3-1 続々・終章「眠りゆく人たち」
いつも冗談をかかさず、周囲の人間を楽しませることを楽しむエイジだったが、そんな彼にも当然異なった一面はある。
俺がエイジに持っていたもう一つの印象。
それは“生きづらい難儀な性格をしてる”だった。
あれは俺が高二なってすぐのことだから、もう10年も前になるのか。RSO内で言えば、〈チーム〉での活動が板に付き始めた頃だ。
俺とエイジはみんなが落ちたあとも二人で残り、その場にキャラを放置したままだらだらと話すことが多かった。フレンドになったのが一番早く、同い年の男同士というのもあったのだろう。
高校に通ってなかったエイジは、その日、またバイトを辞めちまったと苦々しい感じで伝えてきた。俺が聞いた限りで、五つ目のバイトだった。
(あーあ。なんつーか、大抵の人間ってちゃんとしてねーよな……)
不意にそんなことを言い出して、俺は意図がわからず訊き返した。
――どういうことだ?
(いや……みんなテキトーっていうか、一貫性がないっていうか、さ。そういうの見てると、すげえイライラしちまうんだよ)
いったいその“みんな”にはどこまで含まれているのか。俺はもしかして怒られているのかもしれない、と少し狼狽えながら訊ねたのを覚えている。
――俺には……イライラしないのか?
(ライネは言ったことを守るからな。モンスターの弱点表見て、全部覚えてやるって張り切ってさ、そんでホントに覚えてくるんだもんな。正直、俺は呆れたぜ)
――そりゃあ、自分で言ったことくらいは守ろうとするさ。
ややムキになって言い返した俺に、エイジは疲れたようなため息をこぼした。
(ああ……そうだよな。お前はそうだし、〈チーム〉のみんなもそうだ。だけど、俺がリアルで出会ってきた人たちはそうでもなかった。一緒にこのソシャゲやろうぜって言って、俺をその気にさせておいて、なのに一週間もしないうちに飽きて別のゲームをやってたりする。あの映画が上映されたら一緒に観に行こうって誘っておいて、あとから俺が日程を話し合おうとしたら、やっぱめんどくなったから一人で行ってきていいよって言われたりする。
俺は……そんなテキトーな言葉に振り回されてばっかりだ)
――まあ……いるよな、そういう人。俺の高校にもいるし、俺だって経験ある。よくあることさ。それこそ、テキトーに流しちゃえばいいんじゃないか?
(それができればなぁ。……でも、嫌なんだよ。あっちがテキトーだからって同じようにしてたら、俺も同類になっちまう気がして。なのにあいつらは、テキトーなことを言い続ける。言って、でもやらない。言ったことなんて忘れたように、また別のテキトーなことを言う……)
――エイジの言いたいことはわかるよ。わかるけど、それを気にしても……。
(ああ。単に俺の気にしすぎて、勝手に馬鹿を見てるだけってのは、理解しちゃあいるんだけどな。だけど俺の頭の中には、そんな他人の言葉が残り続けてるんだ。消化されないゴミみたいに。それがこれからも増えていくと思うと、イライラするし、悲しい。……ホント勘弁して欲しいぜ)
人間に対する潔癖症。
そんな言葉が浮かんだけれど、カウンセラーじゃない俺にはどんなアドバイスが有効なのか、わからなかった。気が滅入っている状態の友人に、ここで心療内科の受診を勧める度胸も、俺にはなかった。
俺が困っているのを察してか、エイジは気まずさを取り払うように声のトーンを上げた。
(あー、いや! しょうもない愚痴を言っちまったな。すまんすまん)
――いや、俺で良ければ愚痴くらいいくらでも聞くさ。気にすんな。
顔も住所も本名も知らない俺から言えることは、せいぜいそれくらいだった。
(サンキューな、ライネ。あー、一貫性がないとか批判してないで、俺も早く次のバイト探さないとな……。いい人たちならいいんだが――)
その会話から一週間ほど、俺は自分の発言に注意する日々を送ることになり。
