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過酷な文芸の道と救いの手

さて、文芸部にノリで入部した罪深い俺は只今授業を終わらせ部室前にて数分待機している。この状況なら友人や読者からに「とっとと入ってしまえ!」と言われかねない。

だが俺は未だに入るのに躊躇している。理由は単純、昨日の事を後悔している。入部するのは良いがノリではマズイと落ち着いてから判断した。だが、『このようなあまり触れる機会のない事をするのは良い事だろう』だったり『良い社会経験じゃないか、新たな発見があるかもだぞ!』だの考え始めるようになった。

そうやって自分に自信をつけていざドアに手を掛け用とした時、後ろから記憶に新しい人の声が聞こえた。

「なにしてるの?」

俺は慌てた、いきなり声をかけられたら流石に俺も焦るが皆焦るだろう。だが、それを内面だけにとどめ俺はいつも通りに振る舞う。

「いえ、なにもないです」

俺は掛けたままの手をスライドしてドアを開ける。中には数人が集まっていた。とは言っても二人だけだ。

「おつかれ~、今日から新人さんが参加するよ」

「一年の浅野祐太郎です、文芸の知識はあまり無いですがよろしくお願いします」

俺は簡単に自己紹介を済ませ、指定された席へと座る。それからは各々の自己紹介が始まった。

まずは三年の『中川あゆみ』女性、文芸部の部長だ。専門はラノベ、ファンタジー分野。

次に二年の『金田ひばり』男性、なんか普通な感じだから割愛。専門は恋愛分野。

続けて二年の『片瀬綾乃』女性、文芸部の副部長、追記するなら本校での人気度は高いらしい。専門はラノベ、ラブコメ部門。

最後に一年の『浅野祐太郎』自分、文芸部の新参者。専門は未定。

まぁ、そんな感じに俺含め全員の紹介が終わると、皆は各自が所持しているタブレットやパソコンなどを取り出し、執筆を始める。当たり前だが、俺にそんなスペックを持った万能な道具は無い。何をすればいいか探していると片瀬先輩が俺にある本を渡してきた。

「じゃあまず浅野君にはこの本を読んでもらいます!」

そう言って渡されたのは使い古された本。しかも色褪せている所を見ると大分古い代物だろうという事が分かった。表紙には薄れた文字で『ライトノベルの書き方講座』と書かれている。

「あの、これは?」

「まずは本を書くにあたって知識を身につけてもらわなければいけません。だから、書き方をまとめたこの本を読んでください!」

「は、はぁ…」

俺はパラパラとめくってみる、目次にはアイデアの出し方、シナリオの流れなど、事細かく説明がされているように見える。古く見えるのは外面だけで内面はわりと綺麗だった。

 目次に視線を送っていると金田先輩がささやくように耳元でこう言う。

「浅野君、その本は絶対君の力になってくれるよ。僕もその本には何回も助けられたからね」

「は、はい…」

俺はその日からしばらく、その本を読んだ。部活中に、帰りの電車の中、行きの電車の中、暇さえあればその本をひたすらに読み続けた。

 読み終わってから思った事が一つあった。「早く小説を書いてみたい。」そう心の底から思えるようになった。初めは勢いで入部したことを後悔していたが、今となっては正直に言うが「この部に入って良かったかもしれない」その思考へと変わっていった。  

大体一週間が過ぎた頃。俺は百円均一で買ってきたノートにアイデアをまとめた。それに、シナリオの展開、人物の相関図等々、これをいくつか繰り返し。何個かのアイデアをそこでまとめた。はっきり言うと、「どれも自信作になりそうだ。」などと思い込んでいるが。この先俺に苦しみが来るとはこのとき誰も知らなかった。



本を読み終わってから一週間が過ぎた。入部してからも一週間経過したある平日。

俺は学校には居なかった。さてどこに居るのか。

「それじゃあバスに乗れ!」

 担任の大号令により俺らはバスに乗り込んでいた。

 そう、ただいまから三日間の研修と言う名のオリエンテーションが始まるのだ。目的としては学校での過ごし方や成績判定などの解説、それとクラスメートや他クラスの人との交流の場として設けられているのがメインだ。ならば学校でもいいだろうが、この鷺高は異常だ。

