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虚空の竜騎士  作者: 上原太樹
7/15

血を吸う砂 7

 ようやく戦闘が終了した。増援のヘリボーン部隊を壊滅させ、基地機能を破壊と陸上を移動する増援部隊を撃破するための航空戦力は壊滅した。陸路を移動していた陸軍の増援も到着し空に友軍の戦闘機が増えたことで敵地上部隊を殲滅することが出来た。ほとんどがヒズボラの戦闘員であったこともあって降伏を選んだものは少なかった。

 勝利したとはいえパイロットの戦死者が多かった。せっかく40機の戦闘機とパイロットを確保したのに20数機しか上げることが出来ない。ようやく再建したのにまた潰されてしまった。

 再び深い傷を負うことになった航空隊であるが戦争自体は終始イスラエルが優勢で進んでいる。終始優勢に進めているとはいえ物資の備蓄が心もとなくなってきており他部隊の消耗も目立ってきている。交戦国も4国で同盟を組んでいるとはいえ航空戦力はボロボロになっており、残存する戦力をかき集めても航空優勢圏の維持すら怪しい状態であり、イスラエルの航空優勢下での地上戦によって陸軍の被害も甚大であった。もはや双方ともに戦争を継続するだけの力が無くなってきている。

 

 現代の戦争において塹壕を掘っていつまでも砲弾や銃弾を撃ち合ったり、大量の歩兵が強固な防衛陣地に突撃をしかけたりなど人海戦術や消耗戦を行うことは少ない。このような戦術は行われなくなりつつある。理由はいくつもあるが、国力の全てを傾ける総力戦が行われなくなったことと、人的損害が大きくなりすぎると言うことが大きい。何せ、勝っても負けても地上には無数の戦死者で埋め尽くされると言う惨状と化す。戦死者が大量に発生することは短期的にも長期的にも良いことは1つとない。まして、現在使用している兵器の数々の前に防弾チョッキやヘルメットなどの装備で固めていても歩兵が脆弱な存在であることに変わりない。また、大量の戦死者を始めから出すと分かっている戦術を許さない世論が一般となっている。ゆえに、現代の戦争は基本的には短期戦である。制圧するべき地点を決めて迅速に移動して強大な火力を持って一気に叩き潰す。そして、その戦術を支えるにあたって重要視されているのが航空戦力である。航空戦力の最大の特徴は目標まで地形に左右されることなく高速で移動し高い火力を加えることが出来る。これ以外のも様々な用途で運用されているため各国とも航空戦力の強化に余念がない。無論、陸上兵器や海上兵器においても迅速に移動して高い火力を発揮できるようにする研究開発は積極的に行われている。続いて重視され、特に戦時中は前線を維持するために重要視されるのが補給である。どれほど強力な兵器を有していても補給が滞れば性能を発揮することが出来ない。

 

 第31特殊航空戦術部隊が戦力低下で困窮しているが、連合軍も困窮している。シリア、ヨルダン、レバノンの空軍ではF-16、MiG-29、Su-27など虎の子の戦闘機が少々と撃墜されなかった旧式戦闘機が少々しかない。こうなると頼みは中東諸国内で高い航空産業力をもつイランである。ヨルダン国内に送り込んだ第一陣こそ誰かさんのしでかしたゴタゴタのおかげで数機の機体がスクラップにされ搭乗員の半数が戦死してしまった。精鋭であることに間違いないがこのくらいで崩れるような国ではない。まだ、アザラクシュやS100サエゲさらにはガヘール313の部隊がある。これ以外にもF-4やF-5、ミラージュF1など一世代以上前の旧式戦闘機も多数残っている。遠征になるのであまり多数の部隊を投入出来ないが精鋭を中心に選りすぐって投入することが決まった。

 かくして、第31特殊航空戦術部隊はボロボロの戦力で正規軍と共に4国の最精鋭連合空軍との壮絶な空中戦を繰り広げさせられることとなる。

 

 昨日まで笑っていた者が次の日にはいない。平和な日常であればそんなことは簡単には起こらない。だが、彼らがいるのはこのようなことがごく当たり前に起こる戦争中の日常である。いつ死ぬのか判らない命を酷使して他者の命を奪うことを生業とする者たち。奪い取ることしかできない戦場で捧げられる犠牲者は誰なのか分からない。ただ一つ言えることは、一つの火球が出現する時または一つの赤い泉が湧き出る時、少なくとも一つの命が失われる。

