血を吸う砂 1
初めての投稿で至らぬ点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
また、申し訳ありませんが自分の趣味優先の作品の為、頻繁に投稿できないかもしれません。
申し訳ありませんがご了承ください。
イスラエル空軍第31特殊航空戦術部隊は現在ヨルダン軍から奪取することに成功した空軍基地に戦力を配置して作戦を展開している。この奇妙な部隊配置には訳がある。シリア・レバノン・ヨルダンが同盟を組んでイスラエルに宣戦布告と同時に陸と空から進軍を突然開始する。常に臨戦態勢を維持しているイスラエル軍は即座に反撃を開始し侵入してきた敵部隊を撃破し、その勢いで国境周辺に構築を進めていた仮設滑走路付きの補給拠点まで奪取に成功する。しかし、陸軍の迎撃・逆侵攻作戦を支援していた作戦機が基地に帰還したタイミングで潜伏していたゲリラの破壊工作によって主要な作戦機が破壊され、パイロットにも多数の死傷者が出てしまう。開戦冒頭から両陣営ともに見しできない損害を受けることになり、イスラエルは前線の要所に最低限の部隊を張り付けてそれ以外の戦力で国内のゲリラ掃討戦と部隊の再編を開始する。反イスラエル同盟は現状を見て参戦したイランの支援を受けて部隊の再編に着手する。
そんな中でイスラエル空軍は第31特殊航空戦術部隊という名の傭兵部隊を設置し再編途上の空軍部隊と修復中の滑走路の防衛と最前線部隊の支援を開始する。国防には金を惜しまないといわれるイスラエルでも苦しい財政をやりくりして確保した資金で、合法・非合法問わずすぐにでも入手可能な作戦機とパイロットをかき集め、唯一健在な滑走路を有するヨルダン軍から奪取した空軍基地に配置したからである。この影響からかパイロットは義勇軍気取りの白人が多い。作戦機は各国で退役に伴って廃棄物扱いになっている第二・第三世代の戦闘機や攻撃機を中心になっており、数はそれなりに集められている。そして、ごく少数だけ生産されたが配備前に横流しや、部品のみをかき集めて組み上げた第四世代以上の作戦機が配置されている。それでも反イスラエル同盟側の空軍は消極的な活動しか行っておらず、作戦の大半は対地攻撃である為十分な戦果を挙げている。現状では、数で圧倒的に不利なイスラエル軍を支える貴重な戦力としてその重要性を確立させている。本部隊が本格的な活動を始めてからも傭兵の募集は継続され増援が定期的に到着していた。その中に新風竜の姿があった。
現実として日本人で傭兵になる者はいないわけでない。空軍のパイロットが旅客機のパイロットに転職したのではなく、出身国以外の軍隊にパイロットとして雇われることがまず珍しい。最も、これだけなら珍しいの一言で終わりであるが、彼は各国の空海軍の関係者の間ではその名を知る者が少なくない名の知られた存在である。当の本人は気にもしていないことでもある。彼のことを知らない傭兵は非難の言葉を口にするか無視する者が多い。逆に、彼に気づいた者はこの場にいることに疑問を感じざるを得なかったが、その疑問を解決する方向にもっていく為に声をかける者はいなかった。
この基地の倉庫区の一画には武器商人が占領している倉庫がある。倉庫の中身は日用品から兵器や機械の部品、さらには嗜好品やゴミまで様々である。おかげ様で金によって解決できる物に揃わない物はない。もっともミサイルや機関砲弾の近くにティッシュペーパーやウイスキーがあったり、医療用アルコールやガーゼなどの横にマッチや使い捨てライターがあったりと意外なほど危険な場所でもある。あまりのいい加減さに呆れる人や奥まで行こうとしない人が多いが、当の管理責任者は整理していると主張しどこに何があるのかを正確に把握している。これで敵による基地攻撃時の被害以外事故を起こしたことがないのだからある意味凄い事ではある。また、よく騒動が起こる場所の一つとして早くも基地の名物化している。
「おい、ラノス。この基地ぶん取った時にたまたま残ってたF-5Eがあったろ、乗機がねぇんだ。よこせ!」
「アホ。あれは軍の備品でもう乗り手が決まっててな。売ってくんなかったんだよ。」
「おいおい、ずいぶんともめてるじゃねぇか、え?そういや、昨日の夜、着陸ミスって機体をダメにしたがいたなぁ?」
