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虚空の竜騎士  作者: 上原太樹
6/15

血を吸う砂 6

 スクランブル発進に伴う騒動のほとぼりが冷めてから小さな騒動が起こっていた。

「リュウ!今回の分の撃墜報酬は私の分もあるよね!」

「・・・」

「答えなさいよ!」

「・・・ない。」

「何で!」

「命張っていない奴に渡す金はない。」

「そんなぁ、信じてたのに・・・ドラケンの修理費用出せなくなっちゃうよ・・・お菓子買えなくなっちゃうよ~!」

 たまたま居合わせた関係者はそろって同じことを考えていた。

(それは、無理だ。)


 もともとゴチャゴチャしている上に物の扱いが雑な人が多い。そのためかパッと見は整っているように見えても影になっている場所には様々なものが山積みになっている。それでも滑走路や駐機場にゴミが飛んで行かないように注意されてはいる。

 そんな中に基地の人間ではない人物が何人かうごめいている。闇夜に紛れてうごめいている人々は時間を追うごとに増えているように見える。

 連続的な爆発ののち警報がけたたましく鳴りだした。周囲では銃声があちこちで聞こえる。爆発のあったところの1つは広域用のレーダーサイトであった。まだ火がくすぶっている上基地の索敵能力も大きく低下してしまった。

 保安兵だけではなく、作戦機要員など地上戦の出来る人間は門灯無用で招集が掛けられた。近くの陸軍から応援を送ってもらうことはできたが、ヘリで20分はどうしてもかかると言われてしまった。不測の事態に備えて各員は常に拳銃を携行することが義務づけられている。だが、護身用のため割り当てられている弾薬の量は少ない。当然本格的な地上戦を行うのであれば武器を配布して部隊編成を行って組織戦を行う方が良い。

 新風が武器庫に着くとたまたま近くにマーベックやボリスらがいた。皆押し合いへし合いながら希望する武器と弾薬を受け取って行く。大抵の人はザブシンガンかショットガンを選択しているほか拳銃はほとんどの人が補助火器として選択している。アサルトライフルは少数派で狙撃銃や無反動砲を選ぶ人はまずいない。

「人が足んねえからって戦闘機乗りまで招集することねえだろ。」

「傭兵だから仕方ない。拳銃の撃ち方ぐらい習っただろ。」

「もちろん、おい!MPS-AA12とM1191A1あるか?」

(典型的なやつだ。)「ほれ。」

「おお、これこれ。」

「呆れちゃうね。」

「全くだな。それはさて置き・・・てめえら俺の倉庫から勝手にひっぱりだすな!」

「司令の許可は出ている。緊急時だ、容赦しろ。」

「そんなこと知るか!」

「協力しないと反逆罪で拘束するぞ。」

「ちぇ・・・」

「そう騒がないで頂きたい。MP5あるかい。」

「それなら、結構用意してある。ほれ。」

 他の人もほとんどが自動拳銃か散弾銃を持ち出し、クリスティーナやキトリ、キムのように拳銃のみの人も多い。レアケースのヤツもいるが。

「有名なやつなら大抵の品物はあるぜ。」

「89式5.56mm小銃、銃剣、SIGP220。」

「89式って・・・」

「そこそこ有名だけどなぁ・・・」

「・・・日本の歩兵仕様だな。」

「ほれ、SIGP220。だが他は・・・ちょっとな・・・」

「手元にある小銃と銃剣。」

「M16やAK-74、IMIガリル、DDM4、なんかならあるが・・・」

「M16と銃剣。」

「あいよ。」

「バヨネットなんぞ使ったことあるのか?そもそも、アサルトライフルを扱えるのか?」

「・・・ああ。」

「ニッポンの空軍じゃ体育科目て名目で銃剣の訓練をやっているんだな。」

「・・・」

「こ、怖い顔しないくれよ。昼間は悪かったな。」

「・・・」

「リュウ、組もう。」

「・・・ああ。」

「うし、これで遠・中・近そろったぞ。汚いクソ虫を一狩りしようぜ。」

 散弾銃が近距離を担当して自動拳銃がこれを援護し、さらにその後ろから援護と防弾チョッキ対策を小銃が担う。理想的なのだろうか疑問が浮かんでくる。小銃持ちは銃剣装備で擲弾装備の人が居ないような・・・

 この3人を中心にこの周囲によく集まる面子が集合して即席の小隊が編成された?


