表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空の竜騎士  作者: 上原太樹
4/15

血を吸う砂 4

 6機が帰路に着こうとしているとき管制塔から緊急通信が入る。

「管制塔より遊び(バカもの)共へ。お前らの位置から南に200キロの地点に敵編隊の反応がある。こちらに来る予定だった補充要員が近かったから迎撃命令が下ったが1機だけでは20機を相手にできない。ただちに友軍と合流し敵部隊を排除せよ。」

 あまりにも意外過ぎる通信内容にヨウ3兄弟はあっけにとられる。ボリスら3名は目標空域に素早く機首を向ける。3兄弟も少し遅れて新しい座標に進路を変更した。

 基地からは2機ほど離陸を開始した。この基地に集まっているパイロットの大半は一騎当千の金で雇われた傭兵、1人で4機以上相手できる上、その中でも腕のいい者は10機を相手にできる。敵は20機と連絡されているためすでに上がっている6機どころかボリス、新風、マーベックの3人なら十分どころかお釣りが来る。それに4機も味方がいるのだから心配はないのだろうが戦闘終了後や空中給油中に追跡機に捕まったりすると厄介であるためである。


「全く、着任の挨拶なしでこき使われるとは思わなかったわ。」

「そいつはすまなかった。敵機は20機だ、今応援が向かっている。合流地点の座標に急行せよ。」

「まあいい、20機とは言っても大したことない連中なんでしょ。ミサイルが4発に30ミリが100発もあるのよ。」

「1機では無理だ。合流を優先せよ。」

「大した技術も訓練する燃料も金もない所のパイロットでしょ。数揃えても何もできない連中に決まってるわ。」

 強気なことを言う若い女性パイロットは管制官の指示を無視して敵編隊の方向に向かう。

「管制塔よりボリスへ。編隊指揮を行ってくれ。それと、合流予定の友軍機は単独で交戦する気だ。ただちに合流して援護せよ。友軍機の機種は無尾翼ダブルデルタのドラケンだ。」

「分かった。おい、聞いたな。リュウ、俺の左翼に着け、マーベックは右翼だ。3兄弟は勝手に組め。全速運転で合流するぞ。」

「ボリス、this is新風竜。roger。out。」

「我々に指図するな!」

敗者(ザコ)は黙れ!」


「雑魚は数を揃えても雑魚なのよ。文句は満足に訓練させてくれないほど金のないあんた達政府に言うのよ!死んでも恨まないで頂戴ね。」

 彼女の操縦するJ35ドラケンからセミアクティブレーダーホーミングミサイルが2発放たれ20機もの敵編隊から反応が2つ消える。敵編隊から報復のミサイルが8発2回に分けて放たれる。彼女は増槽を投下しチャフ放ちながら急上昇と急降下でこれを回避、敵編隊正面斜め上から赤外線誘導ミサイル2発と機関砲を発射して3機撃墜する。敵編隊後方にいたMiG-23の2機がドラケンを追いかける。残りの敵機もドラケンを包囲しようと散開する。

(全く、バカね。少数の敵機を相手にするときはあんまり大勢で仕掛けちゃいけないのよ。同士討ちしちゃうでしょ。)

 彼女は後方の敵機の追跡を振り切ると手近な敵機に30ミリ機関砲弾を浴びせる。放たれた機関砲弾は外板をやすやすと貫通してエンジンを粉砕した。攻撃を受けたMiG-21はその場で燃料にも引火して爆散した。だが、彼女は自機の近くで敵機を撃墜してしまったため、敵機の破片がドラケンの主翼や垂直尾翼に損傷を与えた。彼女が機体を急旋回させたおかげでかろうじて空気取り入れ口に破片が入らなかった。損傷そのものは飛行に支障ない範囲内であるが空戦を行うのには若干不利な状況になってしまった。この直後に敵機からミサイルが放たれる。フレアを放ちながら急旋回を行うが排気口付近で弾頭が炸裂しアフターバーナーがもぎ落とされてしまう。

「くっ・・・そんなぁ~。」

 彼女はアフターバーナーなしで逃げ回るほかなかったが10機以上もの敵機に包囲されてしまい離脱することも出来ない。こうなってはいかに腕の良い戦闘機乗りであってもどうすることもできない。彼女が必死で逃げ回っていると敵機が6機爆散した。ドラケンに攻撃を仕掛けようとしている2機以外は包囲網を解いて散開する。散開したところに6機の戦闘機が飛び込んできた。6機の戦闘機はそれぞれ1機ずつ空戦に入る。