「うっせぇな、商売道具が無きゃ商売にならねぇ。さっさとあれ売れ、今晩にもデカいのがあんだよ。」
「俺の商品じゃねぇから売れるわけねぇだろうが、間抜け!来週になりゃF-16CやF/A-18C、A-10Aなんかが届くからそれまで待つんだな。いやならレンタル料を払って適当なボロに乗ってろ。」
実際に数こそ少ないがアメリカやヨーロッパなどの親イスラエル国が退役した作戦機の一部を供給している。表向きはイスラエル支援だが、裏では解体処分するのに不正がないか監視したり廃棄場所を確保したりと金がかかるから機密情報にかかわる部分だけ古いものに変えて売り払っている。
「ざっけんじゃねぇ。誰があんな飛べるかどうかもわかんねぇオンボロミラージュ?になんぞ乗れるか!ありゃどう見たってスクラップで近々処分が決まってるだろ!!せめてミラージュ2000Cぐらいねえのかよ!!」
「それじゃ、来週まであきらめるんだな。」
「そう言うわけにいかねぇからあいつを寄こせつってんだよ!」
「これじゃらちが明かねぇな。おい、ラノス。俺の機の整備パーツはどうなってんだ?」
「おっとすまんな、能無しのせいで忘れるところだった。整備パーツなら届いている。格納庫の方に送っとこうか?」
「おい、能無しは誰のことだ!」
この無法地帯では用がなければ無視していないとやっていけないことばかりである。
「頼むぜ。」
「ほい、領収書。」
「・・・ちっと高くねぇ?」
「そのくらいお前さんなら安いもんだろ?」
「いや、絶対に高い。次の分のR-60ぐらい付けてくんねぇ?」
「やなこった。」
「1発でいいから付けてくれよ。」
「はぁ・・・まいいだろう。」
「ほんじゃ、頼むぜ。ちゃんとしたR-60を付けてくれよ。」
「ちゃんとしただと、俺がまがい物を売ったことがあるか!」
「おっと、整備整備・・・」
「待てやこの野郎!」
文句を言った頃にはもう十二分に距離を取られてしまっている。舌打ちぐらいするが承諾してしまった以上損切と思って次の相手に切り替える。上手に立ち回ればいくらでもカモは作れると思っているからこそできる切り替えの早さである。むしろ、野蛮な連中を相手にする以上切り替えが早いのは特である。新風はそんな間の良いタイミングでラノスに声をかけることになった。
「ここに俺の割り当て機があると聞いたが、責任者は誰だ?」
「見慣れない奴だな、おめぇは誰だ?」
「新風。」
「アラカゼ・・・おお、リュウ・新風!今日補充で来た傭兵か。聞いたことない名前だと思ったら東洋人、それも日本人だったとは。」
「・・・」
「俺はラノス、ここで商売している武器商人だ。ご入り用の時は何でも言ってくれ。ゴミや下らないガセネタはもちろん新品の戦闘機や最新空母に最新の機密情報、世の中にあるものなら金しだいで何でも揃えて見せるぜ。」
「・・・俺の割り当て機はどこだ?」
「全く、これからはお前にも儲けさせてもらうんだ仲良くしようや。」
「・・・」
「ちぇ、日本人って皆気難しいのか?・・・分かったよ。付いてきな。」
「おい、このクソラノス。俺の機はどうしてくれるんだ!」
「知るか!そんなに戦果を上げたけりゃ歩兵用携帯型地対空ミサイルを売ってやるよ!」
「俺は歩兵じゃねぇ!パイロットだ!!」
「パイロットならヒコーキが手に入るまで大人しくしてるんだな。」
「ふざけんじゃねぇ!」
フォルを無視したラノスは新風を格納庫の一角に連れて行った。
「お前の割り当てはこいつだ。」
「F-5Eタイガー?。」
「ああ。ま、この基地を分捕った時にたまたま残ってたもんだ。こっちでいじって翼下のステーションにAMRAAMなどを使えるようしてある。もっとも、こいつはこの基地をかっぱらった時の戦利品でもう何度か実戦で使われている中古だよ。来週には買い付けた米軍の余剰機が届く。早く乗り換えた方がいい。もっとも買えるだけの金を一週間で稼げればの話だが・・・」
「燃料を入れてくれ。」
「おいおい、もう飛ぶのか?来たばっかだろ?」
「・・・慣らしもしないで戦えと言うのか?」
「はぁ、まぁいいだろう。だが、作戦以外で飛ぶと燃料は自腹だぞ。」
「知っている。」
「お前は来たばっかだから慣らしの間の燃料代は金が入ってからでいいし安くしとくよ。万が一に備えて機関砲弾はタダでいれといてある。ミサイルも付けたかったら言ってくれ。サイドワインダーとスパローならすぐにつけられる。AMRAAMは在庫切れだがな・・・」