 マーベックが散弾をフルオートで盛大にばらまきながら突撃するのをボリス、グエン、フォル、ダローニが援護し、防弾チョッキを着こんでいいて散弾や拳銃弾で倒れてくれない奴には新風が5.56×45mmNATO弾SS109を叩き込む。この5人を狙おうとするヤツラをキム、キトリ、クリスティーナな拳銃で牽制する。ゴタゴタが尽きない面々ではあるが、成り行きに流されて自然と集まった面々だけに以外なほど組織的に動けている。もっとも、マーベックが1人で暴走しているのを残りの面々がどうにかこうにかして援護しているのが現状。空でも地上でも誰よりも先に飛び込んでいく性格は何とかしてもらわないと周囲の人の身がもたない。まぁ、もう1人問題児がいてM16をフルオートでぶっぱなして射殺し、近づく敵には銃剣と銃床で正確に急所を突く。この2人が別々に暴れてくれるおかげで援護役は困ったものだ。後者の方はマーベックの援護までやってはくれる上、弾倉を交換や援護のために頻繁に戻ってくるだけまだまし。

「うわぁ・・・しったかめっちゃかやりたい放題。」

「手榴弾配られてたらもっとっすごいことになりそうね。」

「応援が来る前に終わりそう・・・」

「キムの予想は当たりそうだな。司令室からの連絡だと敵の確認できた戦力の半分以上は戦闘不能だそうだ。その半分は―――」

「あの2人があの世送りか。」

「空でも地上でも無敵かよ・・・ベッドも無敵ならハーレム出来るぜ。」

「それは言えてる。ムカつく奴ら・・・冗談だってば・・・」

 女性陣から無言の殺気・・・あれ、安全装置解除済みでトリガーに指をかけて銃口を向けているではありませんか!

「・・・冗談冗談・・・危ないの退けて頂戴お嬢様。」

「冗談言ってないで仕事しろ、傭兵(ゴロツキ)!」

「遊ぶぐらいヒマなら前に出て頂戴。」

「ひぃ~、弾除けはご勘弁~!」

「人使いの荒い女性は美しくない。」

「人並みに仕事してから言え!」

 恐ろしい女性陣にダローニとフォル以外のほとんどの男性が委縮する。あえて委縮しなかった男性陣を挙げると大立ち回りをやってのけているマーベックと新風のように会話を聞く余裕のないほど戦闘に集中している傭兵などのみ。


 不意の地上戦となった主原因は、ヒズボラの戦闘員によるものであることが装備や捕虜から判明した。厄介な過激派であることには変わりない。中には捕虜になるのを拒否し手榴弾や拳銃で自殺する者までいる始末である。さらに厄介なのは並の正規軍と五分の戦闘ができる武装集団であることである。何せこの基地はもともとヨルダン空軍の基地であったため基地の見取り図が流失しており、基地内の戦闘要員の大半は戦闘機乗りであるため地上戦の訓練は良くて形だけの人ばかりである。はっきり言ってしまえば護身用の武器以外の訓練すらしたことない人も少なくない。射撃訓練室は比較的自由に使えるのに『弾代が惜しい』と言う名目でほとんど使われていない。このツケは地上戦に不慣れな航空戦闘要員から少数の戦死者と多数の戦闘負傷者を出たことである。保安兵にも少数の死傷者が出ている。

