くたばれ休日
土曜日 ミステリーツアーへ
土曜日、無事に先輩たちは修学旅行先の沖縄から帰還し各々自宅や友人たちと過ごしている事だろう。
そんな中、今俺はなぜか車に乗っている。しかも目隠しをされているからさらに怖い。
「おい、どこに連れて行く気だ」
「さぁ?それは着いてからのお楽しみだよ」
運転しているのは姉貴、朝からどこぞのバライティー番組のように家から連れ出され目隠しをつけ車に乗って連れて行かれる、視聴者側ならば笑ってみることが出来るが当事者になってみるといかに怖いものかが身に染みて分かる。
「どうしてこうなったんだ」
「いや、どうせ祐太郎は家でグダグダしてるだろうから連れ出してやろうかなって」
匠の粋な計らい、って姉貴は思ってるらしいが余計なお世話だ。
「にしても、もうなんだかんだで一時間ぐらい乗ってるぞ、まだ着かないのか?」
「もうすぐだよ」
もうすぐか、どうも嫌な予感が…。
自宅を出発してから一時間半後、車がバックして止まった。
「着いたよ」
「外していいか?」
「良いよ」
俺は目隠しを外す。目が痛い、やっと目が慣れて外の視界が目に入る。
「ここどこ?」
その言葉しか出ない。周りには山があり車が多い、なによりも空気が美味しい。
「どこでしょうか!」
辺りを見回す、そして駅を見つけた俺は愕然した。
「高尾山口って…」
「高尾山に来ちゃいました!」
少し間を入れてから、腹の底から声を出す。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ‼」
姉貴め、いくらなんでもこれは驚きだぞ。いや、驚きを通り越して呆れるぞ。
「それじゃあ登ろっか、今日は良い登山日和だよ」
確かに天気は良い、六月ながら雲一つない快晴でとても過ごしやすい環境だ。だがだからと言って「高尾山に山登りしよう」とはいかないだろう…。だがここまで来てしまっては仕方ない、電車で帰れないこともないが折角の休みだ。姉貴が企画してくれた訳だし、一緒に山登りをするとしよう。
現在時刻は朝の九時、登り初めにはちょうどいい時間だ。
初めて来たがまさかここが日本の首都東京都だとは思えないほど自然が豊かだ。小さな川もあり和の雰囲気が少しある。登山客も多くおり家族連れや夫婦で来る人たち様々な人達が居るが、目隠しをされて連れてこられた人は残念ながらいなさそうだ、って言うより俺が初めてかもしれないな。
登山道の入り口に着く、ここで登山客は大きく分けて二つに分かれる。リフトやケーブルカーを使って中腹まで行き山頂を目指す者、終始登山道を使い山頂を目指す喪のだ。
「どっちで行く?」
「姉貴に任せる」
「じゃあ私はリフトで行くからアンタは登山道使ってよ」
おいおいその発想は想定してないぜ。
「冗談よ、アンタもリフトで行くよ」
「そうであってくれなきゃ困る」
そんな訳で中学のスキー教室以来実に三年ぶりのリフトに乗車する事となった。いや、安全バー的な物が無いから実に怖い。
「揺らさないでよ?」
「姉貴こそ揺らすなよ?」
ブランコ理論で足を揺らせば簡単に揺れる。
「わっ!今揺らしたでしょ!」
「揺らしてないよ、ケーブルのせいだよ」
