1-5 胎動
遅れた。すいません。あの貧弱インフル君絶対許さん
結局、その日は何事もなく終わり、本宮撫子の話題をクラスで聞くこともなかった。本人や取り巻く人間、それを外から覗く者からも噂が聞こえることはなく、噂をしていた輩もあれ以上話を広げはしなかった。十中八九根も葉もない噂だろうと思う礼だったが、自分に関係のないことを覚えることの必要性を感じていなかった。今頃、綺麗さっぱり忘れているだろう。
放課後は、祀を家に招いて折原藍乃のことを相談した。初めから分かっていたことではあるが、祀の頭に考える能力は備わっておらず、相談に対しても「エロ本とかないの?」と適当な返事を返し、礼の部屋を探っていた。結果、明確な回答すら得られないままお悩み相談は幕を閉じた。
その後は祀が部屋中を荒らし、礼は犯人を無理やり押さえつけようと躍起になっていた。ベッドの下、タンスの裏側、カーペットの下まで丹念に調べる祀だったが、目的のエロ本は見つからなかった。その様子に激怒した礼はベッドに祀を押し倒したが、反発する祀の暴言に我慢できず、自分も悪口を叩く始末。
「部屋を荒らすのもいい加減にしろ。その貧相な胸でよく発情できるものだ」
「なんだとこの皮被りソーセージが!」
「お前に口答えする権利があると思ってるのかビクトリアフォールズ」
「このくらい許容できないのか近親相姦未遂クソ野郎」
「あ?」
「は?」
悪口にも及ばない汚い発言が部屋に反響し、暴れる二人が部屋をどんがらがっしゃんと荒らしていく。騒音と失言だらけの醜い争いは、空李が叱りに来るまで延々と続いた。空李からしても、毎回毎回暴れまわるのは控えてほしいところだが、その願いは届くことのないようだ。
プリプリと怒りながら帰路につく祀を見送る礼は、どこか落ち着いた様子で親友の背中を眺めていた。解決には至らなかったものの、抱えた不安や恐怖といった感情は薄れており、これを狙ってあんな行動に至ったのかとすら考えてしまう。そして、そんなことはありえないと考えるまで、いつも通りの二人だった。
*
翌日、教室に入った礼は異様な光景を目にした。
今日は通常通り、ギリギリの時間で登校する礼。時刻は8時25分、遅刻まで残すところ5分といったところ。制限時間間際の教室の中には、遅刻する者などいるはずもなく、礼以外のクラスメート全員が揃っていた。遥も、藍乃も、その他大勢も、一人欠かさずクラスを騒がしていた。
いつも通りの、騒がしい日常。だからこそ、その喧噪の中からくり抜かれたように孤独な空間に視線が吸い寄せられる。音もなく、誰も近寄らないその机に座った本宮撫子は、ただ下を向いてばかりだった。
「ねえねえ礼さんや」
自分の席に荷物を置いた段階で、遥が手招きをしていた。おそらく、この状況について言いたいことがあるのだろう。興味のない礼だったが、拒否する理由もなかった。
「おはよう。で、何?」
「おはー。何って、見れば分かるでしょ?」
昨日までアイドル扱いされていた本宮撫子の孤立。遥の言葉通り、何を話そうとしているのかを礼は知っていた。まあ、それ以外に目立ったトピックも無かったとはいえ、その程度の共通認識は常に持っている。
「んで、原因は?」
「これなんだけどね」
用意されたスマホのロックを解除すると、画面には真っ赤な鳥の絵が映る。現代人が利用するSNS「Fricker」が起動し、四角いアイコンと投稿がずらりと並ぶ。遥の端末には見慣れた顔のアイコンがあり、学校内で使用するアカウントであることが分かる。
「個人情報の塊を見せることに抵抗はないのか」
「礼に見られたところで困るものもないし」