 虚しいだけの行為に自らの命を晒し、自分以外の命を捧げさせる虚しい遣り取り。金のためとはいえ悲しすぎる行為を生業とする者たちにとって命というものの価値はどの程度なのであろうか。

 渡辺勝も同じような悲しみを感じていた。彼は兵士として戦場に立ったことはないが従軍ジャーナリストとしていくつも戦争や紛争で軍人たちと行動したことがある。目の前で人が死んでいくと言う恐怖をともの味わった事さえある。せっかくカッコ良い姿を写真にしたのに戦死して渡せなかった兵士も少なくない。

 

 広々とした作戦室は閑古鳥が鳴いているかのような寂しさと静けさに包まれている。無理もない。戦争初期の頃は20機1個飛行隊を4個飛行隊編成してローテーションを組めるほどの戦力を保有していたのに想定外の大損害と敵特殊部隊の奇襲による地上戦で20数機まで戦力を失ってしまったのだ。この作戦室にも100名近いパイロットが集まっていたのに今やその5分の1程度の20数名しかいない。普段から数人程度が未帰還や戦死となることはよくあったため戦場であることも手伝って当たり前になっていた。だが、一度の戦闘で半数近くが未帰還や戦死になることは珍しい事であった。珍しい事であることが古参だけでなく補充まで深い悲しみを感じさせるものになった。

 

 夕食時の食堂で大きな溜息を着く女性が1人。フォークでスープをつついている。スープ以外はすでに無くなっている。このような状態になった理由はこの日の昼過ぎまで時間をさかのぼることとなる。

 

 戦闘が終了してほどなく、数名パイロットや整備兵の人たちがラノスのとかくに集まっていた。

「さてと、クリスティーナにはこれからたんまり稼いでもらわないとな。」

「・・・高いわ。」

「原価ギリギリだ。格安だろ。」

「・・・」

 何事も対価のように提示された請求書の金額に唖然とするクリスティーナ。そんな顔を見てニタニタとするラノスも人が悪い。絶対に減価ギリギリのはずがない。

「それから、リュウ、注文品が届いたぞ。」

(!)

「・・・」

「第三から第四世代で多用途に使えて安いやつだったが、面白いのが手に入った。」

「・・・」

「三菱重工製F-1支援戦闘機。」

「・・・」

「何ですかそれ?」

「日本製最初の超音速戦闘機。退役保管となってたやつを20機ほどフィリピン空軍が購入したんで、部品になって運ばれている途中で納品書を細工して1機分ちょろまかした。」

「へぇ~。」

「悪~。」

「犯罪だが横領や横流しはよくあるからな。」

「・・・」

「空戦には向かないから安くしとくよ。45万だ。」

「30万以下。」

「それじゃ赤字だ。40万。」

「・・・」

「言い値で買ってくれないと色々困るんだよ。35万。もう下げられん。」

「増槽2つ、燃料、空対空誘導弾2発、20mm機関砲弾フル装填込、3ヶ月以上の整備保障。」

「保証は2ヶ月にしてくれねぇか?」

「・・・いいだろう。」

「金は・・・売却額から差っ引いていいな。後、防塵装備は一式付けといてある。ま、無償のサービスだ。取り換えからは有料だぞ。」

 ラノスのお言葉に無言でうなずく新風。その様子がクリスティーナには得体のしれない不安に見えてしまった。

「そのF-1って言う戦闘機も優秀なんですよね。」

「そうでもないな。早い段階で能力不足が不安視され、後継機種の早期導入が計画されたからな。」

「え?」

「視射程外空対空ミサイルの運用能力はないどころか、空対空戦は想定されていなかったな。」

「そもそも、あれは戦闘機じゃない、攻撃機。機体は日本製だがエンジンはライセンス。」

「おまけに機体の大きさの割にエンジンが非力で機動性の悲惨な機。」

「・・・」

「攻撃機としては極端に悪い機体ではない。もっとも、あれの最高速度はマッハ1.6。エンジンが非力なおかげで空戦能力がないとか言われているが、どっかの国が余計なことしなければそれなりのエンジンを積んでマッハ2級の戦闘機になっていてもおかしくなかったと言われている。」