「意外だな、陸軍が来る前に片が付く可能性が出て来るとは。傭兵(ゴロツキ)を無理やり投入しただけのことがあるな。だが、これで作戦に使える人員が大きく減るな・・・」

「依然として基地内の至る所で銃撃が続いています。」

「また1人射殺したようです・・・酷い、顔がぐちゃぐちゃだ。」

「ショットガンでもかましたんだろ。」

「こっちでも1人死んでるが・・・喉元が切り裂かれている・・・」

「さっさとヤツラの足を見つけんか!バカ者ども!!」


「うわわ、なんかすごいときに居合わせちまったな。ま、おかげでピューリッツア賞を頂かせてもらうぜ。」

「勝手に流れ弾当たって死んでも知らないよ。」

「冷たいお嬢さんだこった。」

「リュウ、援護射撃!」

 マーベックは散弾を込めている間にM16で薙ぎ払ってくれると思ったが、聞こえる銃声は連射ではなく単射である。音が大きい割に聞こえる数が少ないのが心もとない。

「リュウ、M16で薙ぎ払え!」

「・・・」

「早くしろ!」

「せっかくだからサービスと思って撮らせてくれ。」

「・・・壊れた。」

「困りましたわね。」

「は!?」

「本当か?」

「弾が出ない。」

 物は試しとグエンが受け取って引き金を引いてみるが確かに弾が出ない。チャージング・ハンドルを引き直しても弾が出ない。どう壊れたかはわからないが確かに壊れてしまっている。

「仕方ないな。」

「アメリカ製は安価、かっこ悪い、雑、すぐ壊れる。日本製は高価、美しい、丁寧、雑に扱っても壊れない。フランス製は美しい以外日本とアメリカの中間。」

「嘘言うんじゃねぇ!」

「アメリカ製だって良い物はあるが、性能と信頼性ならメイド・イン・ジャパン!」

「M16はすぐ壊れるって本当なんだな。」

「本当に壊れるのが早いですね。」

「そんなことで関心すんな!」

「銃剣付けて振り回せばどれでもすぐに壊れるだろ。」

「盛大に振り回してたしな。」

「そうだ!雑に使うからだ!」

「いい加減にしろ!」

「意味ない争いしてどうするのよ!敵はあっちよ!」

「ほんとバカばっか。」

「・・・何度も従軍して取材した事はあるが戦闘中に仲間同士で口論している奴らは初めてだ。」

「・・・」

 よくまあこんな無秩序な連中が組織としてまとまっているのが不思議なくらいである。なんだかんだ言っても、組織戦が前提で訓練された者たちにとっては個人個人の感情よりも組織として勝つためにどのように動くかが重要なのであろう。信頼しているようで信頼していない社会の縮図とも取れる。


「参った、参った。」

「降参よ。」

 少々突出してしまっていたアレクサンドルとエカチェリーナはヒズボラに包囲されて武器を放棄した。降伏を確認するとヒズボラの兵士が1人また1人と姿を現した。

「ちょっと、同じ国出身のよしみで手を貸してあげたのに、これじゃあんまりよ。」

「もう少し・・・」

「何がもう少しよ。」

「うほぉ~。すっげー、女がいるぜ。」

「いやらし目で見るな!」

 6,7人の戦闘員が姿を見せ、銃を向けながら迫って行く。

「そろそろ友軍が来るころだ。」

「え!?」

 銃声がいくつも聞こえた直後に姿を見せていたヒズボラの戦闘員が血を流して倒れた。服装に統一感のない集団が周囲に隠れているヒズボラに銃撃を浴びせる。アレクサンドルとエカチェリーナも姿勢を低くして足元に転がしておいた武器を拾って戦闘に加わる。一戦終わるころには敵の死体が10数体転がっていた。

「無事か?」

「ああ、おかげさまでな。」

「良い腕をしている人が多い事。」

「おほめに預かり光栄です。」

「あんたはほとんど仕事してないでしょうが!」

「頑張っているのはリュウとボリスとマーベックとフォルとグエンよ!」

 ダローニは女性陣に口と銃床でボコボコされる。ま、口ではこれでもかっているくらい毒を吐きまくっているが、叩く方はかなり手加減をしているらしくケガどころかたんこぶ1つ作ってはいない。キムはどうしたらよいか分からず困り果てて右往左往している。ボリスはアレクサンドルとエカチェリーナの3人で今後のことを話し合っている。残りの主力となっている4人は周囲を警戒している。新風はちゃっかり敵が持っていたAK-47と弾薬の回収もしている。銃剣や擲弾、手榴弾まで見つけて回収している。他の3人は扱いなれていない小銃に興味がないのか見向きもしない。渡辺は銃撃の様子を写真に捕えた後はジャマにならない様にまた流れ弾に当たらないように隅に縮こまっている。

