山葡萄
本編中にも書いていますが、山葡萄はできれば秋の終わり、葡萄が自然に落ちるころで収穫すると糖分が高く濃厚な味がします。とはいっても、鳥や同じ人間との競争がありますので、やっぱり普通に濃い紫に熟した段階でとってしまうことが多いのですが。それはかなり酸っぱいです。
たぶん縄文人たちもそこらへんのことで悩んだことでしょう。
でも、酒飲みはどの時代も変わらないと思う。素面では酒の味がわかるようなことを言っていても、体内のアルコールが増えれば、多少の味の差もわからなくなるようで。まぁ酒であればなんでもよさそうに見えるのですが。これ以上書くと酒飲みの人から火の手が上がって炎上しそうなのでやめますが。
縄文時代は、個人、家族収穫の物と集落全体の収穫物とのルール分けというのがあったと思うのです。
というのは、山葡萄の蔓の収穫の問題です。
山葡萄の実以上に大きな問題があります。
それは実よりも収穫できる時期の幅が短いということです。
山葡萄の蔓は縄文遺跡から発掘されているように、籠などを作るための重要な素材のひとつです。採集や狩猟、物を運ぶ際に籠というのは非常に重要なアイテムになります。
こと異世界物の小説でもアイテムボックスというのは重要でほとんどの異世界転生の物語でも登場しますよね。段ボール箱も化学繊維のリュックサックもない時代、ほんと葡萄籠は狩猟採集のアイテムボックスだったと思うのです。宅急便ももちろんクール宅急便もない時代ですから、自分で獲った収穫物、獲物は全て自分で運ばないといけないのです。
なので、葡萄籠、まぁ葡萄に限らずですが、縄文時代の必須アイテムだったと考えられます。
さて、そんな必須アイテムですが、交易など集落全体の利益のために使う籠ももちろんあったでしょうが、車輪のない時代ですから、個人、つまり一人一人が運びます。ですから個人使用のアイテムということになります。
ところが、ここで問題が出てきます。
それが、葡萄蔓の収穫期の短さと、なかなか個人や数人の家族だけで収穫するには骨の折れる作業になるからです。
それと、果実の収穫への影響も考える必要があります。
実は、葡萄以外にクルミの樹皮も籠の素材で利用できるのですが、どちらにしても樹皮を多く剥がしてしまうと枯れてしまいます。
そこで、山葡萄蔓の収穫期にあわせて集落全体での採集と資源量、収穫方法の調整が必要になるはずなのです。しかし、そのルールの証拠はありません。文字がないということと、もしかしたら口約束だけでも成り立つ社会だったかもしれません。もしくは本編中にもあるように土偶を割らせて約束させるという方法もありかもしれません。あるいはこれも本編中に書かれていますが、ストーンサークルに記すということも考えられます。記すというよりは、そのルールの象徴的なモニュメントかもしれません。先祖の霊が眠る石を配して、その石に誓ってルールを守りますということだったかもしれません。
もちろん全て想像の域でしかありませんが。
さて、山葡萄の蔓、樹皮の収穫ですが、ほんと大変です。籠編みに使うのにはできれば高い木にのびるまっすぐな蔓を使いたいのですが、人一人で引っ張っても簡単に外れるようなものではありません。さらに、葡萄の樹皮を剥がすことができるわずかな期間というのは新緑の雨の降る間だけ。木から外した葡萄蔓からその場で樹皮を剥くのです。
さて、ここで、山葡萄籠に詳しい人から反論があるかもしれません。
それは山葡萄の樹皮の頑丈さです。
山葡萄の籠、東京あたりのデパートだと軽く10万円以上、まぁ普通で20万円前後で売られています。非常に高価と思われるかもしれませんが、非常に長持ちします。普通10年くらい使って味わいが出てきて、それ以降も籠本体はずーっと使えます。なので、縄文時代、家族で1つ籠を編めるくらい取れれば十分じゃないかという反論もあるかと思うのです。
ただし、先ほど言った、この時代の重要なアイテムボックスだということ。
しかも異世界物語の魔法のアイテムボックスではなくて、容量きっかりのほんと夢のかけらもないアイテムボックスですが。
今の時代のように、段ボール箱も、野菜の収穫用のプラスチックの籠も、100均の便利な小箱も、買い物かごも、ちょっとそこまで行くときに入れる鞄も無い時代に1人1、2個で済むものなのかな?大きさも、小さな籠だけでなく、背中に背負う山菜を入れる大きな籠、木の実を入れて運ぶ籠、乾燥物を保管する籠、さらに、籠本体はさすがに頑丈で何十年も使えるけど、手持ちの部分や背当て、肩紐の接合部分はいくら山葡萄でも摩耗して頻繁に交換が必要になる。
それらを1家族でどうにかできるのかな?
そして、集落全体の家族でばらばらにそれを作りはじめたらどうなるのか?
まぁ確かに出土物としては小さな縄文ポシェットといわれるものぐらいなので、僕の指摘は考古学的にはあまり問題にならないことなのだろうけど。
ということは、縄文ポシェットはもしかしたら異次元に繋がる本物のアイテムボックスだったのかもしれない(笑)
なーんて妄想もしながらも、それを抑えたり、発散させながら、この物語を書いておりまーす。