 どこが異常なのか、それは場所だ。大概の人は県内などで行われるものだと思うがそう甘くない。この鷺高の人は何を思ったのか長野県での研修を予定しているそうだ。片瀬先輩曰く、だいぶ山奥で行われるそうだ。ならば都市間移動では鉄路の方が速そうだが、コストの削減か終始バスでの移動となっている。距離にて約三〇〇キロ、約四時間弱の一都四県に渡る大移動だ。

 まぁ、スマホなどの使用は許可されているから四時間の移動も少し楽な物だ。最近は便利な時代になったと心底思う。前時代のように景色を楽しむのも良いが、現代を生きる俺には不向きだし、しばらくの間は住宅地しかないため見所は大して無い事は想像がつくだろう。

 そんな風に学校への愚痴と現代社会への評価をしている間に、バスは既に動き出しており、担任がマイクを通して何かしゃべっているが…無様だ、電源が入っていない。

だが、自慢のよく通る声を駆使して無職同然のマイクを右手に、資料を左手に何かを解説しているが、これもまた無様だ、後方座席に座っている俺達からしたら、バスのエンジンに負けて聞こえにくい。特にバスの加速する瞬間なんか何も聞こえなくなる。そんな状況が繰り返されて、担任は満足いく説明が出来たのか、静かに席に座る。だが先生よ、あなたの説明は何一つ聞こえなかったぞ。

 まぁ、話の内容は友人から聞くとしよう。聞いていればの話だが。

 はぁ…こんな担任のために俺は四行分も文字にしたのか…。「先生よ、あんたは幸せなやつだな。」俺はそう心の中でつぶやいた。

 そんな茶番は置いておいて、俺は移動用軽量バックからアイデアノートとスマホを取り出す。もちろん執筆のためだ、事前に先輩には執筆の許可を取っている。

 いちいち先輩に許可を取る必要性はあるのかと疑問に思う所もあるが、それは初心者だからであろう。

 俺は小さなスマホのワープロアプリを使って執筆を始める。

 今回はスマホを使用しているが近いうちにタブレットを導入する予定だ。明らかにそっちの方が便利だし、充電を気にしながらの執筆が嫌だ。まぁ、ワープロアプリを使って文章を書いている時点で変人扱いだろう。大概の男子はゲームなどで盛り上がり、女子は…触れる気になれない。そんな中一人でひたすらに文章を書く。流石に気になる人は多少いたようだ。隣に座っていた旧友である佐藤が俺のスマホ画面を容赦なく見ている。少しは遠慮したらどうだと突っ込みたくなる。

「お前何してるんだ?」

「あぁ、文芸部の活動だよ」

 俺がそう答えると、マジかと言わんばかりの顔をしている。人の心を読むのはあまりしたくないが、今回のはリアクションですぐにでも分かる。

「なんだ、その顔は、『マジかよ!コイツ』とでも言いたそうな顔してるな」

「おっ、よく分かったな。お前天才かよ」

 答えまるわかりなんだよ。

「文芸部ってことは…小説とかか?」

「それ以外なにがある」

「それもそうだな、書き終わったら見せてくれよ」

 こういうのは苦手だが、この時は嬉しかった。こうやって期待してくれてる人がいるってことが。

「あぁ、だがあまり期待するなよ」

「おう!期待しないで待ってるぜ!」

 素直でよろしい。

 まぁ、四時間もあればそれなりに書けるだろう。

初めはそうやって思っていた。

 住宅街を離れ、外に山や田畑が見えてくる頃。さっきまで動いいていた指が止まって、俺はスマホから視線をそらし窓の外の景色を堪能していた。完全フリーズ、これが書けなくなるって言うやつか…最悪全治一週間かかると言われている悪魔の病…。

 まぁ、おう大げさに捉えるかは人それぞれだが、初心者の俺はさすがに焦っている。だが焦りは禁物、落ち着けばなんとかなる。

 俺の勝手な理論で進める。その効果は…時に意味を成さなかった。そうなったら、もう奥の手だ…。外の景色を楽しむ事とした。先まで前時代などと言っていたが…外の景色を楽しむというのもまたいい物だと今理解した。

 場所は…どこだ?