「全機、行くぞ!エンゲージ!!」

「管制塔より傭兵(ゴロツキ)共へ。割り当てられた敵機を最初に撃墜した者にお姫様を護衛する騎士(ナイト)と―――」

「FOX2。」

「え!?」

 管制官が通信を終了する前に新風の視射程内ミサイルによる攻撃宣言。レーダーには新風が背後を捕えた敵機の反応が消えた。担当している管制官は悲しそうにするが、通信相手にそのことは伝わるはずがない。

「管制塔、this is新風竜。敵機撃墜成功。次の目標へ指示を要請。over。」

「・・・管制塔よりリュウヘ。東にいるドラケンのお姫様の護衛に向かい、敵機を撃墜せよ。」

「管制塔、this is新風竜。roger。out。」

「友軍が1機向かった。リュウ・新風だ、機種はF-5EタイガーⅡ、上手く協力し合え。」

「ちょっと、それだけなの!?誘導してよ!」

 ドラケンは依然として巡航速度で逃げ回っている。真っ直ぐに飛ぼうものならあっという間にミサイルをロックオンされてしまう。かと言って急旋回を繰り返すと速度が落ちて最悪失速によって墜落してしまう。そうならないように加減しながら旋回を繰り返すのは並大抵のことではない。友軍のことなんか気にする余裕などない。旋回を繰り返しながら後ろを見てみるとMiG-23が1機減って新たにF5の姿が見える。

「リュウ、どうにかして!」

「お姫様、this is新風竜。合図と同時に左急旋回、3・・・2・・・1・・・今。」

 ドラケンは高いGをかけての急旋回を行う。敵機もドラケンについて行くが、敵機の後方やや左から接近していた新風の正面に出てしまう。新風から機関砲弾がコックピットからエンジンまで叩き込まれて火を噴きながら墜落して行った。この頃には残っていた敵機全て撃墜していた。

「リュウ、助けてくれてありがとう。基地まで誘導して頂戴ね。」

「管制塔、this is新風竜。目標を撃墜、他に脅威となる戦力の存在は?over。」

「・・・」

「管制塔よりリュウヘ。敵機は全滅した。とりあえず、お転婆なお姫様をエスコートしてボリスたちと合流して戻ってこい。」

「管制塔、this is新風竜。roger。お姫様、this is新風竜。付いてこい。out。」

「リュウ、付いて行けばいいのね。」

「・・・」


 空戦自体ドラケン以外はさほど行っていないため空中給油を行うことなく基地に着陸することが出来た。ドラケンの方は激しい空戦を行ったがアフターバーナーは頻繁に使わなかった(使えなかった)こともあって燃料は十分に残っていた。もっとも、ドラケンだけ別の滑走路に誘導され消火班と救護班が待機する中での着陸となったが、滑走路を目一杯使って無事に着陸した。着陸寸前まで左右に揺れながらの着陸だったので墜落するのではとヒヤヒヤしながらの着陸であった。新風たちもドラケンの着陸を見届けると次々と機首を下げて着陸を開始した。着陸後はマーベックを中心に金のやり取りが行われている。それぞれの乗機は割り当てられた駐機場に運ばれていく。新風はその輪の中に加わることなく乗機と共に格納庫に入り整備士と共に整備を始めた。

「機体の方はまだ簡単な整備でも持たせられるが、ムチャな戦闘機動の連続が金属疲労に表れ始めている。エンジンの方はすぐにでも分解整備したいな。今日はもう無理だが、出来るなら明日には分解整備をしておきたいな。」

「明日、分解整備ができたとして後どのくらい使える?」

「う~む・・・1・2ヵ月は簡単な整備だけで済むだろうな。もっとも、こいつは中古品で結構使われた跡があったんだ。新しいヒコーキを買った方が寿命を延ばせるかもな。」

「仕事に励んでいるね。お前の真面目さには呆れちまうよ。」

「・・・」

「ハンガーの方は明日入れられるようにしといたのにドラケンのおかげでパーだ。なるべく早いうちに入れ直しといてやるよ。金はもうもらったしな。」

「・・・価値のない情報はよこすな。」

「お~お、怖い怖い。たまには愚痴の一つぐらい聞いてくれよ。」

「用がないなら邪魔だ。」

「全くその態度は改めないと誰も助けてくれなくなるぞ。」

「自分と金以外は信用していない。」

 司令は新風の態度に呆れながらも招きよせて1枚の紙切れと預かっていた携帯端末を渡す。紙切れには戦闘機1機分の撃墜報酬と同額の数字が書かれている。ゲーム前のルールの中に負けた方の撃墜スコアは勝った方で山分けというルールに従って自分で落とした戦闘機とは別の報酬だ。無論、彼は勝ち組なので燃料代の請求も今回分はこない。

