血を吸う砂 3
翌日、早朝の迎撃戦にも参加した新風はF-16Aを3機とMi-G23MSを2機撃墜して帰投した。開戦して2ヵ月になるが、この日初めてヨルダン軍のF-16が作戦行動に参加しているのが確認された。ヨルダン空軍の虎の子の戦力とも言える戦闘機の消耗を恐れて使用をためらっていたのだが、そう言っていられなくなったのだろう。また、シリア空軍のIFFを示す機も増えてきた。なお、F-16など第四世代戦闘機以上の部類の入る戦闘機はそれ以外の戦闘機よりも撃墜しにくい上撃墜されやすいため機種によって1.5倍以上の報酬が決まっている。F-16とMiG-29は1.5倍である。ついでに、シリア軍が保有しているSu-27フランカーは2倍である。ただでさえ金に目のない連中にとってはリスクを無視した宝の山である。
真っ昼間はほとんどの傭兵共が乗機の整備か昼寝かトレーニングか暇つぶしをする時間。そんな時にブリーティングルームに集められるのは意外と珍しい。
「今まで長距離ミサイルのみによる攻撃を行っていたイラン軍が大部隊をヨルダン領内に配備した。この中にはF-14Aトムキャット20機やMiG-2930機も含まれる。」
待ってましたと言わんばかりの大歓声を上げる傭兵達。無論いやそうな顔をする傭兵もいるが圧倒的な少数派であった。
「静かにしろ。このほか大規模な機甲師団の存在も確認された。いずれは攻撃の対象になることが予想される。総員よく覚えておくように。それと、F-14とMiG-29の撃墜報酬はそれぞれ2倍と1.5倍だ。詳しいことは資料を読んどけ。それと午後には4人補充が来るからな。丁重におもてなししろよ。以上だ、夕食後は夜間作戦のブリーティングがある。忘れるなよ!」
もはや歓喜の大合唱で最後の一言をまともに聞けたものはそうそういなかった。
「うひょ~。トムキャット!1機ぐらいくすねられねぇかな。」
「難しいだろ。」
「無理やり何て言わねぇから、運よくそういう機会が巡ったら援護してくれよ。」
「運よく居合わせたらな・・・IFFを書き換えられなければ全力で叩き落とすぞ。」
「冗談に聞こえねぇ・・・」
「確かにF-14はほしいね。無理でもF-16やMiG-29でもゲットできれば大儲け。」
「そんな無茶苦茶な・・・」
「楽しい話に水を刺すもんじゃないの。」
キトリはキムの頭をきつく締める。
「キトリ、痛い!痛い!!」
「お~い、リュウ。お前もトムキャット欲しいよな。」
「・・・奪ってでも欲しいとは思わない。」
「は?」
「トムキャットは制空戦闘機としては世界最強クラス、改修機は対地攻撃も優秀だが基本は制空戦闘機。イランに輸出されたA型はエンジン出力が機体重量の割に非力。」
「それなんだよな。ここでの任務で多いのが対戦車戦や重要拠点への爆撃。爆撃能力や各種対地兵装搭載能力のあるF-16やMiG-29ならまだしも、トムじゃなぁ・・・」
「トムキャットは男のロマンであり、誇りなんだよ!」
「そう何ですか?」
「おう!」
「駄々をこねてるだけだろ。」
「そんなとこだろうな・・・」
さっさと退出しようとしている新風をボリスが呼び止める。
「リュウ。マーベックの言った事どう思う?」
「・・・どうでもいいことまで付き合う気はない。」
「たまには下らない話をするのも良い事さ。」
「・・・馬鹿馬鹿しくて付き合う気にならない。」
「案外その方がいいかも!」
「リュウ、お前がイランのF-14に乗りたくないのはメーカーサポートを長期間受けていない共食い戦闘機というのもあるんだろ?」
「・・・」
アメリカ海軍以外で唯一F-14Aトムキャットを輸入して運用している国がイランである。現在のイランは反米国の一つと認知されているが、これはイラン革命が起こった結果であり、革命前のパフラヴィ―王朝時代は親米国であった。このパフラヴィ―王朝時代にイランは多数の西側諸国の兵器を購入していた。戦闘機ではアメリカ製のF-4E、F-5E/Fも輸入している。王朝時代にソ連の超音速偵察機MiG-25Rに悩まされて当時最新鋭の制空戦闘機であるF14AとF-15Aのどちらかを輸入するか検討が行われた結果、いくつもの世界記録を出したF-15Aではなく高性能レーダーと長射程アクティブレーダーホーミングミサイルAIM-54フェニックスの運用能力をもつF-14Aトムキャットが迎撃に最適と判断された。