「そうそう、設計は呆れちまうぐらい優秀だからな。」

「どっかの国かは大体予想が付くなぁ。」

「ついでに、その国は零戦(ゼロファイター)ショックを今でも抱えて―――」

「・・・」

 マーベックが爆発しそうなのでつつくのをやめでラノスが本題に戻す。

「日本人の体格に合わせて作られた戦闘機だ。リュウにはちょうどいいだろ?部品からくみ上げるついでにオーバーホールしておまけで空中給油装置も付けておいた。」

「・・・」

 新風はいつもと変わることなく冷たい目でラノスを見ながらうなずく。その様子から商品に満足していないようにも取れる。

「・・・料金の方はF-14を売却した額から差っ引くでいいな。」

「・・・ああ。」

「うし、え~、今いる中にF-14Aトムキャットの―――」

「え~!ちょっと待って、トムキャット売っちゃうの~!?」

「し、知らなかったのか?」

「ど、どうい言う事?」

「どうもこうも、F-14は売りに出されてたの知らなかったの?」

「何で!?リュウ、何で売っちゃうの!」

「・・・」

「やっぱり話していなかったか。」

「そんなことだと思った。はぁ~。」

「無理やり乗り込んだとはいえ、あいつらコンビだろ。」

「女に隠し事をするとは・・・」

「空でも地上でも気に入らない。」

 各々が文句を一通り言い切るまでしばしの時間を要した。全員の文句を左から右に聞き流している新風を放置してラノスが話し出した。

「F-14Aトムキャットの落札者は・・・マーベック!」

「よし。」

「はあ?」

「72万USドル以上払えるか?」

「くっ・・・」

「へへへ。」

「金持ちはいいねぇ。」

 思いっきりドヤ顔のマーベックで悔しさを隠しながらきつく睨み付けるフォル。低次元のにらみ合いが発生する一方で周囲は呆れるしかなかった。

「さてさて、中古のボロ機に大金を払うだけの価値があったかどうか、しかと見届けさせて頂きましょう。」

「馬鹿馬鹿しくて付き合っていられない。」

 売却額が意外と高額になったことにホクホクとしているラノスが周囲の人には憎たらしく見えてしまった。


「燃料注入完了。サイドワインダー装備完了。機関砲弾装填完了。エンジン始動準備よし。」

「エンジンスタート。」

 ゆっくりと回り始めたエンジンの回転数が少しずつ上がって行く。暖機運転(アイドルアップ)まで完了すると滑走路に移動して離陸を開始する。その隣には整備が済んで持ち主まで変わったF-14A。この2機が離陸すると先の戦闘で墜落しJ-7のパイロットの補充のMiG-21が滑走路に進入してきた。これに続いて墜落機の補充のF-5とMiG-21も侵入してきた。

「いや~懐かしい~!トムキャットは最高だぜ!!」

「管制塔、this is 新風竜。これより全力運転に入る。over。」

「あいよ。」

「リュウ、いっちょ模擬戦やろうぜ。」

「・・・」

「お~い、返事しろ~。」

「・・・」

「聞こえているだろ。返事ぐらいしろ~。」

「・・・」

「・・・」

「管制塔、this is 新風竜。全力運転終了。着陸許可を求める。over。」

「はいはい。空いてるから勝手に降りろ。」

「管制塔、this is新風竜。1番滑走路南側から着陸する。out。」

「おい、こら、勝手に降りるんじゃねぇ!」


 戦争中のつかの間の休息。この間に戦闘での疲れを取って行くとともに次の戦闘に備える。

 傭兵達にとって何事もなければ金が消費されていくだけだ。命を張っているだけあってそれなりの金はもらえるが、装備の代金は基本自腹である。戦闘が無ければ装備代だけで基本給の大部分が消えてしまう。戦闘になっても実弾や整備代で大金が消える。大金と命を賭けて大金を得る。それが彼らの儲ける唯一の手段。


 ラノスが商売の品物を保管している倉庫前や駐機場はすっかり寂しくなっていた。先にも記述した通り傭兵(パイロット)の数が大きく減ってしまったことが主原因。

 そもそも大きな市場とか魅力のある市場に多くの企業が商品を売り込んでいくのは購買意欲とか購入するだけの資金力があることを意味している。こういった市場の中で魅力のある市場と言われる重要な要素の1つが人口である。人口が多いと言うことはそれだけ商品を購入する消費者が多くなる可能性が高くなる。特に人口が多くて経済成長著しい国は市場として極めて魅力的である。