 アレクサンドルとエカチェリーナの2人もボリスたちの即席小隊に加わると管制官が伝えてくれる情報をもとに移動を開始する。新風は擲弾発射機や銃剣の取り付け方をアレクサンドルに聞きながら移動する。そのアレクサンドルの手にもAK74が握られている。エカチェリーナはザブマシンガンを握りしめて周囲を警戒している。


 誘導に従ってやってきた場所は屋外であった。そこには数台の車両と数人の敵兵がいて警戒に当たっている。悲しいことに各車両には重機関銃が付けられ、一丁ごとに射撃手が付いて警戒している。けど、ありがたいことにボリス以下の即席小隊には気づいていない。

「マジイ所に出ちまったな。」

「今回は同意する。」

「あれを攻撃するんですか?」

「上はそう言っている。」

「空からやった方が早そうだな。」

「離陸前に重機関銃やRPGで蜂の巣だ。」

「だな。」

「でしたら、地上戦で片づけるしかなさそうのね。」

「そうね。ラノスのところに行って無反動砲かパンツァー・ファウストぐらい失敬してこないと・・・」

「応援が来るのを待つのはどうでしょう?」

「ここまで来たからには車両群を盛大にぶっ飛ばすところを撮りたいねぇ。」

 余計な部外者まで含めて作戦会議の真っ最中。だが、1人いないことに気が付いて周囲に目を凝らすと敵から見えない位置にいるがかなり近い所に迫っている。

「さすが日本国国防空軍軍人。勇猛果敢、唯我独尊。」

「マーベック以上の問題児だったわ・・・」

「俺は問題児じゃねぇ!」

「お黙りなさい!早く呼び戻すなり援護するなりしないと!」

「行くぞ!キム、ハリアーを確保して援護しろ!フォル、キムを援護してやれ!」

「は、はい!」

「仕方ねぇな。付いてこい。」

「日本人ってこんなに好戦的だったかな?」

「そんなことあたしは知らない。」

 今を生き残るためにそれぞれのすべきことを実行していく傭兵達の凛々しい姿がカメラの中に収められていく。この直後、2つの爆発によって武装車両が2両燃え始めた。


 新風は投擲で届く距離まで建物の影を伝って移動したのち手榴弾を近くの車両に投げ、擲弾をもっとも遠くにある車両に向けて発射した。この攻撃によって武装車両2両は爆発炎上した。さらに、警戒に当たっていた敵兵にアサルトライフルが火を噴く。

 車両の護衛にあたっていた兵士からすれば突然車両が爆発して驚いているうちに機銃掃射を受けた。それども、軍事訓練を受けそれなりに修羅場を潜り抜けてきた強者でありプロの戦闘員である。物陰に素早く移動して応戦を開始する。銃声や発砲炎から敵が1人であることもすぐにわかる。不用意に姿をさらしたり接近したりしなければ心配はないと思っているが、どうも腑に落ちず不安がぬぐえない。正規の戦闘員は特殊任務以外単独で行動するようなことはまずない。最低でも2人以上で行動する。彼らの不安はすぐに現実という形で露わになった。

 フォルとキムを除いた7名の一斉射撃と擲弾や手榴弾の爆発で残っていた車両も爆発炎上し新風に向けて火を噴いていた重機関銃も沈黙した。輸送を兼ねた車両が壊滅し仲間が5人まで撃ち殺されてしまったのだ。残った者も銃や手榴弾を用いて自決してしまった。ま、重要な足である車両と車載で対空火器としてもそれなりの威力がある重機関銃が全部破壊されてしまったのだ。正規軍なら始末書書いたりこっぴどく怒られたたり降格させられたりと苦渋にさえ耐えていれば命まで取られることはない。居心地が悪くて所属していられないのであれば辞表を出して辞めてしまえばよい。それだけで済む。だが、不正規で過激派に近い組織ではそうはいかない。正規軍での常識など通用のしない世界でありどのような教育を行っているのか不明である。不明であるが故何をしでかすか予想できない事だけ警戒していれば不覚を取るようなことはそうそう起こらない。