ラノスが最後の一言を言い終わる頃には新風は機の始動準備を進めていた。
新風は久々にゆったりとしたフライトを楽しんでいた。空と砂しか風景がないが、大空を舞う楽しさはどこであっても存在する。乗っているのは戦うための飛行機であっても空に上がってしまえば気にはならなかった。時間を忘れて様々な戦闘機動も行ったりした。日本国防軍には空軍にも海軍にも配備されていない機種であったが、アメリカ製戦闘機なのでシステムなどに違和感はない。むしろ、高い機動性に驚きながらの飛行であった。訓練飛行を終えて駐機場まで戻って来たとき、新風は悲しみのような感覚を感じた。しばらくの間、無言で乗機を眺めていた。
夕食時が過ぎたころから格納庫では戦闘機や攻撃機が出撃準備を整えていく。出撃準備の整った機から滑走路に向かうが、滑走路が詰まってしまっているためパイロットや管制員が困り果てている。こんな状態になるのは日常茶飯事であり、これを利用して一服や一息入れに行くパイロットは少なくない。この基地での時間管理は恐ろしくいい加減なところがある
「おいおい、お前がここに来る意味はねえだろ。」
「・・・」
「こいつが新顔か。東洋人だな。」
「・・・新風竜。」
「リュウ、こいつはボリス、ボリス・ロッドだ。F-111Fアードヴァーク乗りで対地攻撃の神だよ。特に精密爆撃の精度は凄まじいぜ。しかも、地対空ミサイルに当たったことがないと来たもんだ。すげぇだろ。」
「・・・」
「ちったぁ喋れよ。」
「まぁいいさ。喋りたくないんだろう。それより、お前は出撃から外れているだろ。何しに来た?」
楠は何も告げることなくコックピットから降り兵員室の方へと足を向けた。
「お互いに味方同士なんだ最低限のコミュニケーションくらい取ろうじゃないか?」
「・・・まだいじってない部分があったから確認をしていただけだ。」
「マーベック、ボリス。いつでも出られるぞ。」
「ありゃ、何かデカいことがあったな。それでも、詮索しないのが傭兵。行くか。」
「ああ、そうだな。」
ボリスやマーベックは出撃時刻が迫っていた。新風のことを考えるのを辞めにして仕事に入る。なお、この時新風が行っていたことはただのシステムチェックではなく、スクランブルに備えるための準備であった。
目標地点まで移動中の第31特殊航空戦術部隊の作戦参加機群。通常は無駄話などするものではく、基地や早期警戒機からの情報に耳を澄ますものである。
「おい、マーベック。」
「何だよ。賭けでもやろうってか?」
「いや、今日来た日本人のこと何だが・・・」
「そいつがどうした?」
「ほんの2年半くらい前だったけな。太平洋のハワイ沖でアメリカとEUそして日本の各国の軍が集まって1か月も行った大規模演習があったよな。」
「ああ、そいつは知ってる。俺は所属違いで行かされなかったが三つ巴の模擬戦で日本国防空軍パイロットの1人に派手にやられたって話なら聞いた。」
「そう、その時のことだよ。その時俺はEUのパイロットとして参加してユーロファイターに乗っていた。」
「そいつはすげぇな。」
「空戦だけを全体としてみればアメリカ軍の圧勝さ。この頃はまだ日本空軍がF-3Aを配備していなかったからな。」
「アメリカにはF-22Aがあるからな。ま、そんなもんだろ。」
「だがな、アメリカ空軍のF-22Aはのべ8機撃墜判定を受けたがそのうち5機は日本から参加した作戦機の中のたった1機のF-2Aに落とされたんだ。」
「は?」
「それだけじゃない。演習中そのF-2Aによってアメリカ軍のF-15C/D/E、F-16A/B/C/D、F-18C/D/E/F、F-35A/B/C、EUのユーロファイター、トーネードADV、ラファール、ラファールM、ミラージュ2000C/D、AV-8B/8B+,TAV-8Bも含めてのべ30機以上も撃墜判定を食らった。日本製ミサイルは優秀だがそれを差し引いても、まともに被弾するようなことはなかったそうだ。」
「おいおい、参加した全機種の内、日本の戦闘機以外の全機種が1機以上やられたと言うのかよ。」
