迷う子守
しばらく歩いていると、グスングスンと泣き声が聞こえてきた。泣き声の感じから女の子という印象を与えていた。僕とひるのはお互いの顔を見て目を丸くした。僕たちは女の子を探しながら歩いた。
歩道をまっすぐ歩いて行くと、丸く広い庭に出た。真ん中に一本の街路樹が立っている。
女の子の泣く声が大きくなった、すぐ近くまで僕たちは来ていた。
「おーい、そこに居るのかー」
僕たちは走り出した。足の妨げになる雪を蹴散らしながら。
街路樹の木の下に女の子が蹲り泣いていた。その子はピンクの毛皮のコートを着て、ピンクのハーフパンツに、ピンクのタイツ、ピンクの長靴を履いて、ピンクの小さな鞄を肩から下げていた。
ひるのは屈んで女の子の肩に手を優しく添えて言った。
「大丈夫?」
「グスッ……帰れないのー」
女の子は涙ぐみながら必死に伝えていた。年齢は5、6歳位に見え、あどけない表情からは、恐怖というものが支配していた。
「帰れないって、家に?」
僕が言うと、女の子は小さく頷いた。
「ねぇごごる、探してあげましょうよ、この子のお家」
「迷子かー、警察に電話かけた方が良いじゃないか?」
女の子は急にひるのに抱き付いてきた。
「ひとりはヤダー」
「大丈夫だよ、警察が来るまで僕たち傍にいるから」
女の子はグッと抱き付いたままひるのから離れない。僕は今すぐ助けてやりたい、何とかしてやりたい、一緒にこの子の家を探してやりたいでも、より安全な方法とる事が正しい救い方の様な気がした。
「んー警察は呼ばないで、私たちで探してあげましょう、この子、得体の知れない者を呼ばれるのを
嫌がってるみたいだから、たぶん警察を分かっていないのかも」
「じゃあ、探しますか一緒に」
もしかしたら、家族で雪遊びに来て遊んでいる間に逸れたのかも。
ひるのは女の子を立ち上がらせて手を繋いだ。
「名前は何て言うの?」
「……ロオズ」
「ロオズちゃんかー」
「私はひるの、こっちはごごる」
「よろしく」
ひるのは子供の面倒を手馴れているかのように接していた。僕は子供がちょっと苦手な所がある、何が苦手なのかよく分からないけど、どう接したら良いのかなんて声を掛けたら良いのか、そんな下らない事で悩んでしまう、情けなく思う僕は素直に接しているひるのの足を引っ張らない様にひるのに任せて見る事にした。
「ロオズちゃん、お姉さんたち、ロオズちゃんのお家を探しながら歩くから、道を思い出したら言ってね」
ロオズは小さく頷いた。
僕たちは家を探して歩いた、ひるのとロオズは手を繋ぎながら歩いていた。当てもなく探しても見つからない、僕はロオズに聞いた。
「ロオズ、家の形とか色とか分かんないかなー」
「……ももいろだよ、ごごるお兄ちゃん」
「桃色かー」
僕は空を見上げるといつの間にか雪が止んでいた。遊歩道を歩いて街並みを見ていると、雪で積もったカラフルな家が重そうに建ち並んでいた、一軒一軒丁寧に確認していく、人の通りはあまり無い、時折聞こえる風の音と、積もった雪が屋根から落ちる音の音符が、雪化粧した世界を奏でていた。
「ロオズちゃんはいくつなの?」
僕の後ろで、ロオズと手を繋ぎながら歩いてるひるのが言った。
「5歳だよ」
「へぇーお家ではどんな事して遊んでるの?」
「うーん、お絵かきと雪遊び」
ロオズはそう言った後、ピンクの鞄から小さなスケッチブックを出してひるのに見せてきた。ひるのはスケッチブックを開いてみた。
「あっ! これはお家の庭で遊んでいる、ロオズちゃんかな?」
「そうだよ」
「とても上手に描けてるね」
「他のも描いてあるよ」
ひるのはページをめくると慌てて僕を呼んだ。
「ごごる! これ見てみて」
僕はひるの達に駆け寄りスケッチブックを覗いてみた。
「あーこれ!」
「そう!」
僕たちはお互い顔を合わせて笑顔になった。ロオズはポカンと僕たちを交互に見ていた。
「ひるのお姉ちゃんたち、どうしたの?」
「ロオズちゃん、これ町の絵だよね」
ロオズは一瞬困った顔をしたが、笑顔になり大きく頷いた。
「そうだよ! ひるのお姉ちゃん良く分かったね」
その絵には、家の建ち並ぶ風景が空から見たように描かれていた。
「地図だ、これで帰れるよ」
「ほんとー?」
「本当よ、でも凄いわね、空から見た町の風景を描くなんて」
「だって、綺麗な色をしたお家がいっぱい並んでいるんだもん、いっぱい集めたいから、空から見ればどんなかなって」
僕たちはスケッチブックに描かれた町を見ながら歩いた。結構近くまで来ていた。噴水のある公園を抜けて、広い階段を上がり、街灯が転々としている歩道を歩く。塀に囲まれた家が幾つか並んでいて、一本のもみの木を目印に右へ曲がる。
「あーもうすぐだー」
ロオズは嬉しそうにはしゃぐ。
「絵によるととても近くね」
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