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虚空の竜騎士  作者: 上原太樹
2/15

血を吸う砂 2

よろしくお願いします。

 戦闘終了に伴って管制官の指示に従って基地に帰投し着陸態勢に入る。

「むしゃくしゃすんで先に降させてもらうぜ。」

「アホか!新風竜の機は燃料も武器もないんだぞ。先に降りるのは新風竜だ!お前は周囲を警戒してろ!新風竜、着陸を許可する。誘導灯に従い・番滑走路に着陸せよ。」

「管制塔、this is新風竜。2番滑走路、roger。着陸する。out。」

「違う!誘導灯に従い3番滑走路に着陸せよ。」

「管制塔、this is 新風竜。3番滑走路、roger。着陸する。out。」

 誘導灯を確認しながら着陸するとすぐにエンジンを切るように言われトーイングカーが寄ってきて格納庫まで引っ張って行った。少々遅れてフォルも着陸したが、整備士はかったぱしから新風の周囲におり、トーイングカーすら出していなかった。フォルはいつものようにエンジンを着てしまったから全く身動きが取れない。

「よくやった!」

「来て早々すごいなぁ。」

「まさか8機全部落として来るとは思わなかったぞ。幸先いいね。さっそくツケの分を引かせてもらうよ。」

「整備を頼む。垂直尾翼の反応が少し遅い。」

「そうか?まいい、見といてやるよ。」

「リュウ、来て早々で済まなかったな。大健闘だ、これからも頼むぞ。」

「・・・了解。」

「今日はもう休め。戦闘記録はもう伝わっている、明日にでも会計部がマネーカードに入金される。」

「了解・・・」

 新風の姿が消えてもその熱気は一向に収まる気配がない。司令にはもう1人ねぎらうべき人物がいるはずなのにその姿が見られない。

「さてと、フォルはどうした?」

「・・・」

 整備兵たちは一斉に静まり帰った。だが、誰もフォルの所在を知らない。いや、降りると言うことは聞いていたはずだが、新風の活躍に興奮して耳に入っていなかった。もっとも上空にジェット戦闘機の音がないので地上に降りて入るのだろうがどこにいるのかわからない。

「あんなはた迷惑なところに1機転がってるぞ。誰か行って退けてきたらどうだ?」

 格納庫での騒動を無視して自分に割り当てられた部屋に戻った新風だが扉を閉めるなりその場に座り込んでしまう。顔色は真っ白になり冷や汗を流し手足は震えている。

(これで俺も人殺し・・・3人以上は確実に殺しただろうから日本なら裁判所で何を言っても死刑に間違いないな・・・)

 しばらくはそのまま震えていた。何とも言えない不安と恐怖が眠気に負けるまで長い時間震え続けていた。

 フォルはレンタル機で出撃しR.550Dマジック1を撃ったにもかかわらず命中しなかった。その上1機も撃墜できなかったのでこの日は大赤字。さらに整備兵に存在を忘れられてしまったため、文句をたらたらと言いながらその場でふて寝をして邪魔していたら重い整備機材を持った整備兵の1人に踏みつけられてしまった。


 新風とフォルが着陸してほどなくして作戦参加しているパイロットが次々と帰投してきた。だが、肝心の司令の顔色は良くなかった。それもそのはず、作戦に参加した作戦機は83機とこの部隊のほぼ全機であったが、生還できたのは53機。未帰還機は31機にも及んだ。さらに帰還できた作戦機の内半数以上が被弾している。このせいで着陸に失敗する機が何機も出たため一時的に滑走路が使えない事態にもなった。おかげで何機かが燃料切れに陥りベルトアウトした。結果として無事に着陸できたのは43機。このうち損傷が激しく処分となった作戦機は26機。無傷で帰投した機はわずか17機であった。これ以外の作戦機の損傷の度合いは様々であるがすぐに飛行可能な状態にできるのは8機のみ。戦力が整うまではまともな作戦行動を取ることが出来ない。もっとも、それ以前に部隊そのものが壊滅状態である。