「それと俺もそいつにコックピットを機関砲でミンチにされる判定を食らったが、あれはすごすぎた。あっという間にドッグファイトに持ち込まれてサッチ・ウィーブでやられた。撃墜判定を食らって待機空域へ移動中にもう1機落とすところを見た。俺の仲間がそいつにミサイル攻撃をしたところループして回避しながら背後に着いて機関砲弾を食らわしていた。あいつは機体の性能より回避がうますぎる。」
「化け物だな。」
「その通りだな。その後は最新鋭のF-3Aに機種替えして、半年前に再びアメリカ・EU・日本が集まって行った大演習に参加していたようだが、どうも上層部の出し惜しみを食らったらしくて演習最終日にだけ出ていたようだ。それでもF-22Aを2機にF-35Cを3機、ラファールMを4機撃墜判定にしたようだぞ。」
「はぁっ!?それじゃ、アメリカとEUはそいつ1人にサンドバックにされたようなもんじゃないか!」
「そう言う事になるな・・・」
「そんなこと聞いてねぇぞ!」
「今なら笑い話のネタだが、これほどの屈辱、正規軍に所属していたころは口が裂けても言えない。特別訓練をこなしたエリートの中には再教育どころか上官に退役の相談をしたやつも少なくない。」
「そんな化け物に当たらないことを祈ろう。」
現代の空戦はAWACSや地上レーダー網から得られた情報を元に有意な位置に回り込んで中長射程空対空ミサイルを発射して離脱することが基本である。この基本戦術を実践する前提で配備されている最強の戦闘機がF-22ラプターである。AWACSや僚機とのデータリンクシステムで敵の位置情報の取得や有意な位置への誘導を受け、機体の形状と特殊塗料によって敵のレーダーに探知されずに近寄り、自立性の高いミサイルを発射して離脱する。敵が攻撃に気づいた時には所在も所属も不明な敵から突然攻撃を受けているという状態に陥る。現在配備が始まっているF-35ライトニング?もこのシステムの一部に組み込まれる前提で開発された戦闘機である。この為、アメリカの空海軍の戦闘機部隊は他国の戦闘機部隊より優位に戦うことが可能である。無論、AWACSの管制下であればF-22ラプターやF-35ライトニング?のようなステルス機でなくても中長距離空対空ミサイルの搭載能力があれば優位な位置から攻撃を行うことは十分に可能である。それでも、AWACSの捜索範囲外やステルス機同士など特殊な条件下では目視下でのドックファイトが起こることは考えられる。このドックファイトというものは曲者で勝利するには高い技量が要求される。互いに縦横無尽に飛び回っている空で敵機の背後を取り300~900mまで接近して攻撃するのは簡単なことではない。当然、推進力と旋回能力の高い最新鋭機ほど優位であるが、機体の性能以上にパイロットの技量が強く影響する。高い技量を持つパイロットであれば機体の性能が多少劣っていても互角以上に戦えてしまう。過去には異機種間戦闘訓練(DACT)で当時最新鋭機として有名であったF-15Aを二世代も古いF-104Jがドックファイトに引きずり込んで勝つこともあったほどである。同時に、超高性能戦闘機が超高性能ミサイルを搭載していてもドックファイトでは撃墜される恐れがある。従って、訓練では重要な項目ではあるが実戦では避けられている。ゆえに、ドックファイトで勝てるパイロットは技量が高いと一目置かれる傾向がある。
「ちょっと待てよ、それじゃあの日本人は、まさか―――」
「そのまさかかも知れないな。詳しいことは入ってこなかったが、最近になってそのF-3Aのパイロットは突然辞めたそうだ。その理由や足取りの情報は入っていない。傭兵になったという噂もあるが、日本人の傭兵はめったに見かけないがいないわけじゃない。それに噂のパイロットは結構明るい奴だったらしい。」
「だよな。あいつはそんなわけねぇな。それより今は―――」
「戦車に爆弾と機関砲弾を叩きつけるとするか。」
「俺の機に機関砲弾はねえけどな。上は任しとけ!」
基地にいるパイロットはほとんど全員出撃してしまったためもぬけの殻のように静まり返っている。せいぜい忙しそうにしているのは管制塔ぐらいだろう。
「北東方向にレーダー反応4いや6さらに増えて8、IFFはヨルダン空軍。」
「やむを得んな、リュウとフォルを上げろ。」
「了解。」
