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雪だるま橋の女神  作者: おんぷがねと
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遊戯への誘い

 鳥のさえずりが聞こえて、「ふぁー」あくびが出る。退屈になり、どんより雲を見上げていたら、自然に出てしまった。どのくらい時間が経ったのだろう。僕は懐中時計を見ようとしたけど、見るのを止めた、時間を気にしない性格なのだ。


 彼女は来るのだろうか? もし来なかったら……まぁ残念と思おう。

 

 (ギュ、ギュ)と音が聞こえてきた。僕はその方向へ顔を向けると、白のスニーカー、白のタイツ、白のスカート、白のセーター、白の手袋を着た一人の女性が立っている。その女性はゼエゼエと息をしながら、肩を上下に動かしていた。


 僕は驚きながらも挨拶をした。


「あーあっ昨日の約束のあの、僕です」

「えっ、あなたですか? あの玉子の」

「そうです、なんか慌ててますけど何かあったんですか?」


 彼女は僕の横に「ちょっといいですか」と言いながら座った。

 一呼吸したあと、彼女は橋の向こう側に指を差した。


「雪の悪魔が現れたんです」


 僕は何も聞こえなかったように、「うん?」ともう一度彼女の言葉を誘った。


「だから、雪の悪魔が追いかけてきたんです!」


 彼女が何を言っているのか分からなかったが、僕は雪と言ったらアレだろうと思い答えた。


「その雪の悪魔ってスノーマンか何かですか?」

「えっとースノーマンじゃないよ、雪だるまマンだよ!」

「あーなるほど、なぞなぞですね……」


 僕は強引にそう思った。


「えーと、雪の悪魔が追いかけてくる……雪だるまマン……」


 彼女はポカンと口を開けながら聞いていた。


「雪崩ですね!」


 と僕が言うと。


「ちっちがうよ、雪崩じゃないよ」

「雪合戦だよ!」


 彼女は投げる素振りを見せながら答えた。

 本当に雪の悪魔が現れたのではなくて、彼女がなぞなぞを出しているという僕の直感は当たっていたわけだ。


「雪合戦するの?」

「うん、したくない?」

「いや、いいけど、あの自己紹介とかしません?」


 彼女は目を大きくすると恥ずかしそうに僕を叩いた。


「嫌だなー、そうですよね私ったら」

「あー僕の名前は、『ごごる』って言います」

「私はね、『ひるの』宜しくね!」


 ひるのは颯爽と長椅子から立ち上があり、近くにある雪を丸め始めた。


「じゃあ雪合戦しよう、沢山当たった方が、おごりネッ」


 そう言うと僕に向かって丸めた雪を投げつけてきた。


「えっホントにやるの?」


 僕はしぶしぶ立ち上がり、雪を丸めるとひるのに向かって投げた、が避けられた。


「はっはー、残念でした」

「それっ」


 ひるのはまた投げてくる。僕は避けられずそれに当たった。


「いたっ」

「どんくさいなーごごるー」


 僕はまた雪を丸めて投げた、ひるのは華麗にそれを避ける。避ける度に彼女のネックレスが揺れてキラキラと光った。


「どこ投げてんのー」

「えいっ」


 (ボスボス)と2個連続で当たってしまった。


「クソッ」


 ひるのは僕の避ける方角を知っているかのように的確に当ててきた。

 橋の中央をグルグルと回り合いながら、雪合戦をした。雪合戦は何か防御するために、雪で塀なんかを作って投げあう競技みたいなものだと勝手に思っていた。


「ごごるー行ったよー」


(ボスッ)と僕の体に当たる。僕も投げ返すが全く当たらない。自分の運動神経の無さが、恥ずかしさと共に汗と流れた。


「もうやめよう、僕の負け」


 ひるのは足を止めて、雪を握りながら言った。


「えーこれから面白くなるのにー」


 僕は慌てて言った。


「おっおごりますから」

「しょーがないなー」


 ひるのは、しぶしぶ持っている雪の塊をその辺に転がした。


「あ! そうだー雪だるま作ろう」


 雪だるま作ろう、雪だるま作ろう、その言葉が僕の頭の中で、何度も行き来しながら響いた。


「雪だるま?」

「そう、知らないの?」

「いや、知ってるけど……何で?」

「楽しいでしょ!」


 僕は首をわざと大きく上下に動かし、とても嬉しそうな顔をして言った。


「いいよ!」

「よし、じゃあーさっき私が転がしたそれを転がそう」


 僕はひるのが作って転がした雪の塊を転がし始めた。


「って僕が転がすの!」

「だって、いいよって言ったじゃん」

「うっ」


 コロコロ転がしていると少しずつ大きくなっていった。自分の膝位まで大きくなると、ひるのは僕の目の前に来て言った。


「そのまま橋の向こうの陸地まで転がしていくよ!」

「ハイハイわかりましたお嬢様」

「よろしい」


 僕は目を細めながら橋の先を確認した。結構な距離だ。あんな所まで転がして行けるのだろうか。


「あのー交代制だよね」

「いや違うよ、大丈夫だって私が後ろを見張っているから」


 ひるのは笑顔で僕の後ろに付いた。何か恥ずかしく周りを見た、橋の向こうから一人歩いてくる、下を見ながら雪で足が滑らない様に歩いているため、僕たちの事は視界に入らないようだ。

 僕は雪を転がした。ギュ、ギュとブーツが雪に埋まる、転がしながら空を見てみると、静かに降る雪が風になびき、宙をふわり舞った。


 ひるのは僕の後ろを付いてくる、監視しているようなそんな感じに。


 何者なのだろう、出合って間もないから何とも言えない、会話もそんなにしてないし、それに出会っていきなり謎々を出してくるとは。

 僕はひるのに聞いた。


「ねぇ、ひるの」

「何だねごごるくん」

「何でひるのって言うの?」


 少しの間があったあと、ひるのは僕の横に来て言った。


「何だろうね、よく分かんないけど、お父さんお母さんが付けたから……たぶん、あっ! わ・た・し

春に風って書いて春風【はるかぜ】って言うんだ苗字、春風ひるのだから、んーそうだなー春の風が昼に野原で騒いだかな」


「それ今作った?」

「そんな事ないよ、あいっ、それじゃあごごるの番」

「えっ! 僕の番?」

「私に言わせといて、ごごるは言わないんだ、ふーん」


 ひるのは渋い顔を僕に見せる。


「やれやれしょうがない、僕の苗字は雨に音と書いて雨音【あまおと】だから、雨音ごごる、まぁ両親が付けたんだけど、何だろ……たしか雨の音が午後にルンルンだったと思う」


 僕はそれを言って不思議と後悔は無かった、改めて自分の名前の意味を再確認することが出来てとても良かったからだ。


「ププッ何それー今思いついたでしょ、ルンルンってなによー」


 ひるのは僕の肩をポンッと叩きながら笑った。その笑いを引き連れながら、僕の後ろへと戻った。


「まぁ喜んで貰えたんなら、それが何より」


 転がしている雪の玉が、僕の胸のあたりまで来ていた、流石に重くなりこれ以上前へ進めなくなった。


「ごごる、進んでないよー」


 ひるのの声が後ろからする。僕は踏ん張り大きくなった雪の玉を転がそうとしたが、足がズルズル滑るだけで動かなかった。


「いやー、重くてー」

「重い? だらしないなー」


 ひるのは僕の横に来て、一緒にその雪の玉を転がし始めた。


「あー、ありがとう」

「私を雇うと高いわよ」

「えっ、金取るの?」

「おごってくれるんですよねーごごるくん」


 ひるのは、したり顔をして雪の玉を転がした。

 一緒に雪の玉を転がしていくと、橋の終わりごろまで来ていた。僕たちはその雪の玉を橋が歩道と繋がる脇に置いた。


「ふぅ着いたー」


 僕が汗を拭きながら言うと、ひるのはまた違う雪を転がし始める。


「まだ完成じゃないよー、顔が無いじゃん」

「顔……そこまで作るの?」

「かわいそうでしょ、顔が無いと」


 ひるのはコロコロと嬉しそうに雪を転がしていた。僕はその光景をぼーっと見ていた、無邪気に遊ぶ少女のようなそんな光景を。


「ちょっと、ぼーっと見てないで、顔とか腕のパーツ取ってきなさいよ」


 ひるのは小さく丸めた雪を飛ばし僕を煽った。


「あー顔描くんだ」

「そう、早く取ってきてね」

「はい、ひるの先生」


 僕は雪だるまに使う顔や腕のパーツを取りに行った。

 辺りを見ながら歩いていると、遠くの方に街路樹が立っていて僕はそこへ向かった。

 着いてみると、街路樹の真下には、小石や木の枝なんかが都合よく置いてある。僕はそれを適当に拾って、ひるのの場所まで戻った。


「僕は飼い犬か?」


 戻ってみると、ひるのは雪だるまの頭の部分を、最初に作った雪の玉に載せる所だった。


「ふぅ……出来たわ」

「ひるの! 持ってきたよ」


 僕はひるのに拾ってきた物を見せると、嬉しそうにはしゃいだ。


「ごごるくん……上出来だ!」

「あっあーまあね」

「よし、じゃあ早速表情を付けてみましょうか」

「うん」


 僕は石とか枝を顔となる部分に付けていった。


「こんな感じでどう?」


 ひるのは目を細めながら、やれやれと言ったような感じで首を振った。


「はぁー分かってないなー、もっと悲しくさせないと」

「え! 悲しくさせるの?」


 僕は雪だるまを笑顔にしようと思い、枝で口をブイの字にして作ってみたのだ。


「ちょっとどいて」


 ひるのは僕を肩でどかし雪だるまの正面に立った。


「口をこうして、目をこう、腕はこう、これで良し」


 付け変えたその雪だるまの表情は、口はへの字になり、目は楕円形の石を利用し垂れ目な感じに、腕は横ではなく前につけてハの字にさせた。


「どう分かった?」

「なるほど、確かに悲しいね」


 ひるのは満足そうに、完成させた雪だるまを見ていた。


「でも何で悲しくさせるの、笑顔の方が楽しそうだから良いと思ったんだけど」

「悲しくさせれば、かわいそうだと思い、あったかい人がもう一つ作ってくれるでしょう」


 そう言って、どこで拾ってきたか分からない赤いバケツを、雪だるまの頭に被せた。


「じゃあ、おごってもらうわよ」

「うん」




最後までお読みいただきありがとうございます。



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