 一方、ラノスが独占している傭兵部隊の市場はピークの時に約100名いた市場が今は20数人程度まで減ってしまった。最前線で人員消耗率の極めて高い基地とは言えここまで減ってしまうと市場としての魅力はほぼない。唯一の救いは高価な消耗品に多量の需要があることである。時たま高価な大物まで需要がある。本人の商才もあってか損をすることはほとんどないらしいが、それでもこれ以上の利益を上げるのにも限界がある。ほとんどの業務を1人でこなし、借金などで弱みをがっちりと押さえ何重にも保険をかけまくってこき使いまくっているのが2人ほどいる。輸送機限定だが航空機の操縦までこなしてしまうラノスにとって一応飛行機の操縦ができる従業員(と言う名の奴隷のような労働者)はなくてはならない存在である。だが、彼らが最低限生活するのに必要な給料を払わなければならない。いくら損をほとんどしていなくても3人が生活するのに必要な資金を確保するのは厳しくなってしまった。

 もっとも、減って行くばかりの市場と言う事だけは考慮に入れているのであろう。


 すっかり寂しくなってしまった作戦室。100人ぐらい入れるほどの部屋なのにブリーティングが開始される。部屋の中にいる人間はすべて合わせても30人にすら満たない。傭兵達はそれぞれ好きなところに座る。結果として2・3人の集まりがいくつか以外はみんなバラバラに散っている。大学の講義で広い教室を確保したにまばらにしか学生がいない状態で講義をしているようである。

 そんな状況下で行われる作戦会議ならぬ作戦説明が行われた。空戦可能な機種が迎撃に上がって来る敵機を排除する。時間差をつけて爆装した攻撃機が敵基地を爆撃。空戦が終了した機は一度帰投し爆装して対地攻撃を行う。

 いくら早期警戒機や電子戦機の支援があるとは言っても明らかに正規軍の壁となり、盾となり、鉄砲玉となる作戦であった。


 ファルコン707やE-2Cの情報を元にB-707の少し先を飛行する第31特殊航空戦術部隊の第一陣。A-4やSu-25など純粋な攻撃機とF-111を除いた空中戦闘可能な作戦機全てである。それでも機数は20機しかない。これでも補充されているが正規軍の戦闘機部隊が近くにいると分かっていても心もとない機数である。

 ほどなくしてE-2Cから敵迎撃機の離陸を確認したことが連絡された。B-707もECMを開始する。強力の妨害電波の影響がレーダーに出るがB-707の指示に従って波長を変更すると差し障りなく使用できる状態に戻った。


「これより作戦を開始する。この一戦で戦争を終結させる。各員の健闘に期待する。」

 司令の一言の後戦端が開かれた。射程の長いミサイルから次々と敵編隊に向かって放たれた。敵編隊はF-14、F-16、MiG-29、Su-27など40機にも及んだ。敵からも長距離ミサイルが放たれるが強力なECMの前にほとんどが無力化してしまった。友軍の放ったミサイルも一部は味方のECMであさっての方向に飛んで行ってしまったが大部分は敵編隊に殺到した。殺到したミサイルはチャフに惑わせるものを出しながらも約四分の一の敵機を撃墜した。これに合わして敵編隊斜め後方に回り込んだ正規軍のF-15SEの編隊も対空ミサイルを発射して約半数を撃墜した。

「最後の大稼ぎだ!」

「油断していると落ちるぞ。」

「荒稼ぎだ!」

 敵編隊はあまりの被害にすぐさま撤退を開始。正規軍もミサイルを打ち尽くしているので撤退を開始するが、傭兵達は撤退せずに追撃を開始し近接戦闘に持ち込む。


 使用している機体の性能では連合軍の方に軍配が上がるが、ドックファイトではパイロットの技量も大きく影響する。従って、最新鋭機に搭乗していても旧世代機に撃墜されることはある。もっとも、このようなことはベトナム戦争など過去に起こった戦争の中でいくつも起こっている。

 今回に限って言うと、機関砲まで使って落とせるだけ落とさないと金袋を背負ったカモが逃げてしまってもったいないからである。今の正規軍のパイロットならそんなハイリスクなことはしない。