格納庫では一時姿を消していた新風の姿があった。彼は格納庫の辺りから姿を消すといつでも出撃できるように飛行服に着替えてがら空きになっているパイロット待機室にいた。本来はスクランブル待機になっているパイロットたちが利用する部屋であるが、実際はただの溜まり場と化していて酒や煙草が隅には転がっている。新風は未確認機接近までソファーに堂々とあぐらをかいて本を読んでいた。
「おや、ずいぶんと来るのが早いな。」
「出せるか?」
「あ、ああ。燃料は入れている所だ、すぐに終わる。機関砲は変えたりしていないから20ミリの対空用と増槽はいいとしてミサイルはどうする?」
「サイドワインダー6発。」
「おいおい、スパローは要らねぇのかよ。敵は8機もいるんだぞ。」
「セミアクティブレーダーホーミングは回避機動をすると誘導できなくなる。」
「それもそうだな。」
「・・・」
そうこうしている間に出撃準備が整った。
「戦果はいいから、生きて帰ってこいよ。」
すでにエンジンがコンプレッサーで始動されキャノピーまで下されているコックピットにその声は届かない。整備兵は黙々とミサイルと機関砲弾を装填していく。1機の軽戦闘機に暇していた整備員も加わって通常の倍の人数で作業にあったので、すぐにプリタクシー・チェックまで完了し、滑走路への誘導が始まった。
「そんでもって俺を儲けさせてくれよ!」
「結局それかよ・・・」
滑走路が近づくとすぐに管制塔から無線が入って来た。
「管制塔より新風竜。一番滑走路に進入せよ。」
「管制塔、this is新風竜、roger。over。」
周囲はすでに真っ暗になっており、誘導灯が灯っている。
(夜間飛行、夜間戦闘。訓練する機会は多くはなかったな。でも、夜間でもスクランブル発進は結構あったな。)
「新風竜、離陸を許可する。グッドラック。」
「管制塔、this is新風竜、離陸する。over。」
離陸後、新風は管制官の誘導通りに乗機を向かわせる。
「新風竜と敵機との距離が間もなく100kmになり、交戦に入ります。」
「まだフォルは上がっていないのか?急がせろ。」
司令はいつまでも出撃しないフォルにストレスが溜まっているようだが、フォルも容易には出撃できない状態にある。
「全く、よくまぁこんなボロが転がってたもんだ。」
「ちゃんと動くんだからボロボロと言わんでくれ。」
「でも、まだ上げられないんだろ。」
「何せモスボール状態で倉庫の奥に忘れ去られてたようなもんだったからな・・・R.550Dマジック1とシュペル530F1はどっかにあったかな。30ミリ機関砲は・・・片方動きそうにないな。こりゃ本当なら博物館行の骨董品だ。」
「おいおい・・・」
「動く見込みがあるだけいいじゃねぇか。ま、フラップの調子がちょっと悪いようだから応急処置が必要だな。」
「動くとは良かったな。AMRAAMとかMICAが使えないほど古すぎるのが残念。」
「早くしてくれよ。今日は最低2機落とさねぇと赤字になっちまう。」
「急かしたってすぐには飛べないぞ。」
結論を簡潔に述べると倉庫に放置され過ぎたせいで所々不備が見つかって飛行に支障があることが発覚してしまったのである。日中に整備しておけばすぐにでも稼働できる程度であるが、それを行わなかったため一分一秒を争う現状下で緊急整備をしなければならない。
「管制塔より新風竜へ。敵編隊までの距離はまもなく100キロだ。そっちでも間もなく捕捉できるだろう。レーダーホーミングミサイルがあれば間もなく撃ってくる。気を付けろ。」
「管制塔、this is新風竜。roger。コンバットマニューバ、ゴッ。out。」
レーダーにいくつかの機影が現れてほどなく、ミサイルにロックオンされたことを伝える警報が鳴る。
新風はチャフを撒いて機体を横行させるとすぐに警報が鳴りやんだ。
(やはりセミアクティブレーダー方式の誘導弾か。この誘導弾の回避運動は嫌と言う程やらされたな。中国空軍や北朝鮮空軍がいまだに使っていることに感謝しとかないと。)
敵編隊はさらに彼我の距離が50キロメートルでも中距離ミサイルを放った。新風も手順通りに回避する。
「おいおい護衛さん。ミサイルが1発も当たってねぇぞ。敵は1機だけなんだからさっさと落とせよ。」
「うっさいなぁ。相手はただでさえ手強いイスラエル空軍の中の傭兵部隊、第31特殊航空戦術部隊だぞ。そう簡単にミサイルが当たるものか。」