「整備班から話は聞いている。乗機はなるべく早くオーバーホールできるように計らってやる。君は今や我が隊きってのエース。空戦ではダントツのナンバーワン、対地攻撃でも5本の指に入る。そんな君が整備不良で落ちたらシャレにもならんし、私も困る。」

「・・・どんな形であれ死ぬならそれまでだ。使い捨ての駒など集めれば掃いて捨てるほど集まる。」

「どんな形であれむやみに部下を殺すような趣味は持ち合わせていない。」

 司令は疲労を露わにしながら立ち去って行く。新風が乗機に戻るころには機の簡易整備は終わっていた。空戦の結果を見直すための戦闘記録を操縦席から取り出して降りると1人の美女の姿が見える。その後ろには野次馬の姿もある。

「先ほどは助けてくれてありがとう、勇ましき騎士(ナイト)さん。エンブレムもカッコいいわね。私はクリスティーナよ。これからはよろしくね。」

 握手を求めるクリスティーナを新風は応じることなく黙って通り過ぎる。クリスティーナはその行動に怒りをあらわにする。

「何か気に障るようなことでも致しましたぁ?」

「・・・」

「・・・私は名乗ったのよ。名前ぐらい教えなさい!」

「・・・新風竜。」

(アラカゼリュウね。性格は悪いけどワルじゃなさそう。ムカつくとこあるけど気になるわね。)


 敗北した3人は納得がいかないようで怒りをあらわにしている。その怒りを口にしながら物にまであたっていた。中国人は面子を重んじる、その面子を徹底的に叩き潰されたのであるから仕方ない。仕方がないと言っては泣き寝入りだが、感情的になって怒りをあらわにするような奴は周囲に迷惑にならない程度であれば冷めるまで放置しておくのがいい。何をもって迷惑として制裁を科すかは人にもよるが困ったら上官に処分を下してもらえばいい。だが、ヨウ3兄弟の怒りは簡単には収まらない。それは、自分たちに敗北と言う苦汁を味あわせた3人の内の1人はアジア人、それも中国人にとっては目の上のこぶである日本人。中華思想にどっぷりと浸かって育った3兄弟にはこのことが最も納得がいかない。もっとも、そのことが判明するためにたまたま近くにいたベトナム人傭兵(パイロット)1人を3人がかりでとっ捕まえて脅して喋らせたのだった。

 

 昼のゴタゴタでいつしか日が傾き夕食に時間となった。戦力の補充が進んでくれたおかげで食堂にも活気が戻っていた。食い物に頓着しない人、自らの意志や信仰している宗教の関係で一部の食材を口にしない人、味付けが気に入らずに文句を言う人、全く食べたことのない料理を口にする人などなど様々なのは、世界各国から来た観戦武官(オブザーバー)や雇われた傭兵(エトランジェ)によって構成されているので致し方のない事であり、良い文化交流の場でもある。盛り上がって場の空気を乱したがる馬鹿者がいなくならないのが悲しい事ではある。もっとも常に賑やかな食堂が静まったためしはない。食事を終えた者から食堂を去るかその場で煙草に火をつけている。いつもなら酒を飲む人もいるが、今日は夜間作戦前、うかつに酒を飲むのは命とりである。


「総司令部から作戦命令が届いた。作戦はシリア、ダマスクス付近にある補給基地を兼ねた前線基地だ。それほど規模は大きくないが近くにはシリア軍の空軍基地がある。よって、本作戦では全戦力を3中隊に分ける。中隊の指揮官はマーベック、ボリス、リュウだ。後の編成はこの部屋の後ろに張り出してある。ボリスとリュウの2中隊は南から低空進行して補給物資貯蔵庫と司令部を破壊する。先行するのはボリスの中隊だ、リュウの中隊は残存戦力の排除。マーベックの中隊は制空権の確保。出撃は2100。正規軍から早期警戒機と電子戦機が後方支援を行う。それと、全員出撃だが本日着任した4名は外してある。質問はあるか?」