後のイラン・イラク戦争(通称イライラ戦争)ではF-14Aトムキャットの高性能レーダーを早期警戒機代わりに使ったりAIM-54フェニックスも運用され戦果を上げたりと大いに活躍した。しかし、イラン革命でアメリカなどの西側諸国と国交が無くなった結果F-14Aなどの西側兵器の補充や整備が困難になってしまう。当然、イラン・イラク戦争で消耗したAIM-54フェニックスの補充もできなくなっていた。以後はソ連から兵器や技術の供与を受けてソ連製兵器を運用しつつ西側兵器の維持を行っていた。現在ではロシアから兵器や技術の供与を受けている他中国からも輸入を行っている。さらに、独自の兵器開発も行っている。
新風が退室した直後別のところにいたフォルがマーベックの前に姿を現し、ラファールの良さを熱弁しつつトムキャットを侮辱する。(トムキャットは空戦の一点のみで考えれば最強の筆頭であることに変わりないが機体が大きい為甲板や格納庫では場所を食う。また、可変翼機であるため整備に時間と労力を食うという問題があった。また、イージス艦の配備に伴い存在意義が消滅した為アメリカ海軍は退役させた。)これに激怒したマーベックはフランスの戦闘機全てを屑同然のように喋り出す。こうなると侮辱のネタは尽きない。両者完全に火が付き、口げんかが本格的な殴り合いに発展するまでそれほど時間を要さなかった。この無意味な火中のど真ん中に放り出されてしまったキムは、ボリスが保護して作戦室から連れ出した。作戦室の一角では『やっちまえ!』や『殴れ!』などの大騒ぎ。司令が一喝したらあっという間に静まった。
「そろそろだな。」
「はい。間もなく到着予定時刻です。」
司令は管制塔を後にして格納庫の方に向かう。
滑走路に3機のJ-7が着陸を開始している。この基地でもミグ系やスホーイ系の作戦機を使っているパイロットは少なくない。勿論、MiG-21やMiG-23、Su-24、Su-25なども多数あるが、中国系の作戦機は初めてである。世界的には安価な中国製戦闘機を採用する国は増加の一途をたどっている。
「またMiG-21、もう見飽きた~・・・」
「・・・あれは―――」
「どうした?リュウ。」
「中国製戦闘機、殲撃7。」
「センゲキ7?J-7なのか?MiG-21とどこが違うんだ?」
「大して違わない。それと装備しているミサイルは霹靂7。」
「ヘキレキ7?PL-7とか言う中国製の赤外線ホーミングミサイルか?」
「・・・」
「リュウの言ったとおりだ。」
「ラノス!」
「別の基地から仕入れてきた情報だが、あの3機は中国製。パイロットも中国人の3兄弟だ。」
新風はもう用事が無くなったかのようにこの騒ぎの場を去る。ボリスやキトリはあっさりと機体やミサイルを言い当てた新風の知識にあっけにとられてしまった。実際にソ連製のMiG-21と中国製のJ-7はショックコーンや胴体の形状などに異なる特徴が見られる。
「おいおい、フィッシュベッド3機か、全く、古くて同じのばっかり揃ったな。ちったぁ変わったのを使う奴はいねぇのかよ。」
「言いたいこと言ってくれるじゃねぇか、アメリカ人!」
「何だと!?」
「こいつは我が祖国が開発した殲撃7だ!」
「けっ、何がJ-7だ。デットコピーのポンコツだろ!」
「何だと!我々を侮辱した代償は高いぞ!」
一触即発の状況となった。もっともマーベックの方は1人のみ。新たに来た傭兵は3人組のようだ。
「何々?また、トラブルメーカーが何かおっぱじめた?それともけしかけた?」
「まぁそんなとこだ・・・」
「新たに配属された傭兵ですか?それも3人?・・・また、フィッシュベッドですか?」
「リュウのヤツが言ってたが、MiG-21フィッシュベッドではなくて、J-7とか言う戦闘機らしい。」
「どう見てもフィッシュベッドにしか見えません。」
「どうせ、チャイナお得意の無断コピーってやつでしょ。」