ゴンドラとか乗ってるとわかると思うが、あの類の乗り物は支柱を通るたびにガタガタと揺れる恐怖心をくすぐり、尚且つつり橋効果を増大させる親切設計となっている。
そんな揺らしたとか揺らしてないとかくだらないやり取りを繰り返していると山の中腹に着いた。心なしか地上より涼しい気がする。
「もう疲れた…」
「姉貴のせいだっての…」
リフトに乗って登っただけでもう疲れた、楽したつもりなのになぜか楽できてない。
「ま、まぁ!景色とか見たら疲れも吹っ飛ぶでしょ!」
「そうであってくれなくては困る」
そんなこんなで『浅野姉弟ぐだぐだ登山』が始まった。
高尾山、新宿から電車で五十分程度で行ける。なお山自体も今回使用したケーブルカー等を利用すれば五十分程で山頂を目指せるなど、初心者でも登りやすい山だったりする。
「ねえ祐太郎、高尾山ってとろろ蕎麦が有名らしいよ。下山するとき食べようよ」
「そうなのか、それは初耳だな。それにお昼時は混みそうだから早めに降りてみれば?」
「そうだね、って言っても今から登ってもだいぶ時間余っちゃうけどね」
それもそうだ、なんだかんだで時間をつぶしても十一時頃には下山出来ちゃうのだが、食事時には少し早い気がするが別に大丈夫だろう。と言うよりも、なんだかこの状況をエンジョイしている気がする。
「わぁ!すごーい!」
何かを見つけた姉貴は走り出す。そこはどうやら中腹にある展望台のようだ。
「見てみて!すごく綺麗!」
姉貴はどうも子供っぽい性格がある。とは言っても姉弟間だし多少はこのような事があっても仕方ないのかもしれないな。
登山を始めて約一時間程、少し寄り道や食べ歩きをしつつ山頂に辿り着いたが。
「なんかお昼前なのにお腹いっぱいなんだけど…」
「知らん、姉貴が店あるごとに食い歩いてたからだろう」
あきれてものも言えん。だが俺もそれにつられて少しながら食べ歩きをしてしまったが故に少しお腹にたまってきた。
「山頂に着いたとはいえ、お腹いっぱいで疲れてるから少し休みたい」
「俺もそうしたい、そこのベンチで休むとしよう」
姉妹こういう所はそっくりだと両親や親戚によく言われるが、今自分自身でもそう思った。だが破天荒の性格は似ても似つかない、そこら辺は良かったと安心する。
そんな訳でベンチでゆったりと過ごす、若干ながら展望台からの景色が見えるのだが遠くに富士山が見える。いや、これは写真に収めたいところだ。絶景かな絶景かな。
「いやぁ、こんな絶景の中食べるお饅頭は美味しいね」
「まだ食べるんかい…」
下山してから蕎麦食べること忘れてるだろ。
そういや、この前姉貴に教えてもらった雑学の一つに、まんじゅうって鹿児島の方言で●●●って言う事があった。まぁ、一つのデータとしては知っておいて損は無いのだろうが知る必要があるのか否か、その時の俺には分からなかった。
そんな茶番は良いとしよう、休憩を済ませ山頂で少し写真撮影をした後下山する、帰りは行きに通った一号路ではなく、つり橋がある四号路を通ってリフトの駅を目指す事にした。さて、雄大な自然の中形成され打登山道をゆったりのんびり歩いていると例のつり橋に着いた。
「割とガチもんだね」
「そ、そうだな…」
人はそんなにいない、ここで悪魔の俺が参戦した。つり橋の真ん中でちょっとした悪戯を仕掛ける。
ジャンプ!
「きゃあ!」
きゃあ?