「私は飛びたくても飛べませんのよ。」

「我々は上がるぞ。」

「ここの夜間飛行は慣れないと危険だ。それでも行くか。」

「金をもらいに来たんだ。遊覧飛行をしに来たワケじゃねぇ。」

「金をもらっているとはいえ飛んでやると言っているんだ!」

「・・・いいだろう。リュウの中隊の最後尾に入れ。同じアジア人なんだから問題ないな。」

「ふざけるな!我が崇高なる漢民族が小日本人の指揮下には入れだと!」

「お前たちは傭兵(エトランジェ)として契約した瞬間から民族も年齢も性別も関係ない。民族問題を起こすのは勝手だが作戦に支障をきたす行為は罰則の対象だ。分かったな!」

「ちっ・・・」

「シリア空軍基地はどんなご馳走を出してくれるんだい?」

「情報機関によると、その空軍基はMiG-29が1個飛行隊は居ることが確認されているが、整備上の問題で離陸できないらしい。他の作戦機は確認されていない。後は各種対空火器だ。」

「楽に稼げそうな任務ではないな。」

「俺と飛ぶ奴は貧乏くじだな。」

「案外そうでもない、シリア国内ではイラン、シリア、ヨルダンの合同軍事演習の頻度が増えている。近いうちに雌雄を決するつもりであろう。今回の作戦はこれを遅らせるためである。そして、演習中の作戦機が作戦宙域に侵入しようとする可能性がないとは言えない。他に質問はあるか?・・・では、解散!」

 作戦会議が終了すると本格的な大規模作戦参加に活気があふれていた。特に、軍事演習中の作戦機が迎撃に来る可能性が指摘されたということは多くの敵機が出現する可能性があることを指摘している。しかし、こればかりは言ってみないと分からない。

 即席で中隊や大隊を編成して出撃することは少なくない。特に拠点攻撃の場合、好き勝手に爆弾を落とすのは効率が悪いため中隊や小隊単位で効率よく爆撃を行う必要がある。この時、編隊長に抜擢されるのはスコアの良いものや編隊指揮の好評だった者たちだ。ここでは指揮能力よりもスコアの方が優先される傾向がある。

 ボリスとマーベックは張り出された部隊表でざっとメンバーを確認するが、新風は部隊表を見ることなく作戦室を後にする。

(中隊長は自分の小隊以外に各小隊等も気を付けなければならないのか・・・大変なことを押し付けられたなぁ・・・)


 出撃前の駐機場では慌ただしく準備が進められていく。最初はマーベックが指揮することになっている制空部隊。F-4やミラージュ2000、MiG-29と言った視射程外ミサイルの高い運用能力と高い機動力を持つ戦闘機が中心に選ばれている。この中隊の準備が完了すると次はボリスの中隊の作戦機に整備兵と兵器が集まって行く。こちらは敵のレーダーサイトや格納庫が主目標。このため、対レーダーサイトミサイルや貫通力の高い対地兵装の運用能力と地対空ミサイルを回避するための回避能力の高い戦闘攻撃機が必要。このため、F-5やF-16,クフィル、MiG-27、Su-24などが集められている。最後に出撃準備を開始したのが新風の中隊である。こちらはボリスの中隊が攻撃から漏れた標的の破壊および非装甲施設や対空火器などの破壊が主目的。この隊が攻撃するころにはレーダーサイトが破壊されているので大量の爆弾やロケット弾を搭載できる攻撃機が主体でA-4やA-6、A-10、Su-25などで構成されている。だが、実際はパイロットの得意不得意もあるので上記のとおりではない。


 目標となっている敵補給基地が近づくと一斉の高度を下げて低空飛行に移った。地上に設置されているレーダーサイトは低空を捕捉しにくいためである。

 制空部隊の援護下、第一攻撃部隊は対地ミサイルと誘導爆弾による攻撃を敢行。地対空ミサイルによって1機が爆散したが対地ミサイルはレーダーサイトに誘導爆弾は格納庫の一部を破壊することに成功。ささやかながらF-5やMiG-21が離陸してきたが、制空部隊があっけなく叩き落とした。

 基地としての機能はほぼ奪うことが出来たが、対空砲火が止まらない。対空機関砲や高射砲だけでなく小型の対空ミサイルまで上がって来る。第二攻撃部隊が爆撃を開始するまでに不運な数機に着弾した。

 第二攻撃部隊の攻撃によって基地中に爆音がとどろいた。残っていた格納庫や燃料庫だけでなく対空火器まで500ポンド爆弾、1000ポンド爆弾、ロケット弾が精度よく命中して行った。これにより、基地としての機能はほぼ叩き潰した。