J-7は無断コピーと言うより、ライセンス生産に必要な図面はもらえたけど生産技術の供与をしてもらえなくて、結局自力で生産できるようにした戦闘機と言う方が正しいだろう。元々中国には自力で戦闘機を開発・生産するだけの技術力はなかった。そこで当時友好的であったソ連からMiG-21の設計図と生産に必要な技術の供与を受けることになっていたが、関係が悪化したため設計図を残して技術者達が帰国してしまった。つまり、設計図のみを頼りに生産された戦闘機である。また、この戦闘機を元に独自の改良機を生産し配備や売り込みを行った。だが、もともと戦闘機を開発し生産するのに必要な技術が足りない国であるためその性能が疑問視されることが多い。また、世界各地からさまざまな技術の盗用されている可能性も多々指摘されている。その上、生産している企業や工場の信頼性や安全性など製品の信頼性にも疑問が尽きないが、安価でそれなりの性能があるため購入する国は少なくない。
喧嘩の兆候が表れると瞬く間に野次馬が集まる。毎度のことであるが、喧嘩を見るのが好きでない人や仕事場にしている人や上司にとっては迷惑この上ない行為である。
「ヨウ3兄弟だな。」
「長男のフォン。以下ランとファン。当基地への着任許可を求める。」
「着任を許可しよう。」
「兄貴。そんなことより、そこの態度のデカいアメリカ人ぶっ飛ばそうぜ。」
「我々と祖国を侮辱した落とし前つけないと気がすまん。」
「あん?いつ俺がチャイナとチャイニーズを侮辱しただと?」
「そうだったな、さっさと始末するか。地上で滑走路に赤い点を作るのがいいか、空で盛大な火花にされるのがいいかぐらいは選ばしてやろう。」
「ほう、やる気か?」
売られた喧嘩は即買う主義のマーベックはやる気十分、全力で叩き潰す気満々である。相手が仕掛けてくるのを待つところは彼なりの自粛。その前に挑発的言動を怒鳴りつけるので案外正当防衛うんぬんを口にしても相手にされないことが多い。
「全く、いい加減にしろ!4人ともまとめて独房にぶち込むぞ!」
この一言で4人とも大人しくはなったが、にらみ合いは続いている。野次馬も面白くなさそうに1人また1人と立ち去って行く。
「ここは実力主義だ。お互いに実力ぐらい確かめ合っておくのもいいだろう。」
「戦場にもルールがあるからな、ゲームのルールぐらい決めとこうじゃねぇか。」
「そのくらいは良いだろう。」
「司令、あんたが決めてくれ。中立者が決めてくれりゃ互いにズルはできない。」
「いいだろう。一対一のドッグファイト。敵機のケツについてミサイルをロックオンしたら勝ちだ。」
「妥当だ。」
「俺たちは3人で1人だが、かまわんかね?」
「上等だ。一匹ずつ黙らせてやる!」
「待て待て、これはゲームだ。戦争じゃない。フェアにやろうじゃないか。マーベック、信用できるヤツを2人選べ。まず、一対一を3回やる。全滅しなかったらこっちでくじを引いて、対戦相手を決める。先に全滅した方が負けだ。燃料は―――」
「負けた方が勝った方の分もまとめて全額払う。不意に敵が着ちまったら負けた方の報酬は勝った方が山分けだ。」
「そのルールを採用しよう。」
「今のうちに謝った方が身のためだぜ。」
「我々3兄弟に勝てると思っているのか?」
少しずつ散っていたはずの野次馬が、いつの間にか戻って来ていた。いや、むしろ増えている。ゲームで後2人をマーベックが選ぶことまでしっかりと広がっている。
「おい、マーベック、俺にしろ!」
「1人は俺で確定だ!」
「1人は俺だよな。」
「バカ野郎。今時スカイホークなんざ使ってるヤツを空戦に呼ぶかよ。」
「未亡人製造機の性能を活かせん癖によく結うぜ。」
賑やかになる野次馬共にマーベックはストレスが溜まるだけである。短気なだけあって、爆発するのも早い。
「黙れぇ~い!!うっせえぞてめえら。1人はボリスだ。どうせこの騒ぎを聞きつけてどっかにいるんだろ。さっさと出てこい!」
「呼ばれちまったからには仕方ねぇな。勝っても負けても貸しに上乗せだな。」
「一発、ここのテクニカルレベルの高さを骨の髄まで知らしめてやれ。」
「もう1人はリュウ、リュウ・新風だ。あいつはくそ真面目だ。乗機の整備やトレーニングでこの辺のどっかにいるだろう。誰か行ってとっ捕まえてこい!」
「すごい模擬戦になりそう。」
「ははは、ここのトップスリー集結だな。」