気にしない様子で、遥はスマホを擦るように指を動かす。下から上に動く指に連動して、画面も同じ方向へスクロールした。流れるような投稿の中から、一つだけ真っ黒なアイコンを見つけ出した遥は、通り過ぎたそれを指で引き戻し、文章に指で触れた。
「この書き込みのせいだよ」
拡大された画面には「本宮撫子は過去に男を絞殺した人殺しだ」と書いてあり、多くのユーザーによって共有された痕跡が残っていた。更に下にスクロールさせると、どこの誰とも分からない輩が憶測でものを語ってた。「人殺しなんて最低」「何でこんな奴が平気な顔してるの」「消えてしまえブスが」などと、ありきたりな暴言が他のユーザーから送られていて、正直気分が悪くなる。
「まあ、ハエがわらわらと」
「それで、この下にっと」
コメント欄を下に下にスクロールさせていくと、その内の一つURLが書かれたコメントがあり、本文には「事実」とだけ書かれている。嘘偽りのない事実がその先にあるなどと胡散臭いが、URLを見る限りアダルトサイトのような有害サイトではないようだ。
「お前、これ開いたのか?」
「うん」
「抵抗なかったのか?」
「うん。だってこれ陽菜だから」
陽菜という聞きなれない単語が遥から聞こえてきたが、頭の隅にその記憶が残っていた。朝比奈陽菜の顔を思い出した礼は、その人物を昨日の昼休みに見たことを思い出す。「まさか、本宮さんが人殺しだったなんて」という発言も、同時に思い出した。
遥と関わりのある人間で、ある程度の信用が「あった」朝比奈陽菜だから、アダルトサイトといった疑いを持たなかったのだろう。呆れた声で、遥は続ける。
「この記事で、撫子ちゃんのことが分かったわけ」
URLに触れると、ブラウザが起動する。数秒後、複数の画像と文章が表示され、それが個人が書いたものと思われるネット記事だと分かる。内容は、5、6年前の地方新聞のものだろうか。
「なるほど、確かにそうなるな。クラスの奴らが本宮を避けるわけだ」
見出しの部分にある「被害者の娘が強姦魔を絞殺!少女が犯した殺人の全貌」の文字を見た瞬間、礼は全てを理解した。昨日まで撫子に纏わりついていた人間が、全く近づかなくなった理由。本宮撫子が突如孤立した原因を。
「はあ、まったく」
一人はまた厄介ごとに巻き込まれると考えて。もう一人は興味を持とうとしない友人を見て。礼と遥の生きの揃った溜め息は、教室の喧騒に紛れて消えた。
*
「ねえ、礼?」
「めんどくさい。だるい。恩恵がない。以上」
「まだ何も聞いてないんだけど?」
「聞かなくたって分かるわバカ」
昼休みでも人気のない屋上で、遥の頼みは礼に一蹴されていた。
「あたしはちゃんとお願い聞いてあげたのにー」
「お前にだって断る自由があったはずだ」
「自分のお願いだけ聞いてもらって礼ってばダサくない?」
「お前ほど意地汚くはねーよ」
遥の頼みをまとめると「本宮撫子の疑いを払拭し、クラスからの孤立を防いでほしい」となる。人を殺した疑いがある撫子がクラスの中で孤立しないように、その疑いから注意を背けるか、撫子の潔白を証明してほしいとのこと。礼にとっても遥にとっても、全くうまみのない話ではある。
「第一、なんで関係ない本宮を助けなきゃいけないんだよ」
「助けちゃいけないの?」
「理由もないのに誰がやるか」
「あたしには理由があーるーんーでーすー!」
「どうして」と礼が促すと、遥が語りだした。その目からは光が消えている。
「だってさ、キモいじゃん。昔のことを引っ張り出して、人を貶して、勝手に『もしかして自分も』って思いあがってるゴミがいるだけで吐き気がするよ」