「勝手な行動しないでよ!」

「・・・」

 単独行動に走った新風が合流するとクリスティーナがまくしたてるが悪びれるそぶりもなく無言で移動する。移動中にクリスティーナが落ちていた空薬莢を踏んで尻餅をついてもても手を差し伸べるどころか見向きもしない。非常に冷めた雰囲気になってしまった。


 駐機場に向かったフォルとキムによると敵の戦闘員はほぼ皆無であった。作戦機には爆薬など罠の類らしきものは見つからなかった。僅かばかりいた敵兵は2人が近くにいた作戦機要員と共に制圧した。制圧を確認すると護身用の拳銃を持った整備兵が1人また1人と姿を現して作戦機の離陸準備に入る。地上戦で主力となる戦車や歩兵戦闘車や攻撃ヘリが皆無であるが戦闘機や攻撃機は多数ある。敵輸送車両群は複数個所に分散配置されていおり、迫撃砲や重機関銃による攻撃の拠点となっているほか一部は滑走路で弾丸をバラ撒きながら爆走している。

「滑走路を走り回ってる奴はジャマだな。」

「あれを排除しないと離陸直前を狙い撃ちにされます。離陸はできません。」

「普通の戦闘機ならな。キム!任せたぞ!」

「はい!」

 VTOL攻撃機のハリアーⅡだからこそできる滑走路を使用しない離陸方法、垂直離陸。駐機場所から直接離陸し25mm機関砲で滑走路を走り回っている武装車両を排除する。排除が確認されると、次々と滑走路に爆弾やロケット弾、ガンポットを装備した戦闘機や攻撃機が滑走路に進入し離陸を開始した。


 爆撃やロケット弾攻撃、機銃掃射によって武装車両や輸送車両が次々と破壊されていく。時折携帯型地対空ミサイルが放たれそうになるが、発射前に攻撃されてほとんど発射されることはなかった。ま、偶然発射されたのにたまたま狙われて運悪く当たってしまったMiG-21(J-7)を使っている自称世界の中心と思っている某国人を含む3機が撃墜したがパイロットは緊急脱出して無事であった。残り2機はA-4とSu-25。低空飛行を強いられるから仕方ないと言ってしまえばその通りである。


 イスラエル国防軍の陸軍のコブラ2機、アパッチ2機、ブラックホーク4機の計8機は第31特殊航空戦術部隊救援のため急いでいた。

「傭兵共もつくづくついてない奴らだな。」

「ま、敵さんを一番ボコッてる部隊だから。」

「無駄口叩かないで飛んでくれよ。」

「わりい、わりい。コイツはオスプレイじゃないからもともと遅いんだよ。」

「・・・速くしてくれよ。」

「いや~、あんまり飛ばすとあっという間にガス欠になっちまうからな、ちんたら飛ばなきゃいけなくて悪いな。でも、もうすぐだぜ。」

「もうすぐになってからが長いんだよ。」

「どうせ行先は空軍基地だろ。向こうだって燃料はたんまり備蓄しているだろうからこんなところでけちるなよ。」

「分かっているが、それをやると今度はエンジンが燃えちまう。砂漠を歩きたいならやってもいいぜ。」

「そいつはご勘弁。戦闘どころじゃなくなっちまう。」

 緊張しつつものんびりと進んでいくヘリボーン部隊。近くまで来たので基地と連絡を取り合う。無事であり数機の攻撃機や戦闘機が航空優勢を取り支援攻撃を行っていると聞いて安心する。現実として彼らの目にも作戦機の攻撃による爆発の火炎が小さいながらも見えることがある。

 ヘリ部隊は程よく緊張していたが突如響いた警告音に戦慄する。散開してフレアを放ちつつ回避行動に移るが対空ミサイルが命中して全機撃墜してしまった。第31特殊航空戦術部隊の司令も交信でヘリ部隊が攻撃を受けたことを確認することとなってしまった。

 

