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夕暮れセカンド

 琴音ちゃんが僕らに気を遣って、教室から出ていって数分経った。この時間で僕らの間に会話はない。多分、今はどっちも恥ずかしくてたまらないから相手と話す余裕がない。僕だって急にあんなことを口走るなんて思ってなかったし、そもそも忘れ物を取りに来てこんなことになるなんて思ってなかったし!?



「あの……透くん」



 一人で恥ずかしさに悶えていたら、優が話を切り出した。なに? と返すと、優は深呼吸をした。そして、もう一度口を開いた。



「こんな形で、透くんに知られるなんて……思ってなかったんです」



 僕もこんな形で知るなんて思ってなかった。優の好きな人のことも、僕が優を好きってことも。



「透くんが、私のことを好きって言ってくれたのは……とっても嬉しいです」



 瞳を潤ませながら優は微笑む。夕陽が差し込んで、オレンジ色に包まれているのがとても絵になっていた。



「私、告白するつもりはなかったんです。断られたら、って考えると怖くて」



 俯いて前髪が影になって表情が読めない。暫く、間が空いた。僕はなんて言うべきか、思いつかなくて黙っていた。



「透くん」

「なに?」

「私ちゃんとした形で透くんに伝えたくて」

「……うん」

「だから、ずるいかもしれないけど……今、ここで告白、をしても良いですか……?」

「うん。僕も……聞きたい」



 これは、告白の仕切り直しだ。さっきみたいな成り行きじゃなくてちゃんと向き合って伝えたいということ。互いに好きということが分かっている状態での告白だ。



「透くん」

「……なに?」



 深く息を吐いて、吸って、意を決したように優は僕の目を見た。



「私、透くんのことがずっと前から好きでした。中学一年の時、助けてくれたあの日から……ずっと。かっこよくて優しくて頭が良くて。同じ高校になって、たくさん話してくれて嬉しかったです。それで、そのっ……わっ私と……付き合ってください!」



 中学校の時から……そんな前から、優は僕のことを想ってくれてたんだ。かっこいいとか優しいとか、面と向かって言われると変な感じがする。僕は全然そんなことないし、話すようになったのも優が話しかけてきてくれたから。僕は、優のことが好きなんだと気づいたのもついさっきだ。だけど……。



「僕も……優のことが好きだよ。正直、恋愛なんて今までよくわからなかったんだ。かっこいいとか言われても信じられないし、優のことが好きだって気がついたのも本当についさっき。……それでも、僕でいいなら、付き合って欲しい」



 緊張して変なこと口走ったかもしれない。何言ってるか自分でもよく分からない。ちゃんと答えられたかどうか不安だ。



「透くん……」



 優が突然泣き出した。



「え、えっ? 優!? どうしたの? 僕今変なこと言っちゃった?」

「違いますよ……ふふ、嬉しくて泣いているんです」

「嬉しくて?」

「そうですよ。だからそんなに慌てないでください」

「うん……分かった」



 急に泣かれたからびっくりした。嬉しくて泣くって……想像つかないよ。泣く時なんて基本的に悲しい時くらいだし。



「これから、よろしくお願いしますね」

「あ、うん。よろしく」



 いつの間に泣き止んだのか、涙はなくなっていた。その代わりに笑顔がそこにあった。



「なんかさ……あまり実感湧かないな」

「私もです。まだ信じられない気持ちで」

「まぁ、付き合ってすぐだしね」

「ふふっ、すぐに何かが変わるわけじゃないですもんね」



 優が彼女になった。そして、僕は優の彼氏。さっきまでただの友達だったのに。急に恋人らしくなるなんて無理なのは分かってるけど、いつか実感の湧く日が来るのだろうか。それにしても……いつ、何があるか分からないものだな。



「あっ、そうだ、透くん」

「なに?」

「今日この後って空いてますか?」

「うん。空いてるよ?」

「……デート、しませんか?」

「ええっ!? い、今から?」

「……ダメですか?」

「ダメじゃないけど……」

「じゃあ行きましょう? あ、駅前に新しいカフェが出来たらしいですよ」

「えっ」

「甘いもの好きでしたよね?」

「うん。めっちゃ好き。行きたい」



 くすっと笑って、優は鞄を持って歩き始めた。僕も鞄を持ち直して後を着いていく。いきなりデートしようなんて結構大胆だな。まぁ、帰りに寄り道するくらいなんてことないけど。せっかく一緒にいるんだから、ただ帰るだけってのもあれだしね。



「そういえばさ、僕も優も中学時代は不登校だったよね?」



 一緒に歩きながら尋ねる。優は頷いてそうですね、と言った。


「僕、学校に行ってたのなんて本当に最初の方だけなのによく覚えてたね」

「そりゃ助けてくれた相手のこと忘れるわけないじゃないですか」

「助けた?」

「透くんは覚えてないかもしれないですけど……私、勉強できないじゃないですか」

「あー、どっちかといえばね」

「それで、忘れ物も多かったし、授業聞いてても全然できないから……先生にもよく怒られてクラスの人にもからかわれたりしてたんです」

「え、そうだったの?」

「私が悪いんですけど、毎日毎日されるのは少し堪えて。その時に、透くんが助けてくれたんですよ。分かりやすい覚え方や解き方を教えてくれたり、からかう人をそれとなく宥めてくれたり」



 そんなことあったんだ。全然記憶にない。というか、僕ってそういうことするタイプだったっけ? 正義感があるわけじゃないし……助けようと思って助けたわけじゃない気がする。



「それから、どうにか少しは勉強ができるようになって、怒られたりからかわれたりすることも無くなったんです」

「へぇー……」

「あ、全然覚えてないですね?」

「ごめん」

「大丈夫ですよ。あ、ちなみに運動が得意ならそっちを磨いたら? とアドバイスしてくれたこともありますよ」

「え、そんなことが?」

「はい。ダメな所を否定するんじゃなくて良い所を認めてくれるんだな……ってその時思いました。で、その瞬間から好きになりました」

「へぇー……て、そこで!?」



 さらっと好きって恥ずかしげもなく……! にしてもそんな特別なことしてないよね、やっぱり。絶対なんとなく言っただけだよなぁ。僕が運動神経ゴミみたいだから、運動が得意なのが羨ましくて言った可能性が高いな。運動できるならそっち伸ばしなよー! とか軽く言ってそうだもん、僕。



「透くんにとっては何気ないことでも、私は嬉しかったんですよ?」

「そういうもんかなぁ」

「そういうもんです」



 またさっきみたいにくすっと笑った。今までこんな笑い方しなかった気がするんだけど。まあいいか。笑ってくれてるんだから。



「あ、もうすぐ着きますよ」

「もう? なんか早いね」

「話しながら来たからですかね」

「確かに。そうかもね」



 目の前にはお洒落なカフェテリア。どうやらパンケーキ&ティラミスのメニューがこの店一押しらしい。食べるのが楽しみだ。……あと、ちょっと忘れてたけどこれ優との初デートだし。楽しく過ごせるといいな。

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