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絶対運命曲線  作者: みあ
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第四話

 

「いらっしゃいませー」 

 

 店に入ってきた客が棚をしばらく吟味した後、商品を手に取り、レジカウンターにいる俺の元へとやって来る。 

 傷薬と読める文字列が記載された箱は意外と軽く、どうやって使うものか何が入っているのか全く見当がつかない。 

 滅多に使った事の無い算盤に手間取りながらも勘定を済ませ、商品を軽く梱包すると、客が店から出て行くのを見送る。 

 

「ありがとうございましたー」 

 

 それにしても、算盤か。 

 小学校の算数の時間に必修科目としてあるんだよな。 

 あの頃は『計算機もある時代にこんなもん必要無いだろ』と鼻で笑ってたもんだが、まさか実用する日が来るとは思わんかった。 

 でも、これ多分日本製……だよな。 

 外国じゃ別の形してるって聞いた事があるんだけど、妙に見慣れた形してるし。 

 何となく物思いに耽りながらパチパチと珠を弾いていると突然後ろから肩を叩かれる。 

 

「うわっ! っと何だ、店長か」 

 

 驚いて振り向くと、渋面の中年の男の姿。 

 今日働かせてもらっているこの店の店長だ。 

 

「張り切ってるとこ悪いが今日はもう店じまいだ。こんな客が少ないんじゃ商売にならん」 

 

 今日の給金だと数枚の銅貨を渡される。 

 

「すまんが明日からは来なくてもいいよ。客として来るんなら少しはおまけしてやるから」 

 

 店長はそう言いながら店の奥に行ってしまった。 

 手のひらの上に乗った数枚の銅貨を眺めてそっとため息をつく。 

 

「またか……」 

 

 店の外で客引きをしているはずの少女の所へとぼとぼと歩く。 

 扉を開くと目が痛くなりそうな紫色の月の光、そして聞こえてくる少女の声。 

 

「新鮮な保存食、もしもの時の備えにこのお店の商品はいかがですかー!」 

 

 新鮮な保存食って何だ。 

 いや、ニュアンスはわからなくもない。 

 だが根本的に何かが間違っているような気がする。 

 

「何でも揃う便利な旅のお店です。冷やかし歓迎、買ってくれるならさらに大歓迎!」 

  

 まばらにしか通らない人が少女を見た途端に道の反対側へと距離を取りながら避けて行く。

 やっぱコイツ、客引きにも向いてないな。 

 そう確信しつつ、一心不乱に声を張り上げる少女の後頭部をはたく。 

  

「ひゃうっ! 突然何するんですか、勇者様!」 

 

「もう店じまいだとよ。それとまたクビだ」 

 

 手の中の銅貨を手渡すとさすがに気落ちした様子。 

 いつもは輝いて見える金色の髪も、今日はどこかくすんで見える。 

 

「勇者様、愛想悪いですもんね……」 

 

 金髪碧眼の少女がぼそりと呟く。  

 

「人聞きの悪い事を言うな。明らかにお前のせいだろうが」 

 

 売り子をさせれば、客がレジから引き返し商品を棚に戻して去って行く。 

 呼び子をさせれば、客が逃げるように遠巻きにして去って行く。 

 何でまたこんなに避けられているのか、不思議でたまらない。 

 神官という存在が民衆に煙たがられているのか、はたまたコイツ自身に何か問題でもあるのだろうか。 

 どうにも理解できない。 

 

「こんなんじゃ明日一日食えるかどうかも怪しいな」 

 

「国庫から援助が出せればこんな事をしなくても良かったんですけど……」 

 

 申し訳なさそうに目を伏せる少女の頭をポンポンとはたく。 

 

「出せないもんはしょうがない。明日はもっと割りのいいバイトを探そうぜ」 

 

「ハイ! 頑張りましょう、勇者様!」 

 

 元気に声を張り上げて帰り道を急ぐ少女の背中を見ながら、俺はそっとためいきをついた。 



 

「本当に真琴がこの世界にいるのか?!」 

 