姉貴は目を潤わせながらこちらを見る。
「もうっ、揺らさないでよ!」
「あ…その、ごめん」
まさかあんなリアクションを取るとは…我が姉ながら可愛く思ってしまった…。
そんなトラブルもありつつリフトの駅まで戻って来た。下りのリフトはどうも上りよりも怖い、なんせ景色がもろに見えるからだ。とはいえ綺麗だから問題は無いんだけど、ブランコ理論で簡単に揺れるのがなぁ…。
リフトが麓の方まで来ると写真撮影のフォトスポットがある。俺は姉貴に影響されピースをしながら笑顔でカメラ目線で写真を撮ってもらう。この写真はリフトを降りたところでそれなりのお金を払って印刷してもらえる、俺達はそれを印刷してもらい土産とした。
その後にふもとにある蕎麦屋で昼食タイム、注文するのはもちろんとろろ蕎麦。流石名物だけあって美味しい、そこら辺のとろろ蕎麦とは比にならないぐらい美味しい。姉弟揃って褒めちぎった。
「いやぁ、お腹いっぱいだったけどこんなに美味しかったら残せないね」
「確かに、これなら別腹って感じだな」
「なんか無限に食べられる気がするよ」
いや、それは流石に無理だと思うぞ。どこかのユーチューバーにありがちな発想だな。
「何て冗談だよ、これでもう満足」
「そうであってくれなきゃ困る」
そんなこんなで高尾山を満喫した俺たち姉弟は、現地で軽く家族や友人達に土産を買ってから帰宅を始める。
帰りの車内で姉貴はこう言う。
「今日はどうだった?」
「久しぶりに楽しめた気がする。ありがとな、だけどあの連れ出し方はいただけないな」
「仕方ないじゃない、ミステリーツアーだよ。小説のネタには良いんじゃない?」
「ん?なんで姉貴が知ってるんだ?」
「さぁね、極秘のルートで入手したんだよ」
姉貴にはどんな極秘ルートがあるんだか。
「まぁ、久しぶりに祐太郎と過ごせてお姉ちゃんは嬉しいよ」
「その意見には同意だな、久しぶりに姉貴と過ごせて楽しかった」
「またどこか行こうね」
「あぁ、でもこの連れ出し方はやめてくれよな」
「はいはい」
絶対やめないだろうな、そんな気がしてならない。
かくして姉貴が引き起こした破天荒な土曜日は終わりを告げた。だが翌日は正樹と本棚の製作だったな、俺に休みは無いのか…。
日曜日 我が部屋の魔改造
魔改造とは、普通の改造とは違って人の愛と夢とロマンと若干の無謀さが入ったものである。そうネットに書いてあった。自分の部屋ともなると自分色を出せる数少ない空間であるのは言うまでもない。この俺も自分の部屋くらいは自分色で染めきっている、壁にはタペストリー、棚にはフィギュア、本棚には同人誌や漫画やライトノベル、ほぼアニメグッズで埋まっている。
今俺は自分の部屋には居ない、家族共用のパソコンで小説を書いている。今日のお昼頃に先日頼んだ本棚が届くらしい、それに合わせて正樹にも召集するのでしばらくはフリータイムだ。
「それにしても、退屈だ…」
今我が家には俺一人だ、両親は二人でお買い物へ千葉県のアウトレットモールへ、姉貴は大学の友人とどこかに出かけているらしい。故に朝から俺一人だ。
こんな日は…どうしてたっけ…。
とりあえず、やることもなかったので小説を書き始めてみたのだがそう長続きはしなかった。まぁ、A4用紙六枚分は書けりゃいいだろうなんて思っていた。その後はネットサーフィンを始めるが、またしてもネタが無い。そんな時スマホが鳴る、音的には着信だ。
「だれだ?」
画面を見て驚く。片瀬先輩だった、俺は少し落ち着かせてから電話に出る。
「はい、浅野です」
「浅野君、今日って空いてる?」
「ごめんなさい、予定が入ってまして」
「えっ、今から君の家に行こうと思ってたのに」
俺は耳を疑った。俺が聞き間違えたのか分からんが一応確認をとる。
「あの?家に来るって言いました?」
「うん、家に行くって言ったよ」
おっかしいなぁ、俺先輩に家の住所言ってないしなぁ。