 全員が意気消沈して大人しくなっているか仕事が多くて黙ってしまっている。若干1名の生き生きしたヤツは除く。

「おし、これで大口の注文が入るぞ。この前買い付け多分だとすぐはけちまうから買い付けに行かねぇとな。」

「おいおい、また銭勘定かよ。」

「あたぼうよ。世の中誰が何て言おうと結局金が無きゃ何も出来ねぇんだからな。」

「全く、この基地の状態をちゃんと見てくれよ。まともな作戦機何てほとんど残っちゃいねぇんだ。これじゃ、基地の防衛すら危ういぜ。」

「その通りだ。きっとこの基地は世界中で一番危機に瀕している基地だろうな。」

「だからこそ注文が入んじゃないか!さてと注文でも取りに行くか。それにしてもお前らが無傷で帰ってきたのは残念だよ。」

「何だとぉ!」

「まあまあ、そんなことで熱くなるな。」

 ラノスの姿が遠のくと2人は作戦中の共通の違和感を話し始める。

「あの駐屯地は妙だったな。」

「ああ。」

「何が妙だったんかい?」

(地獄耳。)

「注文を取りに行くんじゃなかったのか?」

「妙だったなんて聞いたら気になっちまうだろうが。聞かせろよ。」

「どうする?」

「喋ったって問題ないだろ。」

「それもそうだな。」

「それじゃ、早く聞かせろよ。俺は暇人じゃないんでな。」

「ああ、分かったよ。まずおかしいと思ったのは戦車だ。ヨルダン軍の主力戦車と言ったらアル・フセイン戦車と言う名のチャレンジャー1とM60だろ。」

「そりゃそうだ。あそこはイギリスがチャレンジャー2を配備する時に余剰化したチャレンジャー1を大量に買ったからな。」

「だがな、どうも駐屯地にいた戦車はチャレンジャー1やM60じゃなさそうなんだ。高速で飛行しながらだから自信がないがT-54、M48パットン、69式戦車のようだった。」

「何だそりゃ?」

「おかしな話だろ。だがな、それだけじゃないんだ。対空ミサイルランチャーや対空戦闘車両もヨルダン軍の使っていない物ばかりだったんだ。」

「は?」

「レイピアとかV75とかS125ネバとかAMX30RロランとかM42何かだと思う物ばかり。ほんでもってホークと9K39オーサAKMとかZSU23-4とかは見られなかった。」

「めちゃくちゃじゃないか!?」

「その話、詳しく聞かせてもらおうか?」

「司令!?」

「こりゃ参った、良い所で話を遮らないでほしいな。こう言った事は商売上重要なんでね。」

「こちらが優先だ。こういった話は軍事上きわめて重要だからな。ほかの傭兵もあちこちで同じようなことを言っている。疲れているだろうが記憶が新鮮なうちに全員の話を聞きたい。今回の作戦に参加したパイロットはブリーティングルームに集合するよう招集をかけている所だ。お前たちもすぐに来い。」

「あいよ。」

「承知した。」

「あ~あ。注文取りどころじゃなくなっちまった。ま、明日になれば乗機なしがごってりと押し寄せるだろ。動き回らなくていい分明日にしちまった方が楽だな。さっさと寝ちまおう。」

 のちに、偵察機が得た画像などの再検証や現地に潜入した特殊部隊などによる調査の結果からヨルダン軍が使用していない兵器が多数を占めていたことと無人兵器がその主力であったことが判明したが最高機密に指定され軍や政府の一握りにも満たない人間以外には開示しないこと決定した。


 朝食が済むとすぐさま全パイロットが作戦室に集められた。

「朝から集まってもらったのはほかでもない、この基地は現在危機に瀕しているため当面は基地とその周辺の防空のみを行う。」

 この命令に傭兵達は黙っていられるはずがない。戦車狩りや拠点攻撃は重要な資金源である。それが丸々絶たれてしまった。高速で移動する戦闘機は割り当てが高いがこちらもやられるリスクが高い。その点戦車は戦闘機に攻撃できるだけの火器をほとんど装備していない。価値が低くても比較的低いリスクで確実に報酬を得られる。基地攻撃も重要性が高い施設なら戦闘機を5機ぐらい落とすのと同額の報酬が出ることがある。その可能性が無くなるのは稼ぎにくくなるのが目に見えている。それでも司令は話を続ける。

「現状では人も作戦機も足りていない。正規軍にも細やかながら損害が出て部隊の再編と補充が行われている。今は補充が完了するまでと基地の防衛だけを行ってもらう。いやなら違約金を用意しろ、そうすればここから出してやる。契約して金まで渡しているんだ。こちらの指示に従ってもらう。」