その後、エイジは七つ目のバイトを最後にニートになった。
(……俺はいったい、いつまでこんな生活を続けるんだろうな)
半年に一回くらいのペースで、エイジは他人事のようにそう呟くことがあった。それを変えるのは、結局のところ本人にしかできない。彼もそれはわかっていて、でも心が動かないようだった。
俺がRSOを辞めたあとも、エイジから人生の転機を聞くことはなかった。
だから、〈ジュノー〉という悪魔が世界を終わらせると知った時、彼の心に安堵の気持ちはあったのだと思う。
今の生活。人間への不信。自分への嫌悪。彼にとって、それら煩わしいこと全てに終止符を打ってくれる、一つの夢のような展開だったはずだ。
アイツから死にたいなんて言葉を聞いたことは、一度足りとてなかったけれど、きっとこの想像は大きく外れてはいない。
なのに、俺たちは終わらなかった。
長年愛していたこの世界に、強制的に逃がされた。
だけど、この世界と俺たちの魂は調和できなかった。
そんなバグった世界に、苦しみながら留まる理由もない。
だから、エイジは終えたのだ。
本来の世界へ還り、眠りについたのだ。
ただそれだけのこと。
悲しむ必要は……ない。
* * *
〈アズマデン〉の旅館の一室――和室には不似合いなダブルベッドの上で、ミドはぺたんと座り込んでいた。猫耳はしょげていて、尻尾はピクリとも動かない。服装はオシャレ装備である薄手のワンピース一枚だった。
歪んだ顔を押さえる両手、その隙間から震えた声がこぼれる。
「どうしよう……エイジが……」
「落ち着いて、ミドちん。無理に喋らなくていいから」
頭を撫でるアリシアも大筋は理解しているのだろう。優しく言葉をかけて、親友を慰めることに努めていた。
しかしミドはかぶりを振って、事の顛末を話そうと口を開く。
「エイジが、ずっと元気なかったから……ウチが元気づけなきゃって思って、抱きしめたの……。そしたらエイジも抱きしめてくれて、キスもいっぱいして、ウチは嬉しかったの。ずっと、エイジのことが好きだったから……。でも、エイジは悲しそうな顔をして、俺たちには心臓すらないんだなって、そう言ったの……」
「わかった、わかったから……」
目を細ませるミドを、アリシアがきつく抱きしめる。
俺は唇を強く噛んだ。彼女の悔しさが伝わってきて、見ているのがつらかった。だが、いくら噛み締めてもまったく痛くない。涙だって一粒も出てこない。今の俺たちの肉体は、ただの作り物だから。
これが、この世界の限界だから。
「エイジがね、こんなに嬉しいのに、全然ドキドキしないって……。こんなのおかしい、やっぱり俺たちは、もう死んでるんだなって……。でも、最後の最後にいい思い出ができた……今まで生きてきて良かった、心の底からそう思う。ありがとうって、言って……言い残して」
消えちゃったの。
それこそ消え入りそうな声で、ミドは語った。
その様子は、今もなおグラグラと揺れていて、とても危うい。
ミドにとって、エイジの存在の大きさは計り知れない。ルッツとエクレアほどの熱々っぷりはなかったが、二人が恋仲だということはみんな知っていた。RSOをずっとプレイし続けていたのも、そんな存在があったからこそだろう。
だから、これは俺の想像だけど、ルッツとエクレアがリアルの結婚に踏み切った時、二人も多少は意識したと思う。
だが、実行には移さなかった。話すら挙がらなかったかもしれない。
エイジは言わずもがな、ミドもまた、生まれつき心臓が弱いという事情を抱えていたから。
正式な病名は単心室症。激しい運動ができず、重い物を持つことがつらく、坂道を上るのもしんどく――そして、妊娠と出産が難しい。
だからきっと、心臓を気にせず自由に走り回れるこの世界は、ミドにとって夢のような体験の連続だったに違いない。
妊娠や出産の期待だって、もしかしたらあったかもしれない。