「あっ、家の住所は知ってるよ」
「は?なんでですか⁉」
「ふっふっふ…独自のルートから情報を入手したのだ!」
姉貴といい先輩といい、俺の情報は一体どこから漏れているのだろうか…。
「だから今君の家の前に居るよ」
「はぁ⁉」
そう言われ俺は慌てて窓から外を見る。そこには私服姿の片瀬先輩が居た、笑顔で手を振ってる。俺は玄関へと走りだし外へ飛び出す。
「何してるんすか!」
「何って、来ちゃった♡」
驚きのせいで萌え要素ゼロなんですけど…。
てか俺寝間着だし、髪の毛ボサボサだし色々とマズいんですけど…。
「ちょっと待ってくださいね」
そう言って俺は急いで着替え身だしなみを整える。よし、これで良いだろう。
「お待たせしました」
「待たされました」
なんで俺の方が立ち位置が悪いのか、先輩はいきなり我が家に突撃して来たのだぞ。
そんなこんなで先輩を我が家へ招き入れる事にした、このまま返すのも申し訳ないからな。てか、まぁ…親や姉貴が居ない我が家に女性を呼ぶとなると…なんかアレだな…。
「少し待っててください、何か飲みます?」
「お茶を頂けるかな?」
ソファに腰かけた先輩に緑茶を持って行く。
「はい」
「ありがとう」
いやいや、なんか話せや俺!いくら変な状況だからって無言はまずいだろ。
「先輩、今日はどうして来たんですか?」
「なんか、退屈だったからかな」
「退屈だからここに来るってどういう理論ですか…」
間違いないだろう、軽く一時間ぐらいかかるぞ。
「今日はご両親居ないの?」
「えぇ、買い物で二人とも。姉貴も出かけてます」
「お姉さん居るの?」
「だいぶ破天荒な姉貴ですけど」
そう話してると先輩が何かを見つけた。
「あれ?これってお姉さん?」
「そうですけど…」
姉貴の写真だ、しかも昨日撮ってきたやつ。それを見つけて先輩は驚く。
「一応聞くけど、お姉さんって名前は?」
「浅野夏奈です」
「やっぱりそうだ!浅野先輩だ!」
ん?浅野先輩?どういう事だ?
「あの…先輩?俺にも分かるように解説を…。
「あぁ、えっとね。私が一年生で文芸部に入った時に三年生の先輩の中に君のお姉さん夏奈先輩が居たの」
じゃあそうなると…姉貴はうちの部のOGって事か⁉初耳だ、でも考えてみれば姉貴の制服姿ってどこかで見た事あるなって思ったら鷺高の制服だし、鷺高に進学したら?って言ったのも姉貴だったな。
「君が入部した時まさかねって思ったけど、そのまさかとはね」
「姉貴め、帰ってきたら問い詰めてやる」
そんな新事実を知った俺と先輩、これをどう受け止めていいのかはイマイチ分からない。
そんな時追い打ちをかける出来事が起こった。スマホが鳴る、メッセージアプリの通知だ。
『ごめんユータロー、今日妹とデートだったんだ。だから行けなくなっちゃった、申し訳ない。今度学食の鷺沢スペシャル奢るから!』
絶句した。この後俺にどうしろと言うんだ。午後の精神安定剤が無くなり、助け船が行ってしまった。
「どうしたの?」
「友人が午後から来る予定だったんですけど…来れなくなったみたいで」
一体俺にどうしろと言うんだ。正樹よ、助けてくれ…。
「ぴんぽ~ん」
Oh…No…。
例のブツが来てしまった。俺は玄関で配送業者からブツを受け取り玄関に置く。
「なにそれ?」
「本棚です、木曜日に注文しておいたんです」
「結構大きいね…」
「大きいです…これを友人と作ろうとしてたんですけど…」
「じゃあ私が手伝うよ!」
なんかそうなると思ってた自分が居る。
「ま、まぁ…それは午後にしておくとして。時間帯的にも食事時ですし。何か作りますね」
「じゃあご馳走になろうかな」
お腹空いたっていう意識が伝わってるんですけど…。
そんな訳でキッチンに立ち何か作ろうとするのだが…。冷蔵庫の中は何もない、あるとしたら姉貴が買ってきた変な食材たちだ。母さんめ、買い出ししとけよな…。