「それは好都合だ。我々がこの基地一のパイロットであることを証明できる。」
「うわ~。呼ばれなくてよかった。」
「男の子がそんな弱気でどうすんだ!」
ほどなくして、ラノスと整備費用の交渉中だった新風が、交渉を中断してマーベックの下に案内された。付いて来る必要の無さそうなラノスもくっ付いて来ていた。
「なぜ呼び出した。」
「ちっと手貸せ。」
「何をさせる気だ。」
「後で細けぇルールは説明するが、要は空戦だ。」
「断る。」
「何でだ!勝ってくれりゃ燃料代チャラだぜ。」
「分解整備をやる。上げられないし、やる気もない。」
「な~る。それでラノスまでくっ付いてきちまったのか。」
「俺がジャマなら、俺もお前に商売の邪魔をされた!」
「言ってくれるじゃねぇか。」
「ここのところ、整備用ハンガーの空きが出ないんだよ。そんな中、やっと1機分分解整備をして夜間作戦に間に合うようにスケジュールを組めたんだぞ。ここで空戦させちまったら、スケジュールがパーになっちまう。」
「リュウ。すぐにでも分解整備しなきゃいけねぇわけじゃねぇだろ?」
「そろそろ、やった方がいいと整備兵に言われて予定を入れてもらった。」
「ここは道具を雑に扱うヤツが多くてハンガーのスケジュールを組むのも大変なんだぞ。」
「全く、これじゃお前のベストメンバーで望めないじゃないか。リュウ、分解整備はすぐにと言うわけじゃないんだろ?」
「ああ。」
「なら、マーベック。お前が分解整備代の一部を持ってやれ。リュウ、それで妥協してやれ。あちらさんはお待ちかねだ。細かいことは用事を済ませてから決めればいいだろ。」
「分解整備前に墜落したら同等クラスの戦闘機1機分の金と墜落によって生じる費用の補償と手間賃を出すなら妥協してもいい。」
「いいぜ。ゲームとは言え勝負だ。金まで握らせたんだ、負けたら承知しないぞ!」
マーベックとボリスと共に司令の下に向かった新風は、ポケットの中に入れておいた携帯端末を取りだして、訳を話して司令に預かってもらった。ラノスは大急ぎで整備班に連絡を入れる。
司令から改めてルール説明が行われた。また、ゲームは有視界でのドッグファイトのため管制塔からの誘導や助言は行わない。審判は管制塔で行う。それと、前線基地であるためゲームに参加する機は完全武装で上がる。このため、間違ってもゲーム中に実弾を放たないように注意が言い渡された。ルール説明が終わるとそれぞれの戦闘機の下に向かうと、燃料が入れられ、いくつかの空対空ミサイルや機関砲弾が用意されていた。
「さてさて、どいつをくっつけてほしい?」
「R-60とR-33を2発ずつ!それと、増槽もくっ付けとけ!」
「はいはい。」
「俺のにはサイドワインダー2発と20mmバルカン砲と増槽を装備してくれ。」
「はいよ。リュウ、お前はどうする?」
「サイドワインダー2発、AMRAAM4発、増槽、20ミリ。」
「あいよ。」
「三つ子の兄弟さん方はどうすんだ?」
「我々の戦闘機には燃料だけ入れてくれればいい。増槽にも満タンでな。」
「そうかい。」
6機の準備が整うと2機ずつ離陸して行った。訓練予定空域は基地から北西に100キロメートルほど離れた砂漠の上空である。6機は管制官の指示に従って散開しそれぞれが十分に距離を取ったのを確認してから対戦相手を決めるくじ(1から3までの番号と3つの記号が割り振られたくじが2組用意され、番号をパイロットが指定して管制官が代理で引く。同じ記号を引いた者同士が対戦相手である。)最初の対戦相手はマーベック対ファン、新風対ラン、ボリス対フォンである。
マーベックは得意の急降下しながらの一撃離脱を行うが、J-7の性能はMiG-21よりも若干良く簡単には捕まらない。何度も繰り返すが、一撃離脱でケツを捕え続けるのは容易なことではない。マーベックが手間取って旋回をしている間に対地攻撃および超低空飛行の得意なファンは地面すれすれに機体を持っていく。高高度での高速飛行に特化したMiG-25フォックスバッドと一撃離脱の得意なマーベックは長所を潰されてしまい、厳しい戦いを強いることとなった。
「にゃろ~、余計な手間かけさせやがって!上等だ、低空でケツを捕えたろうじゃねぇか!!」