「どうせ、今のあの基地にまともな迎撃機はほとんどいないんだろ。ちっと協力してやるからさっさと落とせよ。」
敵編隊と新風はほぼ正面に対峙した。敵編隊から近距離ミサイルが8発。新風も敵の発射と同時にミサイルをF-5Eに向かって放つ。新風が放ったミサイルは敵のF-5Eに正面から命中し爆散した。敵の放ったミサイルはフレアを放ちつつロールで回避し、機関砲でF-5Eをもう1機落とす。
敵パイロット 「畜生!攻撃部隊は基地に向かえ!ミラージュF1編隊は反転して奴を叩くぞ!」
「仲間の敵討ちは頼んだぜ!」
管制塔では多くの管制官が駐屯地攻撃作戦に割かれてしまっていた。それでも基地周辺の警戒要員は別にしてあったため警戒および誘導に関する心配はなかった。むしろ気にしていたのは発見された脅威は、2個小隊8機であるのに離陸することが出来た迎撃機がたったの1機しかなかったことである。
「敵編隊が分かれた。基地攻撃部隊を優先して―――」
司令の命令が言い終わらないうちに基地へ向かっている敵機の反応が2つ消えた。新風が瞬く間に敵機の半数を撃墜したことに管制官たちは驚きを隠せない。司令ですら開いた口が塞がらない状態となってしまった。
(大した技術もないな。実戦経験のないアメリカやEUのパイロットの方がずっと手強い・・・イスラエルが強すぎるせいか?)
実際には経済活動が滞ることが多くてお金が回らない中で国内のテロ防止や貧困対策にインフラの整備などただでさえ少ない国家予算を圧迫する要因が多数ある。この為、重要と分かっていても訓練に必要な物資を十二分に調達することができない。結果として、技量向上の機会が少なくなってしまっている。
「前ばっかり見やがって後ろががら空きだぜ!」
「よくも無視しやがったな!」
新風の背後に回り込んだ敵機2機がミサイルを発射しようとしたとき敵機の姿が突然消えた。新風は敵機が背後に回り込んだのを確認すると一呼吸おいてエンジンを絞りながらエアブレーキを開いて急減速することで敵機を2機同時にオーバーシュートさせた。
「!?」
「っ・・・FOX2、FOX2。」
2機の背後を取った新風はエアブレーキを閉じアフターバーナーを点火して失った速度を取り戻しつつそれぞれにミサイルと1発ずつ放つ。真後ろから放たれたサイドワインダーは定められたそれぞれの敵機に高速で接近して行く。2機とも逃げ惑うが近距離で真後ろから放たれれば逃れるのは容易なことではない。2機とも同時にミサイルが命中して爆散した。
「畜生!こうなったら俺だけでもぉ!!」
最後のF-5Eはアフターバーナーを点火して加速させるが爆装しているため速度が出ない。レーダーに追跡されにくいコースに入ろうとしていたのをやめ、旋回して最短距離を取ろうとする。これに気が付いた新風はF-5E狙うがミラージュF1に機関砲で攻撃されて回避のためアフターバーナーを使用したためF-5Eを追い越してしまった。だが、これを利用して高度を一旦上げ、降下しながらF-5Eの後方素早くに入り最後のミサイルを放つ。F-5Eは慌てて爆弾を全て投棄するが、回避運動は間に合わずあっという間にミサイルが命中して撃墜。
「な、何者なんだ!こっちと同じ戦闘機だろ!?それで、こっちは爆装機がいたとはいえ8機だぞ、それが全滅・・・この野郎!!・・・不味い!」
最後のミラージュF1は横行を取ると付近をミサイルが1発通り過ぎて行った。敵機が急旋回で失速したところ逃がさずに背後に回り込み機関砲弾を浴びせた。ミラージュF1はエンジン部を中心に沢山の穴が開き垂直尾翼が吹き飛ぶ。パイロットは緊急射出装置で脱出したが機は錐揉みになって落ちて行った。
「管制塔、this is新風竜。敵機はすべて撃墜した。敵パイロットが1人は緊急脱出したのを確認。ほかに脅威となる戦力の存在は?over。」
「・・・管制塔より新風竜、フォルへ。敵機の全滅を確認した。ほかに脅威となる戦力はない。敵パイロットの捜索ヘリは送る。2人とも直ちに帰投せよ。」
「管制塔、this is新風竜。roger。これより帰投する。out。」
「ちぇ、骨折り損だ!」
管制塔では歓喜の渦になっていた。新風によってもたらされた戦果はすぐに基地中に伝えられた。
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