 悪夢はまだ終わらない。

 ヘリ部隊を撃墜したのはSu-27の4機編隊。救援のヘリ部隊を壊滅させた部隊は基地上空で対地攻撃を行っているA-4やSu-25などにミサイルを放ち撃墜する。この点キムは幸運だった。一番初めに離陸して対地攻撃を行っていた上、垂直離陸をするため搭載重量を減らす必要があった。このため装備したのか固定の機関砲と19発入りロケット弾ポッド2つで38発のみ。離陸しやすくするために燃料も減らしていた。このためヘリ部隊が落とされる前に機関砲弾とロケット弾をすべて打ち尽くして着陸していたので空対空ミサイルに狙われることもなかった。だが、上空を高速で飛翔するミサイルとミサイルが命中して墜落して行く友軍機を見ることにはなってしまった。

 ボリスたちも駐機場まで来ていた。地上戦の方はまだ散発的な戦闘こそあるがほぼ制圧を完了していたが多くのパイロットが負傷してしまった。多分無傷の人はボリス以下の即席一個分隊以外に10数人程度であろう。そのうち3人は先の空対空ミサイルで撃墜されてしまった。

「次から次へと悪い事ばかり起こるねぇ。」

「また迷惑なことになったな。」

「感心するところじゃないでしょうが!」

「基地の地対空ミサイルや対空機関砲はあらかた破壊されている。飛べる奴は上がるぞ。」

「飛べる奴は上がるって、滑走路に出た瞬間に狙い撃ちを食らうぞ。」

「STOL戦闘機ならどうにかなるか?」

「厳しいと思うわ。」

 結局のところ容易には離陸できない。すでに航空優勢を奪われてしまっている。そんな状況で下手に離陸しようものなら滑走中を攻撃されて後続機を巻き込むほか滑走路そのものも使えなくしてしまう危険性がある。

「こういう時、1機上がれれば違うんだけどな。」

 また新風がいないと思って周囲を探すと整備兵と話をしている。耳を澄ますと『F-14を動かせるか』とか『F-104ならすぐにあげられる』と言った言葉が聞こえてくる。すると1機の戦闘機の周囲に整備兵が集まり燃料が入れられミサイルも装備されていく。装備されていくのは赤外線誘導ミサイル4発と4発のロケット弾ポッド2つ。近くにいることが分かっているので増槽はつけない。この機体に新風が乗り込むと滑走路へと誘導されていく。

「おい!待てぇい!それは俺の機体だぁ!」

「へぇ、上がるんだ。」

「キム、離陸準備完了。武装はサイドワインダーとAMRAAMを2発ずつだ。」

「すぐ上がります!」

「クリスティーナ、ドラケンの修理は済んでいるぞ。試運転はしていないが・・・」

「・・・シュツゲキジュンビシテクダサイ。」

「何かかわいそう・・・私も上がる、空対空装備急いで。」

「ミラージュ2000もMICA6発。アクティブ・レーダー・ホーミング4発と赤外線ホーミング2発付けろ。」

「俺の・・・」

「あいつのF-14使っちまえよ。」

「その手があったか!」

「俺も乗せてくれ!」

「バカ野郎!ここは戦場だ!民間人は下がってろ、邪魔だ!!」

「F-14は整備中で使用できまで来ません。この辺りで戦闘があった時の流れ弾と手榴弾で主翼が破損して飛行不能です。」

「しょうがないな。」

「文句はリュウにたんまり言えばいい。俺たちも上がるぞ。」

「おう。」

「よくも、我が人生の嗜みを!」

「空戦シーンを戦闘機から空撮させろ!!」


 ダローニのF-104Gスターファイターを失敬した新風はすぐに離陸を開始した。当然、敵のSu-27もすぐに気付いて視射程外ミサイルを放つ。新風はスターファイターのすさまじい加速力にものを言わせて強引に離陸する。離陸した後もチャフを放ち凄まじい加速力を活かして急上昇するとミサイルが機体の下を通り過ぎて行った。

「すっごい加速力。」

「スターファイターってあんなに上昇力があったけ?」

「スターファイターはな第二・第三世代機の中でも最優良の加速性能と上昇性能を持っているんだぜ。」

「とりえはそれだけでしょ、電子兵装はほとんど付けられないほど小型で航続性能も悲惨だし、MiG-21よりショボイし。」

「そんなことはない。F-104のとりえは加速性能と上昇性能と高速度域での機動性であってこれを活かした戦いをすればドックファイトで第四世代すら落とすことが出来る。」