「ごめんなさい先輩。今冷蔵庫が空っぽでして、ちょっと買い出しに行ってきます」
「あっ、だったら私も行くよ。家に一人で居ても退屈だからね」
まぁ、他人の家に一人で数分留守番ともなるとなんか居づらい空気感になるし、まぁ仕方ないか。それに先輩とはいえ何をされるか分からないし…。
そんな訳で近くのスーパーに買い出しする事となった。スーパーまでは歩いて数十分、今日は程よく涼しく湿度もそんなに高くない、快適で過ごしやすい気温だ。
「それにしても、ここら辺は坂が多いね。駅から来るときも坂が凄かったよ」
先輩は笑ってそう言う、俺も笑いながらこう返す。
「確かに地元民じゃないと驚きますよね、でもスーパーまではそんなに坂はありませんから苦しくはないですよ」
実際、駅前スーパーに比べたら距離は少し遠くはなるが坂の事を考えたらな、そうだよな。そんな訳で坂の少ない平坦な道を進みバス通りに出る。ここまで来ればゴールはもうすぐだ。にしても、先輩と二人きりって落ち着いてから考えてみるととんでもない状況なのではと思う。ただこれだけは祈る、中学の友人に会いませんように…(フラグ)。
「あっ!見てみて!」
「なんです?」
「笑顔の私がここにいま~す!」
俺はその笑顔を見て頬を赤くしてしまったのかは自分では分からないが体が熱くなったのだけは分かった。
「赤くなってる、照れちゃってるのかな?」
小悪魔先輩、そう呼ぼうか悩んでしまった。
そんな小悪魔先輩もとい片瀬先輩に遊ばれつつバス通りのスーパーに着いた。なんだかスーパーまでの道のりがほんの少し長く思えた。
そんなスーパーで必要最低限の買い物を済ませ帰宅途中、早速フラグを回収した。
「あれっ?浅野じゃないか!」
そう言って話しかけてきたのは中学の時の友人だった。
「よお、久しぶりだな」
「ホントだな…って、お隣さんは?」
そう振られた会話の打順は先輩に回った。小悪魔先輩は何を思ったのか胸に備え付けた栄養を貯める柔らかい袋を俺の腕に当ててこう言いだした。
「えっと…祐太郎の彼女です!」
まさかの発言に驚きを隠せない。
「えっ⁉」
「はぁ⁉」
二人揃って驚く。
「おいどういう事だ!こんなかわいい子が彼女なんて!」
俺はどうすればいいか分からなかった。仕方なく先輩に助けを求める。
「先輩!どうしてあんな事言ったんですか‼」
「なんか口が滑っちゃって」
「どうやったら滑るんですか!」
「浅野、さっきからなに話してるんだ?」
「い、いや…その…」
やっと先輩が助けてくれた。手段を選んでほしいと思うが仕方ない。
「浅野きゅん、お腹空いちゃったから早く帰ろっ♡ ほーら、はやくはやく!」
そう言って先輩は俺の腕を引っ張る、気持ち良いのか否か分からないが引っ張られるがままに俺はその場を後にする。それからというもの、先輩は我が家に着くまで俺の腕を放す事は無かった。
「せーんーぱーいー…」
「浅野君、ちょっと…」
「何考えてるんだアンタはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
我が家をはじめ近所にその叫びは届いただろう。
「落ち着いて、ね?」
「落ち着けません!」
さっきのがあって落ち着ける方が不思議だ。
「はぁ…はぁ…これぐらいでしょうかね」
「もう…勘弁して…限界だよ……」
「俺もですよ…」
「浅野君おっきいね…」
誤解を招く言い方をするな、あくまで大きかったのは声だからな。
「それじゃあお昼作りますのでお待ちください…」
「はい…」
先程までの小悪魔先輩はどこへ行ったのやら、ソファにちょこんと座っている。そんな先輩を背に料理を作る。まぁ、簡単な物だがこれが丁度良いだろう。と言いつつ作ったのは大手料理サイトで見つけたうどん料理だ、少しピリ辛なのがポイント。
「出来ましたよ、うどん料理です」
「待ってました!丁度さっぱりした物が食べたかったんだ!」