「ちっ、いやになっちまうな。」

「違約金を出せば、こんな鼻につく司令から解放してやってもいいぞ。」

 さすがの傭兵達も黙って条件を飲むしかなかった。急に大金を差し出せるほど貯えがあるパイロットなどいないに等しい。

「全く、お前は残念だな。来て早々こんな危機になるとは。」

「・・・」

 司令からの解散宣言も出ていたので新風は黙って作戦室を去る。

「全く、あいつ人と話をするのが嫌いなのか?」

「口は災いを呼ぶとか言うことわざが東洋にはあるからな。お前は見習った方がいいんじゃないか?」

「俺から口を取ったら俺じゃなくなっちまうだろうが!」

 喋ることを生きがいにしているマーベックにとって喋るなと言われるのは拷問同然なのであろう。もっとも、行った張本人も本当に実行できるとは思っていない。


 とある国のとある高級ホテルの一室では高級なキャビアやチーズ、サラミなどをつまみながら高価なワインやウイスキーなどを嗜む数人が集っていた。

「案の定、イスラエルは我々が配置した無人機甲師団を攻撃して大きな損害を出しましたな。」

「この戦争はまだまだ続く。あんまり簡単に終わってもらっては困るのだよ。」

「無人戦闘プログラムの方は小規模の実戦に足るだけの能力がございましたわ。しかし、大規模では動作ミスや連携の不備がまだ目立っておりますのが気になるところがございますわ。」

「マルクス君。今までは目立たないように小規模でしかテストしなかったのに、急にこんな大規模にやってしまって良かったのか?」

 このことはこの場にいるほとんどの人が抱いている。その不安から1人の男に視線が集まる。

「そろそろ大規模運用のテストもしてみなければならなかったじゃないか?」

「まだ、早かったのではないか?」

「どのみちどこかでやらねばならないんだ。もっとも、陸軍主体でお古のオンボロ兵器がゴロゴロしているのは中東とアジアとアフリカだが、大規模の戦争ができるのは中東とアジアぐらいだろ。今のアジアで戦争を起こすのは簡単だがあそこは砂漠じゃないからねぇ。」

「なるほど、山と川の多い地域では大規模機甲師団は展開する場所に困りますからな。」

「さて、こちらもそれなりの損をしたし、データも取れたから、実験は控えて金を落としてもらうとしましょうか。」

「そうですな、おかげで倉庫にたまっていた鉄くずも片付いた。資材の搬入場所も確保できたし、そろそろ新しい商品の販売を行わんと経営に影響が出てしまう。」

「私のところだって塵掃除ができたが、利益が出たわけではない・・・それはそうと、コマンダーズプラントの方はどうだね?」

「予想以上です。細胞活性化剤による迅速な成長は目を見張るものです。訓練プログラムの消化も予定より早いペースで進んでおります。第五次中東戦争には間に合いませんが、次の戦争には完成品が出来る見込みです。」

「まだまだ先のことだと思っておりましたが、素晴らしいですな。」

「はい、ひとえに細胞活性化剤を開発したとある国の研究施設のおかげです。」

「私だってこんな素晴らしいものが無ければこのプランは完成するとは思わなかったよ・・・いや、むしろ進展しすぎて素晴らしすぎる。」

 金と欲望に忠実な者たちの宴は夜遅くまで話題が尽きることなく続けられた。この集団にとって人の命は自らの私腹を肥やすため消費されていく使い捨ての消耗品にすぎないのであろう。消耗されていく者たちにもこの者たちと同じように赤い血を体の中に流して命の営みの中にいるというのに。


 新風は格納庫に移動していた。黙々と乗機を整備している。

「昨日の迎撃の後に言っていた垂直尾翼のことだが、こっちの不手際だった。垂直尾翼の方向舵に細かい砂が残っていた。すまん、まだ来たばかりの新米だったから砂を除ききれなかったのだろう。」

「・・・」

「すまない・・・じゃ済まないよな。金をもらってお前が命かけて戦えるようにするのが俺たちの仕事だったな。」

 それでも今やれることは機の整備と鍛錬だけである。

「精が出るねぇ。それとも暇なだけか?」

「・・・」

「しかし、残念だね。これで当分は戦闘機を買うだけの金を確保するのは難しいぞ。お前のためにF/A-18EやF-2Aぐらい入手してやろうと思ってたがご破算だな。もっとも、F-2は日本国防空軍向けにしか生産していないから相当高くつくぞ。」