 第31特殊航空戦術部隊が攻撃を終了して撤収を開始しようとすると一部に作戦機は警報が鳴りだした。そのほとんどはマーベックの中隊と新風の中隊であった。慌てて回避行動に移るが数機がミサイルによって爆散した。また、このおかげで一部の機が部隊から離れてしまった。

(あちゃ~、回避を優先していたらはぐれちゃった。中隊指揮なんてやったことないことしたせいかな?参ったなぁ・・・電子戦機でも飛んでいるのか?通信ができないし・・・)

「誰か、リュウ知らない?いないのよ。」

「は?おい、ボリス。リュウ知らねえか?」

「ブレイクする前は居るのが見えたが、その後は見ていない。キトリとキムはリュウの部隊だろ。見ていないか?」

「リュウ?ブレイクした後見失っちゃった。ま、あいつなら大丈夫でしょ。」

「僕も、ミサイルから逃れるのに必死で・・・」

「まもなく正規軍のエアボーンが開始される。航空優勢はF-35A部隊が引き継ぐ。ただちに撤収せよ。」

「中隊長が見当たらないんですけど・・・」

「構わん、ただちに撤収せよ。」

「でも・・・」

「リュウを見捨てるの!」

「レーダーから消えちまうし、通信はつながらん。落ちたんだろう。さっさと下がらないと正規軍の邪魔だ!」

 撤収命令は部隊全体に行きわたっているのでバラバラに作戦空域の離脱を開始。

 

 電子戦機という代物は膨大な金と高度な技術がないと作ることも運用することもできない。中東でそんなものを運用している国なんて産油国で金が有り余っていてアメリカやEUなどと関係が良好なサウジアラビアやアラブ首長国連邦に軍備に金を惜しまないイスラエルなどごくごく少数。だが、これが基地から妨害電波を出しているのならその敷居は少しだけ下がる。何せ、地上に大きさを気にすることなく発電装置を取り付けることができるからだ。

 ヨルダン空軍基地は敵機が1機接近しているのを探知すると妨害電波を出し同時に数機の戦闘機を離陸させた。だが、離陸している機体のシルエットはどう見てもヨルダン空軍には配備されていない作戦機。


 新風はパラシュートの傍で呆然としていた。

「あ~あ。落とされちゃった。全く、たった1機の戦闘機に戦闘機12機と空対地ミサイル車両6両と対空自走砲6両に個人携帯型地対空ミサイルを積んだ小型車両20両も出して対空誘導弾と機関砲を空と陸から一斉に放つヤツがいるかよ。あんな膨大な対空誘導弾を回避する何て無理だ。しかし、この前送金しちゃったから基地に戻れてもヒコーキ買う金がないし・・・はぁ・・・」

 呆然としている時間は長かったが、現実に戻るとわずかな水と食料と拳銃1丁のみ。無線もあるが動かないのでその場に捨てた。砂漠の中をこれだけで進まなくてはならない。ひとまず最も近くて人がいそうな所へ行くしかない。

 新風本人は相当な悪態をついていたが緊急射出前に戦闘機を3機撃墜し空対地ミサイル車両と小型車両4両を破壊している。そして、シートについている戦闘記録も回収している。空と陸で包囲された状況下で大わらわとなり落とされてしまったが、それでもそれなりの戦果を上げて戦闘記録もきっちり回収しているところには呆れてしまう。

 

 第31特殊航空戦術部隊の被害は撃墜が8機。目標(ターゲット)に与えた損害は90%以上と戦果に問題はなかった。被害自体も少なかったので基地内はお祝い騒ぎだが不に落ちない人もいた。