お盆に乗せた料理を食卓の上に置く。先輩はソファから食卓に移動する。
「「いただきます」」
そう言って食事を始める。
「ん!辛い!」
「そんな辛いですか?」
「ううん、辛いのが苦手なだけなの」
「そうなんですか、意外ですね」
「よく言われる…子どもっぽいとかね…」
確かに子どもっぽい、そう思ってしまうのも仕方ないだろう。俺もそう思ったからな。
でも先輩は美味しそうに食べてくれた、見事完食しお皿の中は空っぽだ。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
食器は浸けておかなきゃな。にしても、友人に料理を出した事無かったからな、先輩が初めてだな。なんて思いつつ、皿を水に浸ける。その後は少し食休みをするとしよう。
「少し休みましょうか、本棚はその後です」
「そうだね、少し休みたい」
そんな訳で食休みに少し雑談を挟む、と言ってもラノベの話だ。この小説がオススメだの、この作品が面白いや感動するなど大いに盛り上がった。そうやってしているうちに時計は二時を回っていた、なんだかんだ一時間ぐらい話していたことになる。
「それじゃあそろそろ始めましょうか」
「そうだね、このままだと眠くなっちゃう」
確かに食後と午後だけあって眠くなる。事は急がなければって訳でこの重たい本棚の素材が入った段ボールを我が部屋に運ぶ。
「浅野君の部屋ってこんな感じなんだ」
「まぁ、こんな感じっすね」
流石の先輩でも少し驚いてるようだ。
「あっ!これあのアニメのフィギュアだよね!確か結構高かったような…」
「それは結構しましたよ、一か月分の小遣い全額はたいて買いました」
「あっ!この絵師さんの画集持ってるの⁉しかもサイン付きじゃん!」
「それはイベントで絵師さんが居たので無理を承知でサインしてくださいって頼んだら快く受けてくれてサインを手に入れたんです。かなりのレアものですよ」
「うわぁ!この部屋お宝でいっぱいじゃん!」
先輩は子供のように目をキラキラ輝かせている。
「それにしても…マンガとかラノベじゃ男の子の部屋にはエッチな本があるって言うのが定番だと思ってたけど浅野君は違うね!」
そんな偏見は捨ててしまえっ。
「それじゃあ作ろうか」
「そうですね」
重たい箱を倒し開封する。思ったどおりの色合いで良かったし、なんせ落ち付いた雰囲気だ。すべてのパーツを出し説明書を見ながら作る、ある時は先輩に支えてもらい、そのまたある時は先輩が作る側に回る。そんな繰り返しだ、そうして完成した本棚。製作時間は一時間半、既存の本棚を置き換え収容物完全移行も完了した。
「出来ましたね」
「うん!大変だったけど楽しかった!」
相変わらず子供みたいだ。胸以外はな…。
そんな訳で完成した本棚、その利便性と引き換えに先輩はベッドに横たわり眠ってしまった。
「先輩?起きてくださいよ」
「ねみゅいもん…ふにゃぁ…」
なんて可愛らしい寝言が聞こえる。
「はぁ…」
俺は仕方なくベッドの下の方に畳んであった布団をそっと掛ける。そしてしばらく部屋に滞在した後俺も少し眠ってしまった。
かくして山場を越えた俺と先輩、寝ている俺はこの後姉貴に変な疑いを掛けられるなんて知る由もなかった。それは破天荒だった土日に終止符を打つ事と同義だという事をその時知る事になるだろう。それまでは休もう…。
いやぁ、またしてもこんにちは。今日見るのが初めての人は前作をかっ飛ばしているので急いでブラウザバックして第六話を見直してきてください。今回の投稿分はここまで、次回作は現在執筆中なのでしばらくお待ちください。頑張って今月中には二話分投稿します、多分・・・うん・・・・・・。
それではしばらくお待ちくださいね、バレンタインデー友チョコがもらえますように・・・私の聖バレンタインが退屈な日になりませんように。