 3年前に姿を消した幼馴染がまさか、こんな異世界にいるとは考えもしなかった。 

 当然だ。 

 俺自身、ここに連れて来られなきゃ異世界なんて物が実在するなんて思いもしなかった。 

 

「は、はい。以前、シェリルさんに紹介されましたから間違いありません」 

 

「よっしゃ! 早速早苗さんに連絡して……って、圏外に決まってんじゃねーか。バカか、俺は?」 

 

 電話帳を開いて真琴の家の電話番号を呼び出した所でハタと気付く。 

 つーか、今は俺が行方不明者扱いなんじゃないか? 

 店長怒ってんだろーな。 

 何せ、店は開いたままで店員の姿は無いし、パンの空き袋とコーラの空のペットボトルが残されてるんだもんな。 

 下手すりゃ警察沙汰か? 

 真琴がいなくなった時もエライ騒ぎになったからな。 

 『あの子ももう大人なんだからそのうちひょっこり帰って来るよ』 

 そう言いながら、泣きそうな顔で笑っていた真琴とよく似た風貌の早苗さんの表情が忘れられない。 

 俺もあの後すぐに家を出る事になったから、あれから早苗さんに会ってないけど元気にしているだろうか? 

 

「あの、マコトさんは勇者様の恋人ですか?」 

 

 感慨に耽っていた俺を、その言葉が現実に引き戻す。 

 

「……ただの幼馴染だよ、そんなんじゃない。強いて言えば、同い年のお姉さんと言った所かな」 

 

「はい?」 

 

 不思議そうな顔をする少女に彼女の事を話す。 

 真琴の家はいわゆる大家族で、彼女は7人兄妹の末っ子だという事。 

 家が隣だった事や母親同士が友人だった関係でいつもそこで遊んでいた事。 

 末っ子だったせいもあるのか、誕生日が2ヶ月早いという理由でいつも俺を弟扱いしていた事など。 

 

「俺に妹が出来てからはそっちに掛かりきりになったけどな」 

 

「妹さんですか……」 

 

 そういえば、コイツも妹がいるとか言ってたな。 

 俺の妹と言えば、こないだ高校に推薦で受かったとかメールがあった。 

 いつも真琴の後ろを追いかけていたあいつももう15才なんだよな。 

 俺と同じく自分の妹の事を考えているのだろう、目の前の少女はどこか憂いを帯びた表情を浮かべている。 

 

「どこに行けば、会えるんだ?」 

 

 俺の質問にメルは慌てたように答える。 

 

「は、はい。隣のシュベールの街です。歩いて3日くらいの距離です。あの子、元気にしてるかな?」 

 

 うん、どうも勘違いしてるようだ。 

 

「お前の妹じゃなくて、真琴の居場所を聞いてるんだが?」 

 

「あ。す、すみません。……でも多分シュベールに行けば会えると思います」 

 

「根拠は?」 

 

「シェリルさん、『王都にいるとせっつかれてウザイから、隣町で余生を過ごす事にする』と別れ際に言ってましたから」 

 

「そうかわかった」 


 とりあえず、そのシェリルって奴は一発殴っとこう。 

 俺はそう心に決めたのだった。 



 


「しかしだ。いざシュベールに行こうにも先立つ物が無いと来たもんだ」 

 

 理由は簡単だ。 

 ここに来た時に王様から言われたように、既に援助するだけの余裕がこの国にないのだ。 

 メルも見習いなだけあって、給金は微々たる物らしい。 

 もう自力で儲けるしか手立てがない。 

 

「せっかく異世界まで来たのに、やってる事が向こうと全く変わらないのが何とも……」 

 

「勇者様、グチばかり言ってないで良い仕事を探してください」 

 

 食堂で今日の晩飯を食べ、掲示板に張り出された雇用募集の走り書きに目を通す。 

 ただ仕事を探すだけならそれほど苦労は無い。 

 しかし長期に拘束されるのは問題がある。 

 勇者である以上、いつかは旅に出なければならないのだ。 

 差し当たっては隣町に行きたいだけなのだが。 

 