「・・・金が欲しいだけだろ、邪魔だ。」

「全く、つまらない奴だ。」

「やい、リュウ!貴様が来たおかげで骨董品のポンコツに乗せられたが、もうそんなことは関係ねぇ。今日ミラージュ2000Cが届いたからな。もうお前はごっそり稼ぐことがねえ!せいぜい商売道具を維持できればお慰み。私は色々と忙しい、東の果てのヤツにもう用はない。借金で首を飛ばされるか派手な火花にさせられる前にさっさと帰って海にでも浮かんでろ!」

 フォルは言いたいことだけ言ってさっさと自分に割り当てられた格納庫に向かう。竜は何も聞く気がないように黙々と作業を続ける。

「フォルのでけぇ声が聞こえたと思ったら、リュウ。派手にケンカ売られたな。買ったのか?」

「・・・」

「お前じゃあるまいし。リュウ、気にすることじゃねぇ。」

「・・・俺には関係ない。邪魔をするなら誰であれ容赦しない。」

「関係ない!?関係ないわけないだろ!」

「はは、大丈夫そうだ。だが、味方を撃つというならこちらも容赦できない。」

「ここに味方はいない。居るのは敵の敵。」

「敵の敵は味方だろ!」

「・・・なるほど、よく分かった。俺たちは気が合うかもしれないな。簡単に死ぬなよ。」

「おい、ボリス。どう言う事だ?リュウ、お前も何言ってやがるんだ?・・・わけわかんねぇ~!」

「全く、わけわからん連中ばかりだ。」

 敵の敵は味方。敵に対して敵対している者が自分以外にもいる場合、この第三者と同盟を組むことで共通の敵に対処するという行為はいつの世であっても見ることが出来る。だが、常に様々な利害関係というものも存在する。だが、ここは傭兵たちが集う戦場。ほんの一瞬で命が散って行くことが当たり前の世界の中にいる金の亡者。金のために何でもする者も少なくないのが悲しい現実である一方、常に命の危険をさらしているだけあって生きることの喜びを言葉ではなく感覚や肉体で感じている者たちであろう。


 しばらくは淡々とした日々が続いている。定期的に敵の航空機が来る程度であった。数機が一組となりローテーションで迎撃を行う。作戦機の修理や補充、新しい傭兵の到着は淡々とした日々に終わりを告げようとしていた。そう、大規模な作戦が定期的に行われる過酷な日々の再開に向けたカウントダウンは始まろうとしているのである。

 その少し前に、新兵や傭兵の受付を行っている基地では小さいけど誰も想定していない騒動が発生していた。

「・・・」

「早く着任を認めてよ。」

「し、しかし・・・空軍参謀長のお嬢様であるキトリ様を・・・」

「もう契約書にサインしちゃったからね、断ったりしたらクビをふっ吹っ飛ばしてやる。」

「・・・」


 いつもに意味なくにぎやかな基地であるが、この日は輪をかけてにぎやかな出だしを切った。

「ここの連中はうるさいのばっかだな。」

「女だよ、女!」

「は?何のこっちゃ?」

 妙な掛け声が一角から聞こえてくる。

「たかが女一人に大騒ぎする必要ないだろうが。」

「そうだな。今じゃ女性戦闘員やパイロットは増えている。傭兵になるヤツが出てきたって不思議な事はない。」

「でも、顔ぐらいは見たいな。」

「・・・」

 基地内に警報が鳴り始めると出撃待機していたパイロットが乗機に向かって走って行く。そして、準備の整った作戦機から離陸して行った。この日スクランブル待機となっていた新風は、警報が鳴りだすとあっという間の乗機に飛び乗り誰よりも早く離陸して行った。その時間は5分もかかっていない。

「リュウのヤツ早かったな。」

「日本はスクランブル発進が多いからな。スクランブルが掛かったら5分以内に離陸が染みついているんだろう。それより日本は領空侵犯機が多いからアメリカ人より未確認航空機に対する危機感を持っているんだろうな。もっとも、F-5Eは軽い分短距離離陸性能がF-4Eより高い。」