 フォルやキトリ、マーベックらが敵編隊を駆逐しようとする頃、ボリス、新風、キムはほか数人の傭兵達と共に爆弾やロケット弾を装備して低空で敵基地に接近していた。管制塔からの連絡では敵基地周辺にはアザラクシュとS100サエゲの編隊が離陸中である。この両編隊が基地から離れるのを確認してから攻撃を開始する予定である。ほどなくして早期警戒機と付近に潜伏している特殊部隊から基地上空に展開していたアザラクシュとS100サエゲの編隊がフォルらの交戦している部隊の方向へ移動を開始するのが確認された。一時はヒヤヒヤしたが当初の予定通り攻撃が開始されることとなった。


  まず、対地ミサイル搭載機からのレーダーサイトおよび地対空ミサイルに対する攻撃を行う。

 ECMの支援下ではあるがECMがいつまでも効いてくれるとは限らない。このため、敵のレーダーが無力化しているうちに敵の目とその目と連動して使用されるやっかいな兵器を叩いておくことが自軍の被害を減らすことになる。ESMが切れたり敵が対抗策によってレーダー機能が復活したりすると友軍に位置が相手に確認されるばかりか、レーダー誘導による地対空ミサイル攻撃を行われてしまう。

「ここからが正念場だ。しっかりついてこい!」

「は、はい!」

「・・・」

 対地ミサイルがレーダーサイトや対空ミサイル発射機に命中し炸裂する。だが、わずか4機に搭載されている対地ミサイルでは全てを破壊することは出来ない。それでも、レーダーサイトは全て破壊で来たのですぐに撃ってくることはない。基地に接近すると対空砲から砲弾が連射される。これ回避するために各機は機体を蛇行させ基地にさらに近づく。基地の真上近くまで接近すると爆弾を投下。こちらも作戦参加できる機数があまりにも少ないため投下された爆弾は少ない。爆弾の数は少なくても落下した先にあるものがただのコンクリートの地面でなければ何かしらの被害を与える。それが、燃料貯蔵庫や燃料輸送のパイプ、弾薬庫であれば大爆発を誘爆し、車両群であれば爆風で破壊されていく。爆弾の投下後はロケット弾や機関砲で撃ち漏らした標的を破壊していく。機数は少なくても軍事衛星や無人偵察機等から得られた情報をもとにして目標を設定し、正確に命中させることで効率の良い攻撃を遂行した。それでも撤退間際に放たれた地対空ミサイルと対空砲によって2機が撃墜してしまった。


 ボリスら敵基地攻撃部隊が帰投しようとすると警戒に当たっていたE-2Cから基地から離陸した戦闘機の一部が反転してこちらに向かっていると連絡が入る。ボリスらの部隊の残存機は4機なのに対して反転した敵部隊は12機。このまま戦闘になると分が悪いのでそのまま低空飛行を続け撤退するつもりであったが、管制塔からF-35部隊が基地制圧の部隊と共に向かっているため接触しないように交戦しろと言ってきた。F-35の部隊から1個小隊は応援で送ってくれるそうであるが、それでも攻撃機主体の部隊では無理がある。

「E-2C、this is 新風竜。roger。out。」

「仕方ない、やるか。キム、お前は帰投しろ。」

「・・・はい。し、死なないで下さい!」

 さすがに同行していたA-10とAV-8Bは帰投させたため、残っているのは新風とボリスのみ。A-10は純粋な攻撃機であり相手がヘリならともかく戦闘機では空戦に向かない。AV-8Bは空戦できないことはないが、対地攻撃を優先したため自衛用の空対空ミサイルすら装備していない。機関砲も対地攻撃でかなり消耗してしまっているため補給を優先して帰投させた。これに正規軍のF-35Aが一個小隊の4機加わると言っても不安であるが任務のため致し方ない。

 

 F-111FとF-1が低空で敵編隊に接近する。

 2機の上空を8発の空対空ミサイルが飛翔していく。2人の頭上を通過したミサイルはS100サエゲの編隊に突入する。ミサイルは1機に1発ずつ迫り、火球を生み出す。F-35Aの小隊が撃墜したのは7機。1機はチャフをバラ撒きながら大きなループをやって振り切ってみせた。友軍の小隊はミサイルを撃つなり即座に撤退したため、たった2機で低空からさらに接近して行く。

 どちらも装備している武装では長射程でのミサイル攻撃を行うことができない。古典的となるがリスクを覚悟でドックファイトに持ち込まなければ撃墜することができない。


「エンゲージ!」

「コンバットマニューバ、ゴッ。」

 敵編隊の後方から低空で接近した両機はそれぞれ1発ずつ視射程内ミサイルを発射して敵機を撃墜する。せっかく乱れた編隊を組み直したところへ攻撃を受けて再び混乱と乱れが生じる。この混乱の中に2人は飛び込み、それぞれ別々に近くの敵機の背後を奪いにかかる。敵は死に物狂いで逃げ回る。HUD越しに見える敵機のラダーが忙しく動いているのがよく分かる。