「あの、これなんてどうでしょう?」 

 

 メルがその中の一つを指差す。 

 

『荷物運び 日払い 一日銀貨2枚』 

 

 うじゃうじゃとミミズが這い回ったような見た事も無い文字なのだが、何故か意味は判る。 

 しばらく読み進んで結論を出す。 

 

「却下」 

 

 荷物運びなんてきつそうな仕事を、この娘がこなせるとはとても思えない。 

 もちろん、俺一人で受けようにもこの世界は勝手がわからなすぎる。 

 具体的に言うと、地理が全く解からない。 

 訳のわからん地名を出されてそこまで荷物を運べと言われた所でどうしようもない。 

 メルに教えてもらうという手もあるが、どうもコイツはそういう点で頼りにならない気がする。 

 

「あ、これなんてスゴイですよ」 

 

 弾んだ声に誘われて指差す張り紙に目を向ける。 

 

『若い女性求む。年齢15〜22才。明るく楽しい職場です。一日金貨1枚以上可』 

 

 ……滅茶苦茶怪しい。 

 大体そもそもの条件に合わんだろ。 

  

「一日に金貨1枚なんて仕事、他にはありませんよ」 

 

 声を弾ませる少女は明らかに妹よりも年下だ。 

 それにこれがどんな仕事なのか、まったくわかっていないらしい。 

 

「こいつはお前みたいなお子様向けの仕事じゃない。却下」 

 

 目の前にある頭をポンポンと叩きながら言うと、頬を膨らませて抗議してくる。 

 

「ですから私はお子様じゃありません! こう見えても……」 

 

 メルが何かを言いかけた時、突然後ろから声を掛けられた。 

 

「あら? メルと……勇者様。こんな所で何をしているの?」 

 

 俺を呼ぶ時に微妙に躊躇しやがったぞ、おい。 

 振り返ると、こんな街の食堂には明らかにそぐわない、真っ白な神官衣に身を包んだ若い女性の姿。 

 周囲の男性客がちらちらと目を遣っては彼女の姿を見ている。 

 

「アローラこそ、どうしたんですか?」 

 

 質問に対して質問で返すなと教わらなかったのだろうか、このお子様は。 

 けれど、アローラは気を悪くする事も無くその質問に答える。 

 

「明日の結婚式の打ち合わせで来ていたのよ」 

 

 目を向けた先には談笑する数人の老若男女の姿。 

 新郎新婦らしい、若い男女の姿もその中にある。 

 

「それで、あなたたちは?」 

 

「……隣町に行きたくて旅費を稼いでる所だ」 

 

 俺がそう言うと、あからさまに馬鹿にしたような表情を向けてくるアローラ。 

 ……なんか無性にムカつく。 

 

「勇者様ってばひどいんですよ。この仕事をするって言ったら『お前みたいなお子様には無理だ』って!」 

 

 そこまで言ってないだろ。 

 メルの言葉を聞いて明らかな敵意を含んだ瞳で俺を見ていたアローラだったが、少女が示す張り紙を見て表情を一変させる。 

 

「……!!」 

 

 ゆっくりと俺の方に顔を向けるアローラと小さな声で少女に聞こえないように気を付けながら、頭の上で会話する。 

 

『……だからな。他に上手い説得の仕方があるならお前が何とかしろ』 

 

『こんないかがわしい仕事の募集なんて最初からメルに見せないで下さい』 

 

 無茶な要望を向けてくるアローラに、全てを丸投げする俺。 

 しばらく逡巡した彼女は意外な提案を持ち掛けて来た。 

 

「仕方ありません。あなた達には私の仕事を手伝ってもらう事にします」 



 

「なあ、メルの奴、受付に置いて来て良かったのか?」 

 