しかしそれも、エイジ、お前がそばにいなければ……。
「ウチが……」
アリシアの首元に顔をうずめていたミドが、ぼんやりと呟く。
「ウチがこんなことしなければ、エイジはまだ消えなかったのかな……」
やめてくれ。
「ウチが余計なことしなければ、エイジは消えなかった……? 疲れてるエイジにとどめを刺したのは、ウチなのかな……?」
「そんな――」
「違う! そんなことない!!」
自分を責めてもなんの意味もない。
そんな言葉を、エイジは求めちゃいない。
「あいつは――エイジはお前にいつも感謝していた! お前がエイジを好きなのと同じくらい、エイジもお前が大好きだったんだ! ありがとうって、そう言ったんだろ? その思いをなかったことにしたくないなら、自分を責めないでくれ……。ミドは何も間違ったことをしてない。間違ってるのは、この世界のほうだ……」
ミドはアリシアに肩をつかまれたまま、ぽかんとしていた。
「……ライネの怒鳴り声なんて、初めて聞いた……」
それが小さな微笑みに変わる。
「はは……ほんと、いい仲間に恵まれたよ。……ありがとう」
穏やかな声で言って、それから感触を確かめるようにアリシアを抱きしめた。
「アリシアも、今までありがとうね。綺麗な声が聞けて嬉しかったよ」
「ミドちん……?」
「待ってくれ、ミド」
彼女はもう揺れていなかった。すでに手の届かないところにいて、揺るがぬ意思を宿した瞳を向けてくる。
「ライネ。アリシアをよろしくね。この世界もきっと、そんなに悪くないから」
そう告げて、ひどく優しい笑みを浮かべて――
それが、俺たちが見たミドの最後の姿になった。
* * *
俺は旅館の縁側に腰掛け、雨に濡れて色濃くなった枯山水を眺めていた。幾本もの溝をなぞっていた視線は、やがて小さなアーチ状の橋に辿り着き、その左右に植えられた丸形の庭木へと移動して――停止する。
時刻は5時25分。薄い雲がかかった空は、ようやく明るみ始めていた。
ミドの叫びを聞いてから、まだ20分程度。だけどその短い時間で、二人の仲間が消えてしまった。この事実を、俺はどう受け止めればいいのだろう。
ミドはアリシアを抱きしめたまま、何の前触れもなく消えた。
その場には、虚空を呆然と見つめる俺とアリシアだけが残された。
少し前までエイジとミドがいたはずの部屋――なのに、二人がそこにいた形跡は微塵もなく、まるで最初っからいなかったかのように消えてしまった。
エフェクトも効果音もなしに、人が、キャラが一瞬で消える。そんな現象は一つしかない。
MMORPGをプレイすれば誰もが目撃する現場であり、誰もが経験する行為。
ログアウトだ。
そう。エイジとミドは、ゲーム上のシステムを利用して、このイカレた世界から去っただけなのだ。
アガルタの御石の前にツァラさんが置いた案内板。そこには、一つだけ赤文字で書かれた文面があった。
“ログアウトはまだ試していませんが、実行しないほうが賢明です”
と。
詳しい説明などなくても、ログアウトを勧めない理由は俺たちには自明だった。
通常、物語なんかでMMORPGの世界に閉じ込められた場合、いの一番に試されるのがログアウトである。
しかし、俺たちは状況が違った。地球の滅亡という窮地が先にあった。だから、この世界に閉じ込められたというよりは、逃れられたという表現のほうが正しい。
そんな中、ログアウトを実行するのは自殺に等しい。そして、自殺が褒められたことではないというのもまた、一般的な倫理観である。
だが俺は、ログアウトしてしまった二人のことを決して責められなかった。
この世界に逃れることができたという解釈は正しいが、無理やり閉じ込められたのもまた、紛れもない事実だから。
“あの時”に終わっていたはずなのに、不可思議な力で延長させられた人生。
神様のプレゼント、と言ったミドの気持ちはわかるけれど、どうなのだろう。