「低空ならこっちが有利!どう料理してやろうか?」
お互いの位置が激しく入れ替わりながら低空と高空を往復しているのは新風とラン。互いに敵機の背後を奪い合う格闘戦が得意である。機体の方も格闘戦闘能力が高く中小国で広く採用された軽戦闘機とベトナム戦争などで実績のあるMiG-21の発展?機。機体性能もほぼ五分五分。このため、クラシックBFMはもちろん、相手のエネルギーを消耗させる新しい戦闘機動であるラグ・パシュート機動やブレイク・ターンに至るまで次々と繰り出し合っている。本当の意味でパイロットの腕の見せ所であり、激しく前後が入れ替わるドックファイトはパイロットたちを興奮させているが、ゲームを監視している管制官の苦労は並大抵のレベルではない。誰もが長引くと思うほどであったが、新風がクラシックBFMから現代の攻撃・防御機動法に切り替えてほどなく、ランの背後をあっさりと取り勝負を決めた。だが、模擬戦最初の勝利は彼ではない。
最初に決着をつけたのはボリスである。フォンと正面から高速で突っ込み、すれ違うと同時に反転。どの速度帯でも高い飛行性能を発揮することが出来る可変翼機ならではと言える。反転後はJ-7の背後をしっかりととらえ続けた。フォンは必死に逃げ回るがボリスが巧みな操縦で機動性の優れたJ-7をHUDにとらえ続けそのままミサイルをロックオンすることに成功した。戦闘時間は1分以下であった。
「ボリスより管制塔へ。了解、当空域にて友軍の到着を待つ。」
ほどなくしてタイガーⅡがボリスの目に入った。
「ボリスからリュウへ。お疲れさん。お前にしては手こずったようだな。」
「・・・」
「マーベックのヤツも困ったものだ。俺たちを巻き込んどいて、待たせているんだからな。」
「・・・」
「・・・喋って暇でも潰そう。」
「・・・」
「・・・暇だろ?」
「・・・」
ボリスからの無線に一切答えないまま旋回を続けながらレーダーと周囲をにらみつける新風。黙々と待機宙域で戦闘哨戒を行う新風に退屈しているボリスは困惑を隠せないでいる。少し離れた所では敗者であるフォンとランは黙って待機宙域を旋回している。
いかに模擬戦とはいえ燃料は消耗するため空中給油機が送られることにはなっている。特に元々前線での要撃用に開発されたMiG-21の中国版独自発展?機。長時間の飛行や戦闘は元になった機同様難しい。特に激しい空中戦となったランのJ-7の残存燃料は心もとなくなっている。マーベックとファンの勝敗が気になるところではあるが決着がつく前に燃料の少ない機から空中給油が開始された。
「にゃろ、さっさとケツ向けろ!」
(速い意外とりえのない奴。)
低空での戦闘が想定されていないMiG-25でJ-7を頻繁に追い抜かしながらも食らいついている。誤って追い抜いてしまった直後にロックオンされそうになることがしばしばあったが、急旋回で振り切っている。長時間全力運転を続けアフターバーナーも頻繁に使用している。こうなっては両者とも燃料の残量が心配になる。地上すれすれで高速飛行を続けるのは空気抵抗が大きく燃料の消耗が激しいことに加え速度も上がりにくい。両者とも燃料の心配から徐々に高度を上げていた。これにより下から攻撃するのに十分なスペースが確保できるようになった。マーベックはファンが背後に着こうとするのを確認すると機体をロールしながら降下して死角に潜り込む。ファンはロックオンをしようとしたが機体から燃料が少なったことを示す警告音が鳴りそれに気を取られたせいで敵機を見失ってしまう。レーダー照射もないため旋回しながら索敵に入る。ファンの死角に潜り込んだマーベックはロースピード・ヨーヨーでJ-7を狙う。急降下ののち燃料が少なくなった警告を無視してアフターバーナーを点火。急上昇と急加速によるGに耐えながらJ-7にIR誘導ミサイルをロックオンする。
「手こずらせやがって、これで終わりだ!FOX2!!」
「ロ、ロックオン!?」
やっと全ての決着がついた。長々と空戦を楽しみまくっていたマーベックはボリスにきつい一言を言われながら空中給油を開始した。模擬戦の結果はマーベックが集めた傭兵組の圧勝であり、模擬戦は終了となった。3兄弟は敗北の苦汁を飲むほかなかった。