「FOX2。」

 F-1から放たれたミサイルがロックオンした標的に向かって飛翔する。狙われたS100サエゲはフレアを放つ。ミサイルはフレアに騙されてしまうがいい位置に付き続けていたため機関砲で攻撃する。20mmの砲弾がエンジンを破損させて火を噴かせる。直後にキャノピーが突き破られてパイロットは緊急脱出した。ほどなくパラシュートも開いたが、新風はそのことを確認している余裕はない。

 F-35小隊から放たれたミサイルを回避した敵機に背後を取られていた。F-1の操縦席内ではレーダー照射を受けて警告音が鳴り響く。あまりのうるささに頭を痛めつつもスリップを行う。フレアを放ちつつ制御された横滑りで敵の照準を外す。敵機は減速して追撃を試みるがスリップしている敵を機関砲で狙うのは極めて難しく、フレアをバラ撒いているためミサイルをロックオンさせるのも簡単ではない。こうなってしまっては一度追い越して再び背後に回り込まなければならない。新風は敵機がオーバーシュートするのを確認するとアフターバーナーで加速して敵機の背後に素早くついて機関砲を浴びせる。浴びせかけた機関砲弾はてS100サエゲに命中して火を噴かせた。


「機種が変わってもいい腕してるねぇ。」

「・・・」

 敵機3機の内2機がF-1に向かったのでボリスは1機を落として様子を見ていた。様子を見ていたとは言っても、F-1がフレアを放ちながらスリップしているところからである。機関砲を食らって尾翼をやられたように見えたが、被弾しておらず体勢を素早く立て直してあっさりと撃墜してみせたのを見て驚きを通り越して呆れてしまうほどであった。

「制圧部隊は予定通り順調だ。制圧に並行してパイロットの救助も行う。直ちに帰投せよ。」

「了解した。これより帰投する。」

「管制塔、this is新風竜。roger。out。」

 ボリスと新風が基地に戻るとただでさえ閑散としている基地がさらに閑散としてしまっていた。制空部隊は基地攻撃部隊よりも失った機数の割合は少なかったが無傷ではなかった。だが、交戦した敵編隊の半数以上を撃墜してみせた。


 キトリとクリスティーナとエカチェリーナの3人がダローニとヨウ三兄弟にものすごい剣幕で怒鳴り散らしている。空戦に参加していた知り合いの面々から聞き出した断片的な情報を総合すると、この4名は空戦をロクにしないで真っ先に離脱を計ったらしい。航続距離が短くミサイルや機関砲の搭載できる弾数も少ない迎撃戦闘機を使っているので致し方ない事ではある。とは言っても、作戦空域の後方では空中給油機や即席の滑走路も用意されている。航続距離に不安のある作戦機であっても戦闘に集中できる環境が整えられている。にもかかわらず、わずか2発の空対空ミサイルを放っただけでドックファイトに参加せずに離脱したのだ。特に中国人の3人組には怒鳴り散らしている。3人が背後を取られて逃げ回っているのを確認していながら離脱したのだ。ダローニは諦めて言われるがままのになっているが、屁理屈こねさせたら天才的なセンス持ちの三兄弟は逆に食って掛かっている。なお、この女性陣三人の背後を取っていた敵機はフォル、マーベック、アレクサンドルの3人がそれぞれ1機ずつ始末した。

 

 無価値で無利益で低次元の罵り合いは放置され、各機には急ピッチで補給が行われている。次の戦闘で敵の残存している空軍基地の破壊と残存する敵航空機の排除を行う。作戦機の半数には空対空ミサイルが次々と装備され、残り半数には空対地ミサイルや各種爆弾、ロケット弾が装備されていく。

 出撃可能となった作戦機が次々と滑走路に移動して離陸していく。

 

 大きく二つに分かれた編隊は進路を北東に取り飛行する。目標はヨルダン首都付近にある空軍基地。

 