一度死を覚悟した人々を、イタズラに惑わし、ぬか喜びさせ、疲れ果てさせる。もしこの世界に神様がいるのなら、俺には嘲笑ってるようにしか思えなかった。
そこから抜け出し、自分たちの世界に還る。その唯一の権利に手を出した二人を――だから俺は、決して責めることはできない。
ただ俺は……エイジとミドに消えて欲しくなかった。
解決策はないけれど、できることならまだ一緒にいたかった。
そんなわがままな思いを勝手に抱いていて――されど叶わなかった。
それだけなのだ。
* * *
「ライネは……これからどうするの?」
縁側に座る俺の隣に、いつもの暗色のコートを着たアリシアが立っていた。
目を向けると彼女はゆっくりと腰を下ろし、同じように庭園を眺める。特に感想も言わず、黙って俺の返事を待っているようだった。
これからどうするか――ずいぶん漠然とした問いだったが、俺はその答えを心に決めていた。
しかし、答えるには生半可じゃない覚悟が必要だった。
言ったことは守らなければ、エイジに笑われてしまうから。
一度目を閉じ、意を決して目を開き、口に出す。
「俺は、この世界を見届けるよ。最後の一人になるまで」
答えを聞いたアリシアの瞳には、驚きが宿っていた。俺もじきに、下手をすれば今すぐにでもログアウトするんじゃないかと予想していたのかもしれない。
エイジとミドの二人が消えたことで、俺たちがこの世界に留まる理由は、確実に弱まったのだから。
「なかなか……大きく出たのね」
アリシアが呆れたように言うのも無理なかった。
俺が宣言したのは、ほかのプレイヤーが眠りにつくまで、何十時間、何百時間と起き続けるという苦行に乗り出す、決意表明なのだ。
「決めてたんだ。きっといつかこうなってしまうんじゃないかって気づいた時に。疲れ果てた人から、段々とログアウトしていってしまう。そうなったら、俺は最後まで残ってやろうってね」
言ってアリシアのほうを見ると、彼女は薄暗い空を黙って見上げていた。(何に思いを馳せているんだろう)
と様子を窺っていたら、ふと目が合った。
「それなら私は、ライネの邪魔をしようかな」
意図の読めない薄い笑みを見せながら、アリシアは言った。
「……邪魔?」
「うん。ライネの言ってることって、最後の一人になったら自分も消えるってことでしょう? それなら、私が一緒に残ってる限り、ライネはいつまで経っても消えられないってことよね?」
今度は俺が呆れる番だった。
理屈は間違っちゃいないが……わかっているのだろうか。
「……半端なくつらいと思うぞ?」
「それはお互い様でしょう?」
アリシアはすぐに言い返した。そして大きく息を吐いて、また口を開く。
「……私ね、ハルバハーラ様に会いに行って、何も起こらなかった時――あの御方がキーじゃないのなら、もう未知のクエストなんてないんだろうって思った。それから、ずっと考えてたの。私たちには、これからどんな展開が待っているんだろうって。それで、こうなるかもって想像した時、私はどうするかを考えていたの」
俺はハルバ信者ならではの理論に驚きつつ、頷き返した。
「私は、この世界が好きだった。島暮らしで方言と訛りがきついからって、喋るのを拒否した私に、みんな優しく接してくれて、嬉しくて、楽しかった」
不意に出たその情報は、初めて知るアリシアの内情だった。
「……そうだったんだ」
そんなことだったのか、と軽く考えそうになったが、本人にとっては重要なことだったのだろう。
「今は方言の欠片もないというか、一番綺麗に話すくらいだよ。……あ、俺は別に方言女子もアリだと思ってるけど」
というか逆に、方言バージョンの喋りも聞いてみたいくらいなのだけど――
「方言女子ね……当時の私が一番嫌いだった言葉だわ」
ジト目で睨まれた。
「……ごめんなさい」
反射的に謝った俺に、アリシアは笑みを浮かべる。