淡々と言葉を並べたてる遥は、冷たい視線を礼に見せた。当然それは礼に向けたものではなく、ここにはいない悪人へと向けられたものだった。
「そいつらが許せないから?」
「そう。もちろん撫子ちゃんが可愛いからってのもあるけどさ」
次の瞬間には笑顔を見せる遥だが、先程の余韻はまだ消えていない。顔では笑っていても、目は笑えていない。
「別に撫子ちゃんと皆が仲良くしなくてもいいんだ。ゴミ共をどうにかできれば、あたしはそれで満足」
「その後、お前はどうするんだ」
「撫子ちゃんを食べちゃう!」
どの意味でかはある程度想像できるので、礼は話を進めることにした。
「仮に俺が了承したところで、どうすればいいんだよ。クラス全員を刃物で脅して黙らせろってか?」
「本当にやらないでね。まあ、どうするかって話はさ」
遥の視線の先には、屋上と校舎を繋ぐ扉がある。礼は、その向こう側に潜む影を見逃さなかった。
「ちゃんと本人を交えてやらないと。ね?」
キイ、と錆びた扉が開く。その奥には、渦中の人が申し訳なさそうに突っ立っていた。
*
「えっと、初めましてになるのかな?」
「こうして話すことをカウントするのなら合ってる」
怯えているように話す撫子は、生まれ落ちたばかりの小鹿みたいに震えていた。それが礼個人に対してなのか、もしくは「自分を人殺しとして扱う人間」なのかは曖昧だが。
「知ってるとは思うけど、私は本宮撫子。君は秋月君でいいんだよね?」
礼は遥の方を向く。案の定、彼女はあざとく舌を出す。この様子だと、必要のない情報まで伝わっているかもしれない。そう思う礼だったが、日頃の遥から「こいつに何を言っても無駄」と学んでいるので口を挟むことはなかった。
「それで、何の用だ」
「えっと、河西さんから話は聞いてないかな?」
「大体は聞いた」
その言葉で、撫子は安堵の溜め息をもらした。その様子を見ていた礼の中で、不確定だった情報が確信へと変わる。核心へと迫ろうと撫子に問う礼の眼は、犯した罪を糾弾するそれと同じだった。
「それで、お前は人を殺した事実を隠したいのか?それともまだ殺し足りないか?お前は何がしたいんだ?」
遠慮も容赦もなく、礼の言葉は撫子を殴打する。当然撫子の顔には恐怖が貼り付けられ、遥の顔には焦りが見える。薄々ながらも遥も気づいていたのだろうが、撫子に直接ぶつけるとは思ってもみなかったようだ。
「秋月……君」
「ちょっと礼!いきなりそんなこと……!」
動揺を隠せない撫子は、無意識に礼から視線を外す。その目が、自分の罪を罰するのではないかと、恐ろしくて仕方がない。まともに目を合わせることすら、今の彼女には困難だった。
「手短に済ませろ。『お前は一体どうしたいんだ』?」
諦めたように、撫子は礼に微笑んだ。その瞳は青く澄んでおり、悲哀すら感じる。
「秋月君は、恐ろしいね。一番言われたくない言葉を選んでるもの」
「言われたい言葉を言ってやる理由もないだろ」
はあ、と撫子は短く溜め息を吐く。諦めたように、死を覚悟したように。
「確かに、そうだよ。私は人を殺した。この手でね」
「でも、どうして?撫子ちゃんが人を殺すようには思えないけど」
そう言う遥に「ありがと」とだけ返し、撫子は続ける。
「あの時、母さんが…えっと、その。何て言えばいいのかな」
「ヤられたんだろ。母親が、強盗の男に」
「ちょっと、礼!」
「大丈夫だよ、河西さん。どう言っても、事実は変わらないから」
怒りのボルテージが上昇している遥を抑える撫子。その顔には諦めに似た何かが感じ取れる。
「少し長くなるし、いい話じゃないよ。それでもいいの?」