 敵もレーダーで接近する編隊を捕えていた。すぐさま迎撃機が離陸し編隊を整えると同時に対空車両や対空火器群が大急ぎで展開し射撃準備を整えていく。その様子だけなら壮観であるがほとんど兵士たちの顔には恐怖と脱力感しかない。もはや戦闘を継続するのに必要なありとあらゆるものが欠乏している。とてもではないが戦争を継続するだけの物資も気力も残っていない。

 

 空中で多数のミサイルが交差する頃、空軍基地から対空砲火があげられると同時に爆発が立て続けに起こる。対空砲火やミサイルで戦力が減って行くがそれよりもはるかに速いペースで高射砲や対空ミサイルランチャーが金属片と火炎に変わって行く。空も地上も地獄そのものである。

「強行爆撃が終了したヤツから順次空戦に加われ。急がないと制空部隊が全滅させるぞ。」

 司令は爆撃部隊にも近接戦闘を強要しているがこの部隊の中でそれまでできる作戦機は多くはない。また、全ての高射砲や対地ミサイルを叩いたわけではない。固定式はあらかた叩けたが自走式はまだ残っている。移動しながら攻撃を行うので非常にやっかいである。おかげで損害が増えて行く。上空でドックファイトをしている連中が地上を気にしないでいられるのも、地上攻撃を行っている部隊が囮を兼ねながら敵戦力を削ぎ落しているからである。いくら空を飛びまわっている戦闘機の方が割が良いと言っても、上昇する時に地上から狙われては目も当てられない事態になる。

 同様の事態は上空の制空部隊でも起こっている。下手に高度を下げれば敵機と地上部隊に挟み撃ちにされる。これでは逃げることなど不可能同然である。また、上空で敵と乱戦をやっていれば敵は同士討ちを恐れて攻撃できない。

 皮肉となるがどちらもそれぞれの割り当てられた標的を攻撃している時が最も安全なのだ。


 新風は装備していた無誘導爆弾投下して敵の機甲部隊に打撃を与えて反転すると、丁度攻撃ヘリが離陸を開始していた。AH-1Sヒュイコブラ、SA342Lガゼル、Mi-24ハインドなどである。この内の2機に向けてサイドワインダーを発射。すぐさま残りの敵に20mm機関砲を浴びせて行く。攻撃ヘリの中には空対空ミサイルを搭載できる物も少なくない。また、この後基地制圧のため機甲師団やヘリ部隊が歩兵を連れてくる。基地にいた装甲車やヘリにも攻撃を行うのは友軍の被害を減らすため本作戦では優先順位の高い目標である。新風が再び反転して戻る頃にはヘリが十分な高度まで上昇してしまい、自由に動き始めてしまったため狙いをつけるのが難しくなってしまった。狙いやすい位置にある目標には攻撃を加えるが、それ以外は無視して自走高射機関砲や対空ミサイル車両に狙いを定める。

(優先順位は低くても死にたくないからな・・・何かあっても悪く思わないでくれ。)


 各機の武器も燃料も心細くなって帰投を開始する頃、イスラエル陸軍の歩兵部隊とこれを護衛する機甲部隊とヘリ部隊が到着。航空優勢確保と地上部隊支援はイスラエル空軍が引き継いだ。


 帰投した機に整備兵が次々と取り付いて燃料の補給やミサイルの装備を行っていく。長射程空対空ミサイル搭載能力のある戦闘機には片っ端から視射程外空対空ミサイルが装備されそうでない攻撃機には爆弾やロケット弾が装備されていく。

「このまま一気に戦争を終わらせる!第31特殊航空戦術部隊の残存する全戦力でした敵航空戦力を殲滅し縦深攻撃を行う陸軍を支援する。これが最後の出撃だと思え!」

「この戦争はもう終わりかよ。」

「空軍ならそんなもんさ。歩兵ならもうしばらく仕事があるぞ。」

「け、歩兵やゲリラ戦は性に合わねぇな。」

「なら、諦めるしかない。」

「ま、ここが終わっちまったよそへ行く。それだけだ。」


 視射程外空対空ミサイルを搭載した戦闘機を先頭に編隊を組んで飛行している第31特殊航空戦術部隊。先方はマーベックやフォルが搭乗しているF-14A、Mirage2000C、F-4Eなどが担い、中央に爆弾やロケット弾を携行したボリスや新風が搭乗しているF-111F、F-1、A-10Aなどが飛行している。両翼はそれ以外の戦闘機が空対空兵装で固めている。それでも出撃できた作戦機はわずか20機。戦果を期待する方が間違いのような機数にしか見えない。