 俺はマップで現在位置を把握する、場所は碓氷峠?なる群馬と長野の県境にいた。外には雄大な自然があった。大きな橋を越えてすぐ。正面から進行方向左側にかけて岩肌が見えた山も多く見られる。これはぜひとも読者の皆に現地を訪れて実際に見ていただきたい。

もちろん都会である地元では味わえない貴重な経験をした。まぁ、窓越しなのは仕方ないが。

 そんな峠を越えた先、外にはまた長野の住宅地が見え始めた頃、俺はまたしてもノートを取り出し、先ほどまで書いていた物語の情報を見返す。まぁ、結論から言うと何も変化は無かったのが現実だ。

 もう景色にも見飽き、小説も書けない、そうなるともう最終手段。安定の仮眠を始めた。流石に朝早かったし、さっきまでぶっ通しで本書いてたし、多少の睡魔は来る。人間だしな。

 さてどのくらいの時間が経ったのかは知らないが、体を何回か叩かれている気がする。その呼びかけに応じるようにゆっくりと目を開け半覚醒状態へと移行する。完全な覚醒状態に移行し終わると状況を把握出来た。佐藤に起こされた俺はどうやらホテル前に着いていた、もちろんだが既に中には誰もいない。しぶとく寝ていたのがよく分かる。

「着いたのか?」

 寝起きである俺は確認のために愚問だと思うが一応佐藤に聞く。

「着いたから誰もいないんじゃないか」

 それもそうか、重たい体を起こした俺は佐藤を置いてバスを降りる。これだけ聞けばただのゲスの極みでしかないがそれは否定はしない。

「置いてかないでっち~!」

 何とも奇妙な止め方だな。まぁ、佐藤はこういうキャラだ、皆分かってやってくれ。

「お前ってやつは…」

 俺は呆れるがコイツと一緒にいるとどうも本調子で居られる。佐藤がボケで俺がツッコミ。基本的に過去からツッコミ役だった俺には最適の役だ。

「それはそうと寒くないか?」

「まぁ、山奥だし多少はね」

 季節は春というのに日陰に目をやると所々雪が残っている。ベストを着てきて正解だった。

「おい!いつまでほっつき歩いてるんだ!」

 バスの中ではエンジンといい勝負を繰り広げていた担任が敵のいない場でその自慢の声で俺に喝を入れる。

「はいっ!」

「へいへい…」

 俺らは少し小走りで荷物を受け取り宿泊施設へと入る。中は…それなりに綺麗だ。山奥にありながら都市部にあるホテルよりもほんの少しだけ格が上であるのは一目でわかる。

 まぁ、そんなのを楽しむ事は出来ず、小走りでホール的な場所に入る。そこでは多少のミーティングを済ませてから鍵が渡された。

 場所は七階、部屋は六人部屋を五人で使う。

 広々としたその空間にはロフトがあり、高身長な俺には向かない。だが大きな窓からは良い景色が楽しめそう…なんて期待は空しく、霧がかかり何も見えない。見えるのは木ばかりで下に視線を送るとさっきまで乗っていたバスが狭いスペースに無理矢理に詰められている。

 ちなみに場所は地図アプリで見る限り長野県の山奥、周りにあるのはスキー場だらけだ。これと言って特に何も無い、こんな中生きろといわれたら若者である俺は即効で「無理!」と言ってしまうだろう。

 そんな事よりも問題は部屋のメンツだ。基本的には問題は無いんだが…ただ一人を除いては…。

「なんだよ!嫌な顔するなよ!」

「あぁもう!くっつくな!」

 佐藤だ。三日間も一緒の部屋にいるのは身が持たん。

「なぁ浅野!」

「なんだよ…」

「呼んでみただけだよ!」

 コイツマジで…ってここは自粛しよう。本音を文字にされると流石にな。

 まぁ、ここで研修の話をまとめよう。流石に全部書く気にはなれないが。

 一日目は成績など学校生活の話。

二日目にはレクリエーションでの交流。

最終日はフリータイムが設けられた。

 それと、追記するが、二日目の夜に片瀬先輩から電話があった。通知を見た時には流石に戸惑ったが、俺はいつも通り、だが少し戸惑いながら、折り返し電話をした。内容は普通に雑談がメイン、サブに執筆の話題で盛り上がっていた。

 昨日には書けないだの焦っていたが、先輩のアドバイスで何とか自信が持てた。先輩の過去話など聞くことが出来るなどの貴重な経験が出来た。それと最後に言われたのが、『お土産待ってるからね♪』だった。