「一々癪に障ることしか言わねぇな。」

 周囲に険悪で資金と技術がそれなりにある国と近隣に対立するような国のない国とでは所属不明機に対する危機感が変わってくるだろう。

スクランブル発進した戦闘機と入れ替わる形で補充の戦闘機が着陸した。補充兵の1人は女性であった。

「そこの美しいお嬢さん。今宵はともにワインでも―――」

「私は戦闘機乗り。それを承知で飲ませるの?」

「ともに嗜むだけ、酔うほど飲むつもりはない。」

「そう。でも、ワインは趣味じゃないからいらない。」

「ちょうど飲み頃の―――」

「しつこい男は大嫌い!!」

 バシといういい音をフォルの顔面から奏でたキトリは何事もなかったかのように立ち去る。フォルはビンタを食らったことにもめげずに再度声をかけようとすると美しい円を描くかのような華麗な回し蹴りが頭部に直撃して蹴り飛ばされた。


「管制塔、this is新風竜。敵編隊の情報を教えてくれ。over。」

「管制塔よりリュウへ。南東へ向かってくれ。距離は400キロ。敵の数は4から6・・・訂正8だ。詳しい情報が入り次第連絡する。グットラック!」

 ほどなくしてスクランブル待機になっていたファントムⅡ2機も上がって来た。管制官の指示に従って進むと8機の敵機のIFFを確認した。機種は全てF-5EタイガーⅡであった。新風たちはセミアクティブレーダーミサイルの射程距離ギリギリで次々と発射し敵機を4機が撃墜した。その後はドックファイトに移る。

「うわぁ、これが戦場か・・・すごいな。(よし、残った1機は僕が落として基地まで誘導しても~らお!)HMDを空対空モードに変更。武器はAMRAAM。セーフティー解除。ミサイルロック・・・オン、シュート!」

 せっかく発射したミサイルであるがそれを知らない風上が早々に追い込んでいた敵機を撃墜して比較的近くにいた最後の1機にもあっさりと回り込んで機関砲弾を放つが、乗機がミサイルにロックされていることを示す警告なりだす。機関砲弾は敵機のエンジンに吸い込まれたかのように命中し爆発を起こして撃墜したが、そのことをまともに確認する前に回避運動を開始した。

(あ、しまった!ミサイルが誤認しちゃった・・・どうしよう・・・)

 敵が使用している機種と同じ戦闘機だからそうなっても仕方ないという気持ちを持つだろうが、自分が敵に向かって放ったミサイルが味方に向かっていくのは悲しい。

(IFFが友軍の敵機から放ったミサイルは横行しても警報が鳴りやまないからアクティブレーダー方式の誘導弾だな。たちの悪いものを持っている。)

 新風は急な回避運動を行うがそれでも警報が鳴りやまない。ミサイルが十分に近づいたところでチャフを連続で放ちながら急旋回する。

(あ~良かった。撃墜していない・・・基地には連絡してあるから急いで合流して謝らないと・・・)

 だが、味方のファントムⅡはまだ追い込んでいる途中であった。一方新風はまっすぐにキムのハリアーⅡの方向に向かった。キムは味方が合流しに来てくれたと思い、すぐに無線で連絡しようとしたが、来てくれた味方機から機関砲の攻撃を受けすぐに自分の考えは誤ったことに気付いた。正面から機関砲で攻撃され回避運動をしたため致命傷にはならなかったが胴に数発命中した。飛行に支障はなかったが、この後は死力の限りを尽くして逃げ回らなければならなかった。

(ひ~どうして!?)

(垂直離着陸機ハリアーⅡ、ヨルダン軍に配備されていないから傭兵だな。)

 キムはVTOL機ならではの特性も利用し持てる力の限りを尽くして必死に逃げ回るが、新風はしっかりと背後を捕え続ける。赤外線誘導ミサイルを使いたいところだがIFFが友軍のためロックできない。IFFを変更したいところであるが、そんなことをする時間が惜しい状況であるため機関砲を使うしかないが不規則に逃げ回る亜音速垂直離着陸攻撃機に超音速戦闘機が機関砲を当てるのは簡単なことではない。