「まだいっぱいいるじゃねぇか。」

「撃ちまくるぜ。FOX1!」

「カモだな。」

「さぁ、稼ぐか。」

「何であんなに残っているの!」

「とにかく撃ち落とさないとね。」

「攻撃機と陸軍の護衛でしょ、急いで航空優勢を取らないと・・・」

「う、撃ちます。FOX3!」

「にぎやかになったねぇ~。」

「低空で接近するぞ、しっかりついてこい!」

「・・・」

 低空で飛行する爆弾やロケット弾の搭載機以外は上空で次々と視射程外空対空ミサイルを次々と発射していく。放たれた空対空ミサイルは敵が放ったミサイルと交差してから襲い掛かる。同時に敵の放ったミサイルも襲い掛かってくる。援護に来ている電子戦機が妨害電波を発生させているが、全てのミサイルが騙されるわけではない。各機からチャフもばら撒かれるがこちらはほぼ気休め程度の効果しか現れなかった。それでも大部分のミサイルがあさっての方向に飛び去ってくれたので被害は少なくて済んだ。迎撃のために上がっていた敵編隊はECM支援のおかげもあって次々と撃墜して行った。

 低空飛行をしていた基地攻撃を担当する航空機群は2機が対空砲火と対空ミサイルで撃墜されながらも接近して基地の施設に爆撃やロケット弾攻撃を開始する。F-111Fなどから投下された無誘導爆弾は主要な施設や格納庫を爆破していく。無誘導爆弾で破壊されなかった施設や駐機していた戦闘機にはF-1などがロケット弾を放って破壊していく。それらのついでに基地に配備されている戦車やヘリにも攻撃を加えて行く。


 航空優勢を確保して敵の機甲部隊に損害が出ていることが確認されるとメルカバⅣが兵員輸送車や攻撃ヘリなどと共に突撃を開始し、その後方からM109自走榴弾砲による砲撃とMLRSによるロケット弾攻撃も開始される。AH-64A/Dからヘルファイアが発射され、メルカバⅣの44口径120mm滑空砲から発射されるAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)と共に敵の戦車部隊を次々と破壊していく。連合軍の戦車は一方的にやられるばかりではない。アル・フセイン戦車(チャレンジャー1)やT-72などが反撃を行う。激しい砲戦が行われるが防御を第一としたメルカバとタンクキラーとして名高いアパッチの前に連合軍の戦車は被害が増えて行く。イスラエル軍の戦車部隊も少なくない損害が出ている。その大部分はアル・フセイン戦車の砲撃によるものである。T-72よりも一回り口径が小さいが威力の高い主砲と射撃精度の高さがメルカバの強靭な防御力にも効果があった。

 連合軍の戦車部隊がその数を減らしていくと周囲に戦車駆逐車や展開した歩兵、歩兵戦闘車が攻撃を強め、兵員輸送車や歩兵が遊撃も行っていく。イスラエル軍も展開された歩兵が攻撃ヘリや空軍の支援を受けながら敵の歩兵と激しい銃撃戦を行われる。

 きわめて激しい地上戦となったが、攻撃ヘリと機甲部隊を巧みに運用し空軍の支援まで受けたイスラエル陸軍は敵の機甲部隊を駆逐することに成功し、戦車が歩兵と共に基地に傾れ込んだ。基地の主要な施設は先の攻撃で一通り破壊されているが全壊した物は多くなかった。まだ戦意ある者は破壊されていない建物や壁に隠れながらアサルトライフルやRPGなどで攻撃を行う。場所によっては攻撃が激しく歩兵が接近できないほどであった熾烈であったが同行しているメルカバの主砲やアパッチのロケット弾と機関砲が建物や壁もろとも黙らせた。


 2日間、昼夜を問わない猛攻によって連合行軍の精鋭を含む主力の陸・空軍は崩壊した。もはや戦争を継続できるだけの戦力は残されていない。一方、イスラエルも本作戦で少ないとは言う事の出来ない損害を出したが、まだ戦闘を継続させることが出来るだけの戦力を十分に残している。それでも、備蓄してある燃料や弾薬は心もとなく戦闘を継続するのは困難な状態となっていた。国連からの圧力や国際世論の影響もありこの時点をもって終戦宣言がされた。


第一章終了です。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひ、次の章の投稿までお待ちください。

第二章の戦場は東アジアです。

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