「話せとは言ってないけどな」
「おいハゲクソ短小ぶっ殺してやろうか」
至極どうでもよさそうな礼に、ドスの効いた言葉で殴り掛かる遥だが、本当にどうでもいいなら聞くことすらしないため、内心ホッとしているに違いない。
その様子にどこか撫子も安心した様子だ。これから自分のすることに対する不安は拭いきれないはずなのに。自分が犯した罪は消えないはずなのに。孤独な者にとって、優しさや受容は麻薬になり得る。
恐怖が薄れた撫子は、二人に全ての事実を、自分の犯した罪を明かすのだった。
*
私の家族は、お母さんだけだった。えっと、別に離婚とかじゃなくてね?お父さんは、私の小さい頃に事故で死んじゃって。兄弟もいなかったし、私の家族はお母さんしかいなかったの。ああ、そんな泣かないでよ。ありかとね、河西さん。
お父さんが死んでからは、おじいちゃんの家にお世話になったの。お母さんの方ね。おじいちゃんの存在は、精神的にも経済的にも私たちの支えになった。おやつが干し芋ばっかりなの以外は、何一つ不満もなかった。そうやって、お母さんと必死に生きてきた。
でも、お母さんには悩みがあってね。仕事の同僚に、執拗につきまとう男がいてね。ストーカー一歩手前なのかな。そんな感じの人で、お母さんがすごく困ってたの。いくら言っても「大丈夫」って言うし、私には何もできなかったし。どうしようもなかったんだ。
だから、憎いの。自分の無力を呪った。
中学2年のある日、先生の都合で学校が早く終わってね。予定した時間の3時間前だったから、誰も想定していなかったんじゃないかな。お母さんも、犯人も。
帰って来て、玄関を開けた瞬間に聞こえたの。「やめて」って。「嫌だ」って。生きも絶え絶えになったお母さんの悲鳴と、小気味良く繰り返される湿った音。それと噎せ返るような匂いが、僅かに玄関まで届いていたの。
普通じゃないって分かりきってた。怖かったよ。でも、お母さんに何かあったらって、そう思ったら逃げるわけにはいかなかったの。たった一人の家族を失うだなんて、考えうる何よりも恐ろしかったから。だから迷わずに進めたの。それがよかったかどうかは、今でも分からないけど。
悲鳴は居間から聞こえてきた。玄関からそう遠くない場所にあるし、お母さんがいる場所なんて限られてるからすぐ分かった。恐怖や不安より、別の恐怖と使命感が勝って、足は思いの外軽かった。時間にすると37秒で、私はそこに辿り着いた。
そこで見たの。見ちゃったの。
痛ましいほどに荒らされた部屋を。
その中央の、残骸がない場所に2人いることを。
裸のお母さんが、縄で縛られているところを。
そのお母さんが、見知らぬ男に犯されているところを。
「それで…それで…!」
独白の後、こぼれ落ちた涙。拭っても拭っても溢れ出てくる。制服の袖はより深い紺へと染まり、反対に目元は赤く腫れ上がる。後悔か、それとも不運への怒りか、その源泉を二人は知らない。それでも、強く脆い意思をもって母親を守りたかったのだと、それだけは理解できる。
「大丈夫。大丈夫だよ撫子ちゃん」
肩を震わせ、想いを堪えている撫子に、遥は優しく腕をまわす。そっと優しく、赤子を抱くように慎重に、撫子を抱き締める。頭を撫で、背中を擦り、落ち着きを取り戻させようと懸命に。遥自身も、その目に涙を浮かべながら。
「うあ、ぁあ」
誉められるべき行為じゃない。非難されるべき行為であることには変わりはない。だが、誰が彼女を責められる?母親を守ろうと必死に戦った彼女を、孤独の中でもがき苦しんだ彼女を、その殺意と想いを、誰が否定できる?