「ふふ、当時の話よ。おかげで頑張って練習する原動力になったから、それはそれで良かったわ。……えっと、なんの話だったかしら?」
「アリシアがこの世界を好きだったって話」
「そうだったわ。――だからね。素敵な仲間と出会えたこの素敵な世界に、できるだけ留まろうって思ったの。もし私が一人になったら、みんなとの思い出を辿る旅に出るのも悪くないかなって。でもライネがあんなこと言うから、できるだけじゃなくて、私も最後までに変更したわ」
澄ました顔で言ってるものの、“できるだけ”と“最後まで”では相当な違いがある。それを俺のせいみたいにしてるところが、いつものアリシアらしいと言えば、らしいのだが。
「二度目になるけど……半端なくつらいと思うぞ?」
「……いよいよの時は、二人で一緒にログアウトするのもアリよ」
そこまで覚悟しているなら、もはや俺から言うことはなかった。
「わかった。もうしばらくの間よろしく頼むよ、アリシア」
「ええ。よろしくね、ライネ」
差し出されたアリシアの手を、こんな時でも妙に意識してしまいながら俺は握り返した。繋いだままにするのもなんだと思い、すぐに力を緩める。だが、ぎゅっと繋がれた手は、5秒が経過しても放してくれなかった。
自然と視線が合って――アリシアがふわりと微笑んでくる。
(これは、まさか……)
何かを期待して息を大きく吸った俺に向けて、小悪魔はやや上目遣いになって、口を開いた。
「それで、ライネが最後まで残ろうと決めた理由って、なんなのかしら? きっと何かあるのよね?」
「…………」
(うん。確かに言ってなかったけど、その質問をするのは今じゃないはず……)
と、思わされている時点で、見事アリシアにからかわれたのだろう。
まあ、ちょっとした心の柔軟になったし――と割り切って、俺は気を取り直して理由を告げた。
「実は俺は、『エキセントリカ』の社員なんだ。RSOの開発にも、少し関わっていた」
「……え?」
俺の手を解放して、目をぱちぱちと瞬かせるアリシア。お返しってわけでもないが、してやったりと感じてしまう部分は多めに見て欲しい。
俺は庭園に視線を移して、真相というほどでもない己の内情を語る。
「RSOを引退したのは、大学を卒業してそこに就職したからだ。この世界に来てからも、誰にも言わずにいたのは、言っても仕方がなかったから……。この状況は俺にもさっぱりなんだ。だけど、いちプログラマーに過ぎない俺の知らないところで、魔法のような技術が開発されてなかったとも言い切れなかった。まあ、そんなものは本当になかったと思うけど……。
最後まで世界を見届けるって言ったのは、それが俺の使命だと感じたからだ。
……いや、俺の使命だって感じたかったから、かな。そんなとこだよ」
俺が話し終えると、アリシアはひと息ついて、
「……なるほどね」
と呟いた。
「納得したわ。最後まで残るって決めた理由も、ライネが現役プレイヤーみたいにRSOの現状に詳しかったのもね。ネットばかり見て、仕事サボってたんじゃないかって思ってたけど、そういうことだったのね」
「……そんな風に思ってたんだ」
「冗談よ。――半分は」
「おい」
ふふ、はは、と俺たちは小さく笑い合った。
〈ジュノー〉が落ちてくる少し前に、みんなで馬鹿笑いした記憶が蘇る。
賑やかだったあの二人は、もういないのだ。そんな寂寥感が微かに顔を出して、チクリとした痛みが心に走った。
肉体は、決して痛まないのに。
「それじゃあ、改めてよろしくね。ライネ」
「ああ、世界の最後を見届けてやろう。アリシア」
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始まってしまった人口の減少は止められない。
過疎化を止められないMMORPGと同じように。
あとは緩やかに、あるいは劇的に、終わりを迎えるだけである。