 何となくは分かっていたが。まぁ、少しくらいは買って帰るとしよう、フロントの所に売店があった気がする。

 そう言って俺は売店に出向き、そこで買ったのは菓子、期限は先まであるので心配はなかろう。アレルギーや好き嫌いを除いてだが。


 三日目の朝、保温のため閉められていたカーテンを開けると一面の青空と広がる大自然。太陽はまぶしく俺達を照らしている。三日間の間で一番に晴れただろう。

 三日目はフリータイムが設けられ、各自部屋で自由な時間を過ごした。

 そしてそれらを済ませ俺達は撤収を始める。

「はぁ、三日間は長かったな…」

「そうか?俺は短く感じたけどな」

帰りのバスの中での会話。実のところ「ほとんどはお前のせいだよ!」が本音だ。まぁ、そんな事口が裂けても言えないな。

さてバスはゆっくり動き始めたと同時に初日の時のように先生がまた無職のマイクを手にして。無職、違う。ちゃんと本職を全うしているマイクの姿がそこにあった。

初日のような失態は流石に再度行うわけが無いだろう。ちゃんと先生の話が後ろの方まではっきりと聞こえてくる。

 まぁそんな先生の話は置いておいて。さっさと帰って先輩に近況報告をしなければ…。って、それはそうとさっきからスマホが騒がしい。俺のスマホはどちらかと言うとパーティーを好むタイプでは無いのだが…。俺はポケットからスマホを取り出すと、通知がとんでもない事になっていた。

「は?」

原因は察していたがLINEだった、だがこんなに騒がしい理由が分からん。けど、原因はアプリを開いてすぐにわかった。

「文芸部のグループ…だと?」

発生源はこいつだ。

「どうした?さっきからお前のスマホが騒がしいぞ?」

「あ、あぁ…なんでもない」

部活のグループなんて連絡用とかが仕事だろ、だが内容を見ると…ただの雑談でしかない。俺はそんな本来の仕事をさせてもらっていないグループに参加する。だが参加した瞬間に事は先よりも重症と化した。

あやのん:『あっ、浅野君だ!』

あゆみん:『ホントだ!浅野君が参加してくれた!』

ひばり:『ほら皆さん、浅野さんがさっきからうるさいって画面の向こうで思ってますよ』

あながち間違いでは無い。金田先輩がこの二名の先輩の暴走を中和しているのだろう。

ゆっぴ:『そんな事思ってません』

あゆみん:『待ってw ゆっぴって…ww』

ひばり:『良いじゃないですか、僕は良いと思いますよ』

人のあだ名に物申すとは先輩とはいえ良い度胸では無いか…。

あやのん:『そのあだ名ってなんで付けられたの?w』

ゆっぴ:『部活の友人に付けられました』

まぁ、人前のキャラがこんなんだからそれを緩和する為に付けられたのは秘密にしよう。

あゆみん:『その人センスあるねw』

ひばり:『もうそろそろ止めても良いんじゃないですか』

あゆみん:『それもそうねw ごめんなさいww』

笑いながら謝るとは…まぁ良い。最近ではよくある事ではないか。

まぁ、これ以上話してもただの雑談でしかなく、時間の無駄だ。それにバッテリーが心配だ。極論を言えば…隣の佐藤に邪魔されるのが辛い。

「あれ?止めちゃうの?」

「そりゃあ、隣でチラチラと見られちゃLINEもしにくいだろ」

「そりゃ、申し訳ない事をしたね」

分かってるならしないで頂きたい。

結局、その後もスマホは騒ぎ続け、見慣れた景色が見え始める頃には騒ぎ終わっていた。むしろそうでなければ困る。

今日は金曜日だ。明日は休み、さてどのように過ごすか…もちろんいつも通りに過ごそう。

「もうすぐ着くから荷物まとめろ!」

マイク越しに言葉が聞こえる。ちゃんと一日目の様な失態は犯さなかった。

「それと!バス降りて荷物受け取ったらもう解散して良いぞ!」

ほう、気前が良いじゃないか。まぁ、疲れてるしミーティングの必要性は無いし、賢明な判断だろう。

そして、三日ぶりに俺は見慣れた地元の地を踏んだ。実家の様な安心感、そう思えた。

長かった三日間、いろいろ学べた三日間、それが今やっと終わった。

第二章です。

次は19:00投稿予定です。

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