「そうなの!?」

「そんな馬鹿な。」

「嘘じゃないぜ。日本がF-104Jを使っていたころにDACT(異機種間戦闘訓練)でアメリカのF-15Aに勝っているんだぜ。」

「・・・」

「あんたが言っても説得力無い。」

 せっかく見栄を張ったのにものの見事にくじかれてうなだれてしまうダローニ。いつまでも同じ場所に留まっていたので邪魔者扱いされて隅の方に追い立てられてしまった。


 視射程外ミサイルをやり過ごした新風は高度を下げて加速させる。敵編隊も新風の正面に出る。互いに高速飛行しているため新風と敵編隊の距離が急速に縮んでいく。互いに正面から接近したところでSu-27の1機が短距離ミサイルを発射すると同時にF-104もロケット弾を全弾発射。8発のロケット弾が超音速で飛翔する戦闘機から放たれSu-27編隊に襲い掛かる。ロケット・モーターから出る火炎がフレアの代わりにもなって1発はミサイルと接触して爆発する。Su-27のパイロットが仰天しているうちにロケット弾が殺到。残った7発がミサイルを放った先頭に1機の周囲を囲むと4発はそのまま後方へと流れていくが3発が命中。この時装備していたロケット弾は多目的小型弾薬を弾頭に使用したM261。命中した瞬間に炸裂して機体を粉みじんに引き裂いた。

(ロケット弾による空戦・・・怖い怖い・・・)

 攻撃されなかった敵機は急旋回でロケット弾から逃れる。おかげで新風は敵機よりも高く狙いやすい位置にやすやすとつくことが出来た。不要になったロケット弾ポットを投棄して攻撃位置に着くと次の敵機に狙いを定めてすぐさま攻撃に移る。

 もはやフランカー小隊に統制は取れていなかった。無秩序に飛行しているところにスターファイターが飛び込んでくる。背後を撮られた1機は必至で逃げようとするがすぐさまミサイルを撃たれて撃墜。新風は再び機体を上昇させる。1機がこれを追いかけようとするが容易に追いつかない。旋回していい位置を取ろうとするスターファイターに焦ったフランカーのパイロットはアフターバーナーを点火したまま急旋回して急激なGで一瞬失神してしまった。失神から戻ると追いかけていたはずの敵機の姿が見えない。敵機を目視とレーダーで探すが見つからないそう思った矢先エンジンが火を噴いた。新風はたまたまこのパイロットが失神している時に後方を取ってミサイルを2発発射した。攻撃を受けたフランカーはエンジンだけでなく尾翼まで破損したのか錐揉みになって墜落した。最後の1機は上昇して高度を取ろうとするスターファイターを追いかけようとしたところを視射程外ミサイル攻撃で爆散した。ミサイルを放ったのはクリスティーナのドラケンであった。

「あなたは人並み外れた天才なのか無鉄砲なだけのバカなのか分からないわ!拝借品をさっさと返し来なさいよ!」

「管制塔。this is 新風竜。ミサイルの残弾なし。残存燃料も少ない。着陸誘導を求める。over。」

 新風が着陸するとダローニが待っていましたと言わんばかりに腕を組んでいた。相当お怒りのようだが、新風は相変わらず顔色一つ変えない。おまけにラダーが取り付けられたのにすぐに降りてこなかった。散々怒鳴り散らしてもすぐには降りてこず、引きずりおろそうと歩み寄ることになってようやく降りてきた。いつものことながら何を言っても沈黙を持っての回答に嫌気を刺しながらも再出撃の準備に入った。

(3機分の金をタダで渡してたまるか。)

 新風の対Gスーツのポケットにはダローニのスターファイターから引っこ抜いた戦闘記録の入ったデータディスク。


 制空部隊がいるのであれば爆撃部隊も来ている可能性が高い。そして現実として来ていた。Su-24やMiG-27、MiG-29などが12機ほどであった。これには後から離陸したフォルらが対処した。爆装部隊を相手に少数であったが視射程外ミサイルで敵編隊の数を減らすと同時に盛大にかき乱した。乱れたところで乱戦に持ち込む。フォルを中心に次々と敵機を落としていって、結局全機叩き落とした。

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