ言って消えたヤツに、これから直接会いに行ってきますよ」


 苦笑した俺に、ツァラさんが気遣うように言う。

「そりゃ大変だな。しかしまあ……アンタに任せるしかないか」

「ま、言い出しっぺですからね。もうちょっとだけ気張ってきます。みんなは先に戻って、祝賀会でも開いててください。なんにしろ、俺たちは勝ったんですから」


 勝った。その事実に、全員が満足げな表情を浮かべて頷く。

 俺はもう、ギースやゴベさん、もちろんツァラさんのことも含めて、ここにいる全員が仲間だという認識に変わっている。作戦会議と練習と激戦。短い時間だったかもしれないが、六人での共同作業がそうさせていた。

 多少の残業など、仲間のためであれば苦にもならない。


 ここまで考えて、〈シャドウスピリッツ〉で勝利することを条件にしたのなら、ウラバはかなりの曲者だと言わざるを得なかった。


「――では遠慮はせず、僕たちは〈アガルタ〉で待っていましょうか。大したことなかったと言うギース君から、戦闘の詳細も聞きたいですしね」

 ゴベさんが率先して切り出して、

「私も聞きたい聞きたい!」

 とナエも乗った。


「何で俺を名指しなんだ」

 当惑するギースに、ゴベさんは鷹揚に言い返す。

「声でなんとなく把握できたとはいえ、僕はうつ伏せで倒れてましたからね。実際に戦っていたギース君から、臨場感溢れる解説を聞きたいのですよ」


「それだって、別に俺じゃなくても――」

 なおも不服そうなギースの反論を、ツァラさんが辛辣に遮る。

「いいじゃないか。バトルでは全然活躍しなかっただろう? なのに、ナエちゃんに話を聞かせる役目すら断るのかい?」


「ぐっ……」

 と渋い顔で言葉に詰まったギースに向けて、ゴベさんが悲しそうに言う。

「僕は先の戦いを書に記して、それを神話として広めようと企んでいますが、キミが断るのなら英雄は五人だったということに――」

「だァ! 堂々と歴史を改竄してんじゃねえ! ああもう、俺は帰るからな!」

 喚き散らし、怒りに任せてギースは転移の光に包まれていった。


「ギース、怒っちゃった……?」

 と本気で心配している様子のナエに、

「かもしれませんね。急いで慰めに行きましょう」

 ゴベさんがそう語りかけた。

 素直に頷き返したナエは、ゴベさんとともに〈アガルタ〉へ飛んでいく。


「ふう。んじゃ、お先にね」

 三人が消えたあと、俺ににやりとしながらツァラさんが言って、同じく転移の光を浴びて消えていった。


「…………」

 まるでゴベさんとツァラさんが協力して、俺たちを二人きりにさせたがっていたみたいだった。……というか、実際その通りだったのだろう。

 どこかよそよそしいアリシアから、このあとの展開を察したのか――あるいは、ゴベさんがツァラさんに告げ口していたか……。


「ライネ」


 鈴の音のように澄んだ声で名を呼ばれた瞬間、俺はびくりと背中を震わせ、息を呑んだ。よそよそしいのは、何もアリシアだけじゃなかった。俺だって平然とした振りをしながら、何度もアリシアのほうに視線を遣っていた。


「約束、忘れてないわよね?」

 照れの混じった笑みを浮かべて、美しい魔女が言う。

「も、もちろん」

「膝枕と耳かき、だったわよね?」

「え――」


 それはアリシアのボケだったと思うが、俺は少し惹かれてしまった。

(膝枕と耳かき、そういうのもあるのか!)


 ――だがそれでも、約束していたアレの魅力には叶わない。


「たぶん……違ったような」

「そうだったわね」

 アリシアは小さく頷くと、とんがり帽子を脱いで脇に抱えた。それから、俺の息が顔にかかってしまうほど近くに寄り、じっとこちらを見つめて微笑む。


「じゃあ、約束通り……しましょうか」

 夢にまで見たシチュエーション――なのに、ここに来て情けなくも怯んだ俺は、

「あ、でも、初めてがこんなところでいいのかな……。もうちょっとロマンチックな場所のほうが……」

 謎な言い訳をして、謎に引き延ばそうとしていた。


 だけど、アリシアはいっさい目を離してくれなかった。

「ダメ。勝ったご褒美の有効期限は、今だけです」

「そ、そうなのか」

「ライネがやらないなら、私からぶちかますわよ?」

 脅すように言われて、三秒ほど見つめ合って、

「いや……俺からやるよ」

 ようやく俺は腹を決めた。


 細い肩を両手で抱いて、可憐な唇を目がけて首を動かす。

「んっ……」

 可愛い小さな吐息が聞こえた。


 唇と唇が重なる寸前――目を閉じたアリシアに倣って俺も目を閉じた。

 が、触れ合った瞬間――俺は目を見開いていた。ぶちかますという表現にふさわしい衝撃が、心を貫いていた。


 この時のために今まで生きてきた――ウラバの部屋で俺は、そんな思いを抱いた記憶があるが、それは取り消さねばなるまい。


 俺は、この時のために今まで生きてきたのだ――。


「…………」

 名残惜しい気持ちを山ほど残して、唇が離れる。だけど惜しむ必要なんてない。

 これからは、何度だって経験できるのだから。


「アリシア、結婚しよう」

「先に返事はしていたけど、せっかくだからもう一度言うわ。

 ――はい、喜んで。ライネ」


 俺たちは幸せを分かち合うように微笑み、もう一度キスをした。

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