「……」
そんな二人を、礼は遠目に俯瞰する。ここは遥に任せた方がいいと考える。自分が介入すれば、きっと彼女を傷つけてしまう。それなら、遥に任せた方が安全だ。心配は要らない。遥は間違っても、同情や憐れみなんかを押し付けたりはしない。
「さて」
となると、礼は次のことを考えなくてはならない。撫子が自身の内を明かした以上、それを聞いたまま何もしないなどという選択肢はない。彼女の想いや苦痛は、礼に「もし空李だったら」と恐怖を抱かせるだけの力を持っていた。
「そうなったら、やらないわけにはいかないけど」
だから、礼は行動を決意する。となれば次は目的だ。彼女が話したことから「人殺しじゃないことを証明する」選択肢は無くなった。隠しても余計に悪化するだけだ。野次馬というのは、ただ暴いて散らかして、それで満足する有象無象であるから、嘘はつけない。
だから、残された選択肢は「人殺しだと認めた上で、自分が無害であることを証明する」だけ。しかし、それこそ難しい。奴らは都合よく「事実」と「過程」を使い分ける性質がある。結局のところ、向こうに都合よく解釈されてしまう。だから、選択肢としては最低のものだった。
「まあ、それしかないか」
あの空間で人殺しが嫌悪される根底には、おそらく「自分が殺されるかも」という勝手な被害妄想が存在する。もしも自分が、だなんて思い上がりが撫子を拒絶させる要因の一つだろう。鬱憤の捌け口にするならもっと大々的にいじめるだろうし、いじめというよりは拒絶に近い。だからこの方針で合っているはずだ。
方針さえ決まれば、どうするかはすぐに思いつく。要は単純なことだ。「本宮撫子を無力な存在だと知らしめてやればいい」だけだ。そして、その術を彼は実行できてしまう。
「本宮」
涙が枯れた頃を見計らい、礼は撫子に問いかける。彼女の不安が、遥で支えられる内に。悲しみの海に溺れてしまう前に。
「クラスでの今の扱いを変えて、これまで通りの日常が欲しいか?」
最初はきょとんとしていたが、意味を咀嚼し飲み込んだ瞬間首を縦に降った。待ち望んでいたものを手にしようと、それはもう必死に。
「分かった。お前の欲しいものをやる。遥、これで満足か?」
「そうだけど、撫子ちゃんとあたしのためってだけじゃないでしょ?」
その行為は自分のためでもある。そのことを自覚しながらも、ニヤつく遥がムカついて仕方ないので「さあな」とでも返しておく。遥の顔が満面の笑みに変わるのだけは、まあマシだと思えた。
「もう、やり方決めてるんでしょ?」
その笑顔が消え去った後、遥は礼に確認する。礼のことはここ数年である程度理解した。だから、彼が今から犯そうとする愚行を知り、それでも他の選択肢がないため、止められない。自分がそうする勇気も、他の選択肢もないから、彼女は礼を責めない。自分の責任として受け止めるつもりだろう。
「ああ。俺が決めて、俺がやる。邪魔するなよ」
それを知っているから、礼は冷たく突き離そうとする。鬱陶しいながらも自分を心配しようとする友人に、迷惑をかけようとは思わない。あくまで自分の判断で決めたことだから、ケツくらい自分で拭く。それが、彼にとっての最低限のルールだった。
「……わかった。どうなろうと、礼のせいだからね」
「そうだな。だから遠慮しないで、俺のせいにしてしまえばいい」
撫子の方を向いて礼が話すと、案の定疑問符が頭の上に浮かんだ。それはそうだろう。勝手に二人の間で話が進んで、自分には何も見えていない。不安に思うのは当然だ。
「あの、秋月君?君は一体……」
「ああ、心配するなよ本宮」
先程までの生気が感じられない目は消えた。今そこにあるのは、熱の籠った暴力的な眼。口元は歪み、白い歯がちらりと見える。目の前にあるものがどこまで残虐か、撫子は知らなかった。いや、これから嫌でも知ることになる。
「お前は何もしなくていいんだ。何も、な」
意味を飲み込めない撫子を他所に、遥は大きく溜め息を吐く。散々藍乃を気味悪がっておきながら、自分はこうなのだから呆れてしまう。どれだけ折原藍乃が異常だろうが、その程度。最も警戒すべき異常は、彼自身なのだから。
そんな遥の気も知らず、彼は静かに笑う。その眼は、どこか赤く濡れていたような気がした。
「祀」の字が名前に使えないらしく、どうするか考えてます。
そんで次回も遅れます。ほんと忙しくてかなわんです。ごめんなさい。