「・・・」

「恋人待ちって感じ?」

「そ、そんなことない・・・」

「顔真っ赤ですけど、大丈夫ですか?」

「へへへ、図星だ。」

「こっ、子供はさっさと寝なさい!」

「ム・・・」

「ガキはさっさと寝ろ~!」

「キム、ああいう時はむやみに声をかけるもんじゃない。」

「さっさとどっかに行け、用もなく女に近づくとロクなことないぞ。」

「・・・はぁい・・・」

「それにしても、リュウが行方意不明なのは―――」

「意外だな。」

「ほう、落ちたヤツの1人はリュウなのか?」

「妙に神妙な顔しやがって、明日は砂嵐かな?」

「砂嵐になったら俺だけじゃなくてお前らも困るだろうが!」

「そいつはごもっともだな。」

「全く、金もらっといてそれに見合う仕事をしてやれんのが悔しいんだよ。」

「らしくねぇこと言うじゃねぇか。」

「何だと、この野郎!そんなこと言う前に、金は十分にあるだろ・・・借金返せ!!」

「やべ藪蛇だった!借金取りは勘弁してくれよ!」

 マーベックはラノスに追いかけられながら二人はどこかへと姿を消した。この後どうなったかは日を改めてどちらかから聞くしかないだろう。

「リュウが落ちたらしいな。」

「ああ。意外だよな。」

「最初はそう思っていたが、どうもそうじゃないらしい。」

「そいつは面白いことを言うな。ぜひ聞かせてもらおう。」

「敵編隊が近くで飛行しているのは管制官から聞いていただろ。」

「ああ、もう作戦自体が終わってからだったな。『レーダー照射しないでさっさと戻ってこい』とか付け加えていたな。」

「ああ、そんでその命令を破った奴がいたらしい。」

「ほう。ま、あれだけの数がいれば俺だって長射程のミサイルがあれば撃つよ。」

「俺だってそうするさ。だが、あいにく爆装組だったからそんな便利なものは積んでなかった。」

「そんで、レーダー照射しやがった馬鹿者は?」

「ああ、色んな憶測や噂が細々とあるだけだが、どうもヨウ三兄弟じゃないかってのが多い。」

「・・・あいつらならやりかねないな。」

「噂の大半はそんなもんだ。」

「あいつらはリュウのことを嫌ってたからな。」

「アジアには大きく3つの強国がある。1つは東アジアの中国。次の1つは南アジアのインド、最後の1つは東アジアの日本。それに加えて日本や韓国には在日米軍がいる。おまけにアジアのほとんどの国は日本と友好的だ。お金と技術と仕事を提供してくれるしもてなしも丁寧に受けてくれるからな。中国は大金を持ってくるが労働者の大量に持ってくるし賄賂や女を用意しろとうるさくて政府や企業の重役以外人気が乏しいらしいしな。インドは自国の発展が優先で他国に援助する余力が少ないのは致し方なし。」

「中国・・・いや漢民族にとって日本とインドは邪魔な存在だからな。」

「ふぅ~・・・そんなこと言ったら俺の祖国だって派手に中国とケンカしましたよ。」

「そうだったな、そして退けた。」

「ああ。」

「・・・リュウは無事と思いたいな。」

「全くだ。あいつには前の空戦で助けてもらったからな・・・日本人ほど戦争をしてほしくねぇし、戦死なんてつまらん死に方をしてほしくねぇ。」

「同感だ・・・お前も日本びいきな方か?」

「祖国が一番だが、日本は次ぐらいだな。」

「多いんだな日本好きは・・・」

「ニホンはすごい国なんだぁ~。」

「ガキはさっさと寝なさい!」

「や~だよ。僕だって勝利に貢献したんだもん!」

「お子ちゃまはさっさと寝ないと大人になれないぞ!」

「べ~だ。ここじゃ夜間任務何て当たり前じゃん。それに子供の方が都合のいいことあるもん!」

「大人の言うこと聞かない悪い子には―――」

「げ、逃げろ~。」

「待ちなさぁい!」

「やなこった!」

 追いかけられているのに待てと言われて待つヤツがいないのはお約束。


(日がな一日歩き続けて、付いた場所がヨルダン空軍基地とはな・・・見つかっていないのが救いだよ・・・)

 彼が居るのは先日攻略したヨルダン軍補給基地より少し北にあるヨルダン空軍基地。元々あった基地だがイラン空軍の駐屯基地としても利用されるようになったため規模の拡大を急ピッチで進めている。

 竜は持っていた緊急時用の食糧と水はもうないが、基地がゴタゴタしているため食料や水は失敬することが出来た。ついでにアサルトライフルとライフル弾120発(弾倉4個)、銃剣、手榴弾3個までくすねることが出来てしまった。

 いつまでも同じところに隠れているわけにはいかないが、かといって移動するのも危険である。AK74に銃剣を付けながら周囲を警戒していると何やら駐機場の方が慌ただしくなった。よく見ると、MiG-29に対地兵装を施す一方F-14に対空ミサイルを装備している。まだパイロットの姿はないが燃料が入れられている。しばらく見ていると燃料を入れ終えたらしく給油装置を外しエンジンの始動させていた。近くから車の音もしてきた。その車には整備兵とは違う服装をしている人が大勢乗っている。どうもパイロットのようだ。そして、竜の隠れている所の近くを通りそうである。

(やるしかない。)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