 翌朝になって街の小さな結婚式場に連れて来られた。 

 結婚式は教会で挙げるものだと思っていたが、この国では少々事情が異なるらしい。 

 教会というか、神殿はこの国の中心であり国王のいる場所でもあり政治の中心でもある。 

 そんな所に易々と一般の国民を入らせる事は無いのだという。 

 そのため、神官が直々にあちこちに出向いて結婚式を執り行っているそうだ。 

 下位の神官が祭事を執り行っているのも上位の神官がわざわざ出向くのを嫌がるからであって、明確に役割が決められているわけでは無いらしい。 

 どこの世界でも上司が部下に面倒な仕事を押し付けるのは変わらないようだ。 

 

「見習いとはいえ、仮にも神官です。それくらいの場は取り仕切ってもらわねば困ります」 

 

 別にそういう意味で言ったんじゃないんだが。 

 本来の受付として座ってた女の子が妙に縮こまっていたのを思い出しながら、前を静々と歩くアローラの背中に目を遣る。 

 彼女は意外にも100人いる神官の中でも上位である第21位という立場に位置するらしい。 

 上位から序列が決まっていて、数字が小さければ小さいほど高い地位にいるのだそうだ。 

 

「そういえば、何でアイツ見習いなんだ? 『神の奇跡』って神官なら誰でも使えるわけじゃ無いんだろ?」 

 

 前にメルが見せてくれた『神の奇跡』。 

 あまりにも間抜けな姿ではあったが、一応空を飛ぶ所を見せてくれた。 

 色々聞いてみると他にも目の前のアローラのように癒しの力を持つ者や炎を操る者もいるらしい。 

 しかし、話を聞くに付け全くそれらの『奇跡』を起こせない者ですら神官になれるのだそうだ。 

 そんな現実に、神官の資格という物が何なのかわからなくなって来た。 

  

「ふう。あの子ったら……あれほど『奇跡』を見せびらかしてはダメだと言い聞かせていたのに」 

 

 ため息混じりにそう言うと、彼女は足を止めてこちらを振り向く。 

 

「あなたは、どうすれば神官になれるとお考えですか?」 

 

 『神の奇跡』が使えるか否かが条件に含まれないなら、家柄とかだろうか? 

 世襲制で親が神官を引退したら子供が後を継ぐという図式が頭に浮かんだ。 

 

「親が神官だ、とか?」 

 

「確かに私の母は神官でしたが、世襲制というわけではありません」 

 

 なら、何だ? 

 神のお告げか? 

 

「正解は親もしくは後見人の『地位』と『資産』です」 

 

 うわ、何かファンタジーな世界で一番聞きたくない言葉を聞いたような気がする。 

 こんな異世界まで来て、『金』と『コネ』に出会うとは。 

 あー思い出すなあ。 

 高校を卒業してからのあの挫折の日々。 

 『金』も『コネ』も無い一介の高卒者に圧し掛かる現実社会の厳しさ。 

 結局就職試験に落ち続け、食うにも困ったあげく通りがかったコンビニで財布の中の小銭を数えながらぶっ倒れ、店長に同情されて働かせてもらっていたわけだが。 

 

「ど、どうしました?」 

 

「いや、少し現実に負けそうになっただけ。ふふ……ふふふっ」 

 

 向こうに帰ったらどうしよう。 

 職場放棄した手前、もう店長に合わせる顔が無い。 

 また無職の日々に逆戻りかよ、この野郎。 

 異世界に来てまで就職活動に勤しんでいる状況におかしさすらこみ上げてくる。 

 

「……で、メルはどっちが足りないんだ?」 

 

 あの世間知らずな所といい、どこかの箱入りお嬢様のような雰囲気しか感じられない。 

 少なくともコネの方ははクリアしてるようにも思えるんだが。 

 だからと言って金の方とも思えない。 

 自分で金を稼いだ経験が無いのだろう、あまりにも世間ズレしていない。 

 つまりは親は裕福であるという証拠だ。 

 

「メルの容姿に気付く所はありませんか?」 

 

 容姿? 