「管制塔よりリュウへ。そいつは今日うちに来た新しい傭兵(なかま)だ。お前は無事なんだ、新人の失敗はそのくらいで許してやれ。」

「管制塔、this is新風竜。攻撃をしてきた以上IFFが友軍であっても敵機―――」

「そりゃそうだが、ゴタゴタが増えるんだ、こっちの面子や部隊としての規律もあるんだ、やめてくれよ・・・」

「自己防衛を優先し行動する。out・・・FOX3。」

「それはそうだが、今回はやめてくれ!」

 管制官の悲鳴とも取れる声を無視する新風。機関砲による攻撃宣言をするが、この直後、最後まで逃げ回っていた敵機が撃墜した。友軍に損害はなかった。

「出撃機は直ちに帰投しろ。そこにいるAV-8BハリアーⅡは友軍だ。基地まで案内をしてやれ。」

 この命令でキムは間一髪のところで命を救われた。なぜなら、新風が機関砲の発射スイッチを押す寸前であったのだ。この後ファントムⅡが先導する形でハリアーⅡとともの帰投したが、そのハリアーⅡの真後ろには新風のタイガーⅡが射撃位置にぴったりとついている。キムはその気味の悪さに鳥肌が立っていた。

 滑走路にファントムⅡ2機とタイガーⅡは着陸するがハリアーⅡだけは離れた格納庫付近に垂直着陸を行った。

「ほう、ハリアーⅡ。わざわざ何か見せびらかすためにこんなところに下したのか?」

「違います。あそこにいるタイガーⅡがおっかないから!」

 コックピットから姿を現した少年の姿に、その場に居合わせた者は驚きを隠せなかった。その少年はどう見てもアフリカ系の人間であったが見た目は15か16ぐらいで傭兵と名乗るのにはどう見ても若すぎる。また、若すぎるが故、傭兵としての戦闘能力があるのかが疑問である。

「お、おめえは誰だ?」

「キムです!今日付けでこの基地に配属されました!」

「けっ、ただのガキじゃねぇか。」

「よく無事に来たな。」

「あのタイガーⅡは誰なんですか!ミサイルが誤認しちゃっただけなのにこんな仕打ちをするなんて!」

「そう怒鳴るな坊や。ああなったら殺されても文句は言えない。坊やの放ったミサイルはあのタイガーⅡをロックしていたのだからな。」

「それにあのタイガーⅡに乗っているのはリュウ・新風で、訓練だろうが実戦だろうがドックファイトで振り切ったヤツはそうそう違ないぜ。俺もこの間訓練の相手をしてもらったら20分で1回もケツを取れずに5回以上も取られた。」

「だから何なんですか!」

「リュウの攻撃を振り切った幸運がいつまでも続けばここで生き残れるだろうな、坊や。」

「何でみんな子ども扱いするんだ!」

「おや?ずいぶんとかわいい坊やじゃない。さっさと降りてらっしゃい。」

「坊主のハリアーⅡは整備行だよな。」

「ああ、リュウのヤツが機関砲を何発も当てたせいでな。駆動系と主翼や燃料タンクに当たらなかったのが救いだったな。」

 キムがキトリのおもちゃにされている一方、キムのハリアーⅡは修理用の格納庫に運ばれていった。一方で格納庫まで来た新風に向けられる視線は冷たいものであった。

「全く、攻撃されたからとはいえ、管制官の命令を無視して味方を攻撃するとは・・・落ちなかったからいいものの、命令無視で味方を殺したらどう責任を取るつもりなんだ。」

「・・・」

「何か言ったらどうなんだ!」

「・・・責任?そんなもの取る気ない。そもそも責任問題が発生するのか?」

「何だと!」

「攻撃してくればそれ全て敵。IFF何てものは飾り。俺にとっての味方は金をくれる組織(スポンサー)だけ。あなたはこの基地の司令官で組織(スポンサー)の全権代理人だから命令を聞く。それ以外がどうなろうと金と自分の命さえどうにかなれば関係ない。」

「・・・お前は狂っている。」

「狂ってなければこんなことしたりさせたりしない。」

「独房入り一週間と言いたいが、まだパイロットが足りていないから今日の報酬の没収で許してやる。戦闘記録もなしだ。」

「これで命と商売道具が無事なら安いもんだ。」

 新風は持っていた戦闘記録を司令に素直に投げ渡した。

「・・・命と道具があれば稼ぐ機会はいくらでもある。」

「・・・」

 戦争なんてものは新風の言う通りであろう。そもそも、傭兵なんて職業がこの世にあることそのものが戦争のなくならない理由の1つなのであろう。

作戦や仲間同士でのおしゃべりをどのように展開していくか考えるのは難しいですね。

なるべく頻繁に更新できるように頑張ります。

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