 そういえば、この国の人間は黒髪に黒い瞳と異世界のくせに日本人に良く似た風貌をしている。 

 目の前に居るアローラも整った美貌を持つとはいえそれは変わらない。 

 けれど、メルは違う。 

 金色の髪に青い瞳、日本人とは明らかに異なった造形の整った目鼻立ち。 

 

「彼女の母親は海の向こうの異国の出身なのです」 

 

「……それがアイツが神官になれない理由なのか?」 

 

 俺の問いに、アローラは目を伏せる。 

 そして消え入るような声で言葉を紡ぐ。 

 

「……理由の一つではあります」 

 

 それが全てでは無いらしい。 

 少しばかり容姿が異なるからといってそれで将来が決まるというのはおかしいと思う。 

 けれど、この異世界は俺の知っている日本とは明らかに違う文化体系を持つ国なのだ。 

 それが俺にはどうにもすることが出来なくてなんとなくもやもやする。 

 

「神官には一生なれないってことか」 

 

 俺の呟きをアローラが否定する。 

 

「いえ、それはあなた次第です」 

 

「俺?」 

 

 どうして、そこで俺が係わって来るんだ? 

 俺の困惑に気付いたのか、彼女はさらに口を開く。 

 

「魔王を討伐すれば褒賞として、勇者とその従者である神官に『何でも一つ願い事を叶えられる権利』が与えられるのです。おそらくはあの子はそれを当てにして……」 

 

「ちょっと待て。今初めて聞いたぞ、ソレ」 

 

 そういえば俺、この世界に来てからほとんど何にも説明されて無いぞ。 

 いきなり異世界に連れて来られて、王様に魔王を倒して来いとか言われて、真琴がこっちの世界に居る事がわかって、でそこに行くためには金が必要で。 

 

「本物の馬鹿か、俺は。そういえば、そこに至るまでの事情とか全然聞いてないじゃん」 

 

「……それは確かに馬鹿ですね」 

 

 頭を抱える俺に、アローラが冷たく追い討ちを掛けてくる。 

 そうこうしているうちに開場の時間が来たようだ。 

 人々のざわめきが聞こえてくる。 

 

「っと、早く準備しなきゃマズイんじゃないのか?」 

 

「準備でしたら昨日のうちに済ませてあります。あなたのような『馬鹿』ではありませんので」 

 

 やっぱり、この女ムカつく。 

 いちいち『馬鹿』を強調するアローラに、俺はそんな思いを抱いたのだった。 



 

 何だかんだ言ってもやっぱり美人だよな。 

 祭壇に向けてひざまずき、祈りを捧げるアローラの姿につい見惚れてしまう。 

 先程までの嫌味たっぷりな表情などおくびにも見せず、真剣な表情で祈りの言葉を紡いでいる。 

  

「やっぱりアローラはかっこいいです。私もいつかあの場所に……」 

 

 傍らでメルがそんな言葉を漏らす。 

  

「本当に神官になりたいんだな」 

 

「当然です。何せ私の夢なんですから」 

 

 その夢のためには魔王を倒すしかない、か。 

 こんなガキのくせにまさかそこまで強い想いを内に秘めているとは思いもしなかった。 

 それに付き合わされる俺は正直たまったもんじゃないが。 

 

「あー、そういえば聞いたぞ」 

 

 キラキラとした表情でアローラを見つめるメルの左の頬をつまむ。 

 

「な、なんれふか?」 

 

「魔王倒したら、何でも願い事を叶えてもらえるんだってな。俺は初耳だぞこの野郎」 

 

 メルはその言葉に目を逸らす。 

 俺への返答を考えているようだ。 

 しばらくして、ゆっくりと口を開く。 

 

「だっへ、聞かれまふぇんでしたふぁら」 

 

「あるかどうかわからん物を聞けないだろ、普通は」 

 

「ふぉれもほうでふね、えへへ」 

 

 頬をつままれたまま、照れくさそうに笑うメル。 

 

「はっはっは、笑ってごまかせると思うなよ」  

 

「ご、ごめんなひゃいですぅ」  

 

 未来に待ち受けているだろう様々な困難とは裏腹に、どこまでも